昨日の敵は、今日の相棒(とも) -2- Misfit

「億泰。おれの顔になんか付いてない?」
 次の朝、教室で仗助はゲンドウポーズで真面目くさって問うた。
 言われた億泰は目を丸くする。
「ハァ?何って何が」
「例えば……死相が浮かんでいるとか」
「“しそう”だとォ~!?……しそうって何?」
「お前に聞いたおれがバカだったよ」
「康一、“しそう”ってなんか知ってるか?」
「歯槽膿漏?」
 こいつ等に、アイツの話をするのは、まだ早計……そう判断した仗助は、その話はそこで切り上げた。
 昨日はあれから一緒に夕飯のカレーライスを食べ、風呂にも入った。……勿論、別々にだが。
 幽霊に風呂は必要ないはずだが、綺麗好きの吉良は風呂、もといシャワーを所望した。一人暮らしならともかく、すねかじりの実家暮らし、家人に怪しまれず無人の風呂でシャワーを出し続けるにはどうすればよいか。一緒に入れれば一番問題がないのだが、それはお互いが嫌った。仕方がないので寝静まった夜中に続けて入ることにした。
「早くあがれよ、ここで見張ってるから」
「風呂くらいゆっくり入らせろ」
「怪しまれたら終わりなんだよ、そんなにゆっくり入りたきゃ銭湯にでも行ってくりゃいいだろ」
「大浴場は好みじゃない」
「注文の多い幽霊だな」
 そういいつつ、吉良を先に入らせる。下ろし髪を見られたくなかったのが主な理由である。吉良が帽子を取り、上着に手をかけたのを見て、野郎の裸は見たくないと仗助は背を向けた。シャワーは既にひねってあり、戸を開ける気配もなければ、いつ入ったかもわからなかったが、五分ほど後に肩を叩かれた。
 そこには既に元通りのスタイルの吉良がいた。先に部屋に返させると、仗助はゆっくりシャワーを使った。
 そんなわけで、死相はなくても寝不足で若干やつれ気味の今日である。ちなみに仗助が部屋へ戻ったら吉良は既に寝ていた。健康的で規則正しい幽霊である。
 朝は仗助より早く起きていた。実に健康的な幽霊である。
 おかげで前日は回避できた下ろし髪をばっちり見られた。そもそも見られず同居など不可能なのだが。
 曰く、
「そっちの髪の方がマシだろ。前髪がうっとおしすぎるけど」
 前髪がうっとおしかったのは元のお前だろ……と思う仗助だった。


 仗助が珍しく自室で机に向かっている。シャカシャカとヘッドフォンから漏れる音。
 ベッドに寝転がって新聞をめくっていた吉良は顔を上げた。
「おい、その耳障りな音楽をやめろ」
「は?いいだろ別におれの勝手でしょ」
「うるさくてイライラする。そんな音楽ばかり聴いてるから頭が悪いんだな、クラシックでも聴け」
「はぁクラシック?授業でもないのにそんなかったるいの聞いてられっか。第一これでも気ィ使ってんだぞ、ヘッドフォンしてるし」
「大音量駄々漏れなんだよ、バカが」
「~~人が甘い顔してりゃ付け上がりやがって……!気にいらねーならどうぞ、出てってくれてかまわねーぞ」
「お前との生活はストレスが溜まる、ああそうするっ」
 吉良は本当に窓から出ていった。


 やがてすうっと帰ってくると、落ち着いた声で
「一旦帰る」
 吉良はそう言った。
「え、マジで出てっちゃうの。まだ退治も出来てないのに」
 つまらない……と言った顔で仗助が言うと、
「だからだよ。もう一度最初からやり直す」
「電話貸すけど」
「電話代もバカにならないし……面と向かって文句を言ってやりたいからな」
「ふ~~ん……なぁ、おれも着いていってもいい?」
「またか……勝手にしろ。安くないぞ」
「で、あんたはどうやって帰るの?」
「わたしか?わたしは駅に隠し金が……あ、」
 ここは出先だった。よって隠し金などないことを思い出し、言葉に詰まる。仗助はそんな吉良を眺めてニヤリとし、
「おれが着いて行かないと、無理なんじゃね?」
「別に。無賃乗車しまくりだし。気持ちの問題が発生するだけだ」
「まぁまぁ。おれと楽しく旅行しましょ?」
 仗助は行きたいところと食べたい駅弁を頭の中で組み立て始めていた。

 そして今。
 仗助は吉良について来て、今、例の尼僧の寺にいた。
 駅弁を見せびらかして食べたり、車窓の景色をネタに語り合ったり、新幹線の旅はそれなりに楽しかった。
 一歩引いた位置で、掃き掃除をする尼僧と相対する吉良を眺めていた。すると目線はくれずに尼僧が言う。
「その少年は?」
「はじめまして!吉良さんとコンビ組む予定の東方仗助でっす」
「コンビ……?漫才でも始めるの?」
「いや普通にあんたがこの人に頼んでる仕事の相棒」
「君が?」
 尼は怪訝な顔をする。
「……バカ。貴様は黙ってろ。こいつがどうしてもオレを手伝いたいって言ってきかなくて……」
「ぶふっ」
 仗助は噴出した。
 ――オレだあ~~っ?!昔ッから「わたし」だったこいつが「オレ」?どういう風の吹き回しだよ違和感ありまくり。
 吉良は、噴出した仗助を睨む。吉良自身、オレという一人称に違和感を持っており、仗助に聞かれて照れがあったのだ。
「何がおかしいんです?」
 尼さんが仗助に油断ならない目をくれる。
「いや別に。続けてください」
 仗助は口を抑えて話を促した。
 吉良は仗助に苦々しく一瞥をくれる。尼はそれらを意に介さず話し出した。
「君、生きてる、しかも学生でしょう。この人の手伝いなんてやめた方がいい。大体危険か、法に照らせば犯罪スレスレか、犯罪しかしていない」
「でも退屈しなさそうだし、心配なんで……あっでも、自分の倫理?に合わないことは手伝う気はないっスよ。その辺はきちんとけじめ付けるつもりです」
「………そう」
「なんでこれから家も一緒に住むことになったんで、安心してください」
 さすがにこれにはかの尼僧もびっくりしたようだった。吉良に向かって言う。
「君が人とそこまで仲良くなることがあるとは。君は一人が好きなタイプだと思っていたが」
「いやまあ、仲が良いというかなんというか、安定した宿は魅力かなーと」
「吉良さんはおれが責任持ってお預かりします」
「オレは子供じゃないんだぞ。その言い方はやめろ、年下のすねかじりのくせに」
「ほぉ~宿無しが、誰に向かってどんな口きいてるのかなァ」
 とりあえず仗助は連絡用に自分の携帯の番号と尼寺の電話番号を交換し、挨拶は滞りなくすんだ。

「……あのさぁ、」
「言うなっ」
「………」
「あれはだな……!わたしはあの女を信用しきっていない、だから自分を作ってフェイクで接してるんだ、だから……!」
「またまた。一体どんなフェイクでオレ口調になるんだよ。いい女の前では男らしく振舞いたい気持ちは分かるよ?」
「だから違う……!」
「拗ねるなよ」
 幽霊のくせにほんのり頬を染めて拗ねている吉良がかわいくなり、仗助は肩に腕を回し抱き寄せた。
「あ、バカ野郎、」
「あ、」
 何が起こったかは、お察しである。

キャラにある程度親しめて、恥ずかしがらずに動かせるようになってくると、途端に会話分だらけに、なぜかコメディ路線に突っ走る自分を改めて実感。書き出しはそれなりにシリアスぽかった気がするがwこの話は前回の銃口を突きつけた部分で「動いたな」って実感できました。できたことは、できたけどね……さてこれからどうしよう

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