Match! 3

「………まさか」
 一瞬の緊張。しかし動揺は見せてはいけない。
 おれはあえてゆっくりと、微笑んでみせた。野々垣さんは、相変わらず探るような目でおれを見ている。
 ……大丈夫。おれは、押し通せる……その野々垣さんの反応と、微笑を作れたことに、不思議な自信と落ち着きが腹の底から湧いてき、無理に作った微笑は本物となりおれの顔を、身体を和らげ覆い尽くす。
「野々垣さんこそ、どうなん」
 そう切り返せば、え、と虚をつかれたように答える彼。
「どうって……なにがどういう、」
「潮崎さん。自分が好きなんちゃう?」
 おれは更に妙に余裕に笑み零れ、左手を上げ銃の形をつくり人差し指で野々垣さんを指すと、彼も目を伏せゆるく首を振り、口元に微笑を浮かべる。
「さあ?どうでしょうね……?」
 これは、もしかすると……?いや、うすうすそうかとは思っていたけど。だからこそのあの好戦的な態度かと。
 しかし、野々垣さんの態度も、まぁ元々そういう人だと周知だからかも知れないけど、うやむやかつ平然としていて、確たるものは掴めそうにない気がした。
 また、今はそんなことを追求すべき時間ではないと思った。
 なんとなれば、とにかく、野々垣さんはともかく、おれは仕事なんだから。それがきっかけで今は避けたい原田の話題に流れていって欲しくない。
「……それにしても、確かに潮崎さん遅いですねぇ……」
 そう言ってちょっとお茶を淹れますね、と野々垣さんは椅子を立ち、慣れた動作で事務所内にある冷蔵庫からお茶を出す。勝手知ったる様子でガラスのコップを出し、それに注いでおれに差し出す。おれに酒を勧めるのは諦めたらしい。
「潮崎さんはどこへ行ってんの?」
 いくら仲良い同業者と言ったって、所詮は別の会社、手の内全てを晒しあっている訳ではない。だからあんまり、これは言うつもりのなかったセリフだったけど。野々垣さんの答えも「さあぼくも詳しいことは……」てなもんで。
「でも、あの様子じゃすぐ帰ってくると、飛んで帰ってくると思ったんですけど、」
と意味深に流し目で笑って言われる。
 うーん完全にはごまかし切れていないな。早く帰りたい。
 そう思ったときだった。潮崎さんの事務所の電話が鳴る。
 一瞬の間ののち、野々垣さんが取る。
「はい。『タイド』です……。あ、潮崎さん」
 その声に、おれも反射的に電話を見る。
「え?はぁ……はい。じゃ、ちょっと変わりますね……」
 そう言って、野々垣さんはおれに受話器を渡す。
「もしもし……?」
と受話器の向こうの潮崎さんに声をかければ、
「赤城君?ごめん、今日帰られへんわ」
といきなり。
「え………?」
「打ち合わせは済んでんけど、どーしてもこの後飲みに行きたい言われて……。今ちょっとトイレ言うて出てきてんけど。ここはおれにとって大事なお客さんやからなあ……久しぶりに君に会うて、それこそ君と、原田君抜きで飲みに行きたかってんけどなぁ」
「ははは」
 おれはつい乾いた笑いを漏らす。
「折角来て貰って、待ってて貰ってごめんやけど、ののに説明しといてくれる……?ほんまごめんな。今度絶対、近いうちに呑みいこな」
「はい……。ありがとうございます。おれのことは、お気になさらず、ごゆっくりしてください。では、また近いうちに……」
「あーほんま悔しい。絶対やで。じゃ……」
「あ、野々垣さんに変わります?」
 そう言って野々垣さんにも何か話すことある?と小声で聞けば、首を振る。潮崎さんも別にないと言うことで、そのまま電話は切れた。
 なんだか味の濃い、というか更に気まずい沈黙が落ちてくる。
 おれのこの地獄?のようだった時間は一体……どうせだったらもっと早く連絡して欲しい。こうなればやっぱり早く帰りたい。おれは急いで納品の原稿とデータと出力を出すと、野々垣さんに早口で説明を始めた。

「じゃ、潮崎さんによろしく、」
 説明が終わると、おれは長居は無用とばかりカバンを掴んで立ち上がった。そして2、3歩歩いてドアを開けようとすると、後ろから追いついた野々垣さんがドアを押さえ立ちふさがる。
「あの……、」
「そんなに慌てて帰らなくてもいいじゃないですか。今度こそ仕事も終わったことやし、……ゆっくり、飲みましょうよ。時間、あるんでしょ?」
「え……と君ももう早く帰りたいやろ?おれも帰りたいし」
「いーや。おれは折角なので、もっともっと赤城さんとお話してみたいですけど。なんかいつも避けられてますしね。こうやって、今もね」
 そう言って、おれの顔を覗き込みふっと笑う。
 万事休す。なぜかそんな言葉が脳裏をよぎる。そして全てが振り出しに。気まずくて一緒に居たくないけど、こう言われちゃ、
「いや、別に……。そんなことないよ」
と言ってしまうだろう?そして野々垣さんは今度はにっこりと笑い、
「よかった。赤城さん、じっくり、ゆっくり飲んで、話しましょうね」
そう言ってドアから手を離し、その手でおれの肩を抱き、もといた椅子に座らされた。
 さ・い・あ・く
 正直に言ってもよかったかな。「はい、避けたいです。なので帰らせてください」……いや無理だな。もうこうなりゃヤケ。そうだ、仕事も終わったことだし、飲んで、勢い付けて、あの話を聞いてやる。

一応起承転結では最後らへんがやっとこ転か?次くらいには終わるかと思ったんだけど怪しくなってまいりました……こんなんでほんとにエロったりまでいくんかね。しかしー赤城君物凄い野々垣さん毛嫌いしてます?(笑)難しいなーその辺の加減が。

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