Match! 2

「……で?最近はどうですか?」
「ええまぁ、ぼちぼちというところですね。相変わらず。そちらは、なんかバイト入れて大きくなったそうですね」
「ああ…ご存知でしたか?そうなんですよ。うちにバイトが養えるのか、ちょっと不安やったんですけど、この際だからと思い切ってですねー……」
「すごいですねえ……。原田さん」
 ぽつりと言われて、なんかカチンとくる。まぁ否定はできないけど、原田だけかよ褒めるのは。
「いえまぁそんな……。そんなこと言いながら、野々垣さんこそ、お忙しかったんと違います?最近さっぱり原田の方にも連絡してけえへんみたいやし」
 そう。だからこそ気持ちよく彼の存在を忘れて原田にぺったりだったのだが。
「んー…いやほんとに、ぼちぼちですよ。ぼく実家なんで、親に悪いなぁと思いながらもこんなのんびりペースで」
「またまた……そうなんですか?」
「ほんとですよ。潮崎さんや高階さんづてに原田さんたち今凄い忙しいって、聞いてましたからね……ご遠慮してたというか、」
 非常によそよそしい、奥歯に物の挟まったような会話をお互い敬語でポツポツと続ける。
 時間が経つのが異常に遅い。いつまでこんな会話を続けなければならないんだろう。早く潮崎さん帰ってきてくれないかな。ハーと内心で溜息をつく。
「赤城さん飲まないんですか?」
 そう自分はクイッとやりながら野々垣さんがおれに目を走らせる。おれは笑って手を軽く振り、
「いえまだおれは仕事中なんでアルコールはちょっと……、」
「もう定時も過ぎましたでしょ?それともまた事務所に戻られるんですか?」
「いや……えと、」
「そんな濁さなくてもいいですよ。さっき直帰、って言ったとき頷いたくせに」
 そう言ってくすくす笑われる。おれはカーッと顔が熱くなる。
 なぁ~んで野々垣さんはこんなにおれに意地悪いんだろう。分かってるならそんな言い方、しなくてもいいだろう?
「や、でも……やめときます。野々垣さんはお留守番やからアレやけど、おれは潮崎さん戻って来る前に出来上がってちゃ悪いんで、……遅いですね、潮崎さん」
 つい目を落とし、ソワソワ言うと、またくすくすと……
「まだ、15分くらいしか経ってませんよ?そんなに長く感じますか?」
 ええ、そう。君といると……と言いたいのをつぐむ。これでもおれは野々垣さんより上だ。大人だ。売り言葉をいちいち買ってるような年じゃない。腹に溜めてやり過ごすが吉で無難な対応だ。おれは、彼とそんな親しい間柄ではない。今のとこ、なるつもりもない。
「でも、野々垣さんもおれより長く待ってる……ていうかでしょ。そういえば……。野々垣さんと潮崎さんの出会いってどういう……?」
 そうだこの話題だ。結局これも有耶無耶になってたんだっけ。おれにとっての、野々垣さんは未だ謎だらけだ。丁度知りたい話題だし、結構時間も取れる無難な話題だ。おれはそっと斜め横に座ってる野々垣さんを伺う。
 彼もおれが引いている線が、距離感が分かったのか、ニヤニヤ笑いを引っ込め、ほんの少し、口元だけに微笑を浮かべ手元のグラスに目を落とす。
「あれっ?ご存知ありませんでしたっけ?」
「聞いてないですよ。潮崎さんは合コンかなで終わってるし、野々垣さんは潮崎さんの中ではそんなことになってるのかなぁで終わりでしたよ。高階クンに邪魔されて、聞けずじまいで、」
 するとまた彼は笑い、
「ああ、あの日……」
 笑われてまた顔が熱くなる。これは、多分紅潮してる。言わなきゃよかった、余計なこと。いっぺんにあの日の恥ずかしいことを全て思い出す。本当に野々垣さんとは、いい思い出がない。
「……知りたいですか?興味ありますか?」
「もちろん」
 すると彼は少し間を置き、
「合コンですよ……、いや、嘘うそ、……大したことじゃないですよ。」
 じっと見つめると、彼はおれから目を逸らし、正面向いて語り始めた。
「おれと潮崎さん、同じ学校の先輩後輩なんですけど、……」
 それは、知ってる。おれは微かに頷いて先を促す。
「在学中に、友達に紹介されて、カットを描いたんですよ。それがおれの初仕事。それ以来ですね」
「へえ~。……結構、長い付き合いになってんやね。…年も結構離れてるのに、……こんなに仲良いのに、なんでおれは長いこと知らんかってんやろ」
「まぁ接点がありませんでしたからね。潮崎さんも特に言わなかったんでしょう。つかず離れずで、おれもそんなにしょっちゅう入り浸ってる訳ちゃうし、」
「あ、そうなんだ、高階クンの口振りからすると、随分入り浸ってたみたいだけど?」
と、おれは出戻ってからの彼の報告?を思い出し、言う。するとハハと声に出して笑い、
「まあそれは……、」
と言ったきり、珍しく押し黙る。そして暫くして、
「赤城さんこそ、潮崎さんと長く続いてますよね……、一緒の会社、だったんですっけ」
と逆に訊ねられる。
「ああ……。もう君くらいになると、版下とか写植とか言うてもピンとけえへんやろうなあ。」
「教科書で見たって感じですよね」
「なんか自分がすんごい年食った気がするわ。いや、実際食ってんねんけど、」
 あれ?おれ距離保って慇懃無礼なくらいの丁寧語使ってたつもりやのに、いつのまにこんな口調に?
 まぁどうでもいいや。
「確か潮崎さんと赤城さん、部署は違ってたと聞きましたけど、随分仲良くなったんですね」
 ちょっとずいっと顔を寄せて訊く。
「ああ。…同僚はたくさんいたけど、制作で同い年は結局2人っきりやったからね。…同い年って、やっぱなんか違うでしょ。組で仕事してたし、趣味も似通ってたしね。で…かなり仲良く、……最初は苦手かな、て思てんけどな、コワモテ風の割には、気さくで、人懐っこくて、ちょいヘタレで真っ直ぐなとこがあって親しみやすい人やなぁと。……野々垣さんは、第一印象どうやった?」
「……同じような感じですかね。確かに一目見たときは、おれは潮崎さんが徹夜明けやったから、それはもうちょいすさみ気味で一瞬こわっと思いましたよ」
「やっぱり……。そのギャップが、余計親しみを与えて仲良くなれるお得な人なんやろねぇ」
 おれがそう微笑むと、
「それだけ、ですか……?」
と訊ねられる。
「それだけ、とは?」
と顔を向け、訊くと、野々垣さんはおれの目をじっと見て、
「……潮崎さんと、潮崎さんが、赤城さんを好きになったとか……」
「………何で」
 おれもじっと見つめ返す。逸らしてはいけない。
「………赤城さんは、ノンケキラーやから、……」

予定時間よりちょい遅れた。あともう少し進めてから切ろうと思ったけど、ここの方が〈つづく〉にお似合いかと切ってみました。更に頑張ります。

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