甘い毒薬と口約束 -2-

 おれは風呂から上がると、柔らかい、余り厚手でないパイル地の綿の、白に水色のピンストライプの入ったパジャマを素肌に着た。
 頭を拭きながら、台所と四畳半の間を仕切る小さな磨りガラスの窓の填った引き戸を音を立てて開ける。風呂のドアは台所にある。いつもなら四畳半で脱ぎ、引き戸は開けっ放しなのだが、今日は戸を閉め、やたらに狭苦しい台所で脱ぎ着した。
 開けたまま、見下ろすと原田はこたつに横になってテレビを見ていたが、おれを見上げ、微かに笑み、立ち上がる。
 そしてそのまま六畳間の押入を開けると、引き出し式の収納ケースからバスタオル、着替えの下着、一応彼の、の紺色のパジャマを出す。
 おれはそのまま頭を拭きながら突っ立っていたのだけど、原田がおれから目を外さず目の前までやってき、ニッと笑う。
「ふっくら、柔らかそうでカワイイよな」
「?」
と目を上げると、いきなり骨っぽい、大きな手で軽く鷲掴みにムニムニと揉まれた。
「あっ、……」
と思わず身体が一気に熱くなり、俯き声を漏らす。
「ふかしたての豚まんみたい?」
 そのまま調子に乗って揉みやがる。おれはどうにか荒げかけた息を整えると、その手首を掴み、ヤツを押しのけながら、
「それ、明らかに挑発!…」
と一発蹴りも入れておいた。
「お前の今の表情の方が、スゴイと思うけど。これでさっきのんとチャラくらいやで」
 原田のやつ、ニヤリと笑い、素の声で言う。おれを押しのけ、流し場に立つとちゃっちゃと脱ぎ始める。
「そんなワケあるか……!」
「どうせお前が負けるって」
「暗示をかけるなと、言うてるやろ、」
 そして彼は再びおれに視線を戻し、目線を下げ、
「色っぽいな」
「は?」
「白地やから、うすーく透けとる。計画的やろ」
 おれはカッと顔が熱くなる。そんなこと、全く考えてなかった。透けてる、だなんて。
「まさか…!」
「ホーラ息が一気に上がってきた。言葉責めにも弱いよな、お前」
 そしてじっと、そこを見つめる。おれは少し腰をよじり、彼の前から逃れようとする。あそこを中心に、だんだん身体が、熱く、だるくなってくる。これって、ヤバイ前兆。
「視姦にも弱い」
「んなワケあるか!そんなやらしい目でみるからじゃ!」
 そして彼は目を伏せ、ふっと笑い、
「お前みたいなHな身体の持ち主が、我慢出来るわけなんか、なーい」
と捨てぜりふを残し、キイッとドアの音を立て、風呂場へ入って行った。
 何が、何がHな身体の持ち主だ、お前の方がよっぽどスケベじゃ!
 と頭の中で毒づきながら、ハアハア息を切らす。はっきり言って、ほんとの話、かなりきてる。腰が、足が痺れて力が入らないし、身体が、熱い。くにゃりとしてる。2、3日は大丈夫、とか思ったけど、これは、今夜もヤバイ。ヌきたい。ヌいておこうか。いや、しとかないとヤバイだろ。
 でも、やってる途中で原田が上がってきたら……!
 挑発うんぬんより、そんな姿はさすがに見られたくない!
 もんもんとしゃがんで腕に頭を埋め悩み、やっぱりやっとこう、と立つ。あいつだって、平気そうな顔してたけど、若干脹らんでた。どうせ風呂ん中でヌくに決まってる。それも一発で済めばいいけど、ってやつだろ。
 おれは立つと、だるい足取りで歩きながら、トイレに入った。そして鍵もしっかり閉めた。
 壁に凭れて、右手を滑り入れる。そして掴み、親指で先の方をなで回し、先端を押し開く。一気に力が抜け、息が漏れる。ゆるくすりあげるだけでもイイ気持ちだけど、何か足りない。とか思い、つい左手を裾から入れ、右の胸元をなで、自分でいじる。
「あっ、…」
と顎が上がり、声が漏れでる。
 いつの間にか、頭の中でヤツの仕草を追い、指の動きを辿り、堪えきれない声を漏らしながら、おれは自分でやった。

 風呂場とトイレは離れてるから、このくらいじゃ絶対聞こえない。それに10分もかかってない。
 トイレットペーパーで拭い、手を流し、すっきりとおれはトイレを出た。
 やつもなんだかすっきりげな表情で上がってくると、
「じゃあもう寝るか」
と言う。
 布団は一組。それはどうしようもない。こんなことのために、わざわざばらす気にもなれない。おれが壁際に、壁を向いて、彼は反対側を向いて、寝た。

 次の日、会社で仕事をしていると、隣の席の曽根さんが、
「どないしてん?」
と突然訊く。
「ハイ?」
「さっきから溜息ばっかついてるやん」
「え……」
 溜息?まるで自覚がなかった。初日から、これはほんとにヤバイなあ~…と鬱になる。
「いや、別に大したことじゃないんです」
「奥さんとケンカでも、した?」
「まあ、……」
 すると笑って、
「じきバレンタインやのに、チョコ貰われへんで。謝っとけや」
と言われて、アイマイに笑って返しておく。
 なんだかすっきりしたとはいえ、夕べはなかなか寝付かれなかった。元々おれの方が寝付きが悪いとはいえ、こんなときでさえヤツの方が先に規則正しい寝息を立てやがったのにはなんだかムカつく。おれの方が、体力消耗激しくないか?
 ああ、先が思いやられるぜ……でも今更、てゆうか絶対引く気にはなれない。
 もう、チョコがどうとかより、単なる意地が勝っていた。いつでもヤツの思い通 りに、させてやるか!
 今日の作戦でも、練りながら仕事をするか…
 と思ってたら、校正ミスがボロボロ出て版下の潮崎さんに版下やってる途中に呼ばれ怒られた。というか言って聞かされた。
「こんなんで、印画紙と現像液と、オレの時間ムダにしなや」
と。
 ああ最悪だ。

私って、トイレも好きならオ○ニーネタももしかして好きなんじゃろか…。C翼ものといい…。ああ、それより、ちゃんとホワイトディまでには終わりますように!しかし短いね。高階も出そうかと思ったんだけど、それは次回に持ち越しです。潮崎さんよりは、当時親しいですから、話も弾みます。…の予定です。
甘い毒薬とはなんでしょう…?チョコではないです。それだけは、決まってます。まあ、「なーんだ」てなもんです。しかし、色気、ないよねェ…。今のヘビロー、民生だもん。

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