夏草青山(なつくさあおやま) 4

「アキ……お前、よくも……」
「コーちゃんには昔随分ひどいことされたね」
「それとこれが関係あるか、」
「でもずっと好きだった。どんどん好きになった」
 アキは強く抱きしめ、右の手のひらを背筋に沿って下らせる。
「あ……、」
 思わずのけぞる。
「高校受験でさ……、同じ高校行こうとして、校区が違うからダメだって言われたとき、哀しかった」
 そういやそんなこともあった。県立の高校だったから、越境入学はムリだった。アキは、うちに下宿してでも入学したがったらしいが、結局自分の地元の、おれより偏差値のいい学校へ行った。
「ねえコーちゃん……帰っておいでよ。おじさんやおばさんもほんとは帰って来て欲しがってるよ。…嫁さんなんか、取らなくてもいいじゃん。…というより、ここまで来て、女なんかに渡したくない。おれが、養ってやる…コーちゃんをそんな、ひどい環境の仕事に置いときたくないよ。せっかくきれいなのに、やつれさせたくない、」
 確かにある意味劣悪環境だが、決していやなわけじゃない。大体おれは、原田や高階クン、美奈ちゃんと別れたくなんか、絶対ない。
「そんなのムリ……、」
「おじさんもおばさんもおれのこと気に入ってるし、」
「ヘンに思われる、」
「近くの町にアパート借りればいいじゃん。……おれは次男だし。公務員で、安定してるし、」
「いやだってば、」
「コーちゃんは、おじさん達が心配じゃないの……?コーちゃんの青山は、ここだよ?」
「違う、」
 するとアキは少し身を離し、上からマジな顔で見下ろす。
「……無責任だね。自分の立場、考えてよ…」
「お前こそ……!自分に都合のいい解釈ばかり、するな、」
 あっ、と顎が上がり、声が漏れる。アキの右手が、下まで辿り着き、指を入れられる。
「………」
 押し開くように探られ、感じてしまう。アキは左手でおれの右足を抱え上げ、股間を晒す。
「やめろ……あ、」
 一旦抜かれ、前を割り、アキの指が、そこを探る。腰が浮く。力が抜け、息を吐く。
「……コーちゃん、……感じやすいんだね……つらくないの?ねぇ……慣れてる?」
 つま先から痺れが走ると同時に、ひやっとする。
「コーちゃんのここ、凄い気持ちいい…吸い付くみたい」
「………」
 どうしよう。言ってしまった方がいいんだろうか。でも親にチクられたら……、
「な、何……」
「そうだとしたら、なんか許せない」
 アキは、嫉妬の混じった目でおれを見た、そして、指を抜き太く硬いものを突き入れる。
「ぁあっ、……ん、」
 つい、声が上がる。
「都会でそんな、おれ以外の男に身体開いてるなんて、許せない」
「おれの勝手……だろ、文句言われる筋合い、…ない、」
「ヤッてんの?」
 きつく詰問する。答えず顔を逸らすと、
「ヤッてんだね」
 そう言い、激しく抜き差しする。
「あっ、…あ、」
 動きに押されて、声が漏れる。
「なんか哀しいよ……コーちゃん。ひどいよ……」
 アキは両膝を曲げて広げさせ、足首を抑え、言葉と裏腹に、乱暴なほどに突き上げる。この体位、って言えるのかどうか知らないが、は強烈に突き刺される感じがして、恥ずかしくて強く感じる姿勢だ。おれは目を伏せ、荒い息を吐くだけ。
「……きれいだ。凄い、ぞっとするくらい、色っぽい……コーちゃん」
 そのまま顔を寄せ、唇を塞がれる。
 アキは自分のことばっかりで、さっぱりおれのに構ってくれない。アキから見えなくなったのでつい、自分で触れる。するとアキが、奪い取る。
「ダメだ自分でそんなことしちゃ」
「あ……」
 痺れる程の快感。我慢できず、放つ。するとその痙攣で、アキもイッた。
 荒い息で、ぐったりとおれに覆い被さりながら、アキは抱きしめ、首筋を、顎の裏を、耳の回りを舐め回す。
「……」
 声にならない声で、甘く喘ぐ。
「……コーちゃん……色っぽい。マジで……」
 原田。原田に会いたい。突然そう思った。ごめん。そう思いながら、でも、助けて欲しい。
 でも、アキのことがキライなわけではない。こんなことされても。多分、アキの気持ちが痛いほど分かるから。
「……アキ。おれ、好きな人いるんだ」
 アキがびくっと震える。おれは目を閉じ続けた。
「そう…男。でも、凄い好き。愛してる……」
「おれも愛してる……」
「ごめん」
 アキはおれの肩に顔を埋め、大きく息を吐いた。
「……コーちゃんに、恋人いないなんて、そりゃヘンだよな……でも悔しい。おれの知らないとこで、男に持ってかれたなんて、」
「アキ、」
 アキはまた腰を動かす。今何分くらい経ったろう。制限時間は50分。大丈夫なんだろうか。
「アキ、もうやめて、」
「なんで」
「時間が……」
「まだ……まだ、おれのものだから、」
 そして口を塞がれ、舌を絡められる。


 ともあれ、折角露天付き温泉に来たんだし、露天に入らない手はない。まだ明るい、でも黄色を含んだ空を見上げ、露天に入った。
 黙って上がり、持ってきた着替えのTシャツとラクなパンツに着替え、ロビーみたいなとこに行くと、椅子に座ってやっぱりラフな格好に着替えてるノブちゃんが低アルコールビール飲んでテレビを見ていた。
 おれに気付くと、ちょっと気まずそうに笑い、
「ごめん。ほんとごめんな」
と言う。
「でもアキのやつもほっとけなくて、……それにコーちゃん、色っぽすぎるし、」
「………」
 殴る気にもなれなかったし、すぐ許す気にもなれなかった。思わず俯いた。でも、ノブちゃんてなんか憎めないあっけらかんとしたところがあって困る。
「良かったらアキのやつよろしく頼むよ……」
「いや、おれ、フラレたんだ」
 その時アキが髪を拭きながら寄ってきた。自販機で買ってきたビールを持っている。
「マジか」
 ノブちゃんは目を見開いて言う。アキはビールを飲みながらうなずく。
「……おれ、好きな人、付き合ってる人いるから、」
 そう言うと、沈黙が落ちてくる。
「……幸せなんだ?」
 ノブちゃんは目を伏せ口の端を上げ、言う。「うん」と答えれば、ノブちゃんから渋い笑みがこぼれる。
「そっか……ごめんな」
「いや……でも誰にも言えなくて、」
「じゃ、アキも潔くあきらめないと、」
 そしてノブちゃんは立ち上がった。
「あんだけ隠してるってことは……男?」
 ノブちゃんが背中で問う。
「ん……」
「ま、なんとかなるんじゃない?」
 ノブちゃんの言うのは、家問題のことだろう。
「そうかな……」
「だって、好きなんだろ?……別れたらつらすぎるじゃん。迷惑かけたし、おれで良かったら力になるから」
 そう言ってノブちゃんは振り向いた。

 そのまま帰ってテレビを見ていると…、その日は土曜だった。アキもノブちゃんもオヤジさんと一緒に泊まって行くらしかった。というわけで、終わり無き宴会は続いていたけど、おれは別の部屋でテレビ見ていた。すると、聞き覚えのあるエンジン音が近づいてくる。庭で、停まる。
 急いで玄関まで行き、ドア…引き戸だけど、を開けると、原田が笑って立っていた。
「原田……!」
 家ではやばくてしたことなかったのに、おれは抱きついてしまっていた。すると彼も背中を抱く。
「……なんで、なんで……?」
 助けに来て欲しいってのが通じたワケじゃないだろう。そもそもそれからじゃ着くのが早すぎる、なんて非現実的なことを考えていると、
「なんでって、お前が昨夜ヒマやったら迎えに来い、言うたやん」
「え……」
 そういやそんなこと言ったような。でもあれは、そもそも原田が先にごねた。おれも連れてけと言ったのだ。
「それで来たん……ほんまヒマやってんな」
「何その呆れ方……」
「これからどうする…?帰るよね?」
 ここから早く連れ出して欲しかった。身を離し、見上げて言う。
「明日1日、ドライブがてら帰ろうか」
「今すぐ連れ出して」
「赤……」
 待ってて、と声をかけると、おれは荷物を纏めに2階へ上がった。お母さんが玄関へ出ていく音がする。
「夜分すいません……」
と原田が挨拶する声がする。
 元々少ない、纏まった荷物を取ると直ぐに降り、
「お母さん、ごめん」
と声をかけ、おれは靴を履いた。
「泊まっていけば……、」
「ごめん仕事だから……、だよな、原田、」
「あっ、……うん」
「ほんとに忙しいのね……」
 お母さんが、嘆息する。
 振り向くと、アキが後ろに立ってた。思わず見つめる。
「じゃ、よろしくお願いしますね」
 お母さんが言う。原田は、「はい。ほんとすみません」と頭を下げる。
「行こう」
 おれは原田を引っ張った。玄関を出たとこで振り返る。お母さんが、少し寂しげに笑って見てた。
「ごめん。……また来るから、」
 お母さんも、アキも優しく笑った。

 車に乗ると、安心する。なんか帰ったような安心感があった。家に……マンションに。
「じゃ、今夜は車中泊、な」
 エンジンをかけながら原田が言う。
「旅館とか、ホテルとか、……せめてラブホとか、」
「一回もここで寝たことないやんか。折角そのつもりで買うたのに」
「………」
 原田はワクワクした感じで言う。もしかしてそれが第一目的だったのかも知れない。ま、いいか……。
 目を閉じれば、アキとお母さんの最後に見た表情が浮かぶ。おれの問題先送りが招いた結果だと思う。けど、これからのことは、また明日…おれは晴れた空の星を見上げた。

ああ~また後味悪い、納得の出来ない問題ありありな終わり方をしてしまったような…(汗)赤城君無責任過ぎやしませんか?(大汗)やりたいこと(最低限ですよ/苦笑)全部盛り込んだらどう収めていいかわかんなくなっちまってよぉ~~…ごめん、私ってこんなやつで。ええ、無責任です、無責任。そして隠しきれない鬼畜がひょっこり…だってどうしてもノブちゃんのキスシーンて私的には外せなかったしですね、その他ももろもろ…(以下略)なのにどうにかきれいに纏めようとするからこのような有様に…
さて、ご期待に沿えれたでしょ~か~~。最後が締まり悪くてあんまり切なくなくてごめんにょ(←きしょい)
ピーエス、高校に校区ってありましたよね…?ネットで検索かけてもイマイチわかんなかったです

Copyright 2005 Lovehappy All Rights Reserved.