ブレイクスルー4 -34-

 今までの危機と決定的に違うのは原田の態度。
 頭の中に繰り返されるのは、達っちゃんに言ったという、
「心変わりしようとしたら、どれだけおれが愛しているか、思い知らせてやる」
という言葉。
 おれには勿体ないほどのその強烈な愛の言葉に、どれだけ安心と自信を貰ってきたことだろう。ふとした時の幸せと心の支えになっていた。
 でももうあれから何年経ったろう…お互いに少しずつ感情がズレ始めているのかもしれない。
 いや、おれは、おれだけはそんなことない。というよりむしろ、昔よりずっと原田を愛していると思う。もうあんなに激しくはないかも知れないけど、失いたくない、という思いは強くて…
 原田は、あったかくて。
 そんな原田にあんな態度を取られると、おれは一体どうしたら……
 あの言葉はウソだったのか?忘れてしまったのか?と心の中で何度も呟く。でも、さすがの原田も今回は自信喪失して、どうしようもなくて当然かも、とも思う。
 思い知らせようにも、おれが反応しなくては、意味がない。
 そして、やっぱり全てをうち明ける気には、どうしてもなれない。
 そんなおれに不信感を持ってる原田が、いつまでも屈託のないたっぷりの愛を注いでくれなくても当然か…。
「じゃ、お先。おれ○○さんに寄って帰るから、」
 その日、夜8時過ぎ。パソコンの電源を落とすと、原田は席を立ち、誰にともなくそう言う。
「お疲れっす」
 高階クンが、自分のデスクから顔も上げずに言う。
 おれはちょっと、いやかなり焦る。幾ら何でも、原田がこういうときに、おれと高階クンを置いて帰るなんて…その心境が、なんだか怖い。かといって、おれはもーちょいやらないと、帰れない。持ち帰りという訳にはいかない。とっても朝イチにカンプ持って打ち合わせだし、……でも持ち帰って、明日朝早くに来て出力すればいいか…と気持ちが傾く。こんなときに、高階クンと二人にはなりたくないのだ。
 原田が出てった妙に静かな気のする事務所内で…ラジオはかかってるのに、凄く静かな気がした…仕事をしてると、やっぱり高階クンが寄ってきた。おれの背後に立つ。背筋をぞくっと何かが這い上がる。
「何かありました?」
 いきなり斜め後ろから降ってくる言葉。
「別に……」
 おれは振り向きもせず答える。
「そーですか……?最近、ヘンですよね。……赤城さんと、原田さん」
 笑ってはいない。いつもの高階クンの口調だけど、もともとが人を食った、笑みを含んだような声の持ち主なので、なんだか癪に触った。
「そんなこと、ない……もしあったとしても、君には関係ない、おれたち二人の問題だから、ほっといてくれ」
 すると彼は原田の席に座り、机に肩肘付いて、おれをニヤニヤ見ながら、
「関係ないこと、ないでしょう……?おれとのアレが、原因ちゃうの」
と口の端を歪ませて云う。いたたまれない。もう、帰る。帰ってやる。おれは開いていたデータを保存し、バックアップを取りながら開いているソフトを終了させていった。
「帰る……お先」
「明日早くに打ち合わせでしょ?赤城さん…終わってへんのと違います?」
「明日朝やる…君みたいな無神経な男と二人では、落ち着いて仕事出来ひん」
「そうやっておれを意識してる態度…大分気になってる態度…揺れてますね。おれは、ここまで来たら今更後に退けないんで、後悔しないようにとことんやりますよ」
 ずっと目を外していたのだけど、でも彼の視線は痛いほど感じていたのだけど、…ここでおれは反射的に彼を見てしまった。目が合う。強い光。でも口元には薄い笑みが浮かんでいて。その唇がまた微かに動き、言葉を紡ぎ始める。
「今回は、昔みたいな失敗はしてへんでしょ。押しまくって失敗しましたからね。昔…おれも勉強させて貰いましたよ。あんなん初めてやったわ…」
「そんな恨みがましい言葉で、釣れると思ってんの?…君は、おれに復讐したいだけなんちゃうの…」
「あなたが好きやから。どんな手を使っても…分かりません?」
 そして抱き寄せられ。肩に顔を埋められる。強い拘束力。肩に掴む指が食い込んでくる。フワッとタバコが香る。
「は、離して……、」
 熱くて、寒い。何より、怖かった。
 しかし更に強く抱き締められ、片手は腰の細いところに締めるように絡みつく。絡め取られる。
 原田。お前は、こういうことをずっと嫌がってくれていただろ…?
「あ、」
 身を捩り抵抗していたら、椅子のキャスターが滑り、こけてしまった。その際に彼の手が離れる。おれは慌てて立ち上がり、彼がどんな顔してるのか見ることが出来なくて、俯いたまま「じゃ、お先」と逃げるように事務所を出てしまった。
 バックアップを、持って帰れなかった…。やることまだ残ってたのに。
 明日はほんとに早く出て来なければならない。

予定のとこまで進めなかった…だから短くてすいません…月イチ(はからずしも)の割には、短すぎ。内容薄すぎ。でもまー、取り敢えず上げさせて貰います。

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