ブレイクスルー4 -33-

 あれから数日。原田は全くおれを誘わなくなっていた。
 じわじわと空いていただろう溝が決定的になったあの日。
「もうちょっと、頑張ってみる?」
 前々から静かに原田の男としてのプライドは傷付いていただろうけど、そう言われて答えきれなかったことで決定的になったんだと思う。
 あの原田が、おれを誘わなくなった。
 気まずさ最高潮。しかも幸か不幸か最近妙に忙しくてなかなか話す機会が取れなかった。
 一緒に暮らして、同じ職場だといつも相手が見えて気が通じ合えて安心できるというのは、嘘だ。
 この頃おれはそう思った。職場が同じでも、忙しくて出入りが多いと一緒にいる時間が少ない。あっても、他の人間の手前、そんな話題はおくびにも出せない。仕事の話、他愛ない話…突っ込んだ話など、する時間がない。
 そして、忙しければ夕食は残業食で済ませ、家に帰っても風呂入って寝るだけ…そんな時間になってしまう。そして、心身共にくたくただと、家に帰ってまでそんな面倒な話題を持ち出す気にもなれない。
 互いに、明確な何かを持ってるわけでないことが、益々話すことを億劫にさせていたと思う。おれに至っては、億劫の余り、原田と話すということ自体をなんとなく避けていた。
 いつも一緒なだけに、気の休まることがなく、別に仕事したり暮らしてる方が遙かに楽なんじゃないかと思える日々だった。
 
 気まずさに耐えられず、…だって一つしかないベッドで、息づかいも聞こえる…起きている息づかいか、寝てしまっている息づかいか…分かってしまう距離で何にもしゃべらず、エッチもせずでは、元々寝付きのよくないおれはどんどん神経がとぎすまされて、目が冴えて全く眠れなくなってしまう。
 なので、自分から、決して体が求めてる訳ではなかったけど、ただ触れあいたくて原田に覆い被さったが、原田は胡散臭げな目でおれを見上げ、
「何?」
と言った。
「エッチ……」
「したいの?」
「………」
 体がひるむ。原田の望むように応えられる自信がない。そう思っただけで、おれのあそこは益々自信を失い、萎縮していくような気がした。だけど、
「うん。お願い……」
 そう言って、すりより、抱きついた。彼がゆるく、反射的に背に手を回し、抱き寄せる。
 もう、それだけで構えてしまい、固くなる自分が分かった。口づける。舌先から広がる疼き。熱が上がる。緊張でぬくもらない部分と、火の点く部分。それがおれの体の中でまだらにあり、この先の行為が瞬間的な熱でおれを覆っても、その後味はやはり決して良いものではないだろうことを教えた。
「……やめた」
「原田……!」
 それでも抱いて欲しかった。必要として欲しかった。おれのことなんか顧みず、好きに、めちゃめちゃにして欲しかった。
「どうして…どうして?今までだってあんなにおれがいやがっても好きにしてきたくせに、」
「どうしても言われても……お前の体が本気でいやがってるから。おれもその気になられへんと、言うたと思うけど?」
 おれは右手を滑らし、彼のパジャマの中に忍び込ませると、下着の上からぎゅっと掴んだ。
 すると、その手を掴まれる。痺れて指の力が抜けるほどに。
「やめとき……焦ってやっても、益々悪くなるだけ、かも知れへんやろ?……気持ちは、分かったから」
「……ごめん」
 涙がぽろり。少し零れた。でも恥ずかしいから、見られる前に髪を払うふりして拭いた。
「……何があった?」
「……」
「あのカメラマンか」
「………、違う、」
 荒立てたくなくて、言った。
「……。高階か」
 断定的に、不機嫌に原田が言う。
「…違う!」
 怖くなって、強く否定する。そっと目を上げると、口をへの字に曲げた原田の顔。
「ふーん。……そ」
 原田は、こないだとは比べものにならない物凄い拒絶を纏った背をおもむろに向けた。
 
 会社では、仕事が淀まないように事務的に仕事。
 もうほんとにどうしたらいいのか判らない。今までで一番の危機だというのは判る。
 でも、どうしたらいいのか判らない……その間も野々垣さんからは頻繁に原田にメールが入っていたようだった。
 原田も、気まずいおれから距離を少しでも取ろうとしているようだった。
「おれ、今日ののちゃんと飲んで帰るわ」
 そう告げられて、切なさに胸がキリキリ痛む。目線は外していても、おれのしかめた顔が判ったんだろう。
「……来るか?」
 原田の酒は心配。でも、おれは首を縦に振れず、横に振った。
 原田はほっと溜息付く。まるでおれから逃れられて安心したかのようだった。

そろそろヤマなのですが、難しいので進みが悪くてすみません……(汗)実生活でもヘビーでブルーで、書いててもブルーなところでまいっちんぐ(古)

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