ブレイクスルー4 -25-

 達っちゃんに初めて許した頃、おれは特に男が良かったワケじゃなかった。
 今から思えば、おれにとってはほんとに成り行き…、好奇心以外のなにものでもなかったと思う。特に嫌悪感が沸かなかったし、彼をそりゃ「好き」でもあったのでされてイヤじゃなかったし、それで自分を納得させた。達っちゃんを「好き」だから…と。
 自分に言い聞かせていた。快感への期待を、彼に対する特別な気持ちと混同して、勘違いしていた。
 大体おれは女の子が好きで、成就した試しはなかったが、いっぱしに欲情してた。
 なんだけど。認めたくないけど、信じたくはないが、女に余り反応せず、いい男、色気あるいい男を見ると身体がゾクゾクと騒ぎ出す自分がいる。
 もう、すっかり男が好きな男になってしまってる。そして、もう、抱かれるための身体になってしまっているのを、実は分かってしまっている。多分おれは、ヤル側ではなかなかイケない、それだけの刺激と快感では物足りない贅沢な身体になってしまってる。
 ……いや。そうじゃなくて。
 嫌悪が沸かなかった時点で、実はおれは気付くべきだったのかも知れない。と思う。それからの人生、女より男に強烈にセックスアピールを感じる、惹かれる自分、そして寄ってくる男。
 女が好きでも、どう付き合っていけばよいのか分からず、面倒臭かった。女に対しては、結局不能だった。おれにとっては、それが、今が自然な姿だったのだと。
 土井さんとこを出て、訂正を貰ってからの自転車の帰り道、そんなことを思い、軽く頭を振る。
 ……でも、原田と離れることは出来ない。そんなことを想像するだけで、ぽっかりと心に穴が空いて、寒さに震える。
 経験の少ないおれの、初めて本気で愛し合った相手だから?でももしかしたら高階クンも、土井さんも、同じように大事にしてくれるかも知れない。
 昔、そんな身体に変貌してく過程で、自分の将来が怖くなりグラグラとしたことがあったけど。
 そのときの執着とは別に、やっぱり原田が好きだという思いは変わらない。
 その彼に見限られたら…
 それが怖くて、土井さんに応えて上げられないのが、あんな顔させてしまうのが、とても心苦しい。
 そこまで考えると、事務所の入ってるビルの駐車場に着いた。駐車場は一階で、その隅にビルの裏口に続く守衛さん付きのドアがある。何台か停めてある車の奥に、自転車やバイクを置くスペースがある。
 刺すような日差しからひんやりした日陰に入り、ほっと息を付いていると、ドアから出て来た男が声をかけてきた。
「お帰りなさい」
「……あ、うん」
 そっちに目を向け、しっかりと捉えると、高階クンだった。細身の身体に、スーツ。相変わらず童顔気味の顔を、全くそれと感じさせない不敵な感じでニヤリとさせる。
「今からどっか行くん?」
「ええ……」
 そう言って高階クンは寄って来ると、おれの腕を掴んだ。その力強さに、ドキリとする。
「な…何?早よ行きぃや……」
「だから…ちょっと話あるんで、手早く済ませましょう」
「え……?」
 彼はそう言うと、有無を言わさぬ調子でその隅、駐車場から直接行けるトイレの、一個きりの個室に押し込んだ。何か不穏な予感で、動悸が乱れる。
「な……、何、」
 高階クンはドアに鍵をかけると、ドアを背におれに向き直る。そしてニヤリとし、何かを左手でかざす。
「赤城さん…仰向けで電話するとね、気道の関係で息の抜けたような声になるって、知ってます?」
 息が止まりそうになる。彼が手にしているのは、留守電用の小さなテープだった。
 やはり、彼はあなどれない。どんな小さな過失も、見逃してはくれない。目ざとく拾ってくる怖さを持ってる。
 一生懸命努力したのに…見逃してくれなかった。
「どう考えても、おかしいですよね。土井さんとこで仰向けになるなんて、理由が考えられません…」
「……お、思い過ごしや…」
「そうですか?これには2人分の重なる吐息も入っちゃってんですけどねぇ…なんででしょね」
「………」
「これ聞いたら、原田さんもそう思うんちゃいます?」
「な、何が言いたいん、」
 テープを奪おうと手を伸ばすと、その手を掴まれ、引き寄せられる。
「前言ったでしょ。土井さんに食われたら、問答無用で食ってやるって、」
「早とちりしなや、おれは食われてへん、」
「そうですか……?調べてみないと、信用出来ませんけどね」
 そのまま彼はテープをポケットに収め、おれの腰を抱き、ずるずると跪くように下りていき、股間に鼻を寄せられた。ぞくっとする。
「ちょ……」
 腰を抱いたまま、手を掴んでいた方の手がファスナーを下ろし、ベルトとボタンも外された。そして、広げられる。
「でも感じましたね…?匂いがする。ちょっと湿ったあともあるみたいですけど?」
「だ……出してない、」
 言ってから、しまった、と思う。高階クンは、ニヤリとおれを見上げ、
「そう……じゃ、おれもそこまで食べさせてもらいますよ?」
 そう言って2本の指で引きずり出す。もう一度先端に鼻を擦り付けるようにして匂いを確かめている。
「そんな権利、……」
「おれには、あるね」
 そう低く、早口に言うと、腰に回していた手がズボンも下着も膝まで乱暴に引きずり下ろし、後ろに触れてきた。
「や……」
「こっちも調べませんとね……ちゃんと把握しとかないと。心配ですから。赤城さんが」
「な、何を……た、たか……あ」
 彼の人差し指が、異変を確かめるように執拗に探る。なのにそんな動きにすら、簡単に感じていってしまう。
「何も入ってへん……特にゆるんでもないみたいやし、ここはヤラレてないか……」
 ちょっと落胆気味に聞こえる。彼は、おれがヤられてしまった方が良かったのか。そんなことを口実に、そんなとこを弄ってるくせに。普通なら、許しはしない。何年も何もなかった相手に、される行為がイキナリこんななんて、許せない。
 でもおれは、どうしてよいか途方にくれ、取りあえずなすがままに従った。大体、分かるはずだ。そういう意味では何事も無かったことぐらい。
 だから、油断してた。
「あ……っ」
「相変わらず、色っぽいですねえ……いや、より色っぽくなりましたよね……ここの具合もよーなってるみたいやし、……ドキドキしますね」
 彼はそう言うと、舌に乗せるようにして、吸い付いてきた。体中の血が吸い寄せられたように一気に集まり、熱くなる。
「ヤ……」
 おれは彼の肩に手を乗せ、思わず喉をのけぞらせた。

ウフフ…やっちまったよ、ああん。更に続きますよ。うえへへ。しかし土井さんには、謝るしかないですね……やらせたら原田君が可哀想だし、やらせなかったら、土井さんが哀れ……なのに高階クンには、……取りあえず上げっけど、今回と次回でワンセットですんで。それにしても最近の赤城君はヤラレっぱなし、感じさせられっぱなしですね。一応クライマックスなんでしょうかね?(人に訊くなよ…)

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