ブレイクスルー4 -24-

「ちょ……だったら目を覚ましてください、」
「おれはぱっちり開いてる。これ以上なく覚醒してますよ?」
「ちょっと興奮して頭沸いてんでしょ、しっかりしてください、土井さん、」
 土井さんはそのままおれを肘掛けに後頭部を乗せる形でいつの間にかのしかかっている。顔はもうおれの顔の直ぐ横にあり、湿った熱い息が首筋を嬲る。そこからゾクゾクとヤバイ感覚が全身に広がっていく。
「あんたも疑り深い人だな。本気だって言ってんだよおれは。前からずっと、」
「信じらんない、」
 おれはその刺激を相殺するように、強く首を振り言った。
「なんでだよ?…男だから?おれが男だからいやなのか?」
「当たり前でしょ、」
 そう言い、身を捩りながら彼の二の腕に手をつかね、必死に押し戻してみる。だけど上から押さえつける力は半端でなく、土井さんもより一層力を込めて締めてくる。そもそも体格差ですっぽりとはまってしまってる。
「赤城さんはさあ、奥さんといるより、おれとくっついた方が自然なんじゃないの?」
「な……、いい加減なこと、憶測で言うな、」
「奥さんリードしてるより、おれにリードされてる方がラクだろ?おれのなすがままにしてたらいい…」
 そう言うと土井さんは頬にキスをくれる。そのまま舌先でくすぐられ、ビクッと首をすくめる。ふっと笑う気配がする。
「こうやって、感じ易いし…びっくりするくらいきれいで、色気が出るし」
「……、マジでいい加減に……、土井さんが今まで撮ってきたモデルやタレントの足下にも及ばない、ただの一般人だろ……」
 しかもきれいとか可愛いとかいうには、恐ろしくとうの立った人間に何を。
「分からないかな。人には好みがあるんだよ」
「好み……」
「それに赤城さんはきれいだ」
「また……、」
「ほんとに人の言うこと信用しないんだね…前撮った写真、凄い良く撮れてたんですよ?赤城さん……誰にも見せたくないくらいに」
 あの写真…また身体が火を吹きそうに熱くなる。そして彼の熱い溜息が、かかる。
「きれいに撮れてた……感じてる顔も…毎日見ながら、おれ……、温泉で見た身体の線もきれいだった。…だんだん我慢出来なくなってきたんだ……」
 そう言って、彼は頭を振る。ひんやりした髪が頬を嬲る。
 と、彼が顔を上げ、おれの顔を見る。
「見る?」
 写真のことだ。カッと熱くなる。
「……見たくない」
 言葉が途切れ、静寂が染みる。外の喧噪もここには聞こえない……。明るい光に反射する高い天井が目に入る。今日が平日なんて、現実感が乏しくなってくる…なんで電話がかからないんだ。誰か来たらどうするんだ…
 そうぼんやりと考えていると、身体が違和感にビクッと震えた。土井さんが、シャツの上から、胸を撫でる。さっきからの度重なる緊張に、そこはとっくに硬く尖り、簡単に在処を示して彼に触れられる。
「………、」
 ダメだ、感じちゃ。でも執拗に布越しに捏ね、弄られる。
「ヤ……」
「感じてる」
 彼の頭がずり下がり、シャツ越しに舐められ、熱い舌と、その過ぎた湿った冷たく張り付く感触に背筋が震える。下半身が熱く甘く疼いてくる。内股へ、全身へ、甘い痺れが流れ出し、犯してくる。
 ダメだ、痺れちゃ…焦れば焦るほど、感覚は鋭敏になる。
「ここも。ほんと感じやすいね」
 土井さんの手が股間に伸び、硬く張りつめてきたものを優しく撫でる。声が出そうになって、慌てて堪える。
「イヤ……」
「思ったとおり…可愛い。イヤ…って言う声が」
 彼の荒い息を聞きながら、彼の高まりも、内股に擦り付けられ、食らいつかれる予感に不安に身を震わす。
「ア……ダメです。土井さん……誰か来たら…電話が鳴ったら……」
「電話くらいどうってことないでしょ。誰か来たら…来てもここまで入れなきゃ大丈夫」
 居住空間とスタジオ、事務所は区切られており、こっちはドアから一目に見渡せる状態だが、このソファはドアに背を向けていた。そして結構距離がある。用意周到…いや勘ぐり過ぎ。普通なら接客応対する土井さんは、この向かいのソファに座るのだ。すると来客は直ぐに捉えることが出来る。
 そんなこと冷静(?)に分析してる場合じゃない。この目前の危機を回避しないと。これ以上感じたら引っ込みが付かなくなる。股間を撫でる手の動きは大胆に、形を探りしごくように強弱を付け上下に滑る。手首を掴むと、一瞬止まった。
「おれ、帰って仕事しないと、……」
「ヒマじゃなかったんですか?」
 おれを見つめ、優しく笑う。カッコイイ。それは認める。好みのタイプだ。もうこの際それも認めよう。おれは男が好き、そう男が好きなんだ。抱かれるのが。それももう認める。
 だけどダメだ。原田を失うのは、イヤなんだ。
「ヒマじゃない……困ります。こんなことされて、そんなことになったら……おれ、二度とあなたに会えません…連れ合いにも顔向け出来ない……前、約束してくれたじゃないですか、」
「でも好きなんだ。諦めきれない」
「おかしいよ……」
「赤城さんだってこんなに感じてくれて…気持ちいいだろ?素直になれよ」
「………」
 素直に…それが一番かも知れない。彼はきっと、虚実の間の違和感に気付いている。だからそこに執拗に突っ込んでくる。確かな、納得いく答えを導き出したくて。
 そうだ。疑問が氷解したら、熱も引く。
「ええおれは…気持ちいいです。でもそれは、…おれの連れ合いが、男だから、」
「え、」
 彼の身体が微かに強ばる。
「もうやめて……そうおれは、抱かれるのが好き…もう充分、満たされてるんです。だからもうやめて……」
「………」
 土井さんは黙ったまま、微動だにせずおれの胸に頭を預けている。気付くと、おれに当たるものが、驚きにかいくらか収縮しているのを感じる。
「そんな……そうか……」
 彼が息を吐く。おれ自身、その告白に快感以上のひんやりした緊張を覚え、冷たい水を潜ったように、熱が洗い出され、ちりちりする肌を残して、凍えるように身を硬くしていた。
 ……終わった……。今度こそ……。
 そう思い、大きく息を吐くと、おれの携帯がなる。ポケットから出し、出る。
「……はい」
「赤城さん?まだ土井さんのとこですか?」
 それは高階クンだった。妙にドキリとする。
「うん…何?」
 なるべくしっかりと受け答えしなければ…声に甘ったるさは残ってないだろうか。
「○○さんから電話あって、訂正取りに来て欲しいそうです。…寄って聞いてきて貰えませんか?」
「ああ……分かった、…っ…」
 土井さんが、微かに身じろぎ、愛おしむようにまた身体の線を辿り、抱き締めてくる。耳元で息付く彼の吐く息に、また、ドキドキと鼓動が早くなる。
 少し息を吸い込み、止めて、落ち着けて…ちょっと間が空いた。
「赤城さん?」
「うん、分かりました……じゃ今すぐ行くから…」
 これ以上話してると堪えられない。ばれてるんじゃないかという緊張に。選りによって高階クン。おれの心はどんどんざわめく。
「し…、仕事で行くとこが出来たんで、……」
 彼を押し戻す。仕事とあれば、彼も無理強いは出来ず、身を起こし離れていく。
「仕方ないですね。……」
「是非、おれのことはもう忘れて…土井さんにはおれなんかより、いくらでも素敵な男、いや女が手に入るはず…」
「あなたの可愛さが好きだったんですけどね……残念だな…」
「……」
 なんと返事してよいか、戸惑っていると、身を起こした体を背もたれに押しつけられ、口づけられた。
 2度目のキス。彼とのキスは、こういう時ばかりだ。
「このくらい、いいでしょ。餞別に」
 少し寂しそうな笑みに、胸が痛む。
「……ごめん。お茶、ご馳走さまでした……」
 おれは彼が腕を緩めた隙にさっと立ち、頭を下げて直ぐにドアへ向かった。彼は、追ってこなかった。ソファから立ち上がる気配はなかった。振り返ることが出来ず、ドアを開け事務所を後にした。

やっと予定通りに着地しましたが、そのプロセスが随分変わってしまったあぁ。予定じゃもっとエロくない課程で持ち込むつもりだったんですけどね。「女の子のどういうとこに萌える?」とか「どういう風にするのが好き?」とか会話させてその違和感に土井さんが?となり堪えきれずカミングアウト…おかしい。技量不足に参ります。所詮エロ展開、昼メロ展開が好きなんだよ。開き直ったとも、おおー。

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