ブレイクスルー 3 -8-

「じゃ……また明日な」
とつぶやくように言うと、潮崎さんはちらとおれを見て、地下鉄の駅のホームでおれと反対方向の電車に乗るために歩き出した。
「お疲れさまでした。今日はどうも、ごちそうさまでした」
とおれが言えば、頷いて笑う。電車のドアが閉まる。発車して、彼が視界から去ると、初めておれはぐったりと身体中の緊張がほどけた気がした。
 店を出てから駅までの間、おれはたわいもないことを言っていたが、彼を直視出来なかった。でも、見ないというのもヘンなので、ちらちらと目を上げて彼を見て、……でも彼も、同じような視線しかくれていなかったと思う。
 もう、ダメだ。と気が塞ぐ。
 電車が来た。ドア際に立ち、何も見えない地下を見ながら、モヤモヤとした心を持て余す。
 明日が怖い。潮崎さんに会うのが、怖い。何事もなく、今まで通りになんて、接せるか。いや、おれはそうしても、彼がそれに応えてくれるのかが怖い。
 おれの予感では……彼はぎこちなく、素っ気なくなると思う。
 そしてそんなおれたちを見て、また唯野さんなんかにからかわれでもしたら……、ああ、イヤだ。
 乗り換えた電車では、これまた座れることなく、おれは車窓の景色を見ながら帰った。
 家には、灯りが点っていた。原田に会うのすら、後ろめたい。
 おれは何もしていないのに、潮崎さんに決定的なことを言われた訳でもないのに、後ろめたい。高階クンとなんか、寝ちゃってるのに、これほどまでに後ろめたいことは無かった。
 もしかして……おれも、潮崎さんのことを、好きになり始めているのかも知れない。また、本気で心が揺れ動き始めているのかも知れない。
 そう思ってしまったら、足がすくんでおれはますますドアを開ける勇気が失われていくような気がした。
 違う……そんなことはないはずだ。彼を見れば、きっと安心する。
 鍵を回す代わりに、チャイムを鳴らす。
「どちら様?」
と中から彼の声がする。普通の口調が、おれには素っ気なく感じられた。
「おれ……」
 ドアに頭を預け言うと、ドアが開けられ、おれは頭を打ち身を引いた。
 彼はおれを見て、それから手を掴み引っ張り入れた。
「おっそいなー。残業?」
とコタツに座ってタバコに火を点け彼が言う。
「いや、……ちょっと飲みに、」
「また、版下の人達と?」
「ん……」
 彼がおれを見てる。おれは、焦燥感で居ても立ってもいられなくなる。
 心にやましいことがあると、ちょっとしたことで全てが見透かされるようで、心苦しいものなのだ。
 初めてだ。こんな心苦しさは。悪いけど、原田と達っちゃんを秤にかけていたときの比じゃない。
 今分かる。おれは、おれ自身は、済まないと思いつつも、達っちゃんを愛する対象とは全然心の底で思ってなかったのだ、と言うことを。多分、原田に初めて抱かれたときから勝負は決まっていた。
 では高階クンはどうなのかというと、原田の方、っていう心がぐらつかなかったからきっとそこまで後ろめたく思うことなく原田と接せたのだろう。いや、それは行為に及んでしまったことへの後ろめたさはあるけど、心変わりの心配はなかったから、……
「何かしんどそうやな。もう寝たら?」
 彼はタバコを押しつぶし、そう言った。
「ん……」
とテーブルに手をついて立ち上がろうとすると、手で掴まれた。
 おれがきっと情けない目を向けると、その手を離す。
 だからおれは、そのまま立って行って、布団の横で服を脱ぎ、下着なぞ着用していなかったので、裸で横になった。原田は、まだ寝ないのかな。
「ねえ、まだ寝えへんの?」
と気になり、声をかければ、
「いいトシこいて、一人で寝られへんのか」
と言ってやってきた。
 電気を消して彼はおれの横に潜り込むと、暗闇を照らしてタバコに火を点け、
「お前、な……」
と切る。そして間を空けた後、
「何か悩みある?」
 おれはドキリ、とする。
「何で……?」
「何でと言われても、……表情が、暗いもん。会社で何か、あった?」
 そりゃバレるよな。と今日の態度を思い出す。
「何もないと言えば、ウソになるけど……、ウソをつくのも、つらくなってきたし……」
「内縁の妻?」
「そう……。奥さんてどんな人?何て名前?…って、軽く訊かれても、おれが答えへんから、壁というか、溝が出来ていくようで、……言ってしまえば、ラクなのかも知れへんけど、恐ろしくて、おれはまだ言われへん…」
「テキトーなこと言ってれば?」
「それが出来りゃ、こんなに悩んだりせえへんわ…。せっかく親しくなっても、芯のとこで親しくなれないのかもと思うと、何か空しくなって…」
「……。まあ、ほっとけば?そのうちそれが当たり前になって、訊かれへんようになるんちゃう?」
「言えないことがある、っていうことが、こんなに苦痛なのは初めてだ…」
「何でも隠しとったヤツにしては、進歩やよな」
と軽く言われてしまう。
「なーんか、とてもHする気になりそうもないから、このまま寝てもいい……?」
「おれの意志は?」
「尊重するよ…。好きにしていいよ」
 本当に、隠し事があるというのは、つらくて怖いものだ。それは、失いたくないから。
 次の朝、思った通り、潮崎さんは素っ気なくなっていた。
 ああ、と気が萎える。
 彼がおれに気があるから、戸惑いで素っ気なくなったのか、しかしそんなに自分に都合のいいことばかり世の中あるわけじゃない。おれが、ついうっかりやってしまった、いわゆる色目に、「気色悪さ」を感じて、怖がっているのかも知れない。ノーマルな人間としては、はっきり言ってその確率は高い。
 自己嫌悪に陥って仕事をやっていると、潮崎さんがうちの主任に「藤田君」と仕事を持っていくのが見えた。主任はちらと見ただけで、
「あ、赤城君に持ってって」
と言う。おれはつい身構えて待ちかまえてしまう。彼が来た。
「赤城君」
 そう呼ばれて初めて、「はい」と答え、少し目を上げると、目があってすぐ彼は原稿に目を落とし、
「これ、」
と机の上に原稿を置く。それは、いつもなら何度言っても直で持ってきてたバラ文字だった。明らかに、避けられているのが分かった。
 彼は要件だけを手短かに語ると、自分の席へ戻って行った。
 おれは原稿を見、時計を見て、衝動に駆られてカバンから手帳を出すとすがるような気持ちで原田の会社へ電話した。
 女の子が出る。おれは半分諦めつつも、高階クンを呼んでもらう。おれのことなど知らなそうな、いや知ってても声で分かってそうな女の子ではないから、名乗らず呼んでもらった。情けないけど、今や頼りになるのはもはや彼しか居なかった。
「高階は、ただ今外出中ですけど…」
 ああやっぱり、営業だものな。
「至急でしたら、連絡致しますけど…?」
 ああそうか。ポケベルの番号(※時代を感じ…以下略)聞いときゃ良かった。こんなことになる位だったら。と歯がゆい思いで痛恨のエラーを悔いていると、
「連絡致しましょうか」
と再度訊かれる。そこまでしてもらう程の要件ではない。
「イエいいです。すみませんが、帰社予定は…?」
としつこく聞き出すと、落胆しながらおれは切った。
「今日○○さんは来ないんですか?」
と振り向きおれは主任に訊く。彼は
「さあー、営業にでも訊いてみたら?」
 高階クンに会いたい。全てぶちまけてしまいたい。でもこれ、おれの試練なんだったら、一人で乗り越えなきゃならないのだろうか。
 そう思いつつも、すがりたい思いに勝てず、帰社予定の時刻にまた電話した。
 振ったヤツに頼るなんて、とんでもないヤツだおれは、と思いながらも彼が出ると分かると物凄くほっとし、神様もまだおれを見捨てちゃいなかったと思ったり。オーバーかな。
「はい……」
と彼が出れば溜息一つつき、
「高階クン……?おれ。ちょっと相談したいことあんねんけど、…今日のお昼、空いてへん?」
 彼はくすりと笑うと、
「珍しいですね……。いいですよ」
「ありがとう……!本当に嬉しいわ。じゃ、こないだの茶店で、…」
 それだけでおれは心が軽くなり、電話を切った。
 今日は火曜日だったから、本当は潮崎さんたちとなのだけど、おれは断った。
 唯野さんが「何で」と訊く。
「ちょっと用あるから……」
「銀行やったら、メシ食った後でも行けるやん、」
「ええでも……スミマセン」
と謝れば、彼らは出て行った。
 おれがあの茶店に人目をはばかるようにして入ると、隅っこのボックス席にタバコをふかした彼が居るのが見えた。
「高階クン……!会えてよかった、会えて嬉しいわ、」
と向かいに座りながらすがるように言うと、彼は笑い、
「イエイエなんの。……オーバーですね。昨日会ったばかりでしょ」
「いや今日、今会いたかってん。本当にありがとうな」
 おれは頭を下げる。
「いよいよおれに惚れてきました?」
「まだそんなこと言うてんの……。残念やけど、ハズレ」
「いやまだ脈はあるやろ。こうもすがられちゃ」
「本気で言うてんの……?空しならん?」
 すると彼は苦笑いし、
「ヤなこと言いますね。……少しは、思ってますよ。そういうもんやと、思いません?」
「でも今頼れる人は君だけやねん。……情けないけど。年下で、振ったはずの相手にこれはきついかなーと思わんでもないけど、」
「原田さんには?」
「まだ。それも言った方がいいんかなーとも思うけど、おれには分からへん、」
「何があったんです……もしかして、あのヤローに、ヤられちゃいました?」
「違うわ……!彼はそんなこと、せえへんわ……。でもはっきりしないのがモヤモヤして、原田ともぎこちなくなりそうで、……」
 おれは昨夜の話をし、今日彼が素っ気なくなったことを語り、
「もーおれイヤ……!八方塞がり。このまんまじゃ、全てを失ってしまいそう、」
と頭を抱えた。
「おれ、潮崎さん好きなんかなあ、」
と爪をかみ言えば、
「ムカつきますね。……そうか、そうやってアプローチすれば良かったのか。おれ失敗したな」
「は?」
「気はあるみたいだけどはっきりしない、なんか気にかかる……と思わせておれのことで頭を一杯にさせちゃう。これですよ。おれストレートに攻めすぎたわ」
「でも、はっきりしないからイライラしてるだけかも……とも思うんだけど」
「じゃ、訊いてみればいいでしょ、」
「『おれのこと好きですか』って……?そんなこと、訊けるかい。ヘタしたら、ますますぎこちなくなるわ、」
「でもあなた、ハッキリしたくてたまらないんでしょ?」
「うん。すっきりしたい」
「訊かなすっきりしませんよ」
「実は何とも思ってないって言われてもショックかも。おれ一人で自惚れて」
「あはは」
と彼は笑い、
「そりゃカッコ悪いわ」
「悪かったねカッコ悪くて。…んで、原田にもいい加減隠し事はやめて言った方がいい頃合いではないかなーと思うんだけど、どう言ったもんかな、というのも分からなくて、……君のことも、含めて……」
「おれのことは、別だろ」
「言わんがいい?」
「おれは別に、バレてもいいけど、原田さんが。立ち直れない位ショックちゃいます?いっぺんに言ったら。……その、潮崎とか言うヤツが、黙っててつらいんでしょ?」
「でも気ィ悪いよな。なんか気があるみたい…て言うのも。でも、言った方がいいと思う?ハッキリしないことを言うのは、ただ警戒さすか呆れさすかのどっちかだと思って、なかなか言えないんだけど、」
「あの性格ですものね」
 彼が笑う。
「でも、原田さんともぎこちなくなりそう、潮崎さんともぎこちなくなりそう……なんでしょ。言わないとすっきりしないのと違います?……このまま、二人とぎこちなく、ダメになって、おれのとこに来たら?」
「そういうのって、ムカつかへん?なんか滑り止めみたいで」
「おれは手に入れられて、好きに出来たらいいもん」
「……」
 彼は、少し硬い笑顔で、おれを見て言った。手元のタバコの煙りだけが動いていた。
「手に入れさえすれば、おれは楽しむ自信はあるし。おれも、相手にも、」
「好きにさせてみせる、っていうことか」
 返事の代わりに軽く目を伏せ、彼はコーヒーを一口すすった。
「……言ってみたら?原田さんに。潮崎さんのことだけ。おれだけが知ってる、という優越感がなくなるのは、ちょっと癪に触るけど」
「うん。…ありがと。…でも、君と……」
 口が重くなる。言いにくい。昼間からこのセリフ。
「寝たことは、言わない方がいいよな……」
「おれと付き合ってくれるっていうんなら別やけど…」
「……ごめん。原田が居なかったら、きっと君のこと、誰より好きになっていたと思う。大好きだけど、……取りあえず、あきらめてくれ……」
「いいですよ……最初っから、そのはずやったんやから……」
 沈黙が落ちてくる。でも、ムリして何かしゃべっても、余計空しい気がして、暫くそのまま二人座っていた。
「……潮崎さんが、赤城さんのこと、好きやと言ったら、あなた、どうするんです…」
 おれから目を外し、絞り出すように彼は言った。
 おれはすぐには返事出来なかった。
「その時になってみないと……分からない」
「二人を選ぶんですか?」
 どういう思いで、こんなセリフを吐くんだろう。
 二人を秤にかけ、選ぶというのは、二人とも同じくらい好きということ。
 もしかしたら、潮崎さんを選ぶかもという可能性が、あるということ。
 彼の前で、そんなひどいこと、言える訳がない。
「でも……そういうことは、多分ないと思う。おれと原田は、一生を誓い合った仲だし、いくら、もし、潮崎さんがおれを好きで、付き合いたいと言ったとしても、一生おれを請け負ってくれる覚悟はないと思う。君もね……」
「確かに、一生愛し続けるという自信はないですけどね、……」
「おれは並じゃないから、そう簡単に気分で別れたりくっついたり、出来ひん。怖いもの。……そんな打算ばかりが、原田にある訳やないで。でも、おれは、その辺の女よりは慎重と思う」
「ケツは軽いけどね」
と彼は笑った。

 ぎりぎりに会社に戻って仕事をしてると、曽根さんがおれをちらちら見る。
 おれは不審に思い、
「何か?」
と訊ねると、彼は、
「赤城君、潮崎さんのこと、知ってる?」
「は?知ってますよ。名前とトシ位は」
「あほか。ま、いいわ。……」
と彼は仕事に打ち込む。何のことだかさっぱり分からないが、とりあえず仕事した。
 その日、七時位に帰ろうとすると、曽根さんが、
「赤城君、今日何か用ある?」
と訊く。おれは立って彼を見下ろしながら、
「イエ別に。何か用ですか?…飲みにでも、連れてってくれるんですか?」
と笑って言えば、
「うん。…それで、もう終わるから、ちょっと待っててくれる?」
「じゃ、手伝いましょうか?」
「いやすぐ終わるから……」
 おれは自分の席へ再び座り、待っていると、彼は五分もしない内に仕事を終えた。二人揃って「お先に失礼しまーす」と出た後、
「何処へ行こう」
と曽根さんが言う。
 何処でも良かったので、その辺の安い居酒屋へ行った。
 暫く主任の話や、仕事の話なんかしていたが、彼は、少し会話が途切れた後、
「赤城君、潮崎さんのこと、知らんの……?」
と彼は目を落として言った。
「昼間も言ってましたね。何のこと?まさか会社辞めるとか?」
「仲いいみたいやのに、ホンマ知らんねんな。……実はこれ、昼に、おれだけにって言って潮崎さん言うてんけど…」
「曽根さんこそ潮崎さんとは仲良しですもんね」
「まあね。……で、誰にも言わんといてくれや。潮崎さんも多分赤城君には言うと思うけどな……」
 えらく前置きが長い。おれは少しじれったくなった。
「それまで知らん振りしますよ。……何、何、教えてくださいよ」
と身を乗り出せば、
「う……ん」
とビールに口を付けた後、
「潮崎さん、田辺さんと付き合うことにしたっての、知ってる?」
「エーッ、」
 おれはびっくり、というか唖然としてしまって結構な大声を出して、恥ずかしいと思って辺りをうかがった。
 田辺さん、先週くらいは原田に目を付けてたんじゃなかったのか……?
「そらまた、何で、」
「何か田辺さんから先週くらいに付き合って欲しいって言われたらしくて、今日まで悩んでたんだけど、うんて返事したらしいよ」
「へー。……」
 おれはいささかの落胆を覚えずにはいられなかった。そして、何かじわじわとおかしみが沸いてきて、口元がほころんできた。
 全てはおれの、独りよがりな取り越し苦労だったという訳か……。
 それならそれでいいや。笑い話として原田に話せるし、多分潮崎さんも安定しておれと固くならずに接してくれるに違いない。
「良かったじゃないですか」
 ちょっと失恋したような、肩の荷が下りたような気分で微笑を浮かべ言うと、
「まぁなぁ……」
と歯切れ悪い。おれは彼をじっと見つめ、
「それで、何でおれに話したかったんです?もしかして曽根さん、田辺さんのことが好きやったんじゃないですか?」
「そんなことないよ、」
と一旦否定した後、
「実はそうやねん」
「あらら……」
 彼は面白くなさそうに、俯いてる。
「言ったことあるんですか?田辺さんに……もしかして、言ってないんでしょ」
「そーやねん。…自信ないし、振られたら気まずいし、……と思って、なかなか言われへんかってんけど、…あー、こんなことなら言うとけば良かった」
と頭を抱える。
「今からでも言った方がいいと思う?やめといた方がいいと思う?」
「エー。何でおれにそんな相談を?嬉しいけど」
 すると彼は、
「だって君、奥さんいるし経験豊富そうやからいいアドバイスくれると思って、」
「聞いてません?おれ三人しか経験ないって、」
「へぇそう。おれもっと少ないで」
「ウッソでしょー」
と笑って言えば、
「おれ、浮気はしないし、」
「おれはありますけどね……でも自分からじゃ、ないですよ。せまられて…。でも今のつれあいとの最初も、言ってみれば浮気ですけどね」
「へー。せまられても、抱くのは男の方やん。何でそんなこと出来るのか、おれには分からへん」
 まずいな……。幾ら何でも、襲われたってのは言えない。
「でも、ほだされて、っていうの、あるじゃないですか。…酔った勢いで、つい…てのもあるけど」
「三人しかおらんのに、そんなヤツも居るの」
「こんなん言ったの、曽根さんが初めてですよ…」
と暗に口止めする。
「ま、赤城君くらいカッコよけりゃ、そういうことあってもおかしくないわな」
「おれは曽根さんもカワイイと思いますよ」
 前述の通り、曽根さんはかわいい要素の人だ。背もおれより低いし。性格もスゲー素直そう。
 曽根さんは人より白い頬に朱を上らせ、
「イイトシこいた男が、かわいい言われて嬉しいかよ」
と言う。充分かわいいと思う。原田とかって、おれのことこういう風に見えてるんだろうなー。
「おれ、それでどうしたらいいと思う?」
「おれに相談したのは、失敗ですね。そういう経験ないし。……」
「でもおれ、言わなずるずる尾を引きそう。後悔しそう」
「じゃあ言えば……?」
「せっかく付き合おうてところなのに、水差すみたいやん、」
「そーかぁ、」
 おれはうーんと目をつむり、顎に手をつかねる。
 取りあえず、今までの自分のことを考えてみよう。
 付き合ってても、「好き」と言われる位なら嬉しいか。
「言ってみたらいいんじゃないですか?別れてくれとか、潮崎さんの悪口とか言わずに、ただ、好きやった、って。それで我慢出来なくて、潮崎さんと仲悪くなる覚悟あったら、奪いに、せまりに行けば?」
「奪いになんて…、そんな友情潰すような、汚いこと出来るかい、」
「おれの相手、ね…皆、どっかおかしいのかも知らんけど、皆、付き合ってるやつの友達とか同僚ばかりで、知ってるくせに、『そんなの気にしない』ってやつばかりでしたよ」
 彼はまだ吹っ切れない感じで目をそわそわと泳がせる。
「田辺さんの、どこがいいの?」
「えー、どこって言われても、」
 まー、好きになるのに結局は理由はないよな。でもおれは田辺さんを殆ど知らない。まさかこのような展開になるとは思わなかったし…原田に興味を持ったことで改めて見直した程度で、おれからしゃべりかけるようなことはしないし。
 しかし他にこの場を埋める話題はない。それに、田辺さんのどこがいいのか、殆ど知らないんだからムリもないけど、おれにはあまりワカンナイ。
 と思ってはっとする。オレ、ジェラシー入ってないか……?
 二十二の田辺さんは、明るくてカワイイ感じだが、とっても細くて、ストンとした感じで、顔も細面で、どっちかというと細い、良くいや切れ長のつりぎみの目で、あっさりした顔立ちで、シャギーの入ったセミロング、……なんかきつそう。移り気っぽい……と思うのは、原田の件があるからか?
「可愛いですよね」
と笑って言えば、彼は上目に、何となく拗ねたような目を向ける。
 それから暫くして、ウサを晴らしにカラオケに行った。
「じゃ、また明日」
と駅で手を振る。結論は出なかった。
 曽根さんは、
「ごめんな……こんなこと相談して」
「いいや。オレでよかったら何でも言って下さいよ。潮崎さんの悪口でも、何でも」
 まだ済まなそうな曽根さん。おれは肩を一つ叩いて、
「そんな気にしないで下さいよ。……気にする位なら、言わないで下さいよ」
「冷たいな…」
 上目に見られる。
 おれが笑うと、彼もやっと笑った。
「今日はありがと、明日な」
「おれも…楽しかったですよ。カラオケ」
「君ほんと下劣な歌好きやな」
 また言われてしまった。
「ただいまー」
と家に帰れば、十一時半くらい。原田は、ジローっとおれを睨んだ。
「毎日毎日、遅いな」
「ちょっと前までのおれの気持ち、分かった?」
「おれは仕事やもの。お前、今日は残業か?」
「ううん。……飲んで、カラオケして、」
 笑って言えば、フンと言う。
「妬くなよ。みっともない」
「よく言うわ。……誰も妬いてなんかおらんわい。一人で遊び惚けやがって、……」
「ゴメン。……」
 寄っていき、彼の頭をかき抱けば、その手を取って彼にからめ取られた。
「今日は、隣の席の曽根さんの悩みの相談に乗っていたんで、…」
「へエー。お前が。…一体何の」
「笑うなよ。…恋愛相談」
 しかし彼はくすりと笑い、
「よっぽど話す相手おらんのかなァ。お前なんかに……」
「おれもそー思う…」
 潮崎さんのことを言うなら今かなあ…とも思ったが、上手く話を持っていかないと即転職だし、今日のところはやめておくことにした。

ハイ、この話は書いてあるストックはここまでー。一応この次の部分までは考えてあるんで、そこまでは進むと思いますけど、ネタを繰らないといけないので、時間がかかります。この話の今後の展開になんかリクエストでもあったらお受けします(笑)
とかなんとかいってるウチにアッサリ終了してしまいました。

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