ブレイクスルー 3 -3-

「昼前は、どうも」
 それが、待ち合わせ場所へ行ったときの、高階クンの最初の一言だった。
「こちらこそ。どういたしまして」
 おれは目を伏せ答える。
 皆、といっても原田、青木さん、高階クン、おれは歩き出す。
「原田さん、今日はおれ洋食食いたいわ」
と高階クンが言う。すると原田が、
「お子様ランチか」
「おれはガキと違うで。すっかり大人…」
「面だけはリッパなガキのくせして、下半身だけは大人なんやよな。お前」
「やらしいな」
と青木さんも笑う。おれはちょっと、笑えないような…
「こんな言うてるで。どー思う?赤城さん」
 おれに振るなよ、と思いつつ、
「自慢しとったやん。百人は越えたかなー言うて、…」
「あれからピタリと記録止まったわ」
「なんで。やっぱビョーキが気になってんやろ。知らんで。その若さでヘンなビョーキで死んでも」
 原田がそう言うと、高階クンは少し笑い、
「今んとこ最後の人が、良かったから…」
「へー」
 原田の気のない返事。
「あの人と、も少ししたい」
「それは付き合いたいいうこと?」
 おれが訊くと、高階クンはおれを見、
「そうやで。…何もかも奪い取りたい。もっと、したい」
「赤は、やめてや。おれから取るなよ」
 原田、いつものようにヘーゼンと言う。おれは後ろから原田の服を引っ張り、後ろに来て貰う。高階クンは、少しヤバイとこまで来てる。さっきの興奮が残ってるだけならいいけど。
「お前、言うた?おれたちのこと」
「いいや。言わへん……」
 おれは睨み、
「相変わらず汚いな…。何で言わへん、」
「言うのは、クギを刺す、という意味もあるねんぞ。その必要あるか?」
「もう言うたら?今日のお昼にでも」
「今度飲みに行くときでも、いいやん、」
「いや。言って。おれ言うで。前の会社の礼に…」
「怖いな。お前。怖い目しとる。そんなに、ネに持つ?」
「持つ」
 洋食屋で、しゃべってる時も原田はさすがにソワソワするのか、チェーンスモーカーになっていた。食う前だと、食事がいけなくなると良くないので、食べ終わったとき、原田はホット三つにオレンジジュースを頼んだ。
「珍しいやん。何か話でも、あるんか?」
と青木さんが。原田はタバコに火を点け、目を伏せ、
「うん。……今日は、おごっといたるわ。おれ、上司やから」
 高階クンは、察したのかおれを、その気はないのかも知れないけど、ちらりとおれに鋭い目線を走らせ、彼もタバコをくわえる。
「あのな……」
と原田が口を開いたとき、注文の品が。
「良かった…!100%やで、赤。ちょっと心配しとったわ。バヤリースかなんかとちゃうかと思って、」
 オレンジジュースは当然おれの前に。おれは口を開いた。
「あのな…もっとおれに、きれいになって欲しい?」
「訊く迄もないやん。当たり前。残さず飲みなさいよ」
 高階クンを見ると、目を伏せてるが、口元が少し緩んでる。そして煙を吐き出す。
「……で?何か話あるんすか?原田さん?」
「えー、今まで黙ってましたが、おれと赤は、マジで、冗談抜きに、付き合ってます」
「げっ、」
と言ったのは青木さん。高階クンはほろ苦い微笑を浮かべる。
「付き合ってるどころじゃなくて、本当は、結婚した、つもり」
 おれが言う。
「籍は入れられへんのでね。おれの、妻。内縁の」
「また……!」
とおれが睨めば、
「あがくな言うてるやろ。誰が見たって、おれとお前じゃ、お前が妻。おれのやることに、素直に付いてきたらええねん」
「原田……!マジ?」
 青木さんがうろたえ、言う。
「この指輪、ヘンやと思わへんかった?」
とおれの手、左手を、自分の左手で取る、原田。
「思ったよ。思ったけど……」
「おめでとう。原田さん」
 目を伏せ頭をかき高階クンが言う。
「赤城さんも……。おれは驚かへん」
「おれたち、似合てるやろ」
と原田が言う。すると高階クンはまたほろ苦い微笑を浮かべ、どこを見るでもなく見、
「うん。……似合ってますよ」
「おれ、今まであんなことばっかり言うとったけど、心底原田のこと愛してるから」
「赤は、隅から隅までおれのモンやから」
「お前もおれのモン、だよな」
「おれはおれやけどね」
「汚な……!じゃ、おれもおれやで、」
 高階クンは一口タバコを吸い、吐き、コーヒーをすすり、
「もう分かりましたよ。二人の仲良いのは」
「おれちょっと気色い。一緒に住んでんねんろ。だったら夜は……」
と青木さん。「げっ、」以来コーヒーにも手つかずのようです。メシ後に話、なのは正解だったようだ。
「うち、布団一組しかないで」
「ええやん。別に。赤城さんは、並の女よりきれいやし、」
「でも、そうやけど、むいてしまえば、男やで」
「いいよ。一々想像せえへんかっても。…おれたち、そんなに気色い?見る目変わる?」
「おれは変わらへんよ…」
 高階クンが言う。青木さんはまだ動揺してるが、
「そりゃ、おれかって…。お前たちを知ってるから、」
「ありがとう。皆には、黙っといてな。ごく親しい人にしか、言わへんから…知り合い程度じゃ、何言うかしれへんやろ」
 洋食屋の外で、金を払う原田を待ってると、高階クンがおれを見てニヤリと笑う。少し、口元が引きつってる。
「ききましたよ。結構……」
 彼はおれの側に寄り、小声で言う。
「スキ作るなって言うてくれたんは、君やからな」
「めっちゃ早いカウンターやったわ、」
「KO出来た?」
「分からへん。まだ一秒分も、経ってへん」
「おれももう初心じゃないからな。君の忠告のお礼にも、ビシビシいくぜ」
 すると彼はまた口元を歪ませて笑い、
「おれも、人が好いよな…」
「高階。口説きなや」
 その時後ろから原田がやっと出てきた。


 もう桜の季節も終わり、その日は給料日だった。明細書を渡される。覗くと、今月は残業四十時間。残業手当は、四万近くある。今月も一杯残るかも…とホクホクして明細を収め、仕事に戻る。
「嬉しそうやん。幾らだった?」
 隣の席の曽根さんが訊く。
「ナイショですよ。曽根さんは?」
「おれもナイショ」
「何それ……訊かないでくださいよ、それじゃ、」
「でも赤城君扶養家族おってやもんな」
「共働きですから、経済的にはムチャクチャ余裕ありますよ」
「赤」
としゃべってたら背後から声が。…勿論潮崎さんである。
「あれ入ってきたから、説明」
と営業が原稿の入った封筒を持って待ってる打ち合わせテーブルを指さす。一緒にやってる定期物が入ってきたのだ。まだなんとなくくすぐったいので、おれは照れ笑いで答える。
 横に座って前の営業の説明を聞いていれば、心なしか、心なしか…潮崎さんがくっついてる気がする。いいや、気さくだから、なつっこいだけだよな。
「潮崎さん。ここ手でやって下さいよ、」
と営業が説明終わって席を立った後、そのまま二人で細かい打ち合わせをする。すると彼はおれの二の腕に触れ、
「手でやったら上がりが汚いやんか。剥がれて事故る心配もあるし、写植で組んでよ」
「こんなの、手だったら十秒くらいで済むやないですか。でも組み打ちだと、十分はかかります。こればっかりやってる訳にはいかへんし、」
とおれは最近思うとおり言いたい放題である。潮崎さんは、押し切られた、という感じで笑い、
「分かりました。そんかわり、ここ…」
と違う箇所を指す。
「これ同パターン一杯出てくるから、組み打ちね」
とちょっとメンドウ臭い形のマークみたいなのを指される。そしておれに笑いかける。
 しまった。これを書いてもう結構経つのに、潮崎さんの人となりのなりを書き忘れていた。この際あとに譲るとして、その日ちょっと残業して、七時くらいに会社を出、エレベーターのボタンを押した途端、キイッとドアの音がして、潮崎さんたち版下三人組が出てきた。おれは信じられないものを見るような気持ちで、じっと見てしまった。今日は、早いんだなあ。給料日だからかな。
「今帰り?」
 潮崎さんが笑い、言う。
「ええ。……潮崎さんは、納品?」
 おれも笑い、わざとそう言うと、
「何も持ってへんやろ。イヤミやな……」
エレベーターが開き、入ると、その中で
「今日、飲みに行かへん?」
 おれは少し、考える。
「奥さん居るから、来えへん?」
「イエ別に。電話したら……」
 会社の人とも親睦は深めないとね。おれの歓迎会と、花見と、一度だけ早く終われた時、電算の主任と曽根さんとワープロの女の子で飲みに行ったきり。
 彼らが行った店は、馴染みらしい、カラオケのあるスナックであった。バーテンダーと、やけに馴れ馴れしい、まぁこういう人は皆こうなんだろうけど、女の子一人。カウンターに案内される。
「今日、どう?」
 なんて、その子に潮崎さんは訊いてる。この人も、高階クンと同じクチかな……。
 おれはすぐ立ち、電話する。まず家にする。居なくて当たり前。切って、彼の会社にする。高階クンが出た。ドキリとする。
「すいません……。原田君、お願いします」
と言えば、電話の向こうで笑い、
「赤城さん……?」
「そうですよ」
「何の用?おれが伝えてあげる。……おれ、営業で良かったわ。それにつけても、熱いですよね。妬けるなあ」
「下らんこと言ってないで、早く代わってくれ、」
「冷たいね。…人をこんなに暗くさせておいて、さ」
 おれも暗くなる。嫌いじゃないのに。気に入ってるコなのに。
「君が勝手にのぼせたんやで。おれは、君がそんなこと、おれを困らせるようなこと言う限り、冷たいで。それは覚悟しといてくれ。優しさはアダになるから……君のために、ならんもの。おれも、おれは三人しか知らんけど、その位のことはその間の失敗で覚えたわ。君も、しつこいな。だからおれは言うたのに、最初のときに、惚れるからダメ、って。そしたらそんなこと絶対ないって言うから、」
「そんな経験なかったもの。おれのどこが、いけないの?」
「遊んでるとこ」
「じゃ、付き合ったら、止めるやん。…」
「年下なとこ」
「おれは気にせえへん。おれは、ガキじゃないもの。……分かってるやろ?」
「そういうしつこさ。…だめ。君、軽すぎるもん。原田と違って…。早く、代わってよ。おれはあいつを愛してる。愛してんねん。おれは何人も、いっぺんには、愛されへん」
「おれに抱かれた時も……?」
「言わん。…早く、代われよ。…代わらないんだったら、切るぜ、」
「代わりますよ。……」
 暫くして、原田が出る。ホッとする。おれは安堵の溜息をもらす。
「今日も、遅くなりそう……?」
 おれが訊くと、
「うん。……少なく見積もっても、十時半くらい?」
 おれは今度は違う種類の溜息をもらす。
「大変やよな……今日はムリやけど、また行こうか…?」
「そう思うんなら、うち来いや。おれの下っ端になりに」
「………。今度辞めたら、そうする」
「言うたな。忘れへんで」
「あの……ね、ほんで、おれも遅くなると思うから、」
「なーんや、お前も残業?」
「そんなんで今更電話せえへんやろ。会社の人と、飲みに行くから、」
「また電算の人?」
「ううん、こないだメシ食った人達、」
「版下か。……二人?」
「人達、って言うてるやろ。やっぱお前、脳みそ腐ってるわ」
 すると笑い、
「今、メシ前でボケボケやからな。…まぁ、大いに親睦でも深めてよ。じゃ」
「頑張ってね……」
と言ってから「チュッ」と音を立てて受話器にキスした。彼は笑う。
「男の扱い方、覚えやがって」
「おれも男だもの」
「大分女入ってきたで」
「お前のせい」
「そうですね。……ハイハイ。頑張りますよ」
と言って彼もお返しを寄越す。くすぐったい気分になってしまった。
 やっと切って席に戻る。おれは電話に一番近いところに座ってた唯野さんの横に座る。おれ以外で話してた彼らはニヤニヤする。
「えっらい長電話やなー。何をそんなに、話すことあるん?」
 唯野さんが言う。
「おれたち二人して、ようしゃべるから」
「会社ではそれほどしゃべらへんやん、大人しくて、」
「いや、赤城君、いや、赤は、最近ムチャクチャ言うようになってきたで」
 潮崎さんが言う。
「いや、おれは正直なだけですよ」
「正直にしては、最近君ちょっときついよ、」
「おれは優しいですよ。皆に言われてますもの」
「誰が。うちの会社では、誰もそんなこと言うてへんで」
「内縁の者とか」
 おれがそう言うと、唯野さんに、
「またのろけたでー」
と言われてしまった。
「早く奥さんの友達、紹介してよ」
 潮崎さんがグラス持っておれの隣に来る。そして身をおれに寄せて言う。どーもイマイチ、この人は気になるなあ。
「潮崎さんも百人切りのタイプでしょ」
 水割りをなめ、目を向けると、目が合った後彼は少しとまどったように俯く。
「赤、人間観察鋭いやん」
と唯野さんが。
「でも、も、というのは何なん。赤城君、そんな顔してそんなヤリ手なん?」
と横山さん。
「じょーだんじゃない…!おれは違いますよ。おれの友達に、そういう手の付けられんヤツがいてるんですわ」
 すると皆思い当たったように、
「あの男前やろ、」
と言う。
「違います……!彼は、見かけの割には(?)気さくな、いい男ですよ。いつも来る、チビッコの方」
 思わずバラしてしまった。皆は
「へー」
と言った後、
「で、君はどうなん?」
と突っ込まれる。
「それより潮崎さんがどの位今までのこと覚えてるか聞いてみたいですね」
「ええで。そんかわり次君やで」
「おれはイヤですよ。そんなこと言うの。相手に悪い」
 彼、潮崎さんはカウンターに肘をつき、身体をおれの方に向け、じっと見つめてしゃべる。
「そんな、ここだけの話やんか。おれしゃべるで。あのな、…」
「おれは言わへん」
「初めの相手は、15のときの……」
「おれは聞きたない」
「聞きたいやんか。キレーな赤の、そーいうやらしいとこを、」
 エ…と少し肌が粟立つ。
「きれい……?どこが?」
「どこって、……(と頭をかく)なんか清潔そうと言うか、」
「そういうきれいさですか」
 すると唯野さんがくすくす笑う。
「でも、入ってきたときから、キレーやなーキレーやなーって言うとったで。何で男やねんって、」
 やっぱり潮崎さんは(注)マークか。その、何で男やねん、が、男でも関係ないになったら、アウトだ。
「あら、困るわ、あたしいい人いるから、」
 おれが頬に手を付き、潮崎さんを見ながらそう言うと、彼は
「アホウ。気色いわ」
とおれの頭をはつった。
 それから会社の人の話やクライアントの噂話なんかして、一時間くらい経ったあと、「カラオケどうですか」と言われる。おれは歌いまくってやる。ユニコーンを。「ケダモノの嵐」、「命果てるまで」、「抱けるあの娘」、下世話な歌ばかりだ。潮崎さんはニタついている。そして、おれに訊く。
「ユニコーン、好き?」
「そらもう。おれの内面ですね」
「君実はやっぱやらしいヤツやねんな」
「いいシュミでしょ」
 おれがそう笑いかけると、
「おれも好きやけどね」
 そう言われて心が浮き立つ。おれは、長年の(?)夢を果たす時かなーと、…
「あとで、『ロック幸せ』歌いません?」
 この歌が入ってるカラオケはあんまりない。しかしここのカラオケに入ってるのをさっきしっかりチェックしたのだ。一人ででは歌うのはちょっと恥ずかしいし、元々この歌は哀愁リーマンがデュエットしてこそだ。
 それからおれたちはあの歌から想像できるままの姿で、寄り添い、酔っ払い風に身体を揺らし、たまに見つめ合い、思いっきり歌った。本当は頭にネクタイを巻くべきだと思うんだけど、おれたち制作はスーツなんか着てるヤツはいない。そんな格好で長時間制作なんか出来ない。
 リーマン哀歌なこの歌は、唯野さんたち以外のお客や店の人にも大いに受け、拍手を沢山いただきました。
 勿論歌ったおれと潮崎さんが一番爆笑で、それからすぐ店を出たのだけど、ずっと興奮が続いてて肩を抱いて笑ってヘンなことばかり口走ってた。
 そして歩いていてハタ、と気付く。肩に手を回されていたのが、腰を抱かれている…気付いたのも、より引き寄せられつんのめりそうになったからだった。
「あの、潮崎さん……」
「うん?」
「男に抱かれても嬉しくないから、放してよ」
「いいやん。……」
と彼は目を丸く見開いてよりぐっと抱き寄せる。
 前を行く二人が、ピューと口笛吹き、
「きっしょ――!」
と言う。
「いいやん。おれと赤はもう、トモダチやもん」
と、片手だけでなく、両手でぐっと抱き締められる。彼は…おれより二、三センチだけは高いのか、と思う。困ったな。どう反応したらいいんだろう。高階クンに訊いとくべきだった。
「明日皆に言いふらしたろ。潮崎と赤は、ホモダチやって、」
「トモダチやって、」
と彼は立ち止まり、抱き締めたまま前の二人を見て言う。
 そして、「なっ、」とおれを見て言う。その目が、瞳孔が開き、ひゅっと吸い付けられたように、互いの目を見つめ合う。
「でもホモと間違われたら困るし、」
とその後すぐおれを放す。
「おれだって嫌ですよ……」
 おれは何となく服をパンパンとはたき、答える。すると
「何それ。おれって汚い?」
「汚れきってる。女に」
「悪かったな……!」
と背中を叩かれた。
 潮崎さんは、それなりにカッコイイ。女に不自由しないだけのことはある。髪は短め、ちょっと立つ位 。立ってる部分と、落ちてる分量が程良い。顔は、あっさり、…とも違う気がするし、どっちかといえばすっとした、彫りを感じる顔だ。眉は薄くて細目、目は切れ長で細目。だけど癖が目を丸くすることなので、彼の印象はいつもまん丸のびっくり目だったりする。スタイルも悪くない。骨っぽい細身だけど、いかにも運動神経の良さそうな感じ。
 おれの周り、最近いい男ばかり、だろ。
 原田はもちろん、高階クンもかわいい感じだけどいい男だし、内面は悪魔クンというギャップが凄いけど、そして、潮崎さんと、おれ、いい気になりそう。
 おっと、潮崎さんは、まだまだ、いい気になる相手じゃない。おれがそういう気づもりで接したら、向こうも引きづられるに違いない。

 家の近くまで行くと、灯りが漏れている。午前様だからな。
「原田ー」
とドアを開けたら、必死こいてゲームやってた。寝そべって。
 おれは靴を脱ぎ、上がり、彼の横に仰向けに寝、彼をニヤニヤして見上げる。
「いつ帰ってん?」
「ついさっき、」
 目はテレビに釘付け、ダメだ、熱中してら。おれはバッグから明細を出し、
「今日、給料日やったでしょ」
「ちょっと待てや。も少しやから、」
 暫くそのまま待って、やっと終わると、彼もバッグから出し、
「ハイ」
とおれに渡す。
 おれは二つの封筒から明細を引きずり出す。
 ニヤける。
 手取りで、おれが二十六万、彼が二十八万。二人合わせて、五十四万。
「また、三十万近く残るんちゃん、…」
とおれが言えば、
「もう、あっという間に、百万近く貯まったな」
「独立なんてチョロいかもね」
 そう、彼はいずれ独立を考えている。この業界はそういう零細事務所は凄く多い。
 勿論おれもその片棒を担ぐ。だからいずれ一緒にやるんだから、今は一緒に仕事したくない。というか、それは言い訳でほんとは一日中一緒ってのが想像するだに息苦しいだけ。でも独立したら、一緒にやるのはやぶさかでない。むしろ楽しそうだ。
「一千万くらいないと、不安やで」
「一千万?…待てよ、そしたら、…」
とおれは腹這いになり、四ヶ月で百万として、四十ヶ月、割る十二は、…と計算する。
「あと三年も?」
「まだ二十八やん。充分やで」
「金が貯まってくのって、気持ちいいな…貯まり始めたら、雪だるま式やねんな。おれ、知らんかった」
「お前の通帳、ヒサンやったもんな」
「お前自己資金他に持ってるやろ。通帳出せや」
と手を出すと、パンと叩かれた。
「ダメ。あれはおれの金」
「夫婦でしょ、」
「いつ別れんとも限らへんやろ」
 おれは彼の背中にくっつき、首に手を回し、
「おれを捨てる気?」
「そんな先のこと、知らんわい。……お前がおれを、捨てるかしれへんやろ?」
「本気で言ってんの?」
「あんまり。……しかし、……ま、いいわ」
「何、何」
「いや」
「言ってよ」
 するとおれを見、
「おれは次男やからえーけどさ、……お前、長男やろ」
「………」
 そうなのだ。最近、お母さんからの電話で、
「いい人いないの?」
と言われてしまったんだった。
 しかも見合いまで勧められて…二十五の若い身空で、誰が見合いなんかするかとそれは蹴ったけど。
「おれ、お前なしじゃいられない……」
「親には、言われへんよな。お互い」
「原田んとこ、お兄さん、…継ぐの?」
「継ぐほどのもんじゃないけどさ。親の面倒は見るやろうし、家はたかだか公団で、」
「うちは、…姉ちゃんが見るんじゃない?」
 おれの上には姉ちゃんが二人いる。親はどーしても息子が欲しかったらしい…その割にはうちは恐ろしいほどの放任家庭だが、それでもこんな息子になってしまって、申し訳ない。
「皆出ていったら、どないすん。孫の顔見せろって言うたら、」
「やだなあ。……まだ若くて、遊びたい盛りなのに、もうそんなこと考えてんの?」
「お前の方がネはフラフラしてるわ。おれはずっと考えてるで」
「うち、家族の結束弱いから……」
とおれは自嘲的な笑みが漏れる。
 何でこう、次から次へと問題は噴出してくるのか。全く、人生ってやつは……。
 なんか、Hする気も起きそうにない。
 二日後、高階クンが来てた。
 さすがに、おれのところに寄らずに帰って行く。
 何か足りない心地はするものの、これでいいのだ、と自分に言い聞かせる。
 そうそう、その前の日、飲みに行った次の日におれがお下劣ナンバーばかり歌ったことが知れ渡っちゃってて、
「なんかHな歌喜んで歌ってたそうやん。普通の男やってんやな」
と何人かの人に言われたのだ。いい傾向だ。
 潮崎さんは前にも増してなつっこくなった。でも、おれはその日、さすがに暗かった。今でも、暗い。家のことを考えると。高階クンのことより、ヘビーな問題だ。

いよいよ泥沼、昼メロ全開? しかし書き口は色気ナシ、流れはドロドロ昼メロ、が好みなのでそーいう感じはないかもですね。しかも文章ヘタつーか、説明不足で分かりにくいかもー。毎日読み直しては手直ししてるもんな、どこかしら。いきあたりばった~りな書き方を好むワタクシ、書いてるうちにどんどん設定が出来ていったりします。…
原田君はナゼ高階を警戒しないのか…とりあえず原田君がイイヤツということにしといてくらさい。しかしこのまま済むワケありません。
しかしこれって3本分のプロットを1本に使ってるような気がして勿体ないような気がしてきた。まあいいです。この方が私が面白いんで

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