ブレイクスルー 3 -2-

 次の日のお昼頃、
「赤」
とまた背後から呼ぶ声がする。振り向くと勿論潮崎さんがにこにこと立っている。
 そう呼ばれて、まだ馴れなくて照れくさいので、おれも笑い、見返すと、
「お昼行こうや」
とその辺に居る彼がいつも一緒に食べてる人達を指す。そしておれの横を向き、
「曽根君も一緒に食わへん?」
と言う。
 年上に向かって君呼ばわり…と当初はびびり、同い年という話は本当だろうかと首をひねったものだが、彼はウチの主任すら君呼ばわり、そしてウチの主任は彼をさんづけで呼んでいる。
 それというのも、潮崎さんが今居るメンバーの中では五本の指に入る古株だからだそうだ。そのくせ、自分の部署、版下の主任すら君呼ばわりだが一応ヒラなのは出戻りだからだそうである。
 でも、自分でおめおめ戻ってきたんではなく、部長やその上のエライさんなんかに熱心に呼び戻されたというから、こんな人でも、……とか言っちゃいかんな。でも凄く調子のいい人だもの……仕事はきちっとやるらしい。
 曽根さんはいつも違う人達と食べている。曽根さんは少し笑い、
「うん、遠慮しとくわ」
と答える。
「そう。…じゃ、赤、早く行くで」
と笑いながら言う。言われる方も照れくさいが、言ってる本人も少し照れたのだろう。
「今日はあの友達は、いいの?」
 殆ど接触のない版下主任、唯野さんが言う。歳は、ウチの主任と同じ三十。
 皆に広まってんだな……とちょっと引く。
「ハイ。もう決めたことですから」
「でも君、顔広いな」
と言われる。
「一応あちこち渡り歩いてますからね」
 仕事のことやなんかをしゃべりながら歩いていると、ナント、前の会社の先輩、鈴木さんが向こうからくわえタバコでやってくる。彼女は横目で店の軒先なんかを眺めている。細身の身体に相変わらずのショートボブのパーマ頭、そして今日もジーンズ、ユニセックスだ。
 向こうが気付かなきゃいいや…と知らん振りしていると、
「赤城君、」
と呼び止められてしまった。彼女が少し側に寄る。そして彼女は皆にさっと目礼して、
「今からお昼?原田君とはもう食べてへんの?」
「いや、食ってますよ…。相も変わらず。今日は別の日。鈴木さんも、お昼ですか?」
 すると彼女は「これ」と手に持ってた会社の封筒を持ち上げ、
「今から納品」
「大変ですね…。すみません。おれが行きましょうか?」
「ほんまやで」
「新しい人入りました?」
「いいや。不自由ないからって、入れてくれへん」
「今日それじゃ、お昼は……?」
 すると彼女はニコニコし、
「張さんとこ行って、これ引き上げてきてん。だから張さんに、食べさしてもらったわ」
 張さんはその会社の中国語翻訳を請け負っている飄々とした雰囲気がいい感じの日本人化著しい中国人。彼は奥さんが外に働きに出てて彼が在宅なので家事一般は彼の仕事らしく、おれもよく昼時には仕事のついでに彼のおいしい手料理を食べさせて貰ったものだ。
「おれからも宜しく言っといて下さい」
「うん。……」
 それから彼女はおれの左手の指輪に気付き、ニヤリとし、
「どう。上手いこといってる?」
「そらもう。心配無用ですよ。おれたち、ちょっとやそっとじゃ、離れません。これ以上ないくらい上手くいってますよ」
 彼女はタバコを短くなったので靴で押しつぶし、でも拾ってきょろきょろし、
「じゃね。また遊びにでも来てね。…原田君に、宜しく」
と手を振って歩いて行く。
 なんか、晴れがましいような、恥ずかしい気分。なんでこんな時に、会っちゃうんだろ。
「ほんと、顔広いなー」
とまた言われてしまった……。
「いい感じ。あの人幾つ?」
 潮崎さんが、おれに訊く。
「おれの二つ上」
 潮崎さんは言葉をなくす。が、唯野さんがもう一人の人、横山さんに、
「丁度いい位やん。どう?」
とか訊いてる。唯野さんには、彼女がいるらしい。
 行った店は、おれや原田の行かない店。というか、存在自体知らなかった、お茶付きの定食のある喫茶店。
 座れば当然、皆タバコを出す。
「赤城君は、タバコ吸わへんの?」
 煙吐き、改めて唯野さんが言う。
「昔は吸ってたけど、禁煙したから」
「偉いなー。おれもたまーに思うことあるけど、止められへんで」
 おれは少し笑い、
「おれもつらかったけど……内縁の者が協力してくれたから」
「キスしとってんやろ」
「当たり」
「早々にのろけられたで」
と唯野さんがおれを指さし、言う。
「でも赤城君、奥さんおるようには思えへんやろ、」
 おれの隣に陣取ってる潮崎さんが、彼もおれを指さし言う。
「でも独りモンて感じもしーひんし、」
「奥さんてどんな人?」
 潮崎さんがおれを見、言う。おれは困惑しつつも笑いを作り、
「いやそれは、…いいやないですか別に」
「なんで?ちょっとくらいええやん、」
 食い下がる(ってほどでもないか)潮崎さん。
「ちょっと奥さんの友達でも紹介してよ」
と目を見開き潮崎さんは言う。
「またかよ。お前皆に言うてるやん」
「あの、付きあっとったとか言うのは、どないしてん」
 二人が突っ込むと、潮崎さんはあっさり、
「別れたよ」
「二ヶ月くらいしか、持たへんかったんちゃう?」
 あきれて唯野さんが言う。
「お前ほんまサイクル短いよな」
 言われても、潮崎さんはしれっとしている。
 おれも、内縁の者のことはそれから訊かれなかったし、書くべきことは、この位 ?
 潮崎さんは、それから必ずおれを呼ぶ時最初の一言は
「赤」
になった。


 その日は、おれより早く原田が久々に帰ってて、だから九時位?久々にフロ入ってHして寝るだけ、というパターンを脱却し、二人でテレビ見たり、そしてゆっくり話したりする時間が取れた。今日はお昼も別だったし、鈴木さんにも会ったし…しかし、自分でも書いたものを読み直すと呆れるくらい二人っきりの時はしゃべり方違うよな。実は、何となく声の出し方も違ってる気がする。
「今日は、誰と食べてん?」
と訊けば、
「高階と、青木君。お前は?」
「潮崎さんという、版下の人達と」
「版下?電算ちゃうの、」
「うん。……覚えてへんよな。昨日、お前が帰るとき、トイレに出て来た、」
「全然憶えてへん。あの主任とかいう奴は、なんか馴れ馴れしいし、憶えてるけど」
 なれなれしい…?自分のことはタナに上げ、
「よう言うわ。自分はずうずうしいくせに」
「それがおれの、いいとこ」
と、彼が抱き寄せる。いい気持ち。頭をあずけながら、
「昨日言うヒマなかったけど、うちの女の子が、お前のこと、すっごい男前で、目の保養になるわーって、……」
「可愛い子?」
「うん。きれいなストレートロングの…」
「有り難うって言うといてよ」
 まんざらでもなさそうな嬉しそうな声出しやがって。
「ちょっとムカついたから、中身はスカやって言うといた」
「何、」
とちょっと声を荒げた後、彼はおれの首筋に手を這わし、
「妬いた……?」
と訊くから、
「うん」
と答える。
 それだけで気分が盛り上がり、我慢できず、どちらからともなくキスをする。
「原田、」
と呼び、おれは抱きつき、彼の膝の上に乗る。
「今日は、おれがやる、」
 おれは自分で、まずジーンズのボタンとファスナーを下ろし、少し腰を上げ、ずり下げ、彼のシャツをちょっとはだけ、ちょっと口付けすれば、その間に彼がおれの上を脱がしかける。彼に脱がされ、手を這わされながら、おれは彼の首や、肩や、胸なんかに舌を這わす。
「この、スケベ」
と言われながらも、早く彼が欲しいのだ、彼のジーンズのファスナーを下ろし、出しますと、もう充分たってるから、彼に少し手伝って貰って、何をって訊かないで下さいよ、おれは自らくわえ込んでいった。それだけでうっとりする。
「原田……」
と首をかき抱き、おれは自分で腰を使う。
 口づけた後、彼に舌を這わされ…それでも止むことなく、腰を動かし続ける。
 彼の息が荒くなる。眉間に皺が寄る。いつ見ても、ステキな顔。やがて彼も、おれの腰に添えた手に力を入れ、好きなように動かし始める。
 快感で、痺れきった舌先を、たどたどしく絡め合う。
「あっ、」
 何かがおれを撃ったみたい。おれは彼を強く抱き寄せれば、彼も強く抱き締める。
 今日は濃かった。無言で息を切らし合う。
「赤城君の、H。お前の方が、やらしくなってきたんちゃう?」
と、嬉しそうに彼が言う。
「だから言うたでしょ。前に。おれが皮をはげば、化け物が現れる、って…」
「おっそろしくHな化け物やったんか。おれ負けそう。…でもお前の誘惑には勝たれへんな」
と、そのままうっとりするような笑みを浮かべ、そのままおれを下に、覆い被さってくる。抱き寄せ、舌を這わされ、彼はおれのものを強く、いじる。
「もっと、欲しい。……あなたが、欲しい。愛してる……」
「愛してる言われたんは、久しぶりやな」
 そのままおれは再度陶然となる。
 二度目が終わった後、おれは真っ白になり、身動き一つせず、ボーッとしていた。彼も、同様のようだった。
「赤……」
 呼ばれて、やっと彼に目を向けると、
「お前はほんまに、ゾッとするくらいそそるわ……。怖なりそう」
「そう……?普段でも?」
「今みたいに化けたらな。…化けるよな。お前は」
「おれ、鈴木さんにも、張さんにも、Hの想像つかへんって、言われた…」
「それは、知らんからや。化けたお前を」
「やっぱおれ、化け物…?」
「ううん、」
と彼は首筋に顔を寄せ、
「きれいやで」
 少し沈黙し、
「おれたちって、さかってるよな…。まだフロにも、入ってないのに、」
とおれが言えば、
「そうやで。おれの服、汚しやがって」
 一回目の時、おれ、出してしまったのが服に付いちゃっていたのだ。でもそのシャツ、…
「それ、おれのシャツ、」
「お前のもんは、おれのもん」
「あかん。それはおれが買うて気に入ってんから、」
 それから身を離し、フロを沸かし、沸く間にはさかりも止み、原田はゲームをし、おれはレンタルしてきたCDを録音しながら、歌詞カードを見て鼻歌を歌っていた。
 布団に転がって合わせて歌ってると、原田もゲームに飽きたのか、やってきておれの腰に手を添え横になり、
「またユニコーン?好きやな、お前」
と言う。おれは目をやり、
「おれの肌に合う。おれの内面なんて、こんなもん」
「そろそろカラオケも、したいなー」
「最近行ってないものな…」
 などと、下らない遊ぶ相談ばかりしていた。
 そしてフロに入れば、洗いっこ、ソープごっこ、上がれば、いい番組がないから即布団、ただ寝るということを知らないかのように、また一回はHして…。と、全くおれたちは、いや、よりおれの方が甚だしい二重生活を送っている気がする。
 家では最近ほんとに化けてきて、自分でも、高階クンなんかに言われた魔性の物になりつつあるのかも知れない。と思う。おれは彼に猫のように甘えたり、Hをおねだりするのも平気になってきた。それって全く女のすることだと思う。
 でも、男を捨てちゃいない。あくまで、おれは男である。スカートなんかはきたくないし、化粧する気もおきないし、彼のために手料理…なんて気はサラサラない。彼だってないんだから、お互い様だろ。
 座るときはあぐらをかくし、趣味もごくごく当たり前、こんなおれにも好きな芸能人というのはちゃんといて、浅野温子と観月ありさなら抱いてもいい。(注:94~95年当時ですよ)と書いたらゴーマンですね、スミマセン。小泉今日子や山口智子なんかもいいなあ、最近は。やっぱしおれは、女々してない、けど見かけはいくらも化けられる、きれいな人が好き…と前原田に言ったら、それはお前自身と言われた。イエ別に、自慢する気はありませんよ。
 原田の好みは、内田有紀(おれに似てるんだと。髪型のせいじゃないのか?大人の色気はおれの方があるらしい)、瀬戸朝香(おれも最近いいと思ってる)、中山美穂とミーハーである。おれも人のことは言えないが。
 男は、というと「傷だらけの天使」のショーケンくらいらしい。おれも彼ならいいなーと思う。原田っぽいし。ただし、おれのイイと彼のイイは、天と地ほど意味合いが違うな。いや別にあの修ちゃんに抱かれたいわけでは…イヤとも言い切れない…
 でも最近原田のやつ、「傷天」のビデオを全巻、レンタルのダビングでなく買ったのはおれなんだけど、アキラが可愛く、抱いてみたくなってきたというから、こいつもあなどれないものである。二人して、ホンモノ一直線なのだ。守備範囲が広がりすぎ、ストライクゾーンが10メートルくらい広がったんではなかろうか。やばいなあ。
 …どうも話が脱線してきたようだ。で、話を元に戻すと、家ではこのように、甘ったるく、ゴロニャン(オエ――)しているおれが、社会へ出れば、一応男である。一応なんて書いちゃいかんな。おれは、男、男なんだっつーの。誰一人として甘える気も起きない。でもそれが、自然な、おれである。違和感は、一切ない。
 次の日の金曜日、特筆すべきことは起こらなかった。次の日は休みだし、観たい番組もあるし、夜更かしする。
 そうそう、原田のヤツは、あれをやったんだった。入れっぱなしで寝てみたいという、途方もない計画。これは、言い換えれば、何回入れっぱなしでヤれるかと同義語だった。
 直後は脱力しきって、抜くのも、抜かれるのもイヤ、ではあるけど、暫くはそれもいい気持ちだけど、絶対感じてきて、結局ヤッてしまう。それでも、何回目後かは忘れたけど、ウトウト…とはした。けど、枯れたあの人はどうか知らんが、殆ど寝てるのにおれはやっぱり感じてきてしまって、目が覚め身悶えてきた。
 そしてゾクゾクしながら、覆い被さって寝てるヤツをひっぱたき、起こそうかなーと思ったけど、おれもつい、試したくなってどこまで我慢できるか我慢してみようと…、でも肌の感覚は敏感になり、心拍数は上がるし、息は荒くなり、じっとしてられない。つい、足や手がずりずり…と動く。すると自然、腰に刺激が走り、余計感じる。
 いいや。原田を使って一人でやっちゃえ。などと付き合い始めた頃なら思いもしないようなスゴイことを考えると、重いモンを乗っけてるので、出来る範囲でゆるく動かせば、溜息が出る。このもどかしさも、いい気持ち。
 そのうち、寝てた彼が不意にくすくす笑った。
「お前、まだ枯れてへんの?」
 さすがに、顔が熱くなる。
「感じやすいタチで…ひっぱたいて起こして抜いてもらおうかなーとも思てんけど、可哀そうやし…、我慢してたら、」
「収まらんようになった訳か。淫らな構図やな」
と、悶え続けるおれの顎の裏に口づける。彼も、知らない内におれの中で育っている。互いに腰を使い合えば、刺激も大きく、割とすぐにイッてしまった。
「も、やめやめ。一応寝たし」
と彼はおれから出した。
「あーさすがに痛い。なんかヒリヒリするよな、」
と原田。それはこっちのセリフである。
「もう、明日、何するか決めてるから」
としかし言う。マジかよ。明日になったら回復してるんだろうか。
「他に考えること、ない訳?腐ってへん?脳みそ」
「おれの脳みそは、冴えきってるで」
「どうだか……」


 月曜日。午前中に高階クンが原田の持っていった仕事を納品に来た。
 おれのところにやって来、
「赤城さん、」
とおれを呼ぶ。おれは振り向き、
「高階クン。やめてくれあんなヤツ寄越すの」
すると彼は人なつっこく笑う。
「やっぱおれがいいでしょ。どうです。この際。おれに乗り換えたら」
 おれは一瞬反射的に周りを伺い、
「そういう冗談、やめてくれ」
 彼はけらけら笑い、じゃっ、と去る。なんとなく、おれも立ち、ドアを開けると、エレベーターのところに彼は居た。おれは少し思い詰めた目で
「高階クン、あの……」
と言いかけると、彼はエレベーターの奥の非常階段の方へ行く。おれも行くと、壁に取り込まれた。彼は、吸い付けられたような目でおれを見る。
「赤城さん……」
とうわごとのように呼ばれると、キスされた。身体が痺れそう。心拍数が、また上がる。
 一分位もキスした後、
「あの…、おれのこと、まだ好き?そんなことないやんな。気に入ってるだけ、やんな」
と恐る恐る訊けば、彼はおれを息のかかりそうな距離で正面から見ながら
「好きやで。あんたの相手が、あの原田さんやなかったら、おれは、……横奪りすると思う。でも、おれは原田さんのことも好きやから。…でも、つらいのは、つらいで」
「彼女いただろ?」
「いてるで。今も。あれはあれで、可愛いから……」
「おれ泣きそう。君、もうここに来るのやめたら?二人で会うの、よそうな」
「今追っかけて来たのは赤城さんやんか。あんたが一人やったら、…二人っきりになったら、のぼせてキス位したくなるの、分かるやろ?あんたは、意外とスキが多いねん。誰も、原田さん以外はそーいう気起こらへんと油断してるんちゃう…?そのスキが、相手をいけないとこまで突っ込ませるねんで。もうおれは、興奮してるで」
「やめて、高階くん、それじゃ、」
 取り込まれている腕を外し、逃げようとするとその手で頭を掴まれ、あっと思う間もなく、また唇を塞がれた。そして、しっかりと抱き締められる。
「怖いよな……あんた」
「怖いのは、君だぜ」
「おれはそんなには怖ない。ミイラ取りが、ミイラになった…というやつやもの。……親切心で、忠告しといたげるわ。そのスキ、早よ無くしや。…おれを追っかけて、一人で出てきたり、しなや」
「高階クンには、そうするわ」
「いいや。会社の人にも、気は配っといた方がええ」
「それじゃ不自然やんか。おれは女とは、違うねんで」
「でもあんたは、」
とそこで切り、言葉尻の息を耳元に吹きかけられる。ゾクッとくる。顔に出たと思う。
 フッと彼が笑う。
「そうやって、もう普通の男とは違う反応を身につけてるから…そしてきれいやから、知らん間にのぼせて行くヤツが、おるか知れへんやろ。なんとなくイイなーと思ってる間に、ハマるヤツが…原田さんのためにきれいになるのも、善し悪しやな」
「君は、違うやろ、おれと原田が何してるか知りたくて、」
「でも、あんたが嫌悪感を感じさせへんくらい、きれいやからこそ、やで。ブサイクや、男臭いヤツなんか、誰が抱きたがるかい。そのくせ、なよなよしてへんし…ほんま、あんたは、いい感じ」
「もう帰らないと…、怒られる、」
「おれはまだ話したいけど。その間ずっとこうして抱いてれるから」
「冗談、……そういう話は、また電話でもしてきてくれ。…おれも気になるから」
「やっぱ、心当たりあり、やろ。大したモンやな。あんたは…。電話しても、ええん。原田さんの前で、おれとあんたが長話してても、」
「良くないわ…じゃ、もういいわ。忠告ありがと。自分で考えるわ」
「しゃーないよな」
と、彼は困ったように笑い、手を放す。おれはすぐ身を遠ざける。
「今日、お昼、楽しみですね……」
と彼は、階段を下りていく。また、背筋を何かが走る。
 前、原田と付き合う前、タバコは吸ってたし、仕事のこともあり不規則そのものの生活で、気分が優れず、おかげで何かしら体調もイマイチで、白いと言っても、ただ病的な白さで、おれはいつも「気分悪いの?」と訊かれてばかりいた。血の巡りも悪かったと思う。目を出すのもイヤで髪も常に長めに伸ばしていた。
 今は、白くても、生活に張りがあるから、血の巡りはいい。気を遣ってるから吹き出物は一つもないし、目も出してる位の髪で、第一表情が変わったのは自分でも分かる。
 それが、原田以外の男にもアピールするなんて…でも、ただ病的なあの頃になんて、戻れない。戻りたくない。出来ることなら、もっときれいになりたい。原田が喜ぶなら。
 訊いてみようか。もっときれいになって欲しいかと。どうしてと訊かれたら、おれは一体何と答えたらいいんだろう。高階クンのことは黙り通した方がいいのだろうか。
 彼はおれと高階クンが寝たなんて、想像もしてみたことがないだろう。ましてや、おれがリードしたなんて、舐めまくって、飲んじゃったなんて知ったら大変だ。やっぱり十発くらいは覚悟しといた方がいいだろう。
 幾らあいつでも、ショックだろう。おれと、高階クンに二重に裏切られたことになるから…。あ、また暗くなってきた。
自分の席に戻ると、早速主任が
「長すぎるよ、トイレ」
と、少しいらついて言う。
「すみません……。気を付けます」
としおらしく謝り、遅れた分を取り戻すべく、高階クンのことを忘れるべく、全力で仕事をやる。
 おれは昼が怖かった。

潮崎さんとの関係は遅々として進まず…というか、こういう段階から書くのが楽しかったり。下らないやりとりが書いてる本人は楽しいのですが、読んでる人はどーなんでしょう?かったりーかったらすみません。
そしてバカップルなお二人さん。明らかにバカですよね。今のワタシが大変不幸なので入力しててムカツきます(笑)。高階クンはなんだか急に獣になってしまいますし、困ったさかったヤツらです。

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