ブレイクスルー2 -13-

「いらんこと言うな」
とクギを刺し、歌う。
 その間、原田は止める間もなく、言ってしまった。
「達っちゃん。これ、おみやげ……」
 ディ○ニー・ランドの小さな土産袋をどこからともなく出す。
 柴本さんにも「ハイ」と言って渡している。
「え――――!」
と皆どよめく。ああ、おれの立場が……。
「原田!」
とマイクを通して怒鳴るが、原田は達っちゃんの方を向いたまま、
「3日間も2人で旅行してん。3日もね……。楽しかったわ、○ィズニー・ランド」
「原田、やめろ、」
 おれは戻って来、原田の肩を引く。
「赤城君、実はディ○ニー・ランドやったん、」
と宮川さんが尋問する。おれは仕方なく、
「ハア……。すいません」
 穴があったら、埋めて欲しい。
「別にあたしらだからええけどさ、ここに佐藤さんおったら怒るでえ、」
「すみません、……原田がどうしてもと、ごねるもんで、」
「みやげ買うてきてくれとったら、許したったのに」
「ねー」
とおネーさん2人がいじわるそうに笑う。
「おれはもろたで。ミッ○ーマウスのクッキー」
 張さんが言う。
「ずっこーい」
 おネーさんが声を揃える。
「あ、おれや、」
 イントロを聞き、原田が言う。所詮こいつは、蠍座だ。
 『エロティカ7』なんか入れてやがる。
「こんなん歌うの、お前くらいやわ、」
とおれが指し、言えば、
「お前もうれしそーに歌とったくせに、」
と柴本さんに言われてしまった。
 あの部分だけは、ドキリとする。
 恋人同士だから飲む、ロマンティックなあのジュース…
 殺し文句のフルコース、もやったな。
「でもこれは、原田のテーマソングだろ、」
と言えば、ちゃんと聞いてて、マイクを通して
「これはお前やで」
と言う。一体どこまでおれのイメージを崩すつもりなのか。でも思いっきり笑われた。笑わないのは、達っちゃんだけ…。おれは間を詰め、
「達っちゃん、…ごめんな」
と小声で謝る。歌い終わった原田が、間を割るように座る。そして、小声で、
「達っちゃん、もう、諦めや…。どや、付け入るスキ、あると思うか…?早よ諦めへんかったら、幸せ掴み損ねるで。おれは、嫌がらせしてるつもりは全然ないで。これが、ありのままのおれたちだから。…諦めて、友達に戻ろうや」
 達っちゃんは立ち上がった。
「悪いけど、帰る、」
とドアに向かう。皆は突然のこととて、声もなく見てるだけ。
「逃げるなよ、」
と原田が言えば、達っちゃんは原田にさっときつい視線をくれ、ドアを開ける。
 原田は、凄い目で睨み、おしぼりをドアに投げつけた。
「卑怯者!」
「原田、やめろ、」
 達っちゃんは明らかにカッとなったようだった。そこに置いてあった予備の灰皿を原田めがけて投げつけた。
「原田!」
 おれはとっさに、彼を引き寄せた。だけど、灰皿は原田をかすった。
「つ……、」
と原田は額を押さえる。振り向くと、泣きそうな顔の達っちゃんが、ドアを開けて出て行こうとする。
「達っちゃん、待って、」
と立ち上がりかけるおれの腕を原田がぐいと引き寄せる。
「お前は、来んでええ…おれが、行くわ」
 言うと同時に立ち上がる。額が、切れて一筋血が流れていた。
「原田!……」
 彼はドアのところで振り向き、睨み据え、
「おれは死んでも、今日で終わりにしたるからな!」
「原田……!」
 彼は荒くドアを開け、出て行った。皆しん……としている。
 原田が心配だ。しかも、どう踏んでも、もうバレバレだろう。
 死んでも……なんて、縁起でもないこと言いやがって…。こんな気まずいところに1人残すなんて…。おれは少し、すがるように張さんを見た。彼は優しく見つめていた。
「赤城君…あの、さ……、」
 鈴木さんが、引っかかった調子で言う。おれは立ち上がった。
 ドアのところで振り向き、さっと一瞥し、
「ごめんなさい…ごめんなさい、鈴木さん、劉さん、…ごめん、柴本さん。張さん、あとをよろしく」
 自然と涙が零れてくる。目を伏せる。
「赤、お前……」
 柴本さんが引きつった顔してる。ああー、もう、終わりだ。
 おれは原田並に荒くドアを開け、閉めた。
 何ともいえない、空しいような、ムカつくような、心配なような、複雑な気分。
 情けなくて、涙も出てくる。
 階段を降りて表へ出ると、2人が立ち止まっているのが見えた。
 歩いて、人気の少ない通りへ入って行く。
「原田!」
 おれは1メートル位のとこまで追いつくと、呼びかけた。彼は朱美さんのときのような素の顔で、おれを見た。
 そして、すぐ達っちゃんに目を戻す。
「……ぐずぐずしやがって。何か言えや。殴っても、ええねんで。殴るか?おれを。…これはまぁ、まけといたるけどな」
と額を指す。
「何か言え、言うてるやろ…お前は、おれと赤をどう思う?」
「……頭では分かっとっても、感情が、許さへんのや!…赤がお前のものに、なってしまったなんて…もう、失ってしまったなんて…幸せだなんて…」
「お前が男やったら、諦めろ。そして赤にムダな心配させへんのが、一人前の男やで…。充分いい勉強したやろ。今度はお前、上手くやれるわ……」
「上手くいった試しもないのに?おれは自信、いっこもあらへん、」
 俯き達っちゃんが震える。
「達っちゃん、お前おれに言うたやろ。こっぴどく振られたらええわ、って…。おれかて、振られたことぐらいあるねんで」
 初耳なことを言い出す原田。
「もっと言いたいこと言うたらどうや。おれは絶対、今日で終わりにしたるからな。ぐずぐずしとったら、引きずるだけやで。…何か言えよ。おれに言いたいこと、あるのやろ?」
「お前なんか、大っ嫌いじゃ」
 原田の顔が引きつる。
「卑怯者はどっちやねん…!偉そうにしやがって、汚い手使こたくせに、」
「そら悪かったよ。悪かったと思てるよ。でも、おれを選んだんは、他でもない、赤やねんで。もう、そういうこだわり方、やめえ。さっき言うたよな。幸せ、て…。赤」
と、おれを見る。
「もう一度言ってやれ。さっき、キスした時、言うたこと」
 おれは、息を飲む。
「愛してる…感謝しても足りんくらい感謝してる。…おれには原田が必要だ…」
「達っちゃん、こいつはお前で満足出来るようなタマちゃうで。Hもな…。おれら、どんだけのことやってるか、言うたろか?」
「はらだ、」
「あほう、お前もいつまで夢見さすねん。…赤はな、おれのんを、喜んで舐めてくれるわ。全部飲んでくれるし、」
「やめて、」
 おれが言う。達っちゃんは頭を振る。
「旅行中には、ビデオも撮ったわ。アソビで、やけどな…。こいつは、充分それを楽しむようなヤツやねんで。普段はケも見せへんかってもな」
「……」
「お前、おれに言いたいこと、あってんやろ?はっきり言えよ。言われへんのか。赤を抱かせろ、と」
 達っちゃんは黙ったまま。
「まただんまりか……」
「原田、達っちゃんはお前とは違う、……追いつめるなよ、」
 原田はおれに目をくれた。
「達っちゃん…ごめん。好いてくれてるのに、応えられなくて…。でも、きっと達っちゃんには達っちゃんの、これというヤツが、おれでないヤツがまだおると思う。…おれは何だか原田が運命の相手、ってヤツの気がしてる。しっくりくる。だから、きっと現れるわ。ほんまにおれは、多分達っちゃんには耐えられへん位 スケベやし、もう、目、覚まして…」
「達っちゃん、赤を抱けたこと、後悔してるか?」
 達っちゃんは顔を上げた。
「結果は失敗やったとしても、一応は、付き合った…抱けたんやんか。やるだけのことは、出来た。どっちみち、おれに取られたとしても、抱かへんままと、抱けたのと、どっちがいい?」
「それは…、」
「出来るだけのことはやったがええし、言うだけのことは言うといた方がええ。それはムダにはならへんやろし。おれはそう思って生きてきたよ。……な。いい勉強、したやろ……」
「達っちゃんは、ちょっと変わったよ…おれを放したくないために、必死になった時、凄い積極的で、人の心をぐいぐい掴むような、さ…。おれも思うわ。おれが言うたら失礼かも知れへんけど、達っちゃんも成長した、今度は上手くやれる、って…」
「おれたち2人、お前が好きやねんで」
 原田が温かい声で言う。
「もう一段階、成長出来るやろ……」
「殴られても、もう一度赤が抱きたかった……」
「おれは許さへん」
「最後にあんな抱き方して、後悔してる。……」
「………」
 黙って、ただ、立ち尽くす。
「赤。さしたれよ」
 下を向いたまま原田が言った。
「そんな、」
 おれはB-3の前をかき寄せる。
「それで気が済むんやったら……。教えてやれよ。お前がどんなヤツなんかを」
「原田、」
「それで終わりやで。達っちゃん」
「もういいわ!」
 達っちゃんは怒鳴った。涙が伝う。
「もうええわ……。これ以上、みじめな気分に、させんといてくれ。……もう、諦めるわ…だから、もう…ほっといてくれ。そこまで言われて、今更出来るか…?」
「あの、さ…別に達っちゃんは、ヘタではない、と思うよ……。その辺も心の傷、作らんといてくれる……?」
「赤。おれはもう帰るわ」
 原田はそう言うと、おれの方に振り向き、歩いて来る。
「原田、……」
 おれは彼の腕を掴んだ。彼はおれを見、
「そんかわりちゃんと帰って来いよ。何時でも、おれは起きて待ってるから」
「イヤだ、そんな、」
「何を今更言うてんねん。おれがええ言うたら、抱かしたるんやろ?今だけ、やで……。おれがこんなこと言うのは、」
「もうええ、言うてるやんか!」
 達っちゃんがとがめる。
「出来へんわ。おれには……」
「それで引きずらへんかったら、おれは別にいいけどな……。じゃ、赤、帰ろうか」
「達っちゃんも、一緒に、帰ろうや……」
と彼を見る。彼はおれを見て、目をそらした。
「行くで」
 原田がおれの腕を引く。
「達っちゃん……」
 腕を引かれ、引きずられながら、おれはまだ達っちゃんを見ていた。
「待てよ、」
 達っちゃんが言う。原田はおれの腕を掴んだまま、ゆっくりと振り向いた。
「抱かせて、下さい……」
 押すように言うと、彼は頭を下げた。
 原田は掴んでいた手を放す。原田を見上げると、彼は顔を逸らした。
 そしてそのまま、黙って歩いて行く。
「待って、」
 おれは彼の背中にすがった。原田が立ち止まる。
「行ったれよ」
「原田、」
「そして終わりにしたれよ。……ぐずぐすしてたら、もうおれはかなりムカついとるから、お前を連れて帰るで、」
「それがほんとに、ええことなん?」
「知らんわ……!もうおれには、分からへん。あとはお前次第や。お前をおれは、信じてるから…。裏切るなよ」
「原田……」
 原田はそっとおれを剥がすと、振り返らず歩いて行く。
 おれは、立ち止まったまま。
 それからおれは、ゆっくりと達っちゃんを振り返った。おれは、顔をしかめて、泣きそうな顔してると思う。
「達っちゃん……」
 声をかけると、彼も情けない表情をくれる。
 そのまま黙って見つめ合ったあと、おれは抑揚のない声で言った。
「本気……?」
 彼は俯き歩き出す。おれは慌てて側に寄る。
 この辺にはラブホテルが腐るほどある。
 おれたちはその一件に入った。
 達っちゃんがおざなりに部屋を選び、おれはただ後を付いていく。
 部屋に入った後、殆ど目を合わさず、おれたちは立っていた。
 一体何を言ったらいいんだろう。
「あ、……シャワー浴びよか、」
とおれが言い、風呂場のドアに手をかけると、彼がその手を掴んだ。
 ドキリ、と心臓が高鳴る。
 そのまま両の二の腕を掴まれ、ゆっくりとベッドへ座らされる。黙って、見つめ合ったまま。
 殆ど瞬きもせず、じっと見つめ合ったあと、彼はおれを寝かせ、上着をそっと脱がせる。グレーの丸首のウールセーターの裾に手をかけ、たくし上げ、脱がされる。
「達っちゃん……」
と彼を見たまま声をかけると、彼はゆっくりとキスをしてきた。
 おれは目を閉じ、応える。そのまま、抱きかかえ、覆い被さってくるのを、受け止め背に腕を回す。
「あ……」
 そのまま、唇がスライドしていき、首筋を愛撫される。それだけで、肌が粟立ち、背筋がゾクゾクする。
「赤……」
 もの凄く、丁寧に、ゆっくりと、彼がおれの首筋や喉元の肌を味わう。
 彼の右手がジーンズのファスナーをためらうように降ろし、侵入してくる。
「ああ、」
 掴まれた瞬間、声が出る。もう芯を持ち充血し始めてるそこは、それだけで身体中にシビレを送る。
 彼は揉みしだきながら、抱き寄せキスをする。おれの口内を、舌を味わうようなもの凄くゆったりとしたキス。
 キスをやめると、彼はじっとおれを見つめ、Tシャツを脱がす。ジーンズを押し下げ、脱がそうとすると、ゴツいワークブーツが邪魔をする。
「脱ぐよ……」
 少し身を起こし言うと、
「いや、じっとしててくれ……」
と言う。
 おれが再度ベッドに力を抜き身を投げ出すと、音を立て、ワークブーツが落ちていく。
 膝を立てさせられ、ベッドに足を上げさせられながら、ジーンズも靴下も、彼に脱がせてもらうと、彼はおれの裸をじっと見つめる。
「相変わらず、きれいだな……」
 そして彼はそのまま、おれを抱き取り、再び唇を重ねた。
 おれはどうしよう…と思ったが、抱きしめられながら、彼の上着に手をかけた。でもおれから手を放さないので、袖が抜けない。おれは、次にネルシャツのボタンを外していった。
「慣れた仕草やな……」
 少し口を離して、彼が言う。しかし返事を待たず、彼は唇を塞いだ。
 長い口づけが済むと、彼は自分で脱ぎ始めた。
 露わになっていく彼の身体を見ながら、恥ずかしさで震える。彼に抱かれていたのが、とてつもなく昔に思える。おれは、そっと目を閉じた。
「赤……」
と呼びながら、覆い被さってくる。
 手が身体中をくまなく這い、唇が辿る。時折堪えきれず、身体を跳ねさせ、声が漏れる。その度彼は一旦動きを止め、おれを見ながら再度感じるところを攻められる。
 その合間に、何度もおれを呼ぶ。
 おれはそれだけでイキそうな気がした。
 彼の動きがやみ、目を閉じ胸を上下させていると、彼は指を入れてきた。
 感じる。彼の指が、内部を探るように蠢き、解されると、やがて彼がおれに身を沈める。
 また、確かめるように、ゆっくりと何度も角度を変え、強弱を付け、探るように腰を動かす。
 なんか、凄くイイ。溶けていきそう。おれは喘ぎながら、彼に腕を回す。……

「ありがとう」
 終わったとき、彼は身を離し、背を向けそう言った。
 おれは脱力した身体を横たえたまま、
「ううん……」
とだけ返事した。
「もう、気、済んだ……?」
「うん。……もう、いい。帰れよ」
 背を向けたまま、彼が言う。
 おれはベッドに起き直る。
「うん。帰る……。待ってるから」
 そして、ベッドの端に座ってる彼の横をすり抜け、バスルームのノブに手をかけた。
 ふと、言いたくなって、彼を見た。
「達っちゃん。良かったよ……」
「だってこれが、最後やもの。じっくりと、しっかりと、……そう、刻みつけるようにやらな……、」
 そして彼は目を泳がせ、虚空を見た。
「心に、刻みつけるように……、」
 おれは彼を後目に、バスルームに入り、手早くシャワーを浴びた。
 出ると、彼はもう服を着て立っていた。
「シャワー、浴びひんの?」
 バスタオルで拭きながら言うと、
「うん。……浴びたら、お前の肌の感触も流されてしまいそうで、」
「………」
 彼はおれが服を着込んでいくのを、立って見ていた。
「原田はやっぱり、大したヤツやな」
 黙って駅に向かって歩いていると、不意に達っちゃんが言った。
「幸せになれよ……」
 前を睨みながら彼が言う。おれは彼から目を外し、俯く。
「ありがとう……」
「もう、せいせいしたわ。……お前の言う、目が覚めたワケではないで。お前のことは、好きや……。お前には、理解出来ひんみたいやけどな。…でも、もう、諦めきれるわ……。ありがとう」
「いいや、こっちこそ…。許してくれて、ありがとう。おれや原田と、友達に、なってくれる……?」
「もう暫くは、会われへん。でもいずれ、なれるわ……」
「ほんとに、気が済んだ?」
「うん。すっきりした。もうあんなに、引きずらへんと思う。……おれも、こだわって、頑なで、しょーもないヤツやったよな。……うん、おれ、成長出来たと思うで。お前との別 れも、悪い思い出にはならへんやろ」
「達っちゃん……、」
「それもこれも、お前らが、情けでなく、本気でおれのこと考えてくれたから、誠意込めて接してくれたからやと思う。…原田に礼、言っといてくれ」
「うん。……達っちゃん、男らしいな……」
 駅で別れる。彼は振り返ることなく、確かな足取りで、自分の路線に去っていった。

 原田は布団の中で、タバコをふかしていた。ギロリ、と帰ってきたおれを睨む。
 側まで寄って行くと、おれはぎょっとした。
「いやだ、何で裸なん、」
「訊くまでもないやろ、」
と腕を伸ばし、足首を掴まれる。
「何もする気起きひんから、タバコ吸うか、オ○ニーしとったわ」
 そのまま布団へ引きずり込まれる。おれを下に取り込むと、原田は、険しい顔してる。
「意外と早かってんな」
 掴む手に痛いくらい力を入れてる。二の腕が、痛い。
「一回で満足したみたい。もう、すっきりしたわ、って……礼言ってくれって、言われた」
「フーン。お礼参りちゃうやろな」
「違うわ。……原田は大したヤツやって、本気で言うとったわ」
「……そう。で、お前は。あいつに心、持ってかれてへんか?」
「原田ったら。おれのこと、信じてんのちゃん?」
「でも不安なんは、分かるやろ?…好きやから、……あんなこと言わへんかったら良かったと、何度思たか……」
「おれが受け止めたるから、なんぼでも甘えてよ。でも、そーいう原田、キライ」
「ちぇっ……。おれだって、疲れるわ。で、今日は何したん、」
「別に普通。キスして、脱がされて、愛撫されて、入れられて……、」
 彼はおれを抱きしめ、キスをする。
「お前も舐めたったんか」
「ううん。彼も、舐めへんかったよ」
「そう」
とまた口づける。
「早よ脱ぎぃや。おれ、待っとってんから」
「脱がしてくれへんの、」
「脱がしがいのある服ちゃうもん、手間やし、」
「お前こそおれに飽きたんちゃうか、」
と起き直り、B-3を脱ぐと、原田はジーンズに手をかける。
「即物的。いやだ、原田ったら、」
 そのまま、セーターを、Tシャツを脱ぐ間にも原田は顔を埋め、愛撫を加える。
 おれは身体が痺れ、身動き出来なくなる。
「原田……」
 おれは手を後ろ手に付き、その姿勢のまま、一回いかされてしまった。
 そのまま引き倒され、口付けられ、抱きしめられる。
「お前の腰が砕けても、今夜は寝かせへんからな」
「原田……」
 おれは腕を、彼に絡める。
「好きにして…。もっと、もっと、……おれを好きにして」
「思いっきりめちゃめちゃにしたる、」
 おれは彼に翻弄され、頭がぼうっとなりながら、声を上げ続けた。
「全て、終わったな…。肩の荷が下りたわ。お前の回りにうろつくうっとおしいヤツラが消えた……」
 おれを抱きかかえるように身体を密着させ、熱い身体で彼が言う。
「あっ、」
 その瞬間、貫かれる。
 おれも彼の背と、腰に腕を回し、自分の方へと彼を引き寄せる。
「赤……。忘れるなよ。お前はおれの所有物やで」
「おれは雑貨品か、」
 荒い息で言う。
「そうや。ボロ雑巾のように、したる」
「してよ。……捨てられたら、困るけどな」
 その夜はほんとに、枯れるまでやった。いつ寝たのか、覚えてない。
 おれの腰も死んでいたが、原田の腰も充分いかれてたと思う。
「はらだ、」
とおれは翌朝、彼の頬をぴたぴた叩いた。
 彼は薄目を開け、おれを見、
「うん?」
と言った後、
「何やお前、まだおったん…?早よ仕事、行きぃや」
と目を閉じる。おれは起きたばっかりで、まだ蒸し立てみたいな裸の身体を、寝入ろうとする原田の上に預けた。
「寝んといてや……。会社に電話してよ。今日は休みます、って……」
 すると彼はぱっちり目を開け、
「なんやお前、ずる休みするつもりか、」
とおれの腰を掴む。
「冗談じゃないわ、お前のせいで、もうバレバレやん。おれ、会社、行きたないわ……」
「あほう。そんなんが仕事さぼる理由になるか。早よ行け」
「お前はずるいよな。自分の会社ではあんなことせえへんくせに、おればっかり、」
「昨日のあれは、おれやない、達っちゃんやんか。……恨み言は、達っちゃんに言えよ」
「でもお前が挑発したんやんか」
「何もしゃべらへんワケにはいかへんやろ。諦めや」
「お前のせいで、おれの人生ボロボロや」
 すると彼は口元を歪ませ、
「電話したってもいいけど……、」
「早よしてや。おれ自分で言いたないし、」
「うちおいでな」
と言って腰から手を離し身を起こす。おれはしまったと、彼の腰を掴む。
「ちょっと……!それはなしやで、今回はおれに貸し、やで。あんだけ迷惑かけといて……」
「じゃ、電話、したらん。早よ行け」
「腰もガクガクやねん……風邪とかなんとか、言うてよ。お前ほんまに、おれに悪いことしたと思てへん?」
 彼はじっとおれの顔に目をくれ、
「今日だけ、電話したるわ……。でも月曜からは、知らんからな」
 おれはガクッと力が抜ける。気が重い。
 おれが布団で待ってると、彼は毛布を引っかけ、電話してくれた。戻って来、再度布団へ潜り込みながら、
「鈴木さんが出たよ」
と言う。
「何か言うとった?」
「今日は大事にして、気にせんとゆっくりしとってね。月曜から待ってるからまた元気で来てねって……お前が気に病むようなこと、ないんちゃうか?もしバレとっても、鈴木さんらは物わかりのええ、ほんまええ人たちやん、」
「ん……」
 何か、凄い罪悪感が襲ってくる。ズル休みした時は、いつものことだが。
「まあ、もう休む言うたからな。久々に2人で2連休。水入らずでゆっくりしよな」
と指を2本出し、Vの字を作る原田。おれは彼の首に手を回し、彼の肩口に顔を埋める。
 昼過ぎに、張さんのところに電話した。
「すいません。おれ……。昨日あれからどうなりました?」
「どう、って言われても……。(とクスクス笑う)そりゃ気まずかったで」
 ああ、気が重い。穴が無くても、めりこみそう。
「おれって、サイテーですね。……もう、バレてます?やっぱり、」
「うん。カンペキ。鈴木さんはいい加減察しとったみたいで何も言わへんかったけど、宮川さんとか、李さんとか『ぎゃー』とか言うとったよ。劉さんも俯いとったけど、『どうせ分かっとったことやし。友達までって』ってポツリと言うたんが印象的やったな。でも、だからと言って誰も赤城君や原田君のこと、『フケツ』とか言うてへんかったし。…今日、休んでんてな。皆君のこと好きで、心配しとるから、月曜から行きなさいよ」
とまたも言われてしまった。
「はあ……。でも今日は、腰も砕けきってるんで」
「ま~たァ。生々しい……。君らこそ、あれからどうなったん」
「上手く収まりましたよ。達っちゃんもおれを諦めてくれたみたいで。…もう一度抱きたい、て、前から言うとったんですけど、原田にさしたれ言われて、…その辺のラブホテルで…。それで気が済んだみたいで…」
「ふーん。ちょっと怖ぁて、想像したないけど、良かったな」
「それで家に帰れば、原田が裸でちゃっかり待っとって…枯れるまでやらされましたよ」
「も、ええ、言うてるやん。君ほんま原田君と似たとこあるな」
 あははと笑い、
「そう……?今から思えば、そうですわ。一緒に働いとるときも、あいつのやることなすこと、おれ共感出来てましたもん。休む理由とか、チコクとか…。発想も。仕事も。おれはあいつみたいに自分を解放してなかったから、ヤツは苦手だったし、自分がそーいう地やとは気付いてへんかったですけど。今は、自分がしっくりくる…。服の趣味も、音楽とかのセンスが合ってんのも、昔からおれは気付いとってんけど、」
「そういうのが、一番やで」
「達っちゃんは、おれや原田とは違うんです。仕事も休まへんし、チコクもせえへんし…よく気が付いて、我慢強くて、…なんか眩しい、て感じ?そういうおれにないものに憧れとったし、なんか無垢で、真っ直ぐで、かわいいいうか。それで皆彼のこと好きなんやと思います。…でも彼も、ただの無垢なかわいいヤツではなくなったと思います。…そう出来たのは、全部原田のおかげ…。おれはただ抱かれただけ…。おれは自分では、何も出来ひんかった…」
「別にええやないの。そういうところが、君のええとこなんちゃう?」
「そう言われると、少し気が楽になりますけど……。そうそう、柴本さん……どうなりました?まずかったなあ。1人おっぽりだして、…怒ってませんでした?」
「怒っとったというか、一番びびっとったんは、あの人ちゃうか?…どうなりましたて、何のことなん?」
 きょとん、というような声で訊ねられる。
「ああ、……柴本さん、鈴木さんが好きなんですと。それで…ね、おれ李さんのようには上手く取り持ち出来ひんから、……」
「そらなー。鈴木さん、その気ないと思うで。あの様子じゃ。君や原田君なら、うんと言うと思うけど」
「鈴木さんは原田のことが好きやと、おれは思てるんですけど?」
「君のことも充分気に入っとるで。おれには分かる。鈴木さんの口に負けんと、口答えできるヤツでないとな、」
「生意気、ですからね。……」
 何かまた衝撃を受けてしまった。
「そうそう、あのあと、『忘れないで』と『わたしはナイフ』と歌とったで……。フンフン言いながら。お肌のため、のワケも分かったみたいやし、さすがにその時は『やだ~~』言うとったわ」
「やっぱ行きたない……」
 その辺にごろごろして、テレビ見ながら間食してた原田が、背後から抱きつき、振り向くとそっと受話器をもぎ取る。そして肩を抱きながら、おれの肩に顎を乗せ、
「張さん、ギョーザよろしく」
と言う。
「昨日は、すんません。……でも、張さんの保証は、やっぱ当てにならへんかったやん、……だから、おれちゃうて。達が悪いのに、皆しておればかり…おれって損するタイプやわー」
 すると何か言われた後に、
「ありがとう」
と答える。
「でもおれ実は、せいせいしてますねん。……気持ちよくバレて、邪魔モンも全部追っ払ったし……。赤は、おれのモンですから、張さんもよう覚えといて下さいよ」
 そして受話器を返される。
 電話を切ると、ほっぺたをくっつけ、
「今日は、何する?」
と訊く。

このパートのキモですねー。これが納得して頂けなければ、ダメダメ話です…そして納得して貰える自信がない。まー、商売ではないので、それはそれでアリとも思うんですけど、やっぱ読んで頂く、頂きたいからには多少はねー…。別に、似たモン同志じゃなくちゃダメっつーワケじゃないだろ、と打ちながら自分ツッコミ。まあこいつらは、こいつらなんで。でもチコクの理由や、休みの理由に共感してはダメよ、赤城君!(説明不足ですけど、それは仮病の見破りのことです・汗)
あと、やたらに浦安のネズミーランド関連に伏せ字使ってしまうのは、「改蔵」の読み過ぎです。他はさておいても、これだけは…とビビらされ、洗脳されてしまいました(笑

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