ブレイクスルー2 -12-

「1人でせいせいしとるわ……。おれが言いたいのは、お前がアホやということ」
「聞き捨てならんね赤城君。おれはね、仕事は金じゃない、やり甲斐やと思ってるのよ、赤城君。ぼくは、肩書きに踊らされてるような、あほではないのよ赤城君。それでも君より給料は多いんだから。ね、赤城君」
 なんだ、分かってた……。ムカついたのかしら。こんなにしゃべっちゃって。
「分かった分かった、」
「ぼくたちの未来に、カンパ~イ」
と原田がおれのグラスに自分のグラスをぶつける。
「ぼくたちの未来って何、原田君」
 お向かいの宮川さんが目を丸くして訊ねる。
「おれたち独立するんです」
と原田が答える。
「へえ~。いつ頃?」
「まぁ、30までには、というつもりで……。まだ資金も貯まってへんし、」
「それで一緒に暮らしてんだ?」
と鈴木さん。
「まあ、それもありますけどね……」
「でも、赤城君に営業は出来へんよ。素直過ぎて、」
 鈴木さんがニヤニヤとおれを見ながら言う。原田も笑い、
「分かってますわ。こいつはおれの下。ヒラですから。まだ青臭いから表には出されへん、」
「黙って聞いとりゃ失礼な。……高階クンなら、上手くやるんちゃう?あの二枚舌で」
「あのガキか。なんやお前、高階高階とうるさいな…もしかしてお前、おれに飽きてあいつに興味移った?」
「違う、いい加減にして、」
「高階かあ、あいつ呼ぼか。盛り上がるでえ、」
「いいよ…今回は、」
「そんなおもろい子が居んの?」
「原田の弟子ですよ」
 ニヤついておれが言う。そして席を一瞥して、達っちゃんに声をかけようかな…として、やめた。
「柴本さん。大人しいやんけ」
「ちょっと入っていかれへん。お前らほんま、良すぎる位仲えーな」
「でしょ」
と原田がおれの肩を抱き、顔を寄せる。
「やーらしー。こんなに女がおるのに、男2人でひっついとるわ」
 鈴木さんが身を引き言う。
「そーなんです鈴木さん。悪いけど、おれのことは諦めて下さいね」
と、にこにこしながら原田。鈴木さんは一瞬顔を強ばらせたが、直ぐに
「年下のくせに、よう言うわ」
と目を伏せ揚げ出し豆腐を食べた。
「原田はちょっと、自意識過剰で謙遜言う言葉知りませんので、許したって下さいね」
と言えば、
「謙遜いう字は知らんけど、ワープロでは打てるで…ねえ、謙遜て書ける?」
とCMのマネ(※時代を…以下略)。
 え…、おれも分からん。
「ワープロで、って、ひらがなで打つだけやんか、あほでも打てるわ、」
「あ、はこの指、ほはこの指や。知ってるかお前」
といつの間にやらくわえタバコで10本の指を広げ力説する。
「はらだ、と打てば変換出来んのちゃう?」
「あか、と打てばガキ、と変換できるわな、いや、むっつりスケベ……、」
「おれはスケベかえ、」
「お前じゅーぶんやらしいよ」
とタバコを突きつける。危ないヤツだな。
「おれお前の隣いや。達っちゃんとこ行こう、」
と腰を浮かしかければ、
「あっ、きさま、都合が悪くなるとすぐ達のこと持ち出しやがって……!」
 しかし、なんだな。原田がいると賑やかでいいんだけど、おれ原田としゃべってばかりで、他の人の話、聞いてないし見てない。そのヒマがないんだけどさ、まるで他の人達が無口のようだけど、中国人カルテットはそれなりにしゃべってるよ。張さんは、達っちゃんに何か言ってるみたいだけど……
 でも、おれと原田が一番うるさいことに変わりはないの。
「しかし赤よ、つくづくお前変わったな。表情が明るくなった」
と、びっくりしたように柴本さんが言う。え…とおれは目を丸くする。
 原田を見ると、優しく笑う。そして目を伏せビールに口を付ける。
「これがヤツの、地ですよ柴本さん」
 そうだ、地だ…。と思う。基本的に目立つの苦手で、人に合わす、というのは変わらないけど、こういうやつらと居てこそ、おれは楽しいし、寡黙になることもない。
 おれの身の回りが、原田と付き合ってこっち、随分変わった上に、これを書き始めた頃の妙な孤独感や、他人を騙して、自分を騙してる、という、まるで自分が自分でないようなヘンな気分は、まぁとにかく目まぐるしいせいもあるだろうけど、覚えることが全くなくなった。
 気分に余裕が出来た。改めて思う。原田は、おれにとって必要な存在なのだ。達っちゃんが気付かせてくれなかったものを、彼はおれを突き崩すようにして、色んな物を、知らない間に、教えてくれている…。
 おれは優柔不断で、人に合わす性格だが、決して淡々としたヤツじゃないのだ。
 鈴木さんたちや、原田や、原田とこの高階クンだとか、昔はおれの回りにいなかったヤツらばかりだが、向こうもこっちを気に入ってくれてるみたいだし、勿論おれも気に入っている。今となっては、朱美さんみたいな女も、好きだ。
 愛しているのは、原田1人だけどね。
 昔は嫌いなヤツばかり、だったおれが、人を好きになれるようになったんだ。
 これは凄いことじゃないか。
「達っちゃん」
 不意に原田が達っちゃんを呼んだ。
「楽しんでる……?」
 達っちゃんはビールを一口飲んで、目を外したまま、
「まあね」
と言う。
「じゃ、いい」
と原田も目を落とし言う。皆、きょとんとしてる。
 その時、その沈黙を突き破るようにして、
「このギョーザ、おいしくな~い」
と李さんが、いつものように可愛らしく、きっぱりと言った。
「赤城さん、言ってみてよ。中国語で、まずいって」
と、きらきらする目で言う。おれは頬杖つき、俯き、
「不好吃?」
と言えば、
「そうそう、不好吃!赤城さん、発音いいじゃないですか」
とにこにこして言ってくる。
「何だって?ぶほち?」
「違う、bu-hao-chi、」
と、発音の難しいchiを強調して原田の目の前で発音してやる。
「そんなん言うたら、この鳥カラも、んー、ぶほちやなぁ」
 原田は、旨そうにニコニコしながら「不好吃」を強調して、大きな声で言う。
 皆は笑うと、今度は宮川さんが、
「あたしはこの竹天が、最ッ高ーに、『不好吃!』やと思うわァ」
と、これまたデカイ声で。殆どの人間が「どれどれ、」と箸を伸ばし、店の人に聞こえよがしに、「不好吃!」を連呼する。イヤミな団体である。
「張さんとこの水餃子は好吃!でしたわァ」
と、おれが言えば、
「そう?またいらっしゃい」
とニコニコして言ってくれる。
「張さん、おれも。おれの分も用意しといて下さいよ、」
と原田がまた首を突っ込む。
「またァ…。お前は、何の係わり合いもないやんか。ほんまずーずーしいヤツやな」
「おれと張さんはマブダチやんな、」
と目を丸くして自分と張さんを人差し指で指す原田。ほんとにずうずうしいヤツである。
「餃子やったら、劉も得意やで。なっ、劉」
と李さんが。
「まー、得意と言えば、言えるかも……」
「赤城さん、今度劉にお昼作らしたるから、一度食べてやってよ」
と。原田はまたも、
「おれは?」
「しゃあない、あたしが作ったるわ、」
 李さんて、積極的な娘である。おれもこう上手く取り持たないとダメなんだよなあ。
「赤。良かったな。おれら2食分も浮いたで」
「だから何でお前も食うの。ヨソ者のくせに」
「都合のいい時だけ他人じゃなくて、都合が悪くなるとヨソ者扱い。赤城君てほんま冷たいわァ」
 さて一次会が済んで、カラオケへ移動する間、原田は達っちゃんに、
「ちょっと話そうや」
と、団体のケツに付いた。おれは、というと、2人が気になったが、柴本さんもほっとけないので、鈴木さんと柴本さんの取り持ち係に。
「鈴木さんは何処から来てるんですか?」
とまず、オーソドックスな質問。
「吹田」
と答える鈴木さん。ほっといてもいいか。どーせおれは、人の面倒見れる性格じゃなし。
「張さん、」
と劉さんらと話してる張さんを呼ぶと、前を行っていた彼が振り向く。
「何、」
とおれの横に来てくれる。おれは少し声を潜め、
「張さんから見て、どうです?原田ヤバイこと口走ってません?おれらいちゃいちゃして見えます?」
「おれは知っとるからな。ちょっといちゃつきに見えるけど、普通の親友程度にも充分見えるで」
「そう。ほんなら良かった……」
「ギョーザ食いに来てもええけど、いちゃつかんように、言うといてよ」
 おれは少し笑い、
「それは難しいかも知れません……」
「でもつくづく、君らが好き合うてて、また、合うてるんが分かるわ…」
「おれにとっては、原田はもの凄く必要ですよ。それはおれもさっき、柴本さんに言われて再認識しました。でも原田にとって、おれは本当に必要なんかはおれにはちょっと…あいつはあの通 り、誰とも合わせられるヤツやし……」
「でもあの子は、しんから君のことが好きやで。もっと自信持たな失礼や。誰とも合わせられるいうても、原田君もああ誰に対しても無邪気にはならへんやろ。そんな事考えんと、好きやったら好きでいなさい。君らは、不潔な感じせえへんわ」
「そう……?でもおれ達、冗談抜きで、ムチャクチャいやらしいですよ」
と、ついニタついて言えば、張さんは少し赤面して、
「君でもそんなこと言うねんな…。現場見たら、不潔な感じするかも」
「そら、汚いでしょうね。男2人が絡みついとったら、」
「もうええわ。よー分かった。君と原田君は、根が一緒」
 鈴木さんと宮川さんが立ち止まって手を振る。おれと張さんは、じわじわ遅れ気味になって、2人で歩いていた。更に後ろには、原田と達っちゃんがいるワケだけど。
「ここよ」
 鈴木さんが親指で後ろ指す。おれはその横にいる柴本さんに、
「どう」
と訊く。彼は困惑した表情で、
「お前何でおれおっぽりだすねん、」
「そんなこと言うても…。別におれがおってもおらへんかっても、一緒やん。ちゃんと話しとったからいいかなーと思って……。張さんに、話あったし…」
「お前冷たいんちゃうか?」
 そう言われてしまえば、そんな気も。
「おれ李さんのようには、上手く出来ひんわ。…やっぱ原田に、頼んでよ。あいつ自然と上手いことやりよるから」
 そう、さっきも凄いタイミングで鈴木さんにクギ刺したもんなあ。あの手際には降参する。
「でも原田が、おれの何知っとる?」
「仕事中寝てたとか…」
 ニヤついて言えば、
「もっといいことないんか、」
 その時原田たちが追いついたらしい。後ろから頭を叩かれる。振り向くと、2人ともかなり険しい顔してた。
 店の中に入って、部屋へ案内されるまでの間、おれはそっと原田と2人になった。少し距離を置いて、隅っこに寄った。そして彼の顔を見上げると、彼もじっと目をくれる。
 ちょっと思い詰めた顔。
「何か話したん?」
「色々と。お前に赤はあんなに無邪気になついとったか、と訊いたら、ううん…て言うたわ。お前に赤がしょえるかどうか、分かったやろ、お前では、赤の方が色々と重みがあるから潰されるか、知らん間に赤に気を使わせるかどっちかちゃうの。て言うたら、くらーい目して、でも、おれは好きなんや……だと。お前が好きだった赤は、あんな赤だったのか、て訊いたら、赤は、もっとふんわりと優しくて和やかな人間と思とったと、言ったよ」
「ふんわりと和やか…ねえ。達っちゃん相手では、そーなるわ。達っちゃんがそういう人やから」
「おれは」
「さっき張さんに、おれとお前は根が一緒って言われた」
「ちょっとトイレ行ってキスせえへん?」
と手を握る。おれもその気はあったが、
「もうちょっと後でな。部屋も分かれへんし」
と答える。
「お二人さん。早よ行くで」
 鈴木さんが手招きする。ぞろぞろと部屋に入る。
「じゃ、赤城君、連れション行こか……」
と即座に原田が言うのに、「そーね」と答えて、おれは張さんに堪えきれない笑みを向けて2人出ていった。
「トイレはちとまずいかな」
と一個しかないトイレのドアを開けて中を覗きながら原田が言う。
「外行こか」
 おれが言えば、彼はおれを見てニヤリと笑い、
「全く、お前も、正直者になったよな」
 手を繋いで誰もいない階段を下りる。手が、熱く汗ばんでいる。
 暗い路地裏で、入ったと同時に抱き合い唇を合わせる。溶けていきそう。
「原田……」
と、うっとり呼べば、
「赤……」
と答える。
「ダメ。おれ、かなり来てる」
と頭を預けて言えば、
「1回やったら15分。いくら何でも、不審がられるな」
「原田……おれはお前を、やっぱ愛してるわ……必要や。感謝してもし足りん位、感謝してる。本当やで、これは」
 おれはすがり、目を閉じ言った。彼は強く抱き寄せ、
「今更何言うとん。……やっと、おれの良さ、分かった?」
「分かってるわ……。ずっと、ずっと……感謝してる」
 また唇を塞がれる。音がしそうな程熱く、長く口づけを交わした後、
「赤、お前はほんま可愛いわ…。お前みたいにころころ変わるヤツとおると、おれも退屈せん。…お前はおれの肌に合う…」
 余韻に浸り、30秒ほど無言で抱き合った後、身を離す。
「お前は達なんかに合うヤツやない。このおれに、合うヤツや」
「そう言って貰えて、嬉しいわ」
「喜んで貰えて、おれも嬉しいわ」
と、また原田が左手でおれの頭をかき寄せる。
「赤。お前は気付いてへんかも知れへんけど、おれもお前には甘えてるで……。わがまま言うても、お前は絶対ちゃんと受け止めてくれる。安心出来んねん。きっとお前は、もっと甘えられるヤツになるわ…」
「そうかな……」
「そうやで」
「でもお前に甘えられたら、…怖いわ、おれ」
「何が」
「甘えるお前。なんか似合わへん」
 2人でくすくす笑うと、「行こか」と原田が踵を返した。
「原田…5分以上経ってる……。不審がられそう」
 おれは時計を見ながら、彼の後を追いながら言った。
「おれは別にいいもん。不審がられて、いっそバレても」
「……そーいうヤツやったよな…。上手く策にはめられたかな……」
 先に立つ原田が部屋のドアを開けると、李さんが歌っているところだった。
「ちょっとごめんなさいよ、」
と原田はわざわざ達っちゃんの隣に座る。おれも、その横に。
 おれはちらと張さんに目をくれる。彼は照れたような、でもからかうような茶目っ気ある笑みをくれる。
「赤城さん、今日は歌わへんの?」
 隣の劉さんがリストをおれに向けながら言う。
「えっ?」
「いつでも夢を」
「ああ、…あれ、カンペなしでは、歌われへん、」
「赤城君はあれ歌ったらいいやん。『わたしはナイフ』」
 鈴木さんが言う。
「絶品やったよな」
と、鈴木さんが隣の宮川さんに丸くした目を向ければ、
「鈴木と赤城君のキー、同じ位ちゃうん、」
 鈴木さんは見事なアルトの声だ。
「何、お前、そんなん歌たん、」
 原田が顔を向け言う。
「うん。……おれは歌いたくなかってんけど、達っちゃんのリクエストで、」
と、奥にいる達っちゃんにちらと目をくれる。彼は、知らんふり。
「こいつはね、男同士で行くでしょ、すると絶対半分は女の歌歌うんですわ。それもさっぱりしてなくて、Hっぽいのとか、切ないの。……あれ歌ったら?『忘れないで』」
 ぎょ、とする。さっと顔が強ばる。
「おれ、二度とあの歌は歌わへんことに決めてん、」
「何で」
「……ワケは、言われへん」
 原田は察したのだろう、
「あっそ、」
と引き下がる。
「ねえねえ、原田君たちって、何座?」
と、突然鈴木さんがバッグの中から雑誌を取り出す。
 それは、年末恒例●nanの占い特集だった。
「えっ……おれ、射手座」
と原田が答える。
「赤城君は」
「5月15日」
「牡牛やな。そーいう感じするわ」
「鈴木さんは何座なんです、」
と、おれが訊く。すると彼女は、
「何やと思う?」
「蠍座の女?」
と下らないことを言うヤツは、誰か分かるでしょう。
「それしか知らんのちゃん…あたし、牡羊」
「そーいう感じするわァ」
とこれは劉さんである。「見して見して、」と手を伸ばす宮川さんは「天秤座」なのだそうである。またしても女の人達は「あー、分かる」とか「そーいう感じするー」と言う。そんなに人間、単純でよいのだろうか。
「達っちゃんは?」
と、鈴木さんが少し目をくれ、言うと、原田が
「お前もおれと一緒ちゃん、射手座」
と言う。はっきり言わしてもらって、全然違うタイプである。
「おれと赤の相性見よ。何なに……、」
と雑誌を寄せ、男女間の、相性占いに目を落とす。それはおれ、牡牛座のコーナーページだった。おれも横から覗き込む。
 そこには、「射手座の男の子の家庭的な子供っぽさに、大人のあなたは物足らない」というようなことが書いてあった。
「何やこれ。当てにならへんわ。占いなんて、あてにならん」
と原田が指で弾いて不満そうに言う。
「でもお前と達っちゃんには当てはまっとるかも…」
 それはおれも思った。
「やっぱおれがお前を甘やかさなあかんねんな、……あれ?」
 おれはその時、あることに気付いて素っ頓狂な声を上げた。そしてつい、原田の肩をばんばんと叩いた。
「原田、お前、射手座ちゃうで。お前こそ、蠍座やんか、」
「何?」
 原田も不審気な声を上げる。そしてもう目を外してタバコをふかしていた彼がもう一度目を落とす。
「ほら……。11月22日は、蠍座やで」
「えーっ、」
と嫌そうに言いながら文面に2人して目を落とす。そこに書いてあったことといったら……
 ―― 一目で落ちる好相性。熱く情熱的な恋が出来る、男の魅力に満ちた相手。
というようなことが書いてあったのだ。
 おれと原田は、暫く、互いを穴の空くほど見つめ合って、吹き出しゲラゲラ笑った。
「何、何がそんなにおかしいん、」
と宮川さんが不審がる。原田は滲んだ涙を人差し指で拭き、まだ笑いながら、
「ええこと書いたあるけど、遅いわ」
とまた指で弾く。
「原田君、蠍座か。いかにも蠍座って感じ、するわァ」
 鈴木さんがうなずく。原田は嫌そうに、
「えーっ、何か嫌やなあ。蠍座って。何かねちっこくていやらしそう。イヤやわ、蠍」
「いやらしいから、しゃあないんちゃうの、」
 おれが言う。
「おれ射手座が良かったのに。何かかっこええやん、射手座って。蠍なんて、」
「それでお前信じ込んどったん?朱美さんか誰かに、言われたん?」
「うん。朱美が言うた。……あいつあんまり、占いに凝ってへんかったから、……でも、いややなあ……。でも、蠍で良かったわ」
とおれを見てニコニコする。
「占いも、当てになるもんやな」
「お前もたいがい都合いいよな」
「一体何が書いてあるん。……うわー」
 手元に引き寄せ、瞬時に読み下し宮川さんが言う。
「原田君。蠍座は、来年12年に一度の大幸運期だよ」
 鈴木さんが横からひったくりパラパラめくる。
「へー」
 原田は目を丸くして言う。
「でももう、それも遅いわ」
「何で」
「おれはもう、手に入れたもの。この上ない幸せを」
 一口吸い、少し伏せた目を上げ、原田は、
「いや、完全になるのは、そーか、来年かもな……」
 そう言ってる間、an●nは歌ってない人達の間を回っていた。皆占い好きだなあ。
「達っちゃん、お前も読みや。ホラ、」
と、さっきのページを開いて前に置く原田。
「ええとこ突いてあるわ。……もう、諦めきれるよな……」
 やばい。おれは柴本さんにしゃべりかけた。
「あ、柴本さんは?」
「おれは乙女」
 おれはニヤつき、
「らしい、って感じ?」
 その時劉さんが、「ハイ。次くらいは、入れてね」とリストとリモコンをおれに渡した。原田も、めくればまたこっちに頭を寄越す。
「『ギルティ』は、歌わへん?」
「もうあんな気分ちゃうもの。歌っても心こもらへん」
「あん時はおれ、死にたい位、参ったわ……」
「それで当然。…おれ、あれ歌おうっと、」
と、勝手にどこか後ろの方をめくる。
 おれは、あれ、を入れた。
「原田君て、11月22日なん、」
と、宮川さんが話を蒸し返す。まずい。
「そう。……あの日は、楽しかったよな。赤」
 まずい。まずすぎる。その時おれの番が来た。

この回分は通常回の2回分くらいあるんで、分けました…。てーことで、1回分増えたな…。
この回で書いてある占いの話は、実話です!でも実際、微妙な日なんすよね…今試しに検索かけてみたけど、両方ある…
この話考えたときから、たっちゃんは射手座、ってのが頭にあって、原田もなんかかっこいいから(笑)射手座、って決めて、で、原田の誕生日は話を書き進めていくうちに、都合がいいからあの日にしたのですが、後日発売されたan○n見て、正直失敗した、と思いました。でも書いてあること見て、瓢箪から駒、というか災い転じて福となす、というか。逆転の発想?で凄くいいネタになった気がします。私はその○nanを記念に取っておこうと思ったのですが、震災のどさくさに紛れてどっか行ったらしい…残念。
しかし原田君よ、12年に一度の大幸運期にあんな目に合わせちゃってごめんね…(笑

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