ブレイクスルー -4-

 おれの名前は赤城耕作。通称赤だの赤ちゃんだのと呼ばれている、現在文化住まいのプー太郎だ。
 おれには恋人がいる。元同僚の林田達彦だ。彼はおれより背が低く、外見は並。おれも人のことは言えない。
 とおれ自身は思っている。
 彼が忙しいので、そうそうは会えない。週末位だ。
 電話も週に一回くらい。淡泊だろ。
 おれは田舎に帰りたくないので、新聞を見ては履歴書を送ったりしてるが、けっこー返ってくる。今まで電算写 植だったので、例えば編集とかに応募しても経験がないし学歴がないので跳ねられる。イラストやりたいとも思うが、デザイン系の学校にも、美大にも行ってないし、作品持参なんて書いてあると怖じけて履歴書も出せない。…と中途半端な日々を送っているヤツがおれだ。
 職安にも余り行かないし、本当は会社の歯車になって働くのがイヤなんだ。
 と言えばカッコイイけど、人付き合いがうっとおしい。人見知りだし。
 今日は職安に行こうかと思ってたが、朝履歴書を出した写植関係の会社から書類審査に通 った旨電話があったので、おれはそれで何だか満足してしまい、天気もイマイチだし、行くのをやめてしまった。
 版下、出版関係の会社ってのは、業種的に地域で固まってるところがあり、面接に行く会社も、元いた会社の側だ。どうかすると取引のある会社の場合があるが、ここは大丈夫だ。おれより先に辞めて、転職している原田の会社も、この辺らしい。
 達っちゃんに電話しようかな……と思っていたのだが、なんか面倒臭くなって(何と言っても帰りが遅い)せずにいた。
 FMを聞きながら、布団の上で絵を描いていると、ドアベルが鳴った。
 時計を見れば、12時前。誰だろう、達っちゃんかな…と思いつつ、ドア越しに「誰」と訊けば、「おれ」と声が。
 原田だ。ヤツはこないだ、おれを犯そうとしたのだ。入れたらまた襲うに決まってる。
「入れないよ。帰って」
「もう終電がない」
「わざとだな。おれがそんなに甘いと思ってるのか。ずっと立ってろ」
「入れてくれるまで、ずっと待つさ。…朝までも。明日の夜も……」
 おれはドアの側から離れ、また、絵を描いていた。
 なんか落ち着かない。10月に入って、外は夜結構寒くなった。30分は経ったはずだ。おれは優柔不断なので、こういうときどうしたらいいか分からなくなってしまう。このまま朝までほっといていいのか……。
 きっと世の厳しさを知って、もう諦めるだろう。ドラマや漫画でも、よくあることだろ。でも、現実として、風邪でも引かれちゃ後味が悪い…。
 おれは長袖のTシャツに、パジャマのズボンをはいていたが、抽斗からトランクスを出して、ズボンの下にはくと、ドアの側へ寄って行った。
「まだ、居るの……?」
 返事がない。フロ場に回り、フロの窓から見下げると、原田はいた。
「まだ居たのか。帰ってくれ」
「入れてくれ。泊めてくれ」
「……。ヘンなこと、するだろう」
「お前、デキてるんだろう、達っちゃんと……。こないだいいもん聞かせてくれたよな」
 おれは熱くなった。やっぱり聞こえてたんだ。
「だから何だよ。好きなんだからほっといてくれ」
 原田がくしゃみをした。
「寒いのか」
「かなりね」
 原田のやつ、すぐ風邪をこじらせるんだ。それで会社も休みがちの、あんまり丈夫なやつじゃなかった。仕事もハードだったが。
「何もしないんなら、入れてもいいけど?」
「じゃ、そういうことで」
「……」
 あんまり信用できないけど、なんか良心が咎めるので、玄関に回りドアを開けた。
 原田はくしゃみをした。
「おれって、甘いよな……」
「全く、……」
 原田は後ろ手に閉め、ひんやりした体でおれを抱き締めた。
「約束が、違う……!」
「フロに入ったんだな。いい匂いがする」
 腰の辺りを撫でながら、
「今日は下着を着てるのか」
と言う。
「懲りたんだ。放せ」
「抱かせろよ。……お前たちが悪いんだぞ。あんなところで堂々と……忘れられない、お前の吐息が」
「あれは達っちゃんがムリヤリ、……」
 しまったと口をつぐむ。ムリヤリはまずい。
 唇を塞がれてしまった。舌が触れあう。さすがに、達っちゃんよりは、上手い。
「達っちゃんがまさか、お前に手を出すとはな」
「……」
「お前が達っちゃんを相当気に入ってんのは分かってたけど、達っちゃんもお前と一番仲良さげにしてたけど、彼の性格からして、そんなことは起こり得ないと思ってたのに」
「原田、彼女はどうしたんだよ」
「もう別れちゃった」
「今、欲求不満?」
「かなりね。で、お前以外したいやつ居なくて」
「男だよ?」
「それもまた、たまらんね。お前、妖しげな色気あるもの」
「考え直してくれよ。もう友達に戻れなくなったら、困る。おれはその、……友達で居たいんだけど?」
「平気平気」
「取りあえず、放して……」
 彼を引き剥がし、4畳半へ行く。後ろで原田がジャケットを脱ぎながらくしゃみをした。大丈夫なんだろうか。
「コーヒー入れようか」
 彼はコーヒーが好きなんだ。らしい。
 コタツの端に座る彼にコーヒーを出し、おれはタバコに火を点ける。どきどきして心臓が収まらないからだ。
「仕事、忙しいの。こんな時間に来て」
「それなりに。一時はヒマだったんだが。今の会社じゃ電算も求められることが色々多くって組版が大変だよ」
 目を伏せコーヒーをすすり、彼が言う。
「その分版下は楽になるものな。いいんじゃないか。電算の方が上がりがきれいだし」
「今じゃトンボから段組んでノンブル、キャプション、アタリ罫に柱まで入れさせられるんだぞ。訂正が来たとき大変だ。書体はやたらと多いし。何が悲しくてゴナOSや茅行書まで。あんなもん手動(写 植)で充分なのに」
「一生写植やってくつもり?」
「そーだな。結構面白いし、ここまで来たら…お前、就職は?」
「明日面接に行く。しあさっても」
「何の。やっぱ電算か?」
「1つはね」
「もう1つは?」
「……恥ずかしくて、言いたくないな」
「何で。いいやん。…もしかして、ゲイバー?」
と目を丸くして言う。冗談ではない。
「違うわ……!着物、描くやつ」
「え、着るやつ?映画村のエキストラ?」
「もういいよ……。そう、そうだよ」
 彼はくすくすと笑った。
「着物、描くやつ、か……。でもお前、マジで着る方が向いてるぞ。それも、お振りをかわいく、さ……」
「おれ25だぜ。そんなに女っぽいか?」
「最近はなー。痩せたし色は白くなったし……でもアバラは浮いてなかったな。骨が華奢で、きれいな体してたよな…」
 顔が熱くなる。何て物覚えがいいんだ。
「いいんじゃない。そんな趣味あったとは知らなかったな。好きなの、絵描くの」
「まあね」
「見せてよ。お前の絵」
「イヤだよ……恥ずかしい」
「どーせやらしい絵描いてんだろが、」
とタバコを口にくわえ言う。
「違う、ヘタだからイヤなの、……おれを勝手に、ゲイボーイだの、スケベにするな、」
 こんなに二人っきりで原田としゃべったの、初めてじゃないだろうか。身の危険も忘れて、楽しくしゃべってしまう、自分が不思議である。さすがにリーダーになってしまうだけあって、引力と魅力のあるやつだと改めて思う。
「ゲイボーイとなんぼの違いがあるよ……。ヤられてるくせに」
 うっ、と詰まる。急に身の危険を思い出した。
 彼は一口吸ってふーっと吐くと、またくしゃみをした。
「あのさ、風邪引いた?」
「熱くなろうぜこれから。するとばっちりさ」
「………」
 やっぱりそうくるか。
「男だろ、約束は守れよ。あんたは布団で寝て。おれはここで寝るよ」
とおれはコタツを叩く。原田はおれを抱き寄せた。
「おれが……好きなのか?そんなに……」
「きっとね。おれは達っちゃんより、お前に合うと思うぜ」
「おれ、達っちゃん好きなんだけど、」
「でも、おれの方が、お前のことを知っている。多分。奥深い所で」
「……。でも、おれは彼と居るのが好きなんだ。……ほっとするし、別の人間になれるような、……」
「なれやしねえよ」
 ビクッとする。すると更に強く抱き寄せる。
「お前はお前だもの。他の誰にもなれやしねえ。ないものねだりさ。憧れて同化しようとしてるだけさ」
 痛いところをぐさぐさと…。
「達っちゃんは人が好いし、あんまりつらい思いをしたことがない。だからお前に優しい……お前を励まし、包み込んでくれる、なんて思ってんだろ。彼はお前のよく分からんとこが好きなんだと、言ってたな……」
「彼は、結構つらい思いをしてるよ」
「でも、お前を甘やかす」
「いいじゃ、ないか……。それで元気が出りゃあ、」
「おれに言わせりゃ、お前のためになるとは思えない……お前と達っちゃんは、まるで違う人間だよ。一生分かり合えない」
「それでもいいんだ、そん時ゃ別れりゃいいんだから、」
 原田がおれの首筋に指を這わす。ちょっと感じて、意識が飛びかける。
「なめらかな、吸い付くような肌だな……。お前が乱れると、それこそ妖しげだろうな」
 彼はおれを女のように抱え上げ、歩き出す。
「原田……!」
 おれは冗談じゃないと、暴れる。でも彼は、おれを放さない。
 原田はおれを布団まで運び、転がした。
 唇を塞ぎ、抱き締められる。片手が、ズボンの中に忍び込む。
 両手で押し、離そうとするが、重力があるから、それにおれは非力だから、抵抗も空しい。原田は、しっかりと抱き寄せる。頬や首筋に愛撫を受け、体が熱くなってくる。ズボンが脱がされ、少し揉まれる。顔が歪む。それを見られるのがイヤで、顔を反らす。目を閉じる。
 原田が身を起こしたすきに、おれは思いっきり突き飛ばした。原田は壁に背を打つ。
「やめろ!」
 原田はせき込むと、凄い目でおれを睨み、おれを押し倒しTシャツをまくり上げた。
「一度くらい、いいだろ、減るもんじゃなし、」
「今やめないと……!」
「もう止まらねえんだ、お前のせいで、」
「達っちゃんのせいだ、」
「お前、だよ……」
 おれの両手首を押さえ、原田は股間に顔を埋める。もう……抵抗なんて、やめた方がいいんだろうか。今やめるのと、やってしまったのと、どっちが後々気まずくないんだろうか。……こうして、流されるだけ、流されていくおれって、腹が立つ。
 でも、原田のことを考えると…どうしてこんなに何のギモンもなくおれをねじ伏せられるのか、どーも考えてることが分からないが……でも、良かったと思わせてはならない、よな……い・か・ん。おれは妥協しかけてる。ムリだ、ムリだ、ムリだ。こないだで分かってるじゃないか。
「やめて、」
 げっ、声が上擦ってる。もう…何も言いたくない。
「もっと声を、出してよ」
 出すもんか。目をつむり、息をつめる。目を開けると、一層恥ずかしさが増し、どうにかなりそう。
 も、いい。とっとと、とっととやって、終わってくれ。おれだって結局はこーなるって思ってて原田を入れたんだ。そーさ、そーなんだ。
 なのに……なのに原田はなかなかおれをいかせない。そんなにじわりじわりとやらないで欲しい。中断したりして、焦らす。
 おれはどんどん消耗してきて、息が荒くなる。
 体中を甘い疼きが駆け巡り、おれは不覚にも声を上げ、出した。
 原田は、飲み、絞り出すように舌を使うと、完全に脱力したおれを放し、顔を寄せ、
「色っぽいね」
「も~満足?大人しく寝て」
「つれないね」
「おれを犯したいのか。は~やくやって、とっとと出せば?」
 原田はまくり上げていたTシャツを脱がせた。おれは、震えてるのが分かる。原田は持参のゼリーを出す。勢いよくシャツを脱ぎ、音を立ててベルトを外し、ジーンズを脱ぎ去る。
「ちょっと待って。エイズじゃないよな」
「多分ね」
 原田は腰を抱くと、穴の周りをなぞりつつぬるぬると塗り込み、指を入れてきた。出し入れする度、前立腺が煽られて、また感じ始める……
「う……っ」
 凄く圧迫されて、つらいものの、それほど痛くはない。けど、腰はバラバラになりそう。原田が入れたのだ。
 原田は、自分自身を焦らしながら、ゆっくりと味わいながら、やっている。……おれの反応を。舌が、胸元を徘徊する。
 原田もおれ並に持たせると、低く呻いて出した。おれも喘ぎながら、達してしまった。吹き上げる。原田がトイレットペーパーで拭う。
 さすがに彼女がいただけのことはある、かも知れない。でも、……認めたくない。おれは薄目を開け、睨む。
 おれは、インランじゃない。良かったなんて。
「男は、良かったかい?おれには分からんね……おれは、あれを口に入れるなんて、したくもない」
「結構楽しいぜ……、お前、達のも舐めたことないのか」
「ないよ。したくないもの」
「抱かれるのは、平気なのか」
「ラクだしね」
「お前まだ怒ってるな。……悪役に徹しちゃおうかな」
「2発でも3発でも、出せば、」
 彼は自分のものを、おれの顔に近づけた。おれは顔を除ける。
「口でやってもらおうか」
「おれのケツに入ってたものなんて、いやだよ」
 彼はペーパーで拭い、テーブルに出しっぱなしにしていた消毒用アルコールで拭こうとし、
「アチィ、」
と振り、急須のお茶で拭くと、
「ほら、」
と言う。
「いやだったら。噛みつくぞ」
「お前のここはバージンかと思うと、ぞくぞくする」
「へ……変態、変態だよ、お前は、」
「おれは絶対お前をおれのものにするぜ」
「もー1回したろ?」
「体じゃない。心をさ……お前はきっと、おれを好きになる」
「ば…ばかじゃない?おれは他のヤツが好きなんだぜ?しかも、こんな、強姦しておいて、何を強気な……」
「充分感じただろ。一晩で強姦じゃなかったと思わせてやるぜ」
「そんな暗示に乗らないぞ、」
「けっこー気持ちいいから、くわえてみろよ」
「痛い思いさせてやる」
 口を閉じると、喉を押さえてきた。開いた口に突っ込んでくる。
「舌を使えよ」
 喉を押さえられたまま、おれはいやいやながら少し舌を這わせた。
 けど、腹が立って、すぐ舌を引いた。
 原田は片手でおれの頭を掴み、喉の奥まで入れた。喉が堪えきれず、ごほっと咳をする。どこが気持ちいいんだ。
 原田は自分で動き始めた。もうおれは何が何だか頭がぼーっとしてきた。
 酸素不足だ。口いっぱいに、アレが……
「いい顔だ。赤。良くなってきたろ」
 ざ~~けんな。でも凄くヘンな気持ちがする。何度も出し入れされ、口の中の感覚が、マヒする。熱く、痺れている。
 原田が不意に抜いたとき、おれの頭は少し追ってしまった。
「………」
 顔が火照る。原田はニヤニヤしてる。
「身体ってのは、正直だよな」
 今度は全身に舌を這わし始める。きつく吸って……あとを付けている!
「やめて、あとが……、」
「ここの肉とか、好きだな」
 二の腕の裏の白い、柔らかいところをきつく吸われる。
「ヘンタイ、サド!」
「うん、そうなんだ」
「おれはマゾじゃ、ないんだぞ、」
「けっこー感じるだろ。おれは優しく扱ってるじゃないか。遊び遊び」
 膝の裏や、足首、内股、手指まで舐められ、身体を熱くしていると、原田はまたおれの中に侵入してきた。脳の芯がぼうっとなる。
 彼が胸元を抱き上げ乳首を吸う。さらさらの髪が、胸を撫でる。さらさらな長めの髪。おれは……彼の頭を抱いていた。はっとして腕を離す。
 ニッコリと笑い、おれを抱き締め、彼は唇を合わせてきた。深く貪り合う。
 おれは我知らず強く抱きつく。
 はっとし、爪を立てた。「痛」と言って彼は口を離した。
 やがてまたお互い極める。
 熱く火照った身体で、息を荒げながら、
「お前、良かっただろ、自分から求めだしたな」
と彼が満足げに言う。
 おれは目を閉じ、顔を背ける。原田のかっこいい顔でニヤニヤ言われるとからめ取られそうになる。身体は、広い胸板や長い腕に、もうからめ取られているのかも知れない。
 じょ~~だんじゃない。
 病弱のくせに、何で身体はこう、おれよりでかくて力強いかな……。
 エイズじゃないのか、こいつは。
 しっかし、もう身体も頭も消耗しきって、もうすっかり訳が分からなくなってきてる。意識はあるものの、寝てるも一緒だ。神経が行き渡ってないんだもの。
「もうやめよう……」
 原田はまたおれのモノを口に含む。
 おれは頭をはがそうとしたが、力が抜け、また、抱き寄せる形に……。
「あっ、」
 強く刺激を感じ、おれは強く掴み、引き寄せた。離したいけど、離したくない。
 おれは開き直り、なーんも考えず快楽を貪ることにした。形が良くて、さらさらの長髪の乗った頭。愛しい。
 原田もすっごく気持ちよさそうにやってるところを見ると、おれたちの、身体の……
「おれたち、身体の相性はいいみたいじゃないか」
「そーね。……でも、後味が、問題、だよ……」
 きっと殺伐とした気分になるだろ。身体だけの関係なんて。
 達っちゃんとだと満ち足りて幸せな気分になるけどさ。だっておれは、達っちゃんが好きなんだもの。
 激しく喘いで、またおれはイカされてしまった。
 汗だくだ、すごくだるいぞ。
「まだ……?」
 おれの脇の下に、腕を差し込み抱き締めるので、またおれは腕を回してしまった。
「好・き・だ・よ……」
「原田。…おれは、その……」
「待つよ。暫くは」
 唇をふさがれる。胸が切なく息苦しい。
 分からないよ。……いや、きっと好きだ。この強引さも。おれも好きだ。
 ……でも、それはきっと、達っちゃんの次に。
 でも、きっと好きだ。おれも強く抱き締めた。
「原田。おれはあんたのこと好きよ」
「そうか」
「達っちゃんの次に」
「そうかい」
「いい友達で、いようね。これからも……」
 あと1、2回して、おれたちは身を離した。
 後味は、切なかった。目覚ましをセットして、身を寄せおれたちは眠った。
 7時頃、喉が乾いておれは目が覚めた。
 隣を見れば原田が……当たり前だけど。
 そういえば、風邪は引かなかったんだろうか。……大丈夫だろ。あんだけ元気がありゃ。
 さあて、今日は面接か。また履歴書書かなくちゃ。緊張するぜ。おれはもう起きることにした。フロを沸かしたい。
 FMを付けた。ドリカムの歌が…。
  Go for IT。
 この歌強気なところが原田みたいだなと思う。でも、良く聞くと、趣味の全く違う二人の恋物語。今のおれと達っちゃん状態。
 しかし、原田はどういう趣味があるんだろう。わがままだけどしっかりしてて、頭の良く回るヤツだと言うことは知ってる。
 ここ2、3日メシを炊いていない。一応炊いとくか。
 目覚ましは7:30にセットしてある。原田は、8:30に家を出れば、9:30の就業時間に間に合う。
 付けっぱなしだった蛍光灯を消し、フロを点火し、米をとぎ、セットし、ジュースを飲むとまた原田の横に潜り込んだ。
 布団をめくると、彼のつややかな身体が一瞬全て見えたような気がした。起こさないよう、そっと、身を離して横になった。
 目覚ましが鳴る。フロを種火にし、原田を頬をぴたぴた叩いて起こす。
「起きて」
「うー。もっと寝かせろよ」
「フロを沸かしたから、入るだろ?汚いもの」
「お前はきれいずきだな」
「フケツなヤツは、嫌いさ」
 うー、と唸りながら、目が半分しか開いてない。
 おれは布団のへりに出していた面相筆を取り、あちらこちらとくすぐった。
 鼻の下とか、喉とか、…。さすがに目が覚めたらしい。
「そんないいものあったのか。昨日使えば良かった」
「残念でした。早く、フロに入りなよ…。遅刻するぜ」
 原田が裸の身を起こす。ちょっとどぎまぎする。
 おれを抱き取り、反対側へ倒れ込む。服の上から股間をまさぐられる。
「今朝ははいてねーな」
「あ、の……っ、」
「どー。おれは、強姦だったか?」
「もういいよ。そいつは。いや、良くねーな。ゴーカン、ゴーカンだよ。嫌がるおれをムリヤリと……」
 キスされると応えてしまう。
 原田は一緒に入ろうと言う。狭いからと断った。
 もう8時を過ぎている。遅刻しそうだな。
「おい、早く上がらねーと、遅刻だぞ」
 返事がない。寝てやしねーよな。ちょっと心配になりドアを開けると湯船の中に引っ張り込まれた。
「は…原田!」
「いっぺんに入った方が、手間がかからねえって。ガス代も安くつくし」
「このくそ狭いフロ場にお前と二人なんて、怖気立つ!」
 水に濡れたおれの服を脱がそうとする。
「水もしたたる……」
「あほー。遅刻するぞお前は」
「ちぇーっ。全く仕事なんてやるもんじゃねーよ。赤。仕事は選べよ」
 おれを脱がすと少しなで回し原田は湯船を立った。
「メシ炊いてるから腹が減ってたらミートボールでもチンして食ってくれよ」
「チンして……」
 なんだか怖い目付。
「レンジで、あっためて、」
「お前は」
「フロに入る。あんまりその辺あさるなよ。そーだ、歯ブラシはこないだのを使ってくれ。ヒゲは剃ったの?」
「ほおずり、してみて」
 ……早く上がってほしい。
「今日は面接だな」
 おれがフロから上がると、タバコを吸っていた。
「言わないでくれ。キンチョーする」
「わははっ。お前でもキンチョーする?」
「何言っていいか分からなくなっちまうからなー。ヘンなことしないようにしなくちゃ、」
「お前ヘンなヤツだもの」
「お前に言われたかないね。ヘンタイ」
「まあ、取り繕うのはやめて、落ち着けばいいんじゃないの?お前は上がり症だから、焦らずに、さ」
「有り難う」
「もっと大人になれよお前は」
「こんなおれに、惚れてるんだろ?」
「身体だけが目当てだ。すっきりしたぜ」
「きさま……!」
 原田はニコニコ笑うと、まぁ~たキスする。そしておれに一万握らせた。
「何これ……」
「宿泊代。プラス身体代」
「売春みたいじゃないか」
「やせ我慢せず受けとっとけよ。プーのくせに。いやだったら、就職が決まってからおごればいいよ。いや、身体で払ってもらってもいいかな……」
「……貰っとく」
「そんなヤツかお前は」
「現金で返すよ。……早く出ないと、遅刻だぞ!」
 ふとテレビを見ると、8:30を過ぎてる。あたふたと身を離し、ガス風呂の種火をまだ消してないことを思い出し、急いで消して、原田を送って駅まで行くことにした。
「また、来るから……」
「なんか、待つって言ったろ、昨日」
「待つけど、遊びに来る」
「分からない。分からないよその気持ちが」
「好きになるのに、理由が要るのか?お前の歪んだ性格を矯正したい」
「ひどい理由……」
「それに、えもいわれぬ色気がある」
「女には負けるだろ?お前はホモだったのか?」
「いや何かお前が好きだ」
 ヤツは駅で切符を買うと、振り返り、
「またな。マイ・ベイビー」
「じゃーね。マイ・フレンド」
くそ原田め。女子高生が振り向いたじゃないか。
「きさまなんか死んじまえ」
「金返せ」
「一度貰ったものは返さん」
 駅に着いても、言い合いをふっかけてくる奴。何度遅刻と言ったろう。
 改札に入る時、耳元に顔を寄せ、
「昨日は、良かったぜ。本当にお前は可愛くて色っぽい。喘ぎ声が最高だ」
とささやき去った。
 おれは突然全てを鮮明に思い出し、カーッとなると、くるりと引き返した。
 身体が、疼く。
 おれたちは、いやおれは、この後どうなってしまうんだろうか。……
 何もかも、分からない。

やっと原田君良い思いをしましたね。それにやっときっちりエロを書いたつーか…。まー私が過激苦手なので、アッサリ、ですけどね。私って「朝」書くの好きみたいなんですよねー。「初めての朝」って絶対書いてますね。
外そうと思って残した設定二つ…。一つは赤城君がイラスト描く人だということ。これは後々独立時に有利という理由。そして着物の面接に行くこと…。「お振りをかわいく」以降のセリフの流れを残したかったというクダラナイ理由のため…(汗)

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