ブレイクスルー -12-

 初めまして。ぼくの名前は原田勇二です。
 自分で言うのもナンですが、ちょっといない位いい男です。
 おれにすがる女は多く、振るのに苦労してます。
 それと言うのも、可愛いアミー、赤のためです。こんなに惚れてやってるのに、赤はおれに感謝してないみたいです。
 そんなことはどうでもいいですね。こんなことばっかり書いてると、ただのおちゃらけ者に思われてしまうかも知れませんね。
 これを読まされたら、何かおれって、ただの好き者みたいですけど、そんなことはありません。全然違います。
 それにつけても腹の立つのは、赤が、おれを描写するのに、やたらとヤツ、だの原田のヤツと書いてあることです。達彦君は、終始一貫、彼なのに、これは一体どうしたことでしょう。
 とは言え、おれに抱かれる時まではそういうワケにもいかなく、おれのカッコ良さに参ったのでしょう、彼と書いてありますね。いいことです。
 それもどうでもいいですね。おれが何で書いてるかっていうと、おれの土下座、屈辱的な、ですね、を書けと言うんですね。
 何て腹の立つ男なのでしょう、赤というヤツは…おや、ヤツと書いてしまいましたね。
 赤のヤツとの出会いは、3年前に遡ります。これにはちっともそんなことムシして話が進んでいっていますね。いいんでしょうか、そんなことで。中途採用で入った会社に、一足早くリクルートしていたヤツがいたのです。
 おれは一目見たとき運命的な出会いを感じました。……ということは、全くの全く、ありませんでした。
 色白の、ちょっとだけルックスのいい、超ブアイソウな、薄暗いヤツ、それがヤツでした。
 仕事は、おれには負けるが、まあ良くやっていましたよ、彼は。
 おれは二十歳の時から付き合ってる彼女がいたし、なんかおれを嫌がってるヤツなんかどうでも良かった。でもまぁ、あの中で一番、おれの考えてることをすぐに察することが出来るのはヤツだろうくらいのことは分かりました。人間なんて、ぼんやりしたものです。それで実は、おれもヤツはちょっとばかり苦手でした。達彦君のような素直さのカケラも見受けられなかったし、いっつも静かっぽく、何を考えてるか分からなく、おれをバカにしてるな…と思ったこともありました。おれはいつもやかましいヤツだったので。
 あの、何とも言えない目で見られたら、誰だって動きが止まると思います。
 一緒に仕事をしていたのは、1年半くらいでしたが、その間打ち解けるようなことはありませんでした。何と言っても、ヤツは、達っちゃん、達っちゃんだったのです。
 達彦君にだけは、超やさしい顔で色々教えたり、相談に乗ったりしていたのを覚えています。他のヤツには…皮肉なヤツでした。
 でもまぁ、飲みに行ったり、メシ食いに行ったり、してましたよ。何となく、同い年ってのは、つるみやすいんですよね。話題が合うし、…愚痴も合うし。
 そんでまぁ、おれや吉田が辞めても、何か会いたくなって、折角出会ったワケだし、達彦君に連絡してたワケです。彼は本当に話しやすい、いい子です。
 でも、何と言われても、譲れないものは、譲れないんです。
 さて、その内に、赤が結構可愛いヤツであることに気付きました。
 何が可愛いって、上がり症だったり、からかわれ馴れてないところです。
 それでおれは、スキさえあれば突っ込んでやろうと思ってたのですが……おれはそういうヤツを可愛がりたいヤツなもんで。彼女もツッコミ易い可愛い子でした。石原さんもなかなかいいセンいってましたけど、もうちょっと頭が欲しかったですね。こんなこと書いちゃイケマセンね。赤がムラムラくるほど惚れてたとは意外でしたが……。
 まあ、そんなこんなで、(何が?)ちょっと心の片隅にヤツが住み始めた頃、その可愛らしさを引き出してやろうと思い始めた頃、おれの彼女は転職に失敗し家に呼び戻されることになり、ヤツは会社をクビになったと聞いた。
 そこでヤツの家に慰めがてら慰められに行き、と書けば聞こえはいいけど、要は騒いでウップン晴らしに行ったのです。
 その日のヤツは、多分キレていたんでしょう、明るいヤツでした。大いに酔っ払い、潤む瞳におれはちょっとドッキリしました。ヤツは、何かなまめかしいのです。
 あのキレたような、据えた瞳の明るさは、ヤツが実は情熱的なヤツであることを教えていました。しかもしなを作り、射るような目で、ぞーっとするような色気を発散するのです。
 おれはげろげろ…と思いました。男のくせに……。
 どうやらヤツは、そういう酔い方をするヤツだったのです。今まで絶対酔わず、自分を出さないので知らなかったが、だんだん目が座り、座れば座るほど人の目を真っ直ぐ、射るように奥まで見つめて話し、しかもそれが、だるそうにしなり、声もゴロゴロ系に変化して、おしゃべりになるヤツ。
 しかしそのデカタンな魅力は、嫌だと思いつつも掴んで離さないものを持ってました。気色わるい。
 しかしおれも、すぐ回るタチなのでそんな内に思いっきり回ってしまい、思いっきり大声で騒いでいました。で、何かヤツとやたら話してたような…気がするんですが、あんまりそこのとこは、覚えてません。ヤツもあんまり覚えてないらしいです。
 その日は帰りました。夜遅くまでカラオケして、駅で別れました。ヤツは、頭はしっかりしてたみたいです。ふらふらせずに、帰ってました。
 ヤツのミステリアスとは、こういうことでしょうか。達にとってのミステリアスとは、全然違うと思います。
 おれがヘンな想像に憑かれたのは、それからだと思います。
 最初はあの目で、あの色気で、抱きつかれキスすること。上半身は裸ね。
 下半身は……ありませんでした。気色悪くて。
 思わず何度か電話しようとしました。でも…出来ませんでした。会うことが、2人で会うことが怖かったし、そんな自分がイヤだったし、……第一、ヤツも言ってましたが、オレは自慢じゃないがヤツに電話したことなど、なかったのです。あ、辞めたと聞いた直ぐ後に、落ち込んでるんじゃないかと気になって、励ましの電話を入れたか。5分も経たない内に切ったような電話だけど。
 だけど、想像はエスカレートしていくのです。
 あいつが目を閉じ、少し背をのけぞらせ、「あ……」と喘ぎを漏らしたらどんなに色っぽいだろうと。きれいだろうと。それを思い浮かべるだけで体中が熱くなり、手の平でさえ汗で湿り、あそこがゾクゾクとして芯を一本何かが走ります。
 そしてコーフンしてきてしまうのです。
 おれは彼女とは当然、ヤッてました。だから(?)口でしてもらったことは、何度もあります。そういえば、赤城君は上品ですね。描写 が……。
 ペニスとか、○んちんとか、一切書きませんね。フェラチオとか。いいですね。別 に。情緒ないですもんね。でもこういうとこが、彼の受け身のしょうめいですね。
 とにかく、その気持ち良さは知ってます。あの淫らっぽい赤城君に眉間に皺を寄せさせ、乱れさせるにはそれが一番ということは、分かります。
 もしくは、女とヤッて気持ちよがる赤城君か、……でもそれは、物凄くおれをムラムラさせました。そんなことになる前に、おれが奪ってやる…といても立ってもいられなくなり、またも電話しそうになるのですが、イザとなるとかけられないのです。一体おれは何を言うつもりなのだろう。何をする気なのだろう。
 言える訳がない。するとヤツは、「何?」と冷たく言うんじゃないだろうか。
 「いや別に……」と気まずく切っちゃうんじゃなかろうか。もしくは空しくバカ話をし、切った後がっくり疲れてますます空しくなるか……おれだって、悩むのさ。
 想像は、結構なとこまで来ました。しかも会ってないので、どんどん色っぽく、美人になっていきます。肌も白くなめらかで美しく…その辺の女共や友達なんてメじゃないくらいです。
 いい加減実物見て頭冷やしたらと思うでしょ。勿論飲み会企画しましたよ。2人で会うのは怖いから。ヤツは来ると言ってたくせに、当日になって金がないからと達っちゃんを通 じて断ってきました。
 ホントに金がないのかどうかあやしいものです。だってその数日後彼のとこに泊まりに行ってるし(そのことはきちんと付き合うまで、これを読むまでおれは知らんかった)、随分前になるけど、前の会社の飲み会には辞めた後行ったらしいんですから…これはその日達っちゃんに聞きました。
 会い損ねたおれは、毎晩の夜のお伴に、遠慮会釈なくヤツをおかずにしていた位 だったのです。
 思えば、おれがそうやって踏ん切れずにぐずぐずしている間に、ヤツはあっさり達彦君に身をゆだねていたのですね……お初を、全て捧げていたのですね。リップサービスは、おれのモンですけど。
 彼女とはきれいさっぱり別れたし、…寂しい時代でした。でも、それはあくまでおれの想像の中の、実物とは切り離した赤城君とまだ抵抗していました。
 だってそんなに美人で色っぽいはずはないですもの。嫌悪感もありましたし、赤城君に対する罪悪感もありました。でも何となく、そういう記事に目が行くようになって…雑誌を見ていると、つい目が行くのです。
 おれは何度、友達を拝み倒してイッパツやらしてくれと言いそうになったことでしょう。友達に女紹介してくれと言ったでしょう。街で女を物色し、ひっかけようとしたことでしょう。
 でも出来ませんでした。赤城君の方がイイのです。
 ンチがついてもいい、でもそんなことはどうやらメッタにないらしい、だったらなおのこと犯してみたい。とまで思うようになりました。さすがに彼女とはアナルまではしたことがありませんでした。
 この手で抱き締めて、オレの腕の中でヤツを乱れさせてみたい。というか、下世話ですけど思いっきり突き立てて泣かしてみたい。口付けたい。もう完全に頭に血が上っていました。
 そして、運命の夜はやってきたのです。
 赤城君は日に当たらず、伸ばし放題の髪で、一層白く、危険な色気を増していました。もう、ゾ~~ッです。おれは、アタックすることに決めました。結構落ちそうな気がしたし、もうヤツの性格は飲み込んでいたし。おれが開き直りさえすれば、おれの押しには弱いはずです。
 早く身体が、唇が欲しかった。もう収まりがつきませんでした。しかし、実物は、そうそう落ちませんでした。達彦君には怒られるし…だから、やっぱり、男なんてやめよう、と思っていたのに、思っていたのに…です。
 その夜、こともあろうに赤城君は達彦君に喘がされ、本物の身の毛もよだつような、あそこをきゅっと締め上げるような吐息を聞かせてくれたのです。腹の立つ……。
 もういいですかね。会う度惚れていきましたけどね。だってヤツは、本当に可愛かったんですから。身体もバッチリだし。
 さて、土下座ですね。しましたよ、ぼくは。
 ちょっと文章変えましょう。ですます調は、やめましょう。
 あ、あともう一つ。おれも25、11月で25になりますが、あ、おれは射手座の男です。じきに回りから「結婚は?」と言われること請け合いです。その時どうしたらいいのか、もう考えてます。親にはっきり言えるわきゃないし、困ったものです。「仕事が忙しくて、それどころじゃない、女作るヒマもない」これしかないでしょう……。
 実際この業界、40過ぎても独身男があんまし珍しくありません。
 でも赤城君は、あれでも一応長男ですからねえ。一応。
 でも田舎に帰る気は全くないと言ってますし、おれも帰す気はありませんし。
 おれの事業を、是非とも手伝って貰わねば。彼はその気になったら、凄く役に立つ男です。燃えさせる勘所を、あとは掴めばいいのです。すると、燃えながらも冷静に物事を進めてくれるはずです。計算は得意な男ですから。
 さて……。
 おれは赤と別れた後、即座に達のところに行くことに決めていた。
 2人を会わす前に、おれが達と話をつけないと本当に2人が抱き合ってしまうと思ったからだ。
 達は絶対に赤を思い切れていない、会ってしまえば、要求せずにはいられないだろうし、赤は赤で情が深すぎる、優柔不断なところが災いして、そんな達をむげには断れないに決まってる。どうしようもなく申し訳ないと思っているのだから。
 おれの家は達の家とは近いので、大体どの辺かは知っていた。
 駅で降りて、10分位歩いて、彼の家まで辿り着いて、おれはベルを押した。
 少し緊張していた。
 お母さんが出てきて、達彦君を呼んでもらうと、彼は2階から階段を鳴らしながら降りてきた。おれを見ると、さっと顔を強ばらせ身体を固めたが、黙って降りて来て、おれの前に立った。
 おれは、
「話がある」
と言ったら、彼も
「おれも言いたいこと山ほどある」
と言った。
 ここでは何だからということで、彼に外へ出てもらい、隣の駐車場へ行き、おれと達は、1m位 空けて向かい合った。
 達彦君は、おれをじっとにらんでいた。拳をぎゅっと強く握りしめていた。
 おれはおもむろにひざまずき、
「ごめんなさい」
と言った。
 彼は一瞬あっけにとられたようだったが、すぐに怒りを取り戻し、
「ふざけるな……!謝って済むことか!」
と怒鳴った。おれはその姿勢のまま、額を地面にすりつけ、
「悪かった。本当はちゃんと宣告しようと、思ってたところだったんだ。どんどん諦めきれなくなって。…申し訳ない」
 すると達は、
「汚いよ……!おれたちが付き合ってること、知ってただろう?なのに赤に手を出すなんて…!やらせた赤も赤だが、お前はもっと許せない。抱きさえすれば奪えると思ってたんだろう」
「勿論おれはおれを愛させようと思いながら抱いたよ。ヤツの身体におれを刻みつけようとね。1秒たりともムダにせず」
 おれはもう頭を上げ片膝を立てて達を見上げながら言った。
「何で赤なんだ……。お前ならいくらでも相手がいるだろ。赤でなくても。赤を諦めても」
「だっておれは、諦めたくなかった。絶対に……。後悔したくない。振られない限り、諦めない。本当に好きなんだ」
「振られても、諦めないんじゃないのか」
「お前はどうだ」
 ヤツは無言で目を反らした。
「ずるい。お前相手じゃ勝ち目ないよ。簡単に奪えると思って平然と赤を犯したんだろう」
「勝ち目なんか……。そんなことは考えなかった。ただおれに振り向かせたいと思った。おれの方があいつを知ってるという自信はあった。達、お前はどうなんだ。ヤツを理解しようとしてたのか」
「理解……だと?おれはお前なんかより、長い間一緒に居たんだぞ」
「だったらどうして、分かってやらない……。好かれていることにあぐらをかいて、放っておいたりしたんだ。…お前の敗因はそれだ」
「放っておく?おれは放っておいたりなんか、してない」
「確かに放っちゃいないかもしれない。でもお前は、あいつの心を掴もうとしたか?掴んでいるという、実感はあったのか?あいつは優しいよ。そしてお前が好きだから、お前が本心から望めば、何でも与えたはずだ。それがいいことだったのか、おれには分からんが。あいつはお前の受け皿になりたかったと言ってたよ」
「受け皿……」
「そしてもう一つ。お前は簡単に引いたな。そういうしつこさの欠けてる所が、既に負けてるのさ」
「だって、しょうがないだろう……!赤は、お前に抱かれたいと言うんだから」
「だけど、お前を嫌っちゃいないんだぞ。……おれなんか、もっと不利だったんだぞ。だけどおれは、諦めの悪い、しつこいタチでな」
「だけど勝算はあったんだろう。お前はルックスはいいし、彼女もいた、おれみたいに、フラレ通 しの男とは……、」
「ばか。おれはただ、お前に負けまいとしただけさ。おれがお前だったら……赤が好きで堪らなかったら、他のヤツに心が移りかけたからといって、自分から断ち切るようなことはしないぜ……あんなひどい、抱き方は。自分がどれだけ愛してるか、激しく思い知らせてやるよ」
「超自信家だな。お前も一度、こっぴどくフラレりゃいいんだ。Hの場数は踏んでるしな」
「あんなもんは、想像力と思いやりだ」
「お前はおれを、けしかけてるのか、」
「その反対。もう手も触れないでほしい」
 ヤツは歯を食いしばった。
「ただ、恋愛っつーのは、嫌われてない限り、いくらでも可能性はあるってこと……。おれもお前が好きだから、ねじ曲がって欲しくない。それでつい、レクチャーしちまうのさ」
「だったら赤を、返してくれ」
「それは全く別。第一あいつは、物じゃない。…でも、もう指一本触れないでくれ。触ってもいいけど、抱いたり、キスしたりするな。あいつはもうすっかり、おれのものになったんだ。やっとね……」
 いよいよ来た。達は目を吊り上げ、近寄りざまおれを殴った。
 黙って殴られてたまるかとおれは思い、立ち上がって彼を殴った。
 殴られ放題殴らせてやろうと思ってないこともなかったのだが、そんなの我慢ならなかった。その方がいいとも思った。
 彼はおれを罵りながら、涙で目を潤ませながら、かかってくる。
 罪の意識を感じないではなかった。だけど、おれは引きたくなかった。
「泥棒、」
 彼が言った。
「盗られたくないものは、大事にしまっとけよ、」
「おれがどんな思いで、あいつをものにしたか、お前に分かるか……!お前みたいな、ナンパ師に、」
「おれはナンパ師じゃない、」
 彼の涙のこもったパンチを食らい、おれは頬を押さえ倒れ込んだ。おれが見上げると、彼は息を切らしておれを見下ろしていた。
「ひどい、ひどいよ……!おれがどれだけ勇気を出して、あいつに言ったか……!拒まれなかったとき、どれだけ嬉しかったか……!」
 おれはじっと黙って座ってた。
「おれはてんで自分に自信のない男さ。だからもう随分前からあいつが好きだった。友情なんかじゃなく、愛情だと知ったときは、ガクゼンとしたよ。いくらあいつがきれいでも、男なんだからな……!」
「お前は面食いだからな。お前の好きになる女ときちゃ、お前に合いそうもない冷たい美人が多かったよな。……赤も、その口か」
「うるさい……!そうさ、その流れかも知れない。確かにおれは、あいつの全てを知ろうとしなかったかも知れない。知りたくなかったのかも知れない。あいつはおれに憧れてる、崇拝してると言ったが、おれこそあいつを神秘な存在から引きずり下ろしたくなかったのかも知れない……でも、3年もの付き合いがあるんだ。3年だぞ…気心が知れていると思ったって、おかしくないだろう?」
「お前は、お人好しだ」
「……!おれは淡々としてるんだとさ。しょうがないだろう?今まで付き合ったことがないんだから。駆け引きなんて、出来やしない。セックスだって、あいつをなかなか満足させられない…だけど、一緒に居るだけでも、好きだから幸せだと思った」
 達は目を反らして語り続けた。
「それに、実際淡々としてるから、恥ずかしいから愛してるなんてなかなか言えない……カッコいいことなんか出来ない」
「言えば良かったんだ。飽きる程。あいつはそれを求めてたはずだ。ましてや、お前が実像でなく虚像で満足していると知っちゃ、」
「虚……像?」
「あいつは前からお前を騙していると言っていた」
「……。演技、か」
「きれいでミステリアス…それは魅力的だよ。でも、いつまでもミステリアスなんかじゃいられない。しかもヤツは、就職で心を不安にしている…気休めより、実体を掴むことの方が、大事だ。その上で、思いやりを示す方が。おれはカッコ悪いくらい好きだと、愛してると言ったぜ。自信がないのは、誰だって同じ。まさかお前が、あいつに惚れて、身体を自由にしているなんて、全然想像もしなかった。あの夜まではな……。ショックだったぜ」
「お前はいつから、あいつが好きだったんだ」
「さあ……?多分、あいつが辞めた時。遊びに行った時だな。その前から気にはなってたけど。でもそれは、身体が欲しかった訳じゃない。その時も、ゾクッときたけど、抱きたいなんて思わなかった。男だからな……」
「おれはあいつが辞める頃には、いつどうやって、伝えようかと考えてたよ……。毎日、毎日。関係が失われることが、怖かった」
「それはきっと赤もさ。今もね。分かってやれよ。……」
「だけど今更、お前の影を見ながら、あいつと昔通りになんて、情けなくて会いたくない。いつ、抱いたんだ。何回やったんだ。……どこがいいんだ。やっぱりきれいだからか……?」
「あいつは可愛いヤツだよ。確かにキレイだけどね。きれいなだけじゃ、つまらない。回数は……そうだな、」
とおれは指折り、
「3回で8回位。あ…4回で9回位?いくらやっても、やり足りない。大体お前は、やっぱり放ってたぜ」
「この間の飲み会は、後悔してる。引きずってでも連れていくべきだった」
「そう、そう、そうすること。今度から気をつけろ」
 達はしゃがみこんだ。おれは、ずっと体育座りしてる。
「どうなんだ……?諦めきれるのか?おれとしては、諦めて欲しいんだがな。おれは多分、あいつを放さないよ。いつまでもね。もう将来設計もしてるし。ま……おれの言いたいことっつったら、この位 かな。とにかく、すまんとは思ってる。フェアじゃなかった。だけどおれは、わがままな男だし、お前なんかに、赤を渡したくなかった。おれはあいつの、ベールを取り去ってやるつもりだ。ベールは、逃げだ」
「分かったよ…おれは、負けてるよ。おれはそんなこと、何も考えてなかった。最初のうちは、ちょっとは思ったけど、おれはあの赤が好きだったんだ。他のヤツには冷たく、おれだけに優しい赤が。だけど…未練は断ち切れないよ」
 おれは立ち上がった。少しケツを叩いて土を払い、
「どうだ。まだ殴りたいか……?気の済むまで、やっていいぞ。ただしおれも、ただじゃ殴らせないけどな」
 ヤツは目をアスファルトに落としたまま、じっと黙ってる。
「アタックしても、いいよ…。すればいい」
 おれはタバコに火を点けた。一息吐いて、達を見る。ヤツは下を向いたままだった。
「お前が好きなのを、止める権利は、全然おれにはないからな。でもおれは、負けないよ」
 達は、震える拳を握りしめてる。身体もわなないてる。泣きそうだな…とおれは思った。
 寄って行って、しゃがみ込み、肩に手をかけた。
「ごめんな…許してくれ…とは、言わないよ。だけど、赤とちゃんと話してくれ。…11時前か。飲みにでも、行く?」
「お前って、ずうずうしいヤツだよな。全く…しかも憎めないヤツだから、悔しい。……今夜は、行かないよ」
 そう言って目を上げると、あっという間に、おれは強烈に左の頬を殴られた。
 不安定な姿勢だったので、おれはモロにひっくり返った。ちょっと口が切れた。
「またな。原田」
 彼はそう言うと、家に帰って行った。
 全く達は、イイヤツだ、とおれは思った。
 その日、何日ぶりかでおれは家に帰った。

原田君の一人称語り…いや、言い訳させたかったっつーのもあるし、土下座を赤城君に書かせてもなあ~と思い…。でもやっぱり、主眼は言い訳(笑)。あんなムチャクチャやっといて、こんな言い訳で納得できるのか否かは分かりませんが。ムチやクチャと言えば達彦君もそーとーのもののような気がするのですが、ひとつ納得してやってくださいよ!(汗)
 パート3から読んでる方で、そんなセリフ覚えてらっしゃる方いるかどうか分かりませんが、「あれ?達彦君『大っ嫌い』は?」と思った方…それは、この先なのでございます。達彦君、今回一応理性では納得したようなのですが…(何分人が好いからねぇ)

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