初もうで三都物語 大阪

注:作者は住吉大社に一度も行ったことありません。回りの人も…(汗)

 元旦の雪降る幻想的なまでの寒さの中、なぜなのかを潮崎は考えながら、佇んでいた。
 なぜ、自分は今ここ住吉大社の太鼓橋の頂に立って水に映る美しい雪景色を眺めているのか。
 なぜ、地元の神社ではないのか。
 そして、なぜに……
「潮崎さん。何ぼっとしてんですか。こんなとこじゃ風邪ひきますよ。早く次行きましょうよ」
 そう、なぜに。潮崎にはツレがいた。そのツレがボケッと佇む潮崎のダウンの腕を掴む。
「おっと、」
 その瞬間恐ろしい程反り返った上に濡れた橋に足下を取られ、滑りかけて潮崎は肝を冷やす。そこをぐっと意外な程に安定した強い力に抱き留められ、潮崎は益々肝を冷やす。
「危ない!……こわっ、落ちたらシャレにならんですよ。……」
「お前が急に触るからやろ、」
 慌ててその腕の中から潮崎が逃げれば、その腕の主、野々垣はにっと口元を歪ませ、幸せそうに笑って潮崎を見る。
「そーですね。すみませんでした。それにしても寒いから早く参り終わって、暖かいところいきましょうよ」
 そううそぶく野々垣もぶかぶかのダウンを着て、相変わらずキャップを目深にかぶり、冷気の漏れいる隙間もなさそうだった。
「何が早く参り終わって、や。おれはもう参ったからはよ帰ろ言うてんのに、お前がまだまだ、次々、言うてなんかワケわからんお社も回ってるくせに。まだ終われへんのかよ」
 そう、なぜに。
 なぜに自分の隣には野々垣がいるのか。なぜに野々垣と元旦一発目の初詣に出なければならなかったのか。
 いや、それに関してはたまたま予定を抑えられてしまったからだったが、まだまだ分からないことがある。
 それが野々垣の参拝方法だった。
 野々垣は全く信心など持ち合わせてはいないようなタイプに見えるのだが、小さな社もこまめにごていねいにお詣りをしている。
 また、その賽銭の上げ方も見ているとわからない、というか随分ケチなものだった。
 潮崎は最初、野々垣がそんなことを考えているとは思わず、本殿でだけお詣りすると思っていたので、思い切って500円ばかり投げこんだのだが、隣の野々垣はたった一円を投げていたのだ。
 本殿で一円……?却って神様にムカつかれるのがオチじゃないのか。何考えてんだこいつ。と呆然と見送った潮崎だったが、それでも野々垣みたいなタイプだ、賽銭上げるのもバカらしいんだろうと解釈し、踵を返したところで野々垣に後ろから抱き留められて潮崎はぞーっと寒気がした。
「潮崎さん、折角来たんだから、こんなに沢山の神様がいてはるんやから、全部きっちり参っていきましょうよ」
「はあぁ?お前そんなタイプか?」
 野々垣といえば、良くも悪くも今風というか、信心もなければ早起きは三文の徳とか精力的とかいう言葉が全くそぐわない男だった。
 それが、折角来たから全部参ろうだと??それもこの寒いのに??
 呆然としつつも楽しそうな野々垣にイヤとも言えず、潮崎はかなりの時間付き合ってやっていたのだ。
 そして、祈る野々垣は妙に真剣で、その瞳はひたむきで。
 しかしもう賽銭を上げる気のない潮崎が見てる横で野々垣は、真剣なのかふざけているのか分からないような賽銭を上げ続けた。1円、5円、10円、…と安い硬貨を一枚ずつ上げているかと思えば、なぜか3円、4円、と何枚か纏めて。
 そして今、10円を上げ熱心に参ると、
「じゃ、行きましょうか」
とにっこりとして言った。
「ああ。うん……」
 そんな野々垣を横に立ってポケットに手を突っ込んで見ていた潮崎は、その声に我に返り賑やかな参道へと取って返す。
「お前、ようさん祈ることあんねんなー。…でもあんな賽銭の上げ方じゃ、御利益ないん違うか?」
 すると野々垣はチラと目だけで隣の潮崎を見上げ、
「そんなこと…ないですよ。おれ、考えて考えて考えたんですから」
「何を」
 野々垣の妙に必死なものいいが、潮崎になんだか可愛いと思わせる。
「おれ、考えたんです。願い事が叶いやすくするにはどうすれば有効かって。1人の神さんに大枚はたいてお願いするのが普通でしょうけど、こんなよーさんの人が願いごとするお正月には、オレ1人の願い事なんて聞き漏らす可能性大ですよね。せやから、沢山の神さんに同じお願いをした方が誰かに繋がって聞いて貰える可能性高いんちゃうかと、」
「繋がるて、電話のチケ取りかよ、」
「まぁそんなもんです」
「で、何そんなに熱心に願っとってん、」
 すると野々垣は意外に長い睫を伏せ、微かに笑った。
「今年こそは、潮崎さんのキスを奪わせて下さいと、」
「ぶ、」
 潮崎は思わず口を押さえて身を引く。
「あのな、お前な、……そんなこと、真剣に祈るようなことか、もっと仕事のこととか、他にいろいろ、」
「……だってオレ……分かってないんですね。潮崎さん。おれがどの位の気持ちなんか。オレ自身の力じゃどうにも出来そうにもないことって、これくらいなんすよ、しかも凄く欲しいんですよ」
 そしてニヤリと笑うと、
「金額にも意味を込めてみたんですよ。ほら、よーあるでしょう。ニュースで。小切手で2951(ふくこい)とか縁起担ぐヤツ。だからおれもね、イイコトサシテ、って……」
「いっ……?」
 イイコトサシテ……?
 イイコトってイイコトって。……ナニのことなのか?
「ようそんなことオレの前で言えるな、」
「そうやって嫌がる潮崎さんもね。素敵だし。ちゃんと知ってほしいですからね」
「絶対やらんで、」
「勿論潮崎さんから貰えるとは思ってませんよ。だから丁寧に、今まで以上に仕事で潮崎さんがおれに貸しを作り、おれはそのお礼をキスさせてと願い出て、渋々潮崎さんがさせてくれますようにとお願いしてましたから」
 そんなご丁寧に祈っていたのか…だから長かったのか…なんだか脱力した潮崎は寒さも感じず、踏み荒らされた雪でぬかるんだ道に手を付きたくなっていた。
 でも確かに、野々垣には世話になっているんだよな…去年風邪を引いたときも、それ以外でも独りでやってる仕事の手伝いに、一番呼びやすくついついこき使っていることを思い出す。そしてそのクールな外見からは信じられないほど、いつも嫌がらずかゆいところに手が届くように手伝ってもらっていることを。
 潮崎だって、野々垣がウソを言っているのではないだろうことは分かってる。決してふざけてるのではなく、自分を好きでいてくれてるらしいこと、だからこそある意味不毛とも取れる奉仕の精神すら持って、野々垣が尽くしてくれていることも。
 それに自分が気付かない振りで甘えていることも。
 でも、なあ……。
 潮崎の心にジレンマが湧く。男に惹かれたことはある。
 でもそれはとても可愛い男で、物凄く男の奥深いところを狂わせる人間だった。
 野々垣とはまるで違うタイプ。

 だけど、なあ……
「どこ行くんです?」
 野々垣に不思議そうに声をかけられて、潮崎ははっと我に返る。ふと気付けば、余り人のいない寂しいところに来てしまっていた。
 ええい。これも神のお導きか。
 とっさの判断で決めてしまうと、思い切りもよく潮崎は振り返りざま野々垣の後頭部を掴み重ねるだけのキスをした。
「………」
 時間にするとほんの数秒だったが、野々垣にとって、時が止まったような、心臓も止まったような時間が過ぎる。
「潮崎さん……」
「バーカ」
 潮崎はくるりとまた振り向き、背中をみせる。
「願いは叶ってへんぞ。おれは奪われたワケとちゃうからな…これは今までの礼、お年玉や。カンチガイすなよ。おれは貸し借りはキライやねん、」
「……はい。んじゃ、おれ叶うように頑張りますから、」
「別に頑張っていらんけどな…じゃ、冷えたからお好みと熱燗でも飲んで帰るか、」
 そしてさむさむ、と身体を震わす潮崎。
 それに対して野々垣は寒さを感じていなかった。こんなに直ぐに御利益があるなんて。心臓が活発に動き、身体を熱くする。直ぐに願いを叶えてくれた天を仰ぎ、密かに来年もこの参詣方法を続けようと誓う野々垣なのだった。

ネタは簡単に出来たのですが、文章に上手くできません…(つд`) あとの2つも楽しいネタではあるんですが、上手く書けるのでしょうか。心配です…

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