初もうで三都物語 神戸

注:作者は生田神社に一度も行ったことありません。

「仁史君。あっ、これ。あけましておめでとう」
 そう言っていつになく明るい声でニコニコ笑って、その人はお年玉のポチ袋をくれた。
 分かっちゃいるけど、こういう時悔しくなる。ちっぽけな男のプライドが、疼く。
 そしておれはうつむく。
 おれは充分バイトで自分の小遣いはかせいでいるからお年玉はいらないとか、お礼におれがおごるよとか、おれからもお年玉とか、つまらないプライドで言ってみても、それはほんとにつまらない意地でしかない。
 社会人で、おれの親戚でもあるこの人がまだまだ子供、学生であるおれにお年玉をくれるのはごく自然なことで。それを拒否することはこの人の礼儀の心を拒否することで。
「……すみません。ありがとうございます」
 俯いたまま渋々貰えば、赤さんはまたニッコリと笑い、
「おれと原田から。だからちょっと多めに包んであるんだ」
とかおれを更にどん底に落とすようなことを言う。
 折角おれが、正月に初詣に誘い出せたのに。おかんを使って、と微妙に卑怯な手ではあるが。
 首尾良く我が家へ来てもらって、親戚水入らず和気藹々、おとそやおせちなどをふるまった後、和裁が趣味のオカンの手によって襟元も足下も色っぽい着流し姿に着替えてもらっていい雰囲気で初詣、とプラン立ててたのに。
 なぜか赤さんにはでっかいコブが付いていたのだ。
 なんだコイツは。いや見たことあるぞ。そうこんな着物なときに。そうだアイツだ。あの夏祭りの浴衣の赤さんに、ペッタリくっついてた男前だ。
「友達なんですけど、いいですか?」
と赤さんがなんだか妙に眩しい表情で彼を差し、
「原田です。あけましておめでとうございます。お邪魔してすみません」
とその男は頭を下げて菓子折を差し出した。
 そのままあらあら、と鼻の下を伸ばすオバハンことおれのオカンに促され、2人はリビングのコタツに移動し、それからは予定通りのことが始まったワケだ。
 このでかいコブ付きで。
「お正月はいつもこっちに?」
 オバンがお茶とお重を勧めながら赤さんに尋ねれば、
「ありがとうございます…そうですね、最近はずっと…なんでこんな豪華なお手製おせち、感動ものですよ、」
と本当に目を細めて幸せそうにお重を見る。あーその表情を見ただけでおれの心臓は一気にヒートアップ。オーバーヒートで止まりそうだ。
「どんどん食べてね。オバサン赤城君にいっぱい食べて貰おうと思って腕によりをかけて作ってんから。でもお義姉さんさみしいでしょうね~。お義姉さんあれで心配性やし、」
「ハァ……」
 あっ、赤さんの表情が暗いぞ。オバン!
「でも!いつでもウチに来てね。今までは遠かったからメッタに会われへんかったけど、こっちにはあんまり親戚もおらへんから、うちをこっちでの親と思ってね」
「ありがとうございます……」
「さあさ、どんどん食べて。お雑煮も用意してるのよ」
 ………どうだ。とおれはその会話を聞きながらジーンとしていた。親戚ならではの会話!余所モンの男には疎外感感じる空気だろ。邪魔なんだよ、帰れ!
 と思ってみても、平気そうな顔で赤さんの横に座ってその男は平気でお重に箸を付け、お茶なんか啜ってる。
 そこはおれが座ろうと思ってたポジションなんだよ。なんだずうずうしい。
 赤さん反対側には、オバンが陣取ってる。これも赤さんが来る前からの予定通りだ。赤さんを可愛いと思ってるオバンは、赤さんが来る前の関取合戦で、『赤さんの右側』を選んだのだ。おれは左側。それもおれが先に決めた。
 結果、おれが貧乏くじを引いている……
 ええい、せめて早く、早く着物姿を…魅惑の襟元を。
「お母さん。そろそろ着物を」
 流れを読まずに発言してみれば、オバンがおれを八の字眉毛で見る。なんだ?
「雪が降るまではねえ、そう思とってんけど、この寒さで、雪でしょう。草履は濡れるし、滑ったら大変やからねぇ、」
「じゃあ初詣行かなくてもいいからさぁ」
 おれにとっては着物>初詣なんだよ。
「あんたが決めることじゃないでしょう」
 オカンに言われてシュンとなる。すると赤さんが、
「あ、でもおれ、着てみたいです…自分じゃ上手く着られないから、」

年の離れた年下攻めが好きでついつい何度も使ってしまうネタが、「社会人の受けにお年玉を貰って悔しがる攻め」なのです。なので何度も書いてごめんちょ。初めて書いたのは赤城君と道隆クンだったな。あんときはむしろせびってましたが(笑)

Copyright 2005 Lovehappy All Rights Reserved.