天六ミッドナイト・フラワ~ズ  7

前回までの活躍数
道隆
土井
原田
小山
潮崎
達彦
赤城
高階
吉田
野々垣
2
1
 
 
 
 
±1
1
1
 

恐ろしく間が空いて…というか超放置ですみません。というか完全に無茶しました。土下座します……

 野球において、守備位置に球が飛んでこないでくれと願う場面が幾つかあるという。
 まずはノーヒットノーランのかかった、最終イニングの押し迫った場面。
 そして、大事な試合での先取点を奪われそうな場面。つまり、今のおれたちだ。
 場面は7回裏。ワンナウトランナーは1、2塁。そして高階君のピッチング。どう考えたってやばい。
 それなのになぜ今まで点が入らなかったのかといえば、そこは守備の上手いみんながフォローしてこそだった。
 そしてバッターボックスには甲子園出場経験者(思い出要員)。
 これは、絶体絶命のピンチなのではないか。思わず喉が鳴る。おれとしては点が入って欲しいのも山々だが、自分のとこに飛んできたら困る。おれはエラーをする訳にはいかない。普通 に飛んできてヒットになって点が入っても、みんなは納得しないだろう。そう思うと、益々緊張してきた。
 原田がまたチョイチョイと皆に守備位置の指示を指先で出す。バックホーム体制の前進守備。まあ妥当なところだろう。
 しかしいかんせん前に出たところで、おれは肩が強くない。以前の問題だ。球を投げるのは、苦手です。
 なので余り前には出ず、多分定位置なとこから大した移動はしなかった。

 どうか、球が飛んでこないでくれ……

 そんなおれの願いも叶わず、なぜかおれの方へ飛んできた。
 なんということでしょう。頑張って突っ込んだが、無情にも前へポトリと落ちる。セカンドランナーはホームへ。おれがバックホームなんて出来る訳がない。
「赤城さん!」
 おれを呼ぶ土井さんにどうにか球を返すが、あっさり先取点が向こうへ……。

 どうにかその回はその1点で終了できたが、おれはベンチへ戻るのが憂鬱で仕方がなかった。
 ベンチ前では原田がおれを睨んで待っている。
「なんでお前はおれの言う通りせえへんねん。逆らうから、こないなことになったんやんか。もしかしてお前、おれに不満か」
「不満やなんて…、逆らってなんか、おれへんわ、」
「じゃ、なんでおれの言う通りにせえへん?お前はな、判断力が無いから、おれの言う通り、おれの後を付いてきたら間違いないねん、それを、」
「……!それってどういう…!おれかて男やで。1人の思考力持った人間やで。自分で考え、判断した答えがお前と違ってて、自分の思った通りに動いたら、あかんわけ?おれって何なん?お前にとって、」
「そやかて結果はこれやん。大体な、お前よりおれの方が色々なんでも分かってんねん。それをフラフラフラフラ、勝手に動き回って。自分の方が判断力ない、判断できひんと判断するのも、判断力やで」
「じゃ、判断出来る、考えれると判断するのも、判断力やろ?結果はともかく、おれには考え、体験して学習していく権利もないわけ?」
「そう。経験は大事やよな。体験して学習していくのは」
 潮崎さんが、横からうなずきながら言う。
 ふと気付けば、皆ニヤニヤしておれたちの痴話喧嘩を眺めていた。
「赤城さんにだって、色々体験する権利、勿論ありますよ。そうでないと身に付きません…という訳でおれと体験しましょう。青い体験」
 今度はそれこそ悪魔のほほえみで、高階クンがニコニコ言う。
「冗談じゃないわ、そういう意味ちゃうわ……!てゆうか、おれそこまで若ないって、」
 おれがそう言えば、原田も
「あほかお前そんなん許すか。絶対お前みたいなハイエナに食いつかせへんわ」
 と返す。高階クンは、「ケチ……」と小声で言っていた。

 そんな高階クンだが、潮崎さんはもう一杯一杯も一杯一杯と観念したのか、次回からピッチャー交代を高階クンに告げた。
「えっ?おれ、まだ行けますよ」
「いや、もう、ムリ。見てるおれが、ムリ」
 要するにハラハラして心臓に悪いという訳だ。同感だ。ボールが多くてイニングも長いしな……。
 潮崎さんは、野々垣さんに真面目な顔で向き直る。先制されたとはいえ、1点。おれには遙か遠い1点に感じるが、潮崎さんは諦めてないらしい。
「おい、のの、頑張れよ、絶対。失敗したら許さへん」
と凄む潮崎さんに、野々垣さんはおれをちらりと見て、
「あーでもおれ、赤城さんレースには興味ないんですけど。…でもこれ押さえれたら、MVPもんですよね?」
 うっ、となる潮崎さん。野々垣さんは笑って、
「そういう訳で潮崎さん。おれが押さえれたら権利あげますよ」
と言う。「何?」というハーモニー。嬉しそうなのは潮崎さんで、残りは恨めしそうな声で。野々垣さんはそれをBGMに晴れやかに笑うと潮崎さんを見つめ、言った。
「その代わり、ただじゃあげれません。……潮崎さんおれにキスさせてくださいね」
「な、何~~?」
「えーそんなこと言う?こんなしんどい場面でそう言われても、報われるもんがないんでほんましんどいですー…こんなプレッシャーじゃ、おれ潰れてしまいそう……ね、潮崎さん」
 回りの目が潮崎さんに集中する。勿論、おれの目も。潮崎さんは「う、うう…」と唸ると、
「くっ……しゃ、しゃあない……のか…な。ううう……が、頑張ってくれ、のの。おれを犠牲にするから」
と本当につらそうに言った。潮崎さん、やっとおれの気持ち分かったでしょ…言い出しっぺが割を食う。おれはちょっとせいせいした。
「アレーののちゃんおれのこと好きでいてくれたんちゃうかったん?おれのキスはいらんー?」
 また誰かが、余計なことを……おれは眉をピクリと動かすと、暢気な声を出すやつ…原田を睨んだ。


 苦悩の顔がセクシーな潮崎さんをよそに、野々垣さんはもっと早くから代わってれば、と思えるほどの美しいフォームからキレと勢いのあるシャープな球を繰り出す。
 おれが見ててもそう思うんだから、敵はより球の違いを感じているだろう。面食らってる。
 あっさり三振で三者凡退に切って取ると、潮崎さんにニコリと笑いかける。潮崎さんの苦渋の表情が楽しくて堪らないおれは案外Sなのかも。


 いよいよ試合は9回の攻防を残すのみとなった。点差は1点。進展はなかった。
 先攻の我がチームは8番の野々垣さんから。
 野々垣さんは余り打撃には興味がないようで、あっさり三振となって戻ってきた。ワンナウト。
 次は吉田。さりげなくやる気を漲らせているのがおれには感じられるが、やる気満々すぎたか、打つタイミングが早すぎる。ファールで2ストライク、最後は追い込まれてあっさり三振だった。ツーアウト。
 次は1番、道隆クン。ほんと寡黙に何かやってると原田に似てると実感できるかっこよさだなあ。今はバットを握りしめ、バッターボックスの前で多分イメトレでもしてるのか、真剣な表情が新鮮だ。
 そして向こうはずっと一人のピッチャー、球にキレも勢いもなくなり、疲れが出てきている。道隆クンはノーストライク2ボールから打って出ると、ショート越えの打球を打った。
 意気上がるベンチ。2番の土井さんは、いつも通りのクールだぜ。すかしてるギリギリのラインがかっこいい。土井さんがバッターボックスに立つと、向こうも土井さんが出来る奴と分かってるから、敬遠を選んだ。土井さんは敬遠の球を打ち返すような人ではないので、素直にバットを振らず一塁へ……まあそもそも打てるような球ではなかった。凄く外して投げていた。
 そしてツーアウト1、2塁。この場面で打席は原田へ。
 まだネクストサークルでしゃがんでるあいつ。その表情が怖いくらい真剣なんですけど。
 ここからうちだって強打者が続く。考えられる手としては、連続敬遠もありだけど、原田は、いやだろうなあ。実はおれもやなんですけど。
 どうせなら、ここで原田に打って貰って、堂々とMVPを渡して上げたい……。
 原田がゆっくりと打席へ入る。めっちゃ心臓バクバクしてきた。あいつはどうかな。緊張してるかな。
 向こうのバッテリーは敬遠はしないと決めたようだ。まずはインハイにボールを一つ。セオリー通りだね。そして外角の遠いところに投げるんだろう。
 やはり次はアウトロー。原田はそれを上手くミートさせ、流し打ちで右中間をぬいた。
 センターとライトがボールを追って行っている間に道隆クン、土井さんと帰ってくる。そしておれを筆頭に皆ににっこりと笑って見せる。原田は二塁でストップ。
 原田はおれを見ない。それでもおれは嬉しくて胸をなで下ろした。
「よし。おれも続くか」
 と自信満々にバットを振り振り打席に入った小山さんだったけど、狙いすぎたか打球は高く上がりレフトフライで終了。
 いよいよ9回裏だ。野々垣さんに、期待がのしかかる。
「のの……頑張れ。打たれるなよ。このまま逃げ切るぞ」
 潮崎さんが眉間に皺を寄せ真剣な表情で言えば、野々垣さんは少し苦い表情で微かに笑い、
「了解……ていうか、なんだかおれは複雑だなあ。潮崎さんは、おれとチューする嫌さより赤城さんとチューできることの嬉しさの方が勝るんですね」
「何言うとん……!この場面でそんなん関係あるか。いいか。おれはな、ここまで来てとにかく勝負に負けるのが嫌なんや。それだけや」
 ビシッと言われると、野々垣さんも押されたのか、
「はい」
 と伏し目がちに答えた。この二人って……。
「潮崎さん、かっこえぇ~」
 いい雰囲気を破るように高階クンが……。
 結局スタミナ充分だった野々垣さんはなんだかんだいいつつ全く危なげなく投げきり、なんとおれたちのチームが優勝してしまった。ありえん。
 チームとしてどうなのと思うレベルだったのに…でもまあ試合が進むにつれチームワークも良くなってきてた。いいチームになったなあ。
 なんて言えるか。おれ。
 残ってたチームだけで表彰式を行い、トロフィーを潮崎さんが受け取る。
 いよいよ解散となった後、ベンチに荷物を纏めに戻ると、
「で?」
 と原田が振り返る。皆もそれぞれの表情でおれに注視する。
「…………」
 おれは無言で原田の服の袖を掴んだ。
「あ~やっぱり?」
 そんな声をバックに、やっとにやっと笑う原田。
 おれはいたたまれなさに顔が熱くなり、うつむく。
「じゃあ賞品の授与をやってもらいましょうか~」
 小山さんが言うと、
「残念やけど、それは家に帰ってからにするわ」
 と原田が言ってくれた。いいやつ。好き。盛大に冷やかされたけど、おれはまた胸がきゅんとした。

 その後そのまま緑地で焼き肉とビールで宴会して長い一日が終了。


「……潮崎さんと、野々垣さんていい雰囲気じゃない?」
 車に乗り込んでから、運転席の原田に言う。
「……なにお前、ニヤニヤして。キモイな」
「別に。潮崎さんの嫌そうな顔も楽しかったし、お前が打ってくれたし、なんだか色々嬉しいかも……お前は野々垣さんがお前好きじゃなくて残念?」
「ああ、ちょっと残念かも」
 そう言う原田もやっぱりなんかにやついてて。
 そのまま自然におれは原田に寄っていき、彼の首に腕を回して、ゆっくりと口づけた。


END

ランキング
1.原 田15
2.道 隆13
3.高 階12
4.土 井10
5.潮 崎6
6.吉 田4
7.野々垣2
7.達 彦2
7.赤 城2

はあ、やっと数年をかけ、ENDマークが付けられ……。た、大変申し訳ございません!一周年にMVP投票を募ったのに、完結が何年越しなんだ…。その昔投票して下さった皆様、本当に申し訳ございません……!途中何度も投票結果を上げて白旗を掲げようかという誘惑が。しかし野々垣さんと潮崎さんのやりとりと判断力云々の部分はどうにか公開したく、また先に結果を上げてしまうとそこで書けなくなってしまうのが目に見えていたので、いわゆる「諦めたらそこで試合終了」そのままの感じで…諦め悪くも引きずりました。未だ見て下さっている方がいるのか分かりませんが、もしいらっしゃいましたら、勿論既に見ていらっしゃらない方も、平にご容赦願います。もう二度と軽い見通しで企画はやりませんですはい。お付き合いありがとうございました(汗)楽しんで頂ければ幸いです。

しかしランキングの結果は、面白かったです。まさか道隆クンが2番手に付けるとは……。土井さんもびっくりです。吉田君はニヤニヤです。赤城君ってのも面白かったかも。ありがとうございました!

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