天六ミッドナイト・フラワ~ズ  1

 今日はスポーツ日和な快晴のいい天気。早朝から休日なのに起き出すと、昨日から凍らしておいたスポーツドリンク、焼き肉用の大量な肉、野菜、を冷蔵庫から出し、クーラーボックスに詰め込む。タオルや着替えも用意し、手早く顔を洗い、朝ご飯もそこそこに、出かける。
 1階の駐車場に着くと、車の後ろのドアを開け、持ってきたものを積み込む。中には昨日のうちから積んでおいたバーベキューセットに、野球の道具が積んである。ドアを勢い良く閉め、助手席に乗ると、その間エンジンをかけておいた原田は直ぐに発車した。
 今日は業界の交流イベントの野球大会。某緑地のグラウンドを借り切って、出場チームは8チームのトーナメント戦。決勝戦まで3回戦。大抵は会社単位のチームだが、おれたちはチームが組めないので、普段仲良くしているそれこそ「チーム」な人達とチームを組んで(ややこしい…)出場だ。チーム名はおれたちの職場の界隈をチーム名に盛り込んで、「天六ミッドナイト・フラワ~ズ」。夜の遅い、というか時には夜こそ本番な因果な商売を表している。もちろんユニフォームなんて、ない。
 緑地に着くと、駐車場にウチのメンバーが既にたむろしている。なんだか変なウチのラインナップは、
1番 センター 野々垣さん
2番 セカンド 土井さん(助っ人)
3番 キャッチャー 原田
4番 サード 小山さん(レギュラーだけどそもそも部外者の助っ人)
5番 ショート 潮崎さん(キャプテン)
6番 ファースト 達っちゃん(助っ人)
7番 ライト おれ
8番 ピッチャー 高階クン
9番 レフト 吉田(助っ人)
となっている。なんでこんなに助っ人が多いのかというと、……仕事で来れないと直前に言ってきた人がいるので、おれたちの身内で手軽に揃えたから。ちなみに皆で揃って練習したことはない。連携プレーなど以ての外の寄せ集め集団である。まぁ幾ら原田や潮崎さん、小山さんみたいな運動神経いい連中が集まったところで、鍛えられたチームワークには多分勝てない。だからおれは優勝なんか出来ない、せいぜい2回戦が関の山、と思っている。しかし前述の連中は勝ち気満々だ。今も車から荷物を下ろしながら、作戦や敵の戦力分析なんかやってる。そして、
「優勝賞品て、あれやったよな」
「そうそう。あれ。絶対取ったるで」
と原田と潮崎さん。更に
「あれと焼き肉、最高やなぁ」
「ビール少な目に買ってきてるからな」
とか言ってる。なんて無謀な連中だ……。
 そういう勝ち気満々な連中にひっぱられ、練習時間が与えられ、初めてまともに練習する。ムリムリ、絶対ムリ。そもそも原田と高階クンのバッテリーがダメダメだ。サインも何もあった風ではなかった。
 高階クンは運動神経が悪いワケではない。けど野球に限って言えばセンスが無いように思えた。なのになぜ投手なのかと言えば、その勢いあるノーコンぶり(まぁでも一応ストライク周辺に球が集まるのだからそこまでノーコンではないのだろう)と、度胸を潮崎さんに買われたのだ。普通幾ら球筋が良くっても、バッターボックスに人が立っただけでノーコンになる人がいる。しかし高階クンは、ぶつけようが何しようが、そんなことでコントロールの狂う人間ではなかった。それに他のポジションで、高階クンに勤まるようなところが無かったからと言ってもいい。外野はもう埋まっていたので。
 やがて爽やかな気候の下、開会式が始まる。
 そして優勝賞品の紹介。小さなトロフィーと、副賞の紹介。盛り上がる出場者達。
 化粧箱に入って燦然と輝くソレは、幻の日本酒、年に2000本しか生産しなくて、抽選で販売するという超希少品の銘酒の一升瓶だった。
 さて1回戦はオッサン主体のチームに危なげなく勝ち上がり、2回戦目に向けて意気上がっている頃、その事件は起きた。
 大会運営者によって、なんていうの?挨拶台?みたいなとこに不用心にも飾られていた賞品に、どこかの打ったボールが襲いかかる。あっけなく飛ばされ、地に落ちる一升瓶。見ていた人全てが青ざめ、固まる中、銘酒は音を立て砕け散り、白く乾いた土に染み込んでいった。
「………」
 原田は声もなく口をぽかんと開けてその様を見送り(弱いくせに)、ヘナヘナとそこにしゃがみ込み、高階クンもがっくりうなだれる。
 場内全てが、水を打ったようにシーンとした。
「……えー。アクシデントがありましたが、残念ながら予算の関係で、副賞の変更は出来ません。是非参加された皆様には、ゲームを楽しんで頂き、勝利を賭けて戦って頂きたいと思います」
 急遽運営者がマイクで呼びかけ、ゲームが再開される。
 がしかし、賞品はダメになり、我がチームは確実にモチベーションが下がるのが目に見えた。と、そのとき、突然潮崎さんが言う。
「こんなんじゃ皆の士気が上がらへん。チームワークもガタガタや。……で、賞品付けようや」
「何がある?まさか後の焼き肉かビール優先権とか?あんまそんなんじゃ燃えへんで」
 しゃがんだまま潮崎さんを見上げて原田が言うと、潮崎さんは原田見てにやりとし、
「希望者だけ、赤城君とのキスを賭けて頑張るいうのは?」
「何~~!」
「あっそれめちゃめちゃ頑張れそう!おれさんせ~い。もちろんキスは加減なしでオッケーですよね?」
 おれが口を押さえて言うのと、高階クンが挙手して言うのと同時だった。
「ちょっと待てや、何でおれやねん、おれは女とちゃう、」
 おれは原田の服を掴んで引っ張る。原田も焦り、
「そうや、何で赤やねん。赤にはおれというれっきとした、」
「原田君も頑張ればええやん。大体な、君は贅沢、幸せモンやねんから、たまにはこうやって分け与えてもバチは当たらへんと思うで」
「そんなん許せへん、大体こいつも嫌がってるやん、」
「希望者皆に、いうワケやないで。希望者の中から最高殊勲選手ひとりだけ。より燃えるやろ?」
「ちょっと待てや、あかんあかん」
「ふーん。自信ないねんな。原田君」
 無言で睨み合う2人。
「原田……!」
 そう声をかけると、原田は息をつき。
「ええわ。のったる。そこまで言われて我慢出来ひん」
「そんな……、」
「じゃ判定は賞品直々にやってもらおうか。でもひいきはなしやで。物言いあり」
「ちょ、……」
「よっしゃ。じゃ頑張っていくか、」
 突然力強くそう言って頷く小山さん。原田も潮崎さんも、唖然として彼を見た。
「………。あのな、大前提として勝つこと!勝てな活躍してもダメ」
 窮してしまいおれはそう言った。負ければいいんだこんな試合……あと興味ないやつに頑張って貰うか、
「吉田。頑張ってや」
 そう寄って行き、言うと、吉田はおれを見た後ポッと顔を赤らめる。なんでだ??
「おれ、ほんとはサッカーかバレーの方が得意なんだけど、頑張りますよ」
 横から土井さんがにこにこして言う。なんだか頭痛がしてきた。大体男として恥ずかしい立場に立ってしまってるじゃないか。
「原田……、」
 ベンチで横に座り、見上げると、彼もおれを見下ろし、
「いいとこ見せたるから、待っとけや」
「ハイハイこういう場では慎むこと。2人の世界作らな~い」
 そんな2人の間を割って、潮崎さんが手で遮って言った。
 そんなヘンな雰囲気の中、いよいよ2回戦が始まった。

続きがいつになるのかはお約束出来ません……。それほどお待たせすることはないと思います。けど、誰が勝者になるんでしょ~ね(笑)そこはまだまだ決めてません。ぼちぼち試合を進めながら考えようかな~っと。試合も2回分くらいまでは考えてます。まぁ9回みっちり書くつもりはございませんが…誰がよいか、ご希望あったらどーぞー(笑)

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