ブレイクスルー2 -1-

 おれの名前は赤城耕作。当年とって25才。何だかんだと言いつつも、平々凡々に日々を過ごしている、サラリーマンだ。ふとやった版下・写植業界で、おれの一生は回っていきそうだ。おれはこんな、不定期極まりなく、心身に悪い仕事に一生を患わされず、何か一生の仕事になる生き甲斐ある仕事を求めていたワケだけど、この仕事にもちょっとの生き甲斐を感じ始めてる。
 それというのも、おれの恋人が、写植に夢(?)を託しているからだ。
 おれの恋人というのは、実は男だ。気持ち悪いかい?おれは平気だぜ。
 何てったって、愛しているから。臆面もなくこんなことが言えるようになるまでには、随分と色々の心の葛藤があったワケだが、心だけでなく、相当のドラマがあったのだが、それは取りあえず一段落着いた。
 おれの彼、原田勇二が、独立するため、おれも一役買いたいというのが、おれを写植へといざなう。
 どうしようもなくドロドロとした三角関係に終止符を打ち、おれと彼が互いを一生の、になるかどうかは分からないが、一応そのつもりでパートナーと選び、きちんと付き合えるようになったのがつい数週間前。
 彼はなかなかどうして得難い男だ。おれは彼が大好きだ。ケンカは、まだしたことない。時々あまりの強引さや大胆さについて行けず、小競り合いはしているが、彼の憎めなさについ許してしまう。彼もおれのそういう性格をよく把握していて、おれを思惑通りに操ってしまう。
 でも結局、おれは彼を信じているので、後悔はしていない。
 原田勇二はいい男だ。背は高くって顔良し頭良しスタイル良しの三拍子揃っている。性格がいいかどうかは、ちょっと自信ない。
 でもおれには、あれでいい。丁度いいくらいだ。
 おれは一人暮らしをしている。
 でも、もう一人暮らしとは言えないかも知れない。原田が、転がり込んで居候、てゆうか実際は同棲にはまってるから。
 おれの職場は原田の会社ともほど近い、中国語写植の会社。おれはそこで営業のような進行の仕事をしている。しかしスーツなんか着ていかない。超カジュアルファッションである。
 さて、前回分までは、つい標準語で書き始めたばかりに地名等を割愛しちゃった訳なのだが、実はおれたちは関西人なのだ。しかしなかなかどうして、しゃべるは易し、書くは難しで、まんま書けない。会話が。以下ある日の会話を思い出すままほぼ忠実に書くので、読みとって頂きたい。

 その日おれはオペレーターの劉さんの写植待ちで2人で残業していた。
 その日に納品の仕事だったからだ。時間は夜8時半。
 劉さんは、機械の処理待ちの間に、おれに振り向き、…彼女はショートカットの、全体的にきゅっと締まった、それほど背は低くないけど、小作りな感じの、はきはきとした可愛い女の子だ。子、といっても24だけど。
「赤城さん、彼女おれへんのですか」
と少し微笑して言った。
「彼女……。うーん、おるような、おらんような、」
「よく電話かかってきはりますやん、帰り待ち合わせたり、」
「あれ……友達。近くに働いてて、うちに居候してるみたいな、」
「めっちゃ仲良さそうやし、彼女かと思とったわ」
「劉さんこそどうなん?彼氏いてるの?」
「こんな、女ばっかりのとこにいて、いると思います?」
「そんなん分からへん。会社ばかりが人生じゃないでしょ」
「こんな残業してて、会社以外何かあると思います?」
「ないかも、知れへんわな。……処理、終わってんで」
 おれはディスプレイを指す。彼女はあら、と言って画面に戻り、組上がりを見ながら、プリンタに出す。
「あとどの位かかりそうなん?コーヒーでも、飲む?」
 彼女は音を立てて出てくる感熱紙を見ながら、
「もう形を見るだけやから…もう出力できると思うし、20分位と思うけど」
 おれは席を立ちコーヒーを淹れる。ここのコーヒーは、インスタントかユニマットじゃないレギュラー。カップは、皆自前を持ってきてるので、こんな時間だし、おれはインスタントを2人分淹れた。彼女に差し出し、自分もずず…と飲む。
 彼女は出力した校正紙にゲージ(物差し)を当てて、歯数(長さ)が合ってるかどうかを確かめている。そして、ほっとしたような顔で、フロッピーを印画紙出力機にかける。彼女は手が空くと、コーヒーを手に取り、おれの前の席に座り、
「赤城さん、納品したら帰るんでしょ。一緒に帰りません?で食事でも…」
「え……。でも、コピー取ったり、伝票書いたりしてたら、遅なるで」
「私も手伝いますやん」
「女の子は早よ帰り」
「こんなの残業の内には入りませんよ。ネッ」
 と笑いかける彼女。
 うーん…と考えていると、電話が鳴る。営業声で出ると、原田だった。
「まだおったん。まだ仕事しとんのか」
「あと30分位」
「おれもう終わってんけど、そっち行ったろか」
「来んでいいわ、1人じゃないし」
「誰がおんねん。早よ帰せ」
「お前いらんこと考えてるやろ。……あのな、女の子と、2人」
「早よ帰したれ。おれが手伝ったるわ、」
「来んでええ言うてんねん、早よう帰っとって。おれは、遅うなるかしらんけど」
「何ボケたことぬかしてんねん。お前はおれのもの、やねんで」
「ハイハイ……でも、職場の人とは、仲良うせなあかんやろ?お前言うとったやん、」
「それはまた違うやん、全然違ってるで。ほんじゃ、15分位したら行くから……」
「来んでいいわ、マジで、」
 おれは焦る。こないだ残業中電話がかかって来て仕事を助けてくれというので、ウチの仕事が上がってから彼の会社に行ったところ、彼は1人で、確かに残業を目一杯していた。
 おれはしょっちゅうヘルプに呼ばれ、彼の会社の人とは顔なじみになってしまった。原田はおれを彼の会社に入れたがっているので、こうしてコネ作りに励んでいるらしい。
 朝から晩まで、なんで一日中も顔を付き合わせなきゃならないんだ…とおれはそれはイヤである。飽きてしまいそう。幾ら何でも。ヘルプくらいならいいけどさ。
 とにかくその晩、二人っきりで電算写植をやっていると、原田のやつ不意におれを押し倒し、床に転がし襲ってきたのだ。
「お前ー、何してんねん、」
 おれが言うと、
「いっぺんしたかってん。オフィスラブごっこ。な、こういうとこって、結構燃えると思わへん?」
「ヘンタイ!誰が来るか分かれへんやん、守衛さんもいるし、」
「その緊張感が、イイんやんか。ごっつ感じるで」
とおれを抱き締め身体に手を這わす。
「あほー。仕事、押してるんちゃうんか。帰られへんで、」
「ああ、あれ…どうでもええねん。もう間に合いそうやし。そんなことより、赤……」
と首筋に舌を這わし、胸元のボタンを外し、手の平が侵入してくる。殺風景な蛍光灯と、微かに唸るパソコンや、他の機械の音や、冷たく硬いリノリウムの床の、お堅いオフィスの片隅で、おれの肌の感覚が、彼の手に踊らされていく。
「もう、おれ、来ーへん、ウソつき、」
「愛してる、」
 彼が口付けてくる。
「いいわ、ゾクゾクする」
 彼が言いながらおれをワックスのかかった床の上で脱がしていく。おれは抵抗してみる。が、彼はもう、おれの弱点を知っているので、抵抗も空しく終わっていく。
 時間は12時も回っている。
 そしてそこで1回済ますと、客用のソファまでおれを運びまた1回、社長の椅子と机でまた1回と、やりたい放題ヤリやがったのだ。確かに新鮮だったけど、おれは気が気じゃなかった。
 どうせヤツは、またここでなにがしかヤルに決まってる…冗談じゃない、おれの職場を荒らされてたまるか。
「来るな……!」
と言ってると、もうツーツーと音がしている。原田のヤツ…。おれは受話器を置き彼女を見る。ニコッと笑ってみると、ぽかんとしてた彼女は、
「例の、お友達?」
「うん。そーやねん。何か来て手伝う言うてるし、写植OKやったらもう帰っとって」
 彼女は3本の指を出し、
「3人で行けばいいですやん、」
「あのな、良くない男やから、会わせたくないねん。また、今度一緒に帰ろうな…」
「そうですか…ちょっと残念」
 彼女は写植が出て来たのを見、寄っていき手に取る。
「いい?」
 おれが訊くと、彼女は頷き断裁する。5ページ分だ。
「じゃあ、…コピー取りましょか?その人来るまで」
「いいよいいよ、お疲れさまでした」
「校正しはるんでしょ、」
「さっきから何度もやってるし、あとは書体見る位やから、そんなに時間かからへん。もういいよ、ほんとに」
 彼女はちらりと目線を外し、
「じゃあ、…すいません、お先に失礼します」
 タイムカードを押し、上着を着てバッグを手に取り、彼女はドアを押す。少し振り向き、
「赤城さん、今度は一緒に帰りましょうね」
と言う。おれは笑って、
「うん。じゃまた明日な」
 彼女は背を向け出て行った。
 1人で溜息つきコピー取り、伝票書き、校正をしていると、原田のヤツが、やって来る。
「来たな……」
「もう終わりそうやな」
「あかんで。何もしたら。早よ納品せなあかんし、」
「お、冷たい。せっかく来たったのに、」
「お前またHしに来たんちゃん?うちの職場は、荒らさせへんで」
「そんなつんけんせんと、キスのひとつもしたってよ」
「いやじゃ。おれはまだここ辞めとうない」
「誰もおれへんやん…」
 彼がおれの顔を掴み、口付ける。おれは彼の喉に手をつかえ、すぐに離す。
「校正、する?」
「しゃーないな」
 腰掛け、テーブルで2人で黙々とやる。
「字ィ読んでへんで。何やさっぱり分からへんし、」
「別にええわ。書体見て」
「写研(※当時業界最大手)じゃないから、よう分からへんわ、」
「もう何もせんでいいわ、邪魔じゃ」
 おれはしっしっと追い払う。彼はその辺をふらふらうろうろ、きっと「場所」を探しているに違いない。
 おれは良くないことの起こらないうちにとっとと校正を済ませ、上着を着ながら立ち上がり、タイムカードも押し、荷物も持ち、出口に立ち電源に触れながら原田を呼んだ。
 彼は奥からやって来、不服そうに、
「何やお前、めっちゃ用意周到なヤツやな、」
「おれかってお前の扱いくらい分かっとる。お前のええようには、させへん」
「おもんない」
 鍵を閉め階段を下りながら、
「おれ、お前の会社には絶対行かへんから……、」
「もうあんなことはせえへんって。二度やっても、おもんない」
「それじゃないわ、お前の会社には、就職絶対せえへん、どうせ独立したら一緒にやるんやんか、そない急がんでも、いいやん、」
「だっておれ、お前が好きやもの。一緒にいたいやん、一緒に苦労して…こんな仕事しとって、別にやっとったら、会う時間少なすぎるやん」
「一緒に住んどいて、そんなこと言えるか?」
「少ないわ。Hしか出来ひん。早よ辞めや。土曜は休みじゃないし…お前、ホンマ冷たいんちゃうか。もうおれに、飽きた?」
「飽きたないから、イヤや言うてるんやんか。…お前、おかしいわ。口ではこの間まで、そない早よ辞めたらあかん言うとったくせに…」
「おれ自分のことしか考えてへんし、」
「マジでそーみたいやな、」
 そして納品を済ませて帰ることにする。
「そろそろ皆で、会わなあかんな」
 原田が言う。おれは顔をしかめ、
「もう……?達っちゃんも、呼ぶの?」
「そら当たり前や」
 彼はタバコに火を点ける。いつものラッキーストライク。
「彼は来ーへんと思う…また、飲み会?」
「何か違うことしたいな。何かない?」
「おれは、あんまりそういうことは思いつかへん、」
「おもんないヤツ。…そうだ、うちでパーティしよか。安上がるし、」
「あほう、ばれるんちゃうか…」
 すると原田は渋い微笑を浮かべ、
「でもおれは、いつか、それ、やるで…」
 その顔に見とれながらも、おれは彼が何を言いたいのかよく分からなかった。
 夜の、余り人気のないオフィス街を、いつもなら電車での道を納品先から駅が反対方向で乗り換え駅の方に近かったこともあり、おれたちは歩いてしまった。
 11月になって、夜風が滲みる。青白い街灯だけの公園の中、彼は銀灰色のMA-1のファスナーを上げ、おれは寒さに黒いウールのジャケットの前をかき寄せる。
「秋やなー」
 彼が言う。おれは顔を彼に向け、
「なあ、京都行こうや」
「いいな。どこ、どの辺に」
「万福寺行って普茶料理食べたい」
「お前、食うこと好きやなー。それも変わったんが、」
「いいやんか。あそこの鍋、旨かったやろ、」
とこないだ一緒に行った知る人ぞ知るっぽいタイ鍋の店のことをおれは持ち出す。
「唇腫れそうやったけどな」
「あそこは達っちゃんともう一度行こう言うとってん」
「フン……そうですか。達もたいがい食い意地はっとったもんな。お前らそれでめっちゃ仲良かったもんな」
「冬になったら山陰行ってカニ食って、温泉入って、……」
「じじい、ばばあ、お前若さに欠けてるわ。冬はスキーに決まってるやん、」
「何でもいいやんか、冬なんか長いんやから、スキーもすれば、温泉も行けるわ、」
「冬は皆でスキー行こう。…お前、滑れんの、ところで、」
「うるさいな。出来るわ…中級コース」
「おれ上級やから、スキーの間は、サイナラな、」
「いいよ…達っちゃんもヘタらしいから、2人でゆっくりと、」
「お前さっきから達、達とうるさいな。…おれは妬いたり、せえへんで」
「つくづく、合わへんな。おれたち。やっぱりおれ、達っちゃんの方が合うとったんちゃうやろか……」
 原田は公園の中でおれを抱き締め、ぐいと掴みちょっと木陰に引っ張り込むと、唇を合わせる。舌を絡め、激しく吸う。
「おれが、好きなんやろ?」
「う……」
「ちょっと位は言うてもええで。おれが燃えるから。…でも、あんまし、言うな。本気では言うな。…」
「自分から言い出したくせに…」
 おれも抱きつく。
「早よ帰ろ。したい、今すぐしたい、」
 彼がおれの腕を掴んで無言でスタスタと足早に歩く。

 帰り着けば、ドアを閉めたと同時におれは引っ張り上げられ、布団の上に仰向けにされ脱がされる。
 彼がじっとおれを見下ろす。
「赤……お前は、きれいや。……ますますキレイに、色っぽくなった……」
 おれは全身がぞくぞくとする。
「禁煙とビタミンCのおかげ、かな?」
「おれのおかげ、は。それが一番大事なことやと、思えへん?」
「ちっとも」
 ちょっと顔を反らし目を閉じ言うと、彼が脱ぎながら覆い被さる。
 少しの愛撫で、おれは身体が熱くなる。
 吐息を漏らすと、
「やっぱりお前は、いい。…今までで一番や。おれは合わへんかっても、ちっとも構わへん、引きずり倒すから、……」
 おれは荒く息継ぎ、彼の背中に手を這わしながら、
「何かお前、強引さが増してきたんちゃん、」
「それだけ愛してるってことや。この、幸せ者」
 愛撫を受ける。かなりスゴイ。腰が砕けそう。今日は、本当に燃えてる。彼は燃えさかってる。メラメラと。達っちゃんがそんなにきいたんだろうか。
「お前の喘ぎも、その表情も、乱れ方も…全てが、いい。めっちゃきれい…」
「原田、…」
「もっと、呼んで」
 彼は手でおれを焦らしながら言う。
「原田…ああっ、」
 彼がくわえる。まるで電流のように、快感が身体を走る。
「ここは…どう?いい?」
 彼はまた何事か始めた。少しずつ、訊きながら、おれの返事を待って動く。
 凄くイイところなんて、声もまともに出せない位なのに、おれに言わす。ヘンな声で。
「あ……ん、……」
「ん、じゃない、いい、か悪いか、ちゃんと発音せえ、」
「い、…」
「い?」
 大腿をしっかりと抱え上げおれに食らいつく。おれは声も出したくないのに、そんなことを言わせるなんて…おれは恥ずかしさに身を焼き、彼に翻弄されながら、応える。
 今すぐ暴発寸前というところで止められる。ヘビの生殺し。
「どう。何してほしい?」
「……」
「自分でしてみる?」
 彼がおれの手を自分のものに触れさせる。おれは目を閉じてるが、彼の表情が見えるよう、少し口角を上げて、嬉しそうに…
 遊びに乗ってやれ。おれは自分のものを掴む。2、3、4、週…、1ヶ月ぶりくらいのこの行為。まだたったの、1ヶ月だ。なのにこいつは。原田のやつときたら。
 うはーっ、恥ずかしい。と思いつつ、どうだ、ざまみろ、と思いつつ、手を動かす。
 おれが本当に、やるなんて思ってなかっただろ、原田……。
 あ、もうちょいだ、と思う。喉が更にのけぞる。と、手がはがされる。
「なかなか、どころかごっつええけど、こいつは倦怠期まで取っときましょ。さあ、何かしてほしいですか……?」
 クソ、またもてあそびやがって。……弄ばれて、いるワケだけど。おれは顔を反らす。
「強情っぱりめ。人のこと言われへんやないか、」
 彼が口をつける。落ちる…。
 いつになく切れ切れに長く糸のように声を出しおれは果てる。疲労感を覚える。おれは息を落ち着かせ、目を強く閉じる。
「赤…」
 彼が抱き寄せる。おれは力無い腕を彼に絡ませる。
「離さへん…お前を、一時たりと離したくない…」
 おれが口で彼の唇を探り当て、口付ける。言われると、どうしようもなくゾクゾクする言葉。だけど、現実はごめん被りたい。おれはあきっぽいヤツなんだ。
 原田に飽きる日が、そうそう来るとは思えないけど、自分が飽きっぽいだけに、人も飽きるのではないかと怖れる。それが、怖い。
 しかしこのことを言うと、めっちゃ怒るに決まってる。今からそんなことを考えるなと。今何したいかを見つめず、そんな先のことばかり見ていたら今が疎かになると。
 彼が大腿を大きく押し開き、両手で肉球を撫でている。
「急に入れたら、痛いかな?」
「痛いに決まってるわ、ボケ。また出来ひんようになるで」
「それは困るわ」
 彼は潤滑剤を手につけ、指を入れ擦り込むように抜き差しする。もう馴れた、というか、はっきり言って、しょっぱなから結構気持ちイイ。
「ここが女と違て面倒なとこやな。女だったらこんだけイカしたら、何もせいでも入れられるのに、」
「じゃあ女を抱けば…?お前、まさか前の彼女と直にやっとったんちゃうやろな」
「ガキ作るようなことはしてへんて、」
「答えんなってない…あっ、」
 指が増えて圧迫感が増す。自分でも穴がヒクついてるのが分かる。何か、とてつもなくH。
 それも馴れて大分イイと感じ始めると、主役の登場だ。おれの人生においての主役のおれの体の中での主役。
 最中に、ふと目を開け原田の表情に目を走らす。
 少しだけ眉間に皺のよった、何ともいえない、色気ある顔。
 おれの身体に、全身の快感に酔っている、彼の顔。
 やがて魂が抜かれるような一瞬が来る。ほんとに。
 一旦波が去ると、今日のテレビのことやらが色々と思い出されてくる。
 この、終わって暫くたって落ち着いてきた時間というのは、最もタバコを吸いたい時間の一つなのだが、どうにかそれも我慢できるようになった。原田も我慢してくれるからだ。
 我慢のためにキスをし、また煽られるということがしょっちゅうだが。
 原田のやつ、我慢出来なくなったに違いない。激しく舌を絡めてきた。
「原田もなんか、美肌になったんちゃう?」
 おれが撫でながら言う。
「そんなワケあるか。おれは会社で吸いダメしとる」
「一緒に働いとったら、それも出来ひんようになるで」
「ええわ。トイレ行って吸う」
「未成年やあるまいし。そこまでするか」
「するよ。おれは」
 これってフレンチ・キスっていうんだっけ?そうしゃべりながら、ちまちまとしたのを繰り返す。
「…なあ…さっきの話、彼女のこと……」
「ガキか?心配するな。ちゃんとしといたわ。出来たらかなわんから。穴でも開いとらん限り、出来てへんて」
「彼女とは、どういう風に別れたん?どんな思いで……」
 おれ自身、達っちゃんとのつらい別れを経験した後、気になり折に触れ訊くが、原田のヤツは、
「もうええやん。済んだことやし、」
と言う。おれのことにも余り突っ込んで来なかったけど、こうかわされると余計気になる。
「何で言わへんのや。…未練、ある?」
「ひつこいな。全然、ない。お前が最高。男も、お前1人」
 また、撫で回され、ゾクゾクと何かが肌を這う。ああ、と感じ始めて、はたと思い出す。
「原田!ストップ!中国語が、」
「何やうるさいな。いつもいつも」
 慌てて時計を見ると、11時10分だった。良かった…とラジオをつける。
 まだだけど、ぼーっとしてると、このままじゃ聞き損ねる。
「何でこない真夜中にやんのやろな。じゃまくさい」
 原田が言う。
「ええやん。早くにやられたら聞かれへんし。丁度いいわ」
「おれの行為に水を差す……」
「少しは頭冷やせば?茹で上がってんで。脳みそが」
「フーンだ。タバコ吸っちゃお」
「いいよ……。吸えば?この20分は、お前なんかより、中国語の方が大事だ。お前なんかに構ってるヒマはない」
「会社で習えよ。何しに行ってんねん」
「仕事。いきなりあんなレベルでやっても、身に付けへん」
 原田のヤツ、本当にタバコに火を点ける。おれに向かってぶーっと煙を吐く。
 おれは鼻と口を塞ぎ、
「肌に悪い、煙吸わす気か、」
 この応酬、殆ど毎日。おれたちって、余り進歩ないかも知れない。

 ……さて、以上のようなものが、おれたちの実際の会話なワケだけど、いかがなもんでありましょう。おれはともかく、原田のヤツのイメージが、どっと変わったんじゃないでしょうか。益々ガラ悪く、汚く……え?変わらない?
 書いてて思ったのは、本文と会話で文を変えるのがめんどい、むつかしいということ。頭の切り替えが必要。どうかすると、どっちかに引きずられる。
 でももうじゃーくさいから、この後はこのまま行きまっせ!

ハハ…。オフィスラブごっこ…。またはしょっちゃいましたね。一応1回分は大学ノート10~15P分と心に決めて書いてたんで、やたらに先を急ぐ習性があります。まあ話の筋からしても分量的にはこんなモンと思うんですけど、読んで下さる方はどう思うんでしょう…。要望あったら、別立てで書いてもいいかなあ…。
私はもともとトイレでハッテンがお好みだったのですが(自然だから?)、パート1のサウナ、そして今回分で書いた私の脳内設定では○町公園って、モロハッテン場だったんですね…恐ろしい。ネット始めて知りました。そんなとこで、抱き合ってチューしてる場合かっ!
関西弁と標準語のチャンポンロードをやめました!潔く?エセ関西弁で通します!

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