アニバーサリー・ディ -1-

 その年は彼のお母さんの還暦の年だった。
 そこで、彼の誕生日を挟んだ連休を利用して、兄弟で家族旅行をプレゼントして家事から解放させ、奉仕の精神でもって癒しのひとときを過ごしてもらおうという計画がご両親には秘密裏に随分前から進んでいた。電話、メールで繁く取られる兄弟間の連絡、段取り、そんなものを横目で見ながら、うやらましいなあ……と羨望の目で見ていたことは、言ってない。
 うちはそんなの、全然ない。なかった。そもそもオヤジが旅行嫌いで家大好きだから家族揃っての外食すらしたことない気がするし、日帰り旅行が関の山。また、兄弟間の結束もイマイチだし、皆貧乏だし…とそんなこと考えたこともなかった。
 なんともつまらない、味気ない家庭である。翻って、原田ん家。
 なんだかんだいって、原田と弟、道隆クンは仲が良いし、結婚してて余り会ったことないお兄さんは原田よりクールな、いかにもサラリーマンでかっこいい。いやそういうことでなく、長男らしく頼りがいあってたまの連絡でも面倒見がよい。
 そんな兄弟が仲良くチームプレーで計画を立ててる様子は、ほほえましいものだった。いやまあ決して珍しい話じゃないけど、少なくともウチはなかったし、間近でその流れを見てるのは、ほほえましい、家族の暖かさっていいな、家族っていいな…みたいな。うちの両親はとっくに70も越えちゃってるけど、今からでも何か兄弟力合わせて出来ることってないかな、と思ってしまった。
 だって自分の子供達が自分のために力合わせて、仲良く何かするってのは、それが最高のプレゼントなんじゃないか?
 かつてそんなこと思いもしなかったおれが、こんなこと思うようになったってのは、年月って凄いなとも思いつつ、多分きっとそれは原田と付き合えたからだと確信を持つ。
 ま、そんな家族、というものに改めて思いも馳せながら、横で見守っていたおれなのだけど、いよいよ宿も取れたとき、原田はおれに向かって言った。
「お前も来るやろ?」
 おれは戸惑う。だっておれは他人だから。家族水入らずの場に、ちょんと付いていくのはちょっと…
「え…でも、おれよそもんやから、」
 すると優しく笑い、
「今更、何言うとん……、お前はおれの、大切な家族やんか」
「え……、」
「それにお前がおらんと兄貴にあてられるし、おもんないし、」
「道隆クンも彼女連れてくるん?」
 すると彼は、
「いや、連れてけぇへんやろ。他人やから」
 唖然とした。
「な……、そやったら、おれかて、」
「お前は違う。他人とは違う」
 そして左手を取り、薬指の銀色のものに口づけられた。

はい~~田舎で考えたのは、こんなネタ(笑)ある意味仏事ネタと対なのです。個人的に、仏事ネタは好きな話です。特にタイトルがいいです(笑)

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