アニバーサリー・ディ -2-

 11月22日当日、朝から車でまずは原田の実家へ行く。
 彼の家にはしょっちゅう…、てほどではないけど、割と行ってお母さんには良くして貰ってる。でも、ほんとにこういう旅行に付いていくのはなんだか気がひける。
 団地に着くと銀色のワゴンが入り口近くに停まっていた。お兄さんの車だ。
 お兄さん家は奥さんと子供が1人…出会った頃は、まだまだ物心ついてなかったその子が、もう小学生の高学年、背も高く、すっかり大人びてきていかにも原田家の男になりつつある。あ、その子は男の子。おれのことを達っちゃん家の未知ちゃんみたいにあっちゃんと呼んでいた彼だが、今では道隆クンにならってか、赤城さんと呼んでくれる。
 ちょいハスキーめな声でそう子供に呼ばれるのは、かなりくすぐったいものである。
 原田と一緒に気が引けつつも彼の家に入ると、入ってすぐの台所に立ってたお母さんはもうおめかしして、ニコニコして
「お久しぶり。ほんとにいつも面倒見てもらって悪いね~」
と声をかけてくれる。相変わらずふくよかで、ちっちゃくて…息子方が皆背が高いのは、お父さんの方の血が出たみたい。
「いいえ。こちらこそお世話になってます…」
「ほんまやで。おれが面倒見たってんねんで。暮らしから仕事から、」
「そんな言いながら、全然離れようとせえへんくせに。赤城君の邪魔にならんようにしときなさいよ」
 そう言われれば、原田は「フン」と言う。
 お母さんがお茶を淹れてくれようとすると、やっぱり台所に居たお義姉さんが「私が」と淹れてくれた。きれいで落ち着いてて、素敵な人だ。奥で孫と話していたらしいお父さんが、顔を出す。彼の年輩にしては、背が高い。そして未だにすらっとしている。腹も出てないし。そしていつもつい頭を見てしまうのだが、白くなったなあ…とは思うけど、ちょっとは薄くなった気もするけど、はげてはなくて安心する。どうやらハゲの家系ではないようで安心だ。
 「お久しぶり。赤城さん。今日もきれいですね」
 下に下りて、出かけようとしていると、ニコニコ笑って道隆クンがそう声をかけてくる。そして、
「兄貴。こないだ兄貴の作ったサイトやけど、ちょっと表示のおかしいとこあったで。…」
と、ここをこう直さな、とスクリプト部分の話をしてる。彼は某世界的企業のシステム開発系の部署にいる。で、その仕事はその企業のある事業部から受けたページの一部だったのでこう指摘、アドバイスしてくれる。有り難いというか、原田は苦きりった顔で
「いきなりイヤなやつやな。お前」
「デザインは見やすくて、分かり易くて良かったけど」
と今度はおれを見てニコッとする。おれがやったと思ってるらしい。
「あれはデザインも全部おれがやってんで。赤はしてへんで。忙しいから、」
 原田がそういうと「あっそ、」と素っ気ない。
「じゃ、道隆は勇二の車で、」
 最後に出てきたお兄さん、和生(かずお)さんが言う。こうしてみると、まるで統一のとれてない名前の兄弟だ。原田は名前に「二」が着いていかにも次男らしいなあ…と思ったものだが。全然違っていたらしい。彼の息子は靖生(やすお)。それなりに統一が取れている。お約束っぽいが、皆は靖生くんのことを「ヤッサン」と呼んでいる。
「え。なんで。兄貴の車でええやん、乗れるやろ」
 原田がいかにもイヤそうに顔を歪めて言う。するとお兄さんは
「乗れんことないけど、お前の車の方がゆとりあるやろし…道隆はどっちがいい?」
「兄貴の車!」
「どっちもお前の兄貴の車やん」
 2人からそうツッコミが入る。でも兄貴、っていう方の兄貴は決まってる。
「和さんやなくて、勇二さんの方…、」
「やっぱな」
「あっち行けや、お前」
「あとな、勇二。部屋割やけど、それもおれんち一部屋、親が一部屋、おまえらで一部屋な」
「はぁ~~!?おれと赤は別で、言うたやん、道隆は親と一緒でええやん、」
「若い独身の男同士、気ぃ遣わんでええやろ?道隆も赤城君に懐いてるし、」
「でも……、」
「何?」
 不思議そうに言われて窮する原田。実は、親はもとより、お兄さんもおれたちのことは知らない。というか仲良い友達と思ってるらしい。ちょっとは仲良すぎかな…とは思ってるらしいけど。道隆クンは、ニコニコしてる。というより、満面の笑み…
「おれの素敵な誕生日が……失敗した」
 ボソッといい、頭を抱える原田。なんか可哀想だが、今この場で抱き締めるわけにも、優しい言葉かけるワケにもいかず…、
「まぁまぁ、大勢でワイワイやんの、楽しいやん?」
と肩を叩いて言うのが関の山だった。
 行き先は、温泉でゆっくり、また、秋なので、紅葉を見に、ゲロ…もとい、下呂温泉と川下り、明治村みたいな。はっきりいってどこも一回行ったことのあるところだけど、土地関係はよく分かってない。ほんとは琵琶湖の上の方にいい旅館があってお薦めだったのだけど、子供もいるからちょっとはレジャーなとこで。でもお母さんが主役なので、温泉で。
 ヤッサンが「こんにちは」とおれを見上げて言う。一年ぶりくらい、大体会うのは正月前後に会うか会わないかなので、
「大きなったなあ。こんにちは」
と笑いかけると、きゅっと顔を固くする。いつも最初は緊張してる彼だが、1日も一緒にいると、調子が出てきてなつっこくなるのはいかにもこの家系らしい。
 原田はそれもちょっと気に入らないときがあるみたい。
「ああ、やっぱ失敗したかも…」
 更に溜息な彼。家族でわいわいするのがいかにも好きそうな彼に、そう言われるとかなりドキッとしてしまう。

まだ出発もしてない……!Xデーなのに!チュウくらいさせそうと思ったけど、お預けだよ原田君(笑)ごめんよ原田君。しかし旅行そのものはあんまり考えてないので(旅館話ばかり…)あまり期待はしないで下さいよ。早くあっさり短く、収めたいのですがいかんせんキャラが多いことに気付き、多少は書き込まないといけないかと思い、汗がダラダラしてきました。

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