その後の二人 玉華州編

 ある日二人が雲を飛ばして逍遙していると、昔懐かしい玉華城が見えた。悟空が悟浄を振り返り、
「どうだ、久し振りにうちの徒弟どもを見るのは。綺麗になったお前もあの小面憎い第三王子に見せびらかしてやりたいし」
と言うと、悟浄は
「おれはいやだよ。何か嫌な予感する」
と嫌がったが、悟空はむずと腕を掴み、地上へ飛び降りた。
 二人が宮殿の階の前の広場に飛び降りると、居並ぶ王や文武百官が目をそばだてる。
 前に堂々と立つ美丈夫は、六尺豊かの筋骨たくましい大男、とはいえ余分なものはなくすっきりとした身体つき、顔つきはすがすがしく、長い髪を束ねて大層立派だし、後ろに手を掴まれ控えている人物は、輝くような白い肌に長く淡い髪を垂らし、澄んだ大きな目と桜桃の唇を持った、端正な顔立ちの、前に立つ美丈夫より少し小さい、すんなりとしたこれまた見たこともないような美人なのに皆はすっかり見とれ、言葉もなくぼうっとしていると、美丈夫がつかつかと歩み寄り、礼をした。
「王、お久しぶりでございます。私をお忘れでしょうか」
 王はどこかで聞いた声とは思うのだが、こんなに絢爛たる二人に覚えはないと戸惑っていると、悟空は更に歩み寄り
「王、この火眼金睛に見覚えはありませんかね」
と顔を突き出し言う。悟空の眼は元のまま、王はやっとそれと覚ると、
「神師、神師、長老でしたか。どうぞこちらへ…。いや立派になられて、一目には判りかねました。ときにあの方はどちらで?」
と悟浄を示す。
「あれはおれの弟弟子だったやつですよ。やつもすっかり正果を得まして、本相に返ったという訳です」
 悟空が悟浄、と呼ぶので、悟浄は礼をすれば、あまりの美しさに溜息をつかない者はない。
 悟浄は礼を済ませ階に寄ると、頭を下げた。王も二人に見とれながら、
「ときに今日は、何事かあってご降臨頂いたのでしょうか」
と言えば、
「いえ別に。空を飛んでいたら目に入ったのでなつかしさに立ち寄ってみただけです。おれたちの徒弟がどうしているかも知りたかったし」
王は急ぎ三人の王子を呼びにやらせた。
「他のお二方はどうしておられる」
悟空、
「元気でいますよ。皆ちゃんと職に励んでいます」
やがて三人がやってきた。挨拶を交わすと
「猪師父は一緒ではないのですか」
第二王子が問うので、悟空
「今日は思いつきで寄っただけなんだ。何だったら呼んでこようか」
悟浄袖を引き、
「兄貴、おれ一人残す気か、」
「第三王子に気を付けて待っていろ」
悟空は瑞気を漂わせ飛び去った。悟浄は暫く目であとを追い、振り返ると三人はぽっとなりながら師弟の礼を取る。
「皆さん元気にしてましたか?」
悟浄が問えば、第一王子、
「はい、国はつつがなく安泰、私共も師父に力を授けられてからは、病気一つなく元気にしております」
「それは良かった…。あれから、二年、三年経ったのかな…?武術の方はどうです」
「是非ご覧になって下さい」
王子が得物を構えようとするのを制し、
「いや、それは二人が来てからの方がいいだろう。おれ一人で見てもつまらない」
第三王子は呆然と立っていたが、
「師父、やはりあなたは美しかった…!師父、あなたは私の師父です、どうぞこちらで歓談しませんか」
と袖を掴む。悟浄は来たなと思いつつ腕を振り、
「それも又あとで。ねっ、」
とやんわり断る。
 その間に客席が張られ、美酒や珍味の用意が調う。
 やがて悟空が八戒を伴い戻って来た。
 八戒も今では本相に返り悟空ほどではないが精悍な顔付き、皆は伏拝む。
 まずは宴会となって三人を上座に据え舞や踊りを披露すれば、八戒やんやと囃し立て美女を側にはべらせようとする。
「八戒、みっともないぞ」
と悟空が諫めれば、
「なんだい、お前らのいちゃつきを見せびらかしに来たくせに。おれにもいいことあってもいいだろ」
と給仕の女に手を出そうとする。
「お願いだからやめてくれ。おれたちいちゃつきゃしないから、」
と悟浄が嘆願すれば、渋々八戒も大人しくする。
「師父、私久しぶりに師父の剣舞が見とうございます」
と突然第三王子が立ち上がって言った。他の者も拍手喝采する。
「待てよ、おれがいつ剣舞なんてやったんだ、あれは剣舞じゃない、」
あせって悟浄が言えば、悟空もにこにこと
「おれも見たい。さぞかしきれいだろうぜ。語り草になるぞ」
と勧める。
「兄貴、おれは音楽に合わせて舞ったことはないんだってば、」
「いいんだよ。お前が動けば」
「二哥、何か言ってくれ、あんたは見たくないだろう?野郎の女装なんか、」
「別にいいと思うよ」
「だからおれは嫌だと言ったんだ、」
悟浄は嫌々ながら立ち上がると、控えの間に連れて行かれ衣装を整えさせられた。
 蝉羽色に仙草の刺繍の施された裙をはき、直綴を脱ぎ素肌に紅い胸当を付け、薄桃色の金糸の刺繍の入った紗の袍を着て金錦に紅い刺繍の帯を巻く。翡翠や金や玉 の腕輪を目一杯両手にはめ、翡翠の項鏈児(ネックレス)を首にかけ、これまた翡翠の耳飾りを垂らす。
 髪結いが高々と髪を結い上げ、幾多もの簪や飾りを付ける。化粧を施すと、悟浄は
「全くなんでおれがこうなるんだ」
皆はその声を聞き、
「あら男の方でしたの」
と驚く。褌子を女用の綺麗なのに替え、美しい刺繍の布鞋をはけば、嫦娥も適わぬ 美しさ。
 一振りの剣を持たされると、彼は大股で舞台へ行った。
 主客の登場に、やんやと囃し立てたあと、皆ぼーっとなる。
「それでは稚拙ながら一手舞わせて頂きます」
深々と腰を折り挨拶すると、彼は型を取った。
嫋々として音楽が流れ始め、悟浄は剣を振り身をくねらせて舞を舞う。裙子がふわふわとたなびき、時折鋭く翻る。すらりと足を上げて伸ばし、型を決めては身を入れ替え、ゆるく、早く剣を踊らせ続ける。剣はきわどい所を髪一本、毛一筋も損なうことなくきらめき続ける。
 皆うっとりと見とれ、時の経つのも忘れていると、悟浄だけがそわそわと楽師たちに目をやる。王子は、はっと気付くと楽師に音楽をやめるなと合図を送る。
 延々と続く音楽に困り果てて踊っていた悟浄は、だんだんと疲れて腹が立ち、楽師たちに近寄り側をなぶり始めた。
「すいません、王子が悪いんです」
切っ先がヒュンヒュン耳元をかすめる恐怖に、姑を打つ楽師が言った。
「三番目だな」
「はい」
悟浄は舞をやめ、礼をすると台を降りた。
「なんだ、もうやめるのか」
「もうじゃない、充分踊らされたよ!」
「そう怒るなよ。美しいものはいつまでも見ていたいだろうが。…でも今夜は、まだおれに踊らされにゃならんからな」
 悟浄はかあぁと赤くなると、簪を抜こうとした。その手を悟空ががしっと掴んだ。
「せっかくだから、そのままでいろよ。…おれが脱がすまで」
耳元でこっそりと耳打ちする。悟浄は赤面しながら、
「兄貴、…今夜、やる気?」
「おう。意欲が湧いてきた。たまにはいいだろ。おれ達許されてるんだから」
「八戒が、いちゃつくなって…」
悟浄が八戒に目をやると、八戒はへべれけになって女としゃべっていた。
「あっちへ行こうや」
大分乱れた宴席を見渡し、悟空が手を取り言った。
 二人は広間を抜け、柳の木のある廊下の手すりに座ると、ぴったりと身を寄せ唇を合わせた。
 給仕の一人が通りすがりにそれを見て宴席で言う。
「なんか凄い美男美女が接吻してたぜ」
どれどれ、と若い衆が連れ立って覗きに行く。
 二人はじっとして未だに熱く接吻を交わしていたが、人の気配を覚って
「こらっ、」
と怒れば蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「あれはさっきの舞妓だろ。いい男を掴まえてるな」
「ばか、あれはうちの王子達の師父だろ。何を見てたんだ」
「じゃ、男なのか。勿体ない」
「男でもいいよなー」
皆がわいわいと言っていると、二人が消えたので三王子が探しに来る。
「じゃ、あの師父達は、出来ているということに…」
と言っていると、王子、
「誰が出来上がっているんだ」
「いいえ、別に、」
「こいつ、うちで世話になっているくせに。包み隠さず申し上げろ」
と胸ぐら掴めば、
「あの、あっちの廊下へ行けば判ります」
と給仕は言いこそこそと仕事に戻った。
「誰かに見られる、もう戻ろうよ」
抱き寄せる悟空に、悟浄は抗いながら言う。
「もうちょっと。お前も充分その気はあるくせに」
「ここじゃ見て下さいって言ってるようなもんだよ、」
「あと一回だけ。全くお前がいつもだめって言うから、おれは枯れないんだぞ」
悟浄の顔を両手で包み接吻する。
 王子達はぱったりとその場面にぶつかり、唖然として言葉もない。
 悟浄は背を向けているので気付かないが、悟空は一瞥し一層強く抱き寄せる。
「師父~~!」
第三王子がひざを折り叫び出す。
 びっくりして二人が身を離すと、悟浄に第三王子がしがみつく。
「うわっ、また!」
「師父、うそでしょう。こんな、男と出来上がっているなんて。ねえ、うそと言って下さいよ」
悟空はぽこんと頭を叩くと、
「目で確かめたくせに」
第三王子は頭を押さえ、
「いや信じない、おれは信じないぞ、」
涙を流しくやしがる王子が悟浄はさすがに痛ましくなり、
「おれたちはそんな変な間柄じゃないよ。ねえもう下らないことは言わないで」
と頭をなでてやった。
「何言ってるんだ。変な間柄ってのは、あれじゃないのか」
「兄貴…!おれたちは、人をいたぶるのが仕事じゃない。優しく救済の手を差し伸べるのが仕事じゃないか。今度如来に怒られたら、おれは付いていかないからな」
と、ひざに頭を抱え悟浄言う。
「お前は来るさ」
悟空は断固として言う。
「いつも自信まんまんだね…!王子、もうおれのことなんかきれいさっぱり忘れて、可愛いお嫁さんを迎えなきゃ、」
「師父~~」
第三王子は離れない。
「もう忘れられるだろ。お前の師父は、おれのもの、なんだからな」
「兄貴!」
「ちょっと言わせろよ。こいつは腹に据えかねたんだからな。あの時」
「殴ったくせに。おれの弟子を」
「お前困ってたじゃないか。おれは全然忘れてないぞ」
「それは…、」
「お前は甘い、甘いんだよ。だからこんな甘ちゃんに仕上がるんだ」
「ひどい、おれは兄貴みたいに残酷にはやれないよ」
「いい加減そのガキを離せよ。そこはそいつの場所じゃないだろう」
悟浄は腕を放すと、
「おれの徒弟を侮辱したのは、おれを侮辱したことだ。兄貴だってここは触らせないよ」
と立ち上がる。
「怒るなよ。言い過ぎた。お前は優しいからいいんだ」
「やっぱり嫌な予感は当たったよ。おれは帰る」
悟浄がそこに簪を抜き捨て雲を呼ぼうとするのを、悟空は後ろから抱き留めた。
「おれたちの来た目的は、まだ果たしてないだろ。な、許せよ」
ねっ、と悟空がにこやかに王子を振り返ると、王子たちははっとしてひざまずき、留意を述べる。
 悟浄は怒りをおさめ、とりあえず残ることにした。
「信じない、信じないぞ。そんなことがあってたまるもんか」
第三王子はグスングスンと目をこすっている。
 宴席に戻ると、八戒は目を回し三人分の椅子に横になっていた。
「八戒、起きろ。上に座るぞ」
悟浄が耳をつまむと、ふうふう言いながら八戒が起き直る。
「兄貴、おれ着替えて来るよ」
「なんで。いいことするまでそのまんまだろ」
「まだそんなことを言っているのか。…武術を見るのに、こんな動きにくいなりでどうするんだ」
「それが一番似合うのにな」
悟浄はきっとにらみ、
「所詮あんたはおれの身体目当てさ」
「なんだと…!!」
悟空が振り返ると悟浄はもうスタスタと去っていた。
「可愛くない、いつの間にあんなに可愛くなくなったんだ」
悟空がぶつぶつ言うと、八戒、
「あいつは結構やることがいけずだぞ。兄貴も気をつけるんだな」
と言う。
「お前寝てたんじゃなかったのか」
「お前らのいちゃつきには腹が立ったが、面白くなってきたじゃないか」
八戒はにやりと笑うと、すうすうと寝入った。
 やがて悟浄が着替えて化粧も落としやってきた。
「兄貴、」
悟浄は悟空が見ているのに目をとめ、声をかける。
「口紅が残ってるよ」
悟空は慌てて手の甲で拭う。
「悟浄、かりかりすんなよ。楽しくやろうぜ」
へらへらしながら八戒が銚子を持つ。悟浄は酔っぱらいに辟易しながら杯を受ける。
「女みたいにちょっとのことでかりかりすんなよ。どーんと大きく気を持てよ。おれなんか、見ろ、来たくもないのにてめえらのべたべたすんのに付いてきてやってんだぜ。ばーっと脱いでみろよ」
「八戒、やらしいぞ、」
悟浄がからみつく八戒をあしらいかねていても、
「厳しくやりゃいいんだ」
と悟空はしらんぷり。
「八戒、ちょっと、上品にやろうよ…!」
「ちぇっ、お前、おれがお前のこときれいさっぱり忘れたと思っているんだろ。お前は綺麗すぎるよ、罪作りめ」
「八戒!…お願い、忘れてよ」
悟浄が悟空を見ると、手酌で一杯やっている。
「兄貴…、」
「おれには可哀想で何も言えんよ」
悟浄はうつむくと八戒を抱き寄せた。悲しくなってきて胸が苦しくなる。
「許して…おれは一体、どうしたらいいんだ」
今までへべれけだった八戒が、はっはっと笑い出した。
「これに懲りて、人前でいちゃつくのはやめにするんだな」
「八戒…」
それでも八戒は身を預けたままだった。悟浄はただ黙って胸を貸していた。
 暫くして八戒は身を起こすと、これまた手酌でやろうとするのを、悟空が横からついでやる。
「わあわあわめくなよ。みっともない。れはお初はみんなお前に取られたんだぞ」
「でも、お前のものになっちゃった」
「それは承知の上だろ」
それを言われるとさすがにぐうの音も出ず杯を傾ける。
「あの、…おれ、やっばり帰りたい」
悟浄が消え入りそうな声で言う。
「だめだ。怨恨を断ついい機会だ。逃げるな」
悟浄は銚子を取ると、二人についでやった。
「どうだ、兄貴はちっとは上手くなったか」
にやにやして八戒が訊く。悟浄は赤面して、
「そんなの、…片手で数える位しかやってないから判らないよ」
「なんだ、そんなにやってないのか。あれからどれ位経ったよ」
「やればいいってもんじゃなかろう。あほうめ」
「悟浄、おれは上手かったろう。もっと凄い奥の手もあるんだぞ」
悟空はさすがに頭に来、無表情で八戒の耳をつまみ上げた。
「こいつは本当に上手かったのか」
「兄貴ったら、…怒ってるだろ、今」
「別に」
悟浄は笑うと、言った。
「上手かったよ。前にも言ったじゃないか」
八戒が笑う。悟空が問う。
「おれよりか」
「経験の量が違うみたい。兄貴も試しに八戒とやってみたら?」
「ふざけるな。おれは絶対の絶対、嫌だ」
声を震わせ悟空は八戒の耳を放した。
「おれだって兄貴なんか願い下げだ」
「気持ち悪くなった。身体を動かそう」
胸を押さえながら悟空が言った。そこで王子を呼ぶと、武術を見ることにした。
 三王子が、それぞれ、棒、まぐわ、杖をふるい型を示す。
 三人も真剣に見る。悟浄は自分の髪を纏めると、悟空の後ろに行き腰の下、足の付け根まである髪を輪にして止めてやった。
「世話女房め」
 八戒が毒づく。
 三王子が演武を終え礼をした。
「うん、精進してるみたいだな」
 悟空が言う。
「どこか改良の点はあるでしょうか」
 第一王子がひざまずく。
「今更四の五の言っても始まらん。相手になるか」
 悟空が耳から金箍棒を取り出せば、皆わあっと歓声を上げる。
「久しぶりだ、凄い」
 八戒と悟浄もまぐわと宝杖取り出し、さっと振れば万丈の瑞気がほとばしり、その威風を現す。
 八戒がふらふらと千鳥足なのを見て、悟浄肩を掴み、
「八戒、しっかりしてくれ、」
「大丈夫大丈夫。いっそのこと今日は酔棍で行くから」
 ふらふらしながら身を前後にゆさぶっていると、いつの間にか型を取り、第二王子に向かって行く。緩緩急、といった調子でふらりゆらりと酔棍の手を使えば、第二王子は手を出しかねる。
「八戒のやつ、やるもんだな」
 悟空が感心したように言う。
「彼は技巧に長けてるのさ」
 悟浄がにこにこして言えば、悟空は暫く穴の空くほど悟浄を見つめ、
「分かった」
 と言って地面をぱんと一つ棒で叩いて棒を扱い始める。こちらは全てこれ身に修まった技巧の塊、素早く軽々と大きく棒振り回し身を躍らせる。
 悟浄も一つ息を吸い構えると、
「行きますよ」
とことわり、杖を振り回す。がんがんと両手で打ち合えば、目の合う拍子に第三王子の眉毛が曇る。
「王子、そんなことでどうするんです。おれを敵と思いなさい」
「師父、おれはあの老師(悟空のこと)を敵と思っても、あなたを敵と思うことは出来ません」
 悟浄は王子の足元を払うと、(ころもへんに末)子をビリビリと破った。
「これでも?」
「無理です。あなたに殺されても惜しいとは思いません」
 悟浄は昔の自分を思い出し、
「こりゃ重症だ」
 と呟いた。
「兄貴。うちの徒弟と、やってみないか」
 暫くして悟浄が悟空に言った。王子達三人ははあはあ息を切らし、自分の得物の六倍から十三倍もの重みの神器を受けるのに手は痺れきっていたが、第三王子は立ち上がった。
「いいですとも。是非一手お願いしたい」
 悟空は笑うと、
「おまえもちっとは男だな。かかって来い」
と言う。
 第三王子が悟浄にちょっと手が痺れていると言えば、悟浄は両手を取り、手を押さえながら何やら呪文を唱えた。
 第三王子はすっかり痺れも疲れもおさまり、勇気凛々とし場に出ると、杖を構えた。
「弟子、そいつを殺してもいいよ」
 悟浄が言う。悟空は、
「おれに応援はなしか」
「あんたには、何も言う言葉はないでしょ」
 王子が杖を打って出ると、悟空は身を反らしかわした。戻る合間に棒を構えて杖を迎え撃つ。叩き付けた反動で腕を痺れさせながらも、王子は向かって行く。悟空は暫く棒を中央に立てたままひらり、ひらりと身をかわしていたが、棒を取りくるくると回せば、あまりの速さに王子は手の施しようがない。そして悟空が棒で打ち始めると、ひたすら受けるだけで精一杯という有様。
「どうだ、もう参ったか」
「なんの、」
「無理するな。骨を折るぞ。おまえは凡夫なんだから」
 悟空は手を休めると、悟浄を招き寄せた。
「師父。相手になれよ」
「手加減してくれるんだろ」
「手加減する位ならおまえを呼びゃあせん。……王子様方、好きにやっててくれ」
「じゃ、弟子の仇を」
「それは夜にとっとけよ」
 手を振る悟空に、悟浄は熱くなる顔を押さえながら、杖を構え、あやつり始めた。
 さて悟空はともかく、悟浄は本気を出しても相手が死ぬ気遣いはない。今まで出し惜しみしていた力と速さを出すと、全力を出し当たって行く。
 悟空も力を込めると、得物が凄い力でぶつかる度閃光がきらめく。
 佳境に入ると、身を翻す度に宙に至り一飛びで屋根を踏まえる。
 王子達はただ見上げるばかりであった。
「力が並じゃない……」
「おまえ、諦めろよ。あんな力持ち、身に余るぞ」
 第三王子は諦めきれぬ顔で目を伏せる。
 八戒は今までぐうぐう寝ていたのだが、桁違いに甲高い武器のぶつかる音を聞き、目をこすると二人に気付いた。
「いちゃついてるな。いっちょかんでやる」
 まぐわを取ると悟空に向かっていった。
「八戒、なにするんだ、」
「これで丁度いい位だろ。思う存分暴れたいだろ」
 悟空も本気の本気を出すと左右からの攻撃をなぎ払う。ひとくさり悟浄と悟空を攻撃すると、今度は八戒は身を返し悟浄に向かって行く。
「ひどい、おれに抗しきれる訳ないじゃないか、」
「おれたち二人、おまえを攻めたいんだよ」
と八戒が言えば、悟空も笑顔で向かって行く。
 必死になって杖を舞わせば、悟浄は息が切れはあはあと喘ぐ。
「いい感じだ。全くもって官能的だ」
「ふざけて、兄貴、八戒を、」
 悟浄が八戒を指さし切れ切れに言うと、悟空は八戒を叩こうとする。悟浄も息を収めれば、杖うち振るい舞う。八戒は酔いも冷め懸命に左右に払い隙無くまぐわを使う。
 悟空が棒を振り下ろそうとした時、発止と受け止め八戒、
「終わり、終わり、あー疲れた」
とそこに倒れ込む。
 立ち尽くし回りを見れば、随分長いこと遊んでいたので、相当数の人の山が出来ている。
「それじゃもう少し見て終わりにしようか」
 ひとつ咳払いをして悟空が言った。
 今度は苦言も交え見ていると、やがて夜のとばりの降り来たり、再び宴席が設けられた。
 前回は急いでいたので見られなかった三人の遊びを褒め称えぬものはなく、王子達は三人に盃を勧めた。
 八戒は再びがばがばと飲み出す。
「八戒、帰れなくなるぞ……!」
 悟浄が横から言うのに、
「どうせ泊まるんだろ。雲に乗ったらゲエゲエ始めるかも知れん」
と八戒。
「兄貴、どうするんだ。泊まるのか?一刻もありゃ充分西天に帰り着くじゃないか」
「たまには俗世も悪くない」
「それではお部屋を用意します」
 第一王子が言うのに、八戒呼び止め、
「ちょっと……!」
 王子が来ると耳元でささやく。
「あのな、おれはあいつらと別の部屋を用意してくれ」
「では、あの、やっぱり……?」
 不審げに言う王子に八戒うんうんとうなずき、
「でもな、隣にしてくれ。おれはでばがめするから」

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後半はエロです。ダメな方はここでさようなら~~!!(この前編も免疫ない人にはエロいだろうなあ……)

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