君と僕の憂鬱

 なんだかあっという間に、20世紀は過ぎていき、1999年7の月も何事もなく通り過ぎ(実はおれはなんかあるかなと結構びびっていたのである。テロとかいい気になってやりそうな時だろ)、なんだかあっけなく21世紀の幕は開けた。
 おれと原田は、結局あれからまず震災でおれの住んでた文化が潰れ(たまたま寝間着を着ていて良かったと心底思った。あれから数ヶ月はさすがのおれらもPTSDにはまり込み、きっちり「服」を着込んで寝てました)、慌てて痛んでないマンション(どこの不動産屋も大繁盛だった)を借り、家賃が2倍近くになり(この頃切羽詰まった人が多かったからかなーり足下見られていたと思う)、礼敷金を独立資金から出して貯金が減った。まぁそのあとちゃんと見舞金をせしめてその辺はチャラになったが、家賃が上がったのはちょっとなあ…。
 マンションはさすがに綺麗だ。フローリングの10畳のLDKに、4.5畳の物置(になっちゃった部屋)と6畳の寝室、風呂トイレ完備(給湯シャワー付)。寝室にはセミダブルのベッドも買った。イチバン嬉しいのはやっぱシャワーかな。
 でまあ、今何してるかというと、ちゃんと独立はしたんだよな。MAC覚えたり、金が前述の通 り一旦減ったりでちょっと遅れたけど。
 で、独立して暫くは小さい事務所借りて、おれと原田と高階クンと三人で、MACでデザイン・版下屋やってたけど、原田が「これからはWEBだ!」って言い出して、そっちの仕事もボチボチ増やしていって…おれは数字キライなんで、原田のヤツにCGIとかその辺押しつけて、おれは、デザイン面担当で、これが当初は結構ボロく儲かった。あ、高階クンは営業兼経理事務兼ときどき作業者ね。
 でも今は、猫も杓子もインターネット、一家に一台どころか一人に一台パソコン、って感じの時代だろ。素人さんでもかなりの知識があるし、そこそこのもんだと今時内製しちまうし、プロに頼むのはセキュリティとかシステムの要求・注文がキビシい旨みの少ないものが増え、その上、何かとトラブルがあると夜中でも呼びつけられる割には、この業界のデフレもそーとー進んで、儲けも薄くなってきたんで、いよいよヤツはこの業界に見切りをつけてなんかやりたいことをお探し中のようですよ。おれは結構しこしこデザインとかするの好きなんだけどね。個人でやればいいか…
 なんかおれの書き口暗いだろ…そうさ、最近ちょっと憂鬱なんだよな…まぁ仕事も不況だしそんな風だし…
 さて、そんなおれの一番のお悩みは、そんなネットの…なんつーか、困った部分なんだよな。1年前までは、そんなことなかった…ダイヤルアップしている内は、いらちのあいつは、そんなことあんまりしなかったんだ…
 おれらの入ってるマンションは、ケーブルテレビを引いてくれてなかったし…
 ブロードバンドにしたのは、はっきりいって失敗だったのかも知れない。
 もう大体分かるかも知れないけど、そう、ヤツはエロ画像サイトにはまってる。それも、ゲイ専門…(呆)
 おれたちは別にホンモノのつもりじゃないから(相変わらず)、別にそんな人達と関わることもなく、本を買ったりすることもなく、そっち方面の文化にはとんと疎かったんだけど、ネットって…
 ゲイビデオって、けっこー色んな種類、というかジャンルあるんだよな~。で、そういうの売ってる店は、クラブイベントなんかも主催するらしい…けどイベントなんかに行く気はないし、買うためにお店に行く気もないけれど、ビデオだけは見たいらしく、やつは新作を通販サイトでチェックして、某オークションサイトで安く買ってやがる。で、見終わったら余程気に入ったものじゃなければまず即出品する。
  それで色んな人とメールをやりとりするのも楽しいらしい…そういうメールをウキウキ打ってやがるときは、さすがにジェラシーを感じる。住所が近かったりすると、さりげに「近くですね」とかテキが打って寄越すしな。「手渡し希望」を匂わしてるとしか思えない。そして会ったとして手渡しのみで済むとはあんまり思えない。勿論おれは、手渡しなんか許さない。
 今更こんなどこの誰とも分からないヤツにやきもきさせられようとは…しかも、
「こ~んなかわいい子が、こーんなこと…」
とか、
「やっぱ若い子は肌の張りが違うなー」
とか、つぶやかないで欲しい。悪かったなー、30過ぎのオッサンでよ!
 まー、 そのくらいなら、事実だし、しょーがねーよなで済ませられるけど、一番困るのは、…もう分かってると思うけど、ビデオのマネすんな!ってことだな。
 今もヤツは、そうやって今日郵便受けに入ってたビデオをフローリングに寝そべって見てる。おれは何してるかっていうと、部屋の隅のパソコンデスクでネットしてる。間違っても近くに座って一緒に見たりなんかしない。
 こないだも、ひどい目にあった。
 てゆうか、あれがあるから見る気になれない。
 今日は絶対に、下らない遊びはさせない。いや、Hそのものを拒否しきってやる。
「赤城君…」
 そらきた。
「ネット面白い?」
おれの椅子のすぐ後ろに立って、横からのぞき込んでくるヤツは相変わらずかっこいい。けどいつも以上に魂胆ありげなツラしてる。我慢できない笑みが、にじみ出てるというか…肩に手をかけられて、ゾクリとする。まじで鳥肌もの。
「面白いよ」
出来るだけ素っ気なく答えてやる。
「もっと面白いこと、しない?」
「しない」
「もう夜も遅いしさー。寝えへん?」
「まだ10時やんか。どこが遅いねん。寝たけりゃお前一人で寝ろや、ボケ」
「可愛くないなー。その口のききかた。さっきのビデオの子たち、見た?あの可愛さ、」
 また…ぬけぬけと言われて、いい加減うんざりする。おれは、もう子なんてトシじゃありません。
「若い子がいいんなら、いってこいよ。あのショップがやってる店に行きゃ、あのガキが買えるらしいやん」
「あのビデオ東京のやつやったなー。今度出張の時行ってこうかなー」
 そんなこと言って、おれを妬かせようったってムダだぜ。
 てーか、その気にさせようたってムダ。
――いいよ。高階クンと二人でその間待ってるから。
とイヤミで言ってやろうかとも思ったが、これはシャレにならない事態になりそうなので、却下。
 高階クンは、相も変わらず、いやトシを重ねて落ち着いてはきたんだけど、おれに言わせれば、相変わらず彼女を取っかえひっかえしてる。もうイイトシなんだから、結婚しないのかなあ…と人事ながら心配になる。彼はまだ20代なんだから、心配することはないとはいえ、未だにおれのことが好きっぽいのは、ひしひし感じるから。
 仕事の話だけど、儲かってきた頃、人を入れる余裕も出てきておれたちはバイトの事務の女の子を面接で入れた。その理由は、多分おれと高階クンを事務所に二人にしないためだと思う。おれも原田も写植やってる頃とは全く仕事のやり方が変わって、それぞれ時にはスーツ着用で打ち合わせに行くのはしょっちゅう。だから、原田が打ち合わせに出て、おれが事務所で作業してて、高階クンが自分のデスクで事務をして…なんてこともあったわけで。
 美奈ちゃんは、あ、そのバイトの子だけど、仕事は楽しいみたいよ。自分で言うのもナンだけど、男前揃いの職場だからね。
 美奈ちゃんは原田の計らいでむちゃくちゃ可愛いって程の子ではない。あんまりカワイイと高階クンがヤバイからってさ。でも真面目でいい子。来て貰ってこっちも助かってる。やっぱり女の子ってのは、そう言う面いいよね。コーヒー入れてくれたり、こまめに掃除してくれたり…でも来て貰って暫くして馴染んで貰ってから、キチンとおれたちのことは言ってあるから、ヘンな波風が立つこともない。
「行けば……?おれはもうトシだからさ、あんまりビデオのマネされると、しんどいから、そっちでしてくれば?」
「お前全然カワイなくなったな。フーン。じゃあ、マジで行ってくるで、おれは」
といいながら、シャツの襟元の隙間から 左手を差し入れ、おれの右のち、…乳首を指の腹でこねくりまわす。そこはすぐに固く立ち、痛いくらい簡単に感じてしまい、全身が痺れが走り、熱くなる。あそこも直結で充血しだす。息も乱れかけてる。ヤバイ…おれは歯を食いしばり、下唇を噛む。
「でもやっぱ、お前の方がええかな。そんな可愛くないとこが、余計可愛いわ。こんなに感じとるのに、ムリして嫌がって。ビデオのヤツらは監禁物も強姦物もヘタレ演技で萎えさせよるしな」
 そのセリフがまたおれの腰を砕かせる。このままでは流されてしまうの確実。流されたい気持ちも50%超えてるけど、かな~り勃ってきてるけど、それじゃ今後の示しがつかないだろ、おれは今日はさせないと決めたんだから、ここで我慢だぜ。
 おれは俯き堪えている顔を見せないようにして、おれの左側に立ってるヤツの喉を押す。
「今日は絶対、しない。させへん、」
「じゃ~今日は強姦ね」
「ふざけるな……!ビデオのマネは、するなってゆうてるやろ、あ、…やっ、…」
 右手が、やつの右手が前に滑り落ち、ジーンズのファスナーを下ろして、掴まれる。ゆるくさすられるだけで、凄い感じる。ヤツは親指で先端をなで回し、
「もう濡れ濡れ、って感じちゃん…息もむちゃくちゃ乱れてるよ、赤城君…上向いて。ここじゃなしに。顔、見せて」
 またふざけたこと言って…!おれはやつの右手首を掴み、少し爪を立てた。するとヤツもおれのに軽く爪を立てる。
「あ……っ…」
 思わず声が漏れてしまう。濡れた声、ってやつだ。胸をいじっていた左手が、おれの顎を掴む。 おれは机につっぷする。キーボードの上に。このあとパソコンがいかれてませんように…
「意地っ張りやなぁ…もう」
 上を向かせるのは諦めたか、左手はスライドして首筋を撫で、そのまままたシャツの中に忍びこむ。おれは強ばる左手でやつを止めようと一旦は掴んだが、押しとどめきれず彼の左手は弱い脇腹へ。指の腹だけで微かに触れるか触れない程度に撫で上げられれば、ゾクゾクと鳥肌が立ちそうなほど…感じる。 そしてうなじに温かく湿った唇が触れた途端、おれは声を上げ、身体はピクリと全身に緊張が走り、…達してしまった。
 こ、…このあとだけは、させない…。肩で息しながらそう思ってると、また首筋や耳の裏に舌の這う感触が…やつの息も荒い。
「ダメ…お前は、ダメ」
「いいよゴーカンするから」
「やってみろ……!明日っから、マジでさせたらんからな!ここに帰ってけえへん、人んとこ泊まり歩く!」
そういいながら渾身の力で後ろへ押しやり、間髪入れずその辺の物を手当たり次第に投げてやった。やつは憮然とし、
「冷たいなー。なんでそんなに今日に限って嫌がるねん。…ビデオの子に妬いてんの?それとも買った相手?」
「そんなことと違うわ。おれが言いたいのは、ビデオのマネしてヘンなことすなってことや。縛ったり、こ、こないだみたいに……」
「こないだみたいに?」
 監禁ごっこ……。全く、こいつ正気か?と心配になったよ、あんときは、おれは!休みだったから大変だった。
 裸に剥かれて、真っ昼間っから、リビングへ入るドアのところの、よくあるだろドアの上のハンガーが引っかけられるような、金具がさ、あそこに両腕縛られて吊されて、…ビデオのマネして、言わされた。
「水が飲みたかったら、キスして下さいっていいなさい」
とか、とにかくあれこれして下さい、って言わされた。そしていろいろやらしいことされた。言わないとほっておかれるんだから、…休みだから、ほんといつまでも。
  当然トイレに行きたくなる。
「原田~。おしっこ」
とワザと色気のないセリフを吐いてやれば、
「おしっこ…。萎えるようなこと言わんといてや。そーやなぁ、そこで足を目一杯広げて、『ぼくの恥ずかしい写真撮って下さい』とでも言ってもらおーかな。ヘタに漏らされると困るし」
 ニヤ~ッと笑いながら言われて、おれはそこでそのまま息が止まって気絶するかと思った。
「そんなこと言うか!ここでやってやる、」
「あっそ、じゃあ、」
と彼は台所へ行き、ポンジュースの空き瓶を持ってきて、
「これにしてね」
とか言う……。 それってちょっとスカトロとか入ってない?冗談ではありませんよ。
 それからおれがどうしたかって……?もういいだろ。とにかく、そんなこともあったわけだよ。つい最近。
「そんなにビデオごっこしたいんならな、お前がモデルやれや。おれがビデオ撮ったるから、オ○ニーやれ」
 おれが立ち上がってそういうと、
「えーおれはそんなの楽しくない」
「じゃ~今日はお前はそのままね」
 おれの本気を感じとったのか、「チェッ」といい、
「しゃ~ないよな。… それよりお前、きれいにしてやろうか?」
 おれは自分の格好を思い出し、顔が熱くなる。
「いらん……。これからシャワー浴びるから。お前は、来るな。絶対」
「赤が冷たい……おれ鬱やわー」
 それはこっちのセリフなんだよ!ちょっとの遊びなら楽しいけど、お前、やりすぎ。おれたち倦怠期か?そんなに刺激が必要か?おれはいらん。しかもなんだかんだ言って、やっぱりこいつのこと好きで離れられないのが一番の鬱かも知れない。

…いや~ほんとツマランもので…怒っちゃイヤンです。いや、怒っていいです(汗)
急ごしらえの話らしくも、訳分からん…というか原田君いいトコナシ。参ったわぁ…オマケイラも赤城君は思い通りに描けましたが、原田君納得いかねー。これ原田君ちゃーう。と思う余り目がなくなってしまったけど、それでも違う。自分のキャラなのに思い通りに描けないキャラってつらい。

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