天六ミッドナイト・フラワ~ズ  4

前回までの活躍数
道隆
土井
原田
小山
潮崎
達彦
赤城
高階
吉田
野々垣
 
1
 
 
 
 
±1
 
1
 

 なんだか原田の目が気になる。物凄い痛い。
 びりびりくる視線をそしらぬ風で流しながら、ゲームの行方に目を向ける。
 土井さんは2ストライクノーボールで追い込まれたあと、三振かと思いきや振り抜いたバットにちゃんと球が当たり、レフト前へ飛んでった。盛り上がるベンチ。皆そろそろあのピッチャーにも慣れてきたのかも。
 一塁上で土井さんがおれに向かって笑い、右手の親指をグッと立てる。そんなキザな仕草も彼がするとピタリはまって格好良い。ここにいる男達全員の中でも、こんなのがしっくりくるのは土井さんだけだと思う。
 しかし土井さんがそうやった途端、ネクストサークルからの原田の鋭い目、潮崎さんたちの反射的に振り返った目に晒され、おれはまた寒くなったり熱くなったりする。このままではおれは今日一日で自律神経失調症になってしまいそうだ。まいるよ……
「よーし次も続いて行こう!」
 キャプテンらしく潮崎さんは腕を組み、立ったままで檄を飛ばす。ほんとにこの人は、こういうのが似合うなぁ。
「原田君、頑張ってや!赤城君のためにも……」
 潮崎さんがそう言うのに、
「うっさい、分かってるわ!」
と怒鳴り返す原田。なんか微妙に苛ついてる?そのままバットを振りながらバッターボックスへ入る原田。すんごい気迫に溢れる構え。
 ウレシイな……
 なんてつい頬がゆるんでしまい、恥ずかしくて俯いた。
「う~ん頑張ってるやん。もう負けてるかと思てたのに」
 そのとき背後から女性の声がした。この投げるようなしゃべり方。鈴木さんだ。
「鈴木さん。何しにここへ?」
 振り向いて言うと、彼女は口をへの字に曲げ、
「いきなりやな、相変わらずなってへん赤城君……応援と、差し入れに決まってるやん」
「え?鈴木さんが……?(絶句)…宮川さんは?」
「何その驚き方。あたしが差し入れするのが、そんなに似合わへん?…宮川は、今日は幼稚園の運動会やって」
 鈴木さんはそう言うと、スーパーの袋を差し出した。中に入っているのは、スポーツ飲料と、タッパー。
「ああそうか。もう宮川さんではなかったですね……」
 鈴木さんは相変わらず独身だが、宮川さんは数年前に結婚した。男の子が1人。
「赤城君みたいに道踏みはずさんように…」
というのが宮川さんの口癖である。悪かったな。
「でも赤城君みたいに可愛い子に育つか疑問やしねぇ」
というのがそういう時の鈴木さんの弁である。これは面はゆい。
 それはそれとして。タッパーを開けると、鈴木さんの人となりを知ってる数名が意外さにどよめく。手作りのはちみつレモンだった。
「おー懐かしのハチミツレモン、」
と潮崎さんが早速旨そうに一切れ食べると、
「鈴木さん凄い、女らしいっすよ!」
と高階クンが言う。その笑みを含んだ様子に、
「フン。どーせ」
とむくれて照れる鈴木さんは、相変わらずだが可愛い女の人だと思う。
「わー…ありがとうございます。でもなんで、こんな時間に?」
 おれはさっきの『もう負けてるかも』というセリフが気になってそう訊いてみた。
「それはおれが、遅くなったから」
「あ、張さん、」
「久しぶりやね」
 ニッコリ笑う張さん。なんだか地獄で仏に遭ったような気分で…なにしろゲームに参加している男達は、おれにとっては……なので、そんな利害関係のない張さんがとても会えて嬉しかったのである。で、おれも自然とすがるような笑顔を向けた。
「おら~~何してんねん!」
 その時潮崎さんの怒号が飛ぶ。はっと振り返ると、原田がどうやら併殺を食らったらしかった。とっても憮然と俯いて戻ってくる原田。ニヤニヤしつつ戻ってくる土井さん。
「えっらい気合い入ってるやん、びびるわ、どうしたん?」
 鈴木さんが目を丸くして言う。「ああそれは」と高階クンが、
「賞品が欲しいんですよ。皆ね」
「そんな目の色変えるほどええもん出るん?」
「出ますよ。レア物がね。赤城さんの唇」
「えっ……」
 絶句して鈴木さんと張さんがおれを見る。恥ずかしすぎて、死にそうだ。
「赤城君。あんた……」
 鈴木さんがそれだけ言うとまた途切れる。なんだか呆れられてる気がして、顔が熱くなってくる。
「おれは、嫌だって言ったんですけど……、」
「羨ましいなぁ。おれも出ようかな?」
 張さんが、顎に手を当てながら、いつものように飄々とニコニコして言う。
「ちゃ……張さんまで何言ってるんですか、張さんには奥さんが……!」
「うち倦怠期……」
 張さんはニコニコしながらそう言うと、おれの立っている側に…おれも鈴木さんのお手製レモンを頂くために立って寄っていたのだが、その側に来てベンチに座る。そしてオレを抱き寄せ、その膝の上に座らせられた。
「うわ…!いつまでそんなこと言ってるんですか。そんなに倦怠期長いわけないでしょ、」
 焦ってそう言うと、ギュッと抱き締められ、張さんの声が後ろから響く。
「君らはどうなん?君らももう10年近く一緒やろ。そろそろ倦怠期来る頃ちゃん?」
「ちゃ……張さん、やめて、こそばい……」
 首筋にかかる吐息がくすぐったい。おれは首をすくめ、身を捩る。するとひょろりとしてるくせに以外と力強い張さんの手が絡め取るように、そして手のひらがさわさわと脇腹や、胸をさまよう。
「やっ……」
「これは実にいいアイディアやね。飽きたり倦怠期を避けるには、こう嫉妬心を煽るのが一番らしいし、おれも協力したるよ、赤城君……」
 コホンと咳が聞こえた。見たくないけどチラと皆を見れば、なんだか小山さんと道隆クンが食い入るように見てる。達っちゃんは真っ赤になって目線を外してるけど、吉田はポケーと口を開けておれを見ている。潮崎さんも頬を染めて困ったという風に腕組みのまんま、見下ろしている。
「張さん、倦怠期の心配は、してもらわんでもいいです。おれたち、いつもアツアツやから」
 原田が軽く睨み付けながら、おれと張さんに手を伸ばす。すると「おっと、」と張さんがその手を遮る。
「君ら出場者は触ったらあかん。その権利を手に入れてから思う存分その立場を満喫してください。しっかりこの赤城君の可愛い様を目に焼き付けて、頑張ってください」
 そう言ってまたさわさわと触られる。あっ……と腰がむずむずする。我慢出来なく身を揺すると、お尻の下の張さんの股間がなんだか……それを感じて、おれは身体に甘い疼きを感じた。今度は唾を飲む音がする…
「張さん……、」
 かすれたような原田の声。そして
「張さんまで、そんな人やったん?あたしの立場ないわー。折角の紅一点が、」
 鈴木さんのそんな素っ頓狂気味の声が響き、あははと笑って張さんがおれを放す。おれは慌てて立ち上がる。
「おれもヤバイ……じゃ、頑張ってな。鈴木さん、おれ帰りますわ」
「あ、あたしも帰る~。なんかこの雰囲気壊しそうなんで。頑張ってな」
 2人はそうにこやかに手を振って帰っていった。まるで嵐のようだ。
「お~い、次、早よしたってや。試合進まへん、」
 テキから注意が入る。
「よっし、」
 ひときわ気合いを入れて、小山さんがバットを掴む。
 張さんのチョッカイで、雰囲気は更に異様にヒートアップしているようだった。おれは、恥ずかしくて逃げ出してしまいたかったけど。

今回までの活躍数
道隆
土井
原田
小山
潮崎
達彦
赤城
高階
吉田
野々垣
 
2
-1?
 
 
 
±1
 
1
 

このお話は、一周年記念アンケで募ったランキングによってMVPが決定されています。ありがとうございます!それは最終回のお楽しみに!

一周年記念のつもりだったものが、なんと2周年記念になりました!超久々更新!丸一年の沈黙を破って(笑)連載再開で~っす。サクサク試合を進めたかったのが、どうしても張さんを出したくて書いたらなんと打者1人しか進みませんでした…ガクリ
どのくらい続くのかこれ…… てかもうアンケ募ってから1年、もう投票して下さった大半の方は忘れているか見てないかも~~(大汗)すいません!

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