星を見上げて

田舎の道
夜の河原までの散歩
星が一杯
ちょっと臭い話をしよう

 昔、星が好きだった。
 勿論SFなんかも好きだったし、百科事典の星のページを何度も見てはうっとりしてた。通信簿の点が上がったご褒美に、親にねだって星の写真集を買ってもらった。
 「星空の四季」というその本を買ってもらったのは田舎の街で土曜夜市のあった夜。帰り道の車の中で、夜空を見上げ、星が流れたのを覚えている。

 夏の夜、河原への細い、暗い道を歩いていると、そんなことを思い出した。あの本はどこへやったろう。実家のどこかにあるはずだ。河原から帰ったら探してみよう…そう思って、上を仰ぐ。
 灯りの殆どない田舎の夜の空は、変わらず降るような星空が広がっていた。幅広く、けぶるように白く輝きうねる天の川に、またがるように輝く夏の大三角。目を南にやれば、地を這うような位置に大きな蠍が赤い心臓を示しながら横たわっている。振り返り、北の山の方を見れば大きな柄杓と、アンドロメダ。
 チカチカと瞬く星達を見ていると、美しさに感動もするが自分の存在の不思議さとか、久遠とか妙に孤独と不安を掻き立てられる。子供の頃、1人で庭に出てはボケーッと空を見上げ、怖くなって慌てて家の中に入ったりもしていたが…
 おれはバケツと花火の袋を持って隣を歩いているヤツの脇腹の辺りの服を掴んだ。
 すると、ヤツ、原田がおれを見て二ヤッと笑う。
 原田は服を掴む手を自分の手で取り、一度強く握った後、勢い良く振りながら繋いで歩いて行く。川が近くなり、流れる水音と、水の匂いがする。
 足早に足下の雑草を踏みならしながら歩いていると、虫が鳴きやむ。
「なんかこういうのも、凄くええなぁ…夏休みーって感じで、」
「懐かしい?」
「うん。…なんてね。おれのじいさんばあさんも市内やから、憧れてたわ」
「なんか、世界に2人きり、って気分せえへん?」
 そう言って天 を仰ぐと、彼も立ち止まり、仰ぎながら、
「ああ…なんか独り占めーって感じするわ。全部オレのモン」
「えっ?」
 おれにはない発想に、驚いて変な声を出した。
「そんな方向に行くん?……」
「ああ。世界も全部、オレのモン、この広くて綺麗な星空も、まーるい地球も、…全て。旨いモンも、何もかも」
 そう言って彼は花火の入ったバケツを天に突き上げた。
「寂しくなったり、不安感じたりせえへん?感受性違うなー」
 そう言えば、彼はおれを見、
「寂しい?不安?……おれはさみしないけど。お前も独り占めで、」
「………」
 おれは彼の肩に顔を埋め、身体を凭れさせた。そうしたかった。
 今は、1人じゃない。1人だなんて思わない。
 寂しくなる単位があるとしたら、2人だ。おれと、原田、2人。
 たけど、2人だったら寂しいなんて思わない。
 彼に会えて良かった。彼みたいな男と付き合えて本当に良かった。心の底から思う。
 ほの温かい唇が触れる。
 立ち止まって、じっと、微動だにしてなかったら、虫がまた鳴き出した。

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