Match! 5

 嘘だろ……
 まさか本当に、こんなことになるなんて。
 野々垣さんの、キスは上手い。おれの頭を、身体を溶ろかしにかかる。しかし心は、脳は恐慌を来たし、おれの心臓は更にガンガンと早鐘を打つ。
「……ちょ、待っ……」
 少し口が離れたときに、慌てて言う。
「もう遅い」
 素早く切り返され、太股にぐりっと彼の兆しつつあるものを押しつけられ、今更ながらに恐怖心が湧く。
 あほだ、おれ……男の身体って。現におれ自身も……こうやって快感を抉るキスをすれば、身体に簡単に火が付く。ましてやアルコールという燃料が適度に入ってれば。
 多分、絶対おれは野々垣さんの劣情を刺激するタイプじゃない。だからこうやってゆるゆると野々垣さんは自分を煽るキスをしてる。
 野々垣さんの右手の平が、頬、首、鎖骨の辺りを辿り、胸の上で止まる。
「ん………」
 アルコールとキスで温められた野々垣さんの手のひらが、シャツ越しでも湿っていて熱い。
 止まった手のひらは、胸をゆるくなぜると、所在を示しきった粒を微かに嬲り、脇腹へとそれ、ごく自然に滑っていき、股間へと至った。もう感じ始めているそれをあやすように撫でられる。
「………、」
 そこからジクジクとした甘い痺れが広がる。もっと、もっと触って欲しい。しっかりと。そんなむずがゆいくらいの刺激じゃだめ……おれは自然と、自ら腰を擦りつけていた。
「いやらしいですね」
 唇を離し、耳元で笑うようにささやかれる。カッとなり、熱くなる。
「そんなとこが、……ギャップで色っぽい……んですね」
 確かめるような口調。そうだ…彼はおれの身体を検分しているに過ぎない……ということを思い出す。
 少し、頭が、身体が冷えた。
「野々垣さん……今更だけど、やめ……、君こそ後悔、せえへん?」
「おれが?それこそ今更。ナニに対して、どんな後悔するって言うんですか」
「潮崎さん……」
 ああ。ここは潮崎さんの事務所だったんだ……と改めて感じるおれの方がいたたまれない。
「おれの性生活、こんなことで後悔するようなもんじゃありませんけど……」
 そしてふふふと笑う。その息が首筋を掠め、ぞくっとする。態度に、表情に出たと思う。
「さっきの威勢のよさはどこ行ったんです……?やっぱり虚勢やったんですか?」
 そう言っていつの間にかファスナーも下げられていた股間を直かにきゅっと締めるように掴まれる。
「そっ……そんなことは、ないけどっ、やっぱここで、こんなことって、」
 股間の彼を手を押しやろうと右手を動かすと、ガチャンと音がして馥郁とした甘い酒の匂いが広がる。こぼした。
 原稿は……と一瞬焦り、そちらに目をやり、既に潮崎さんのデスクに避難させられていたことを思い出し、ほっとする。
 野々垣さんも、音に気を取られ、そっちを見ていたようだが、ふいと手をそちらに動かすと、無事な方のグラスを掴み、
「飲んで。赤城さん」
と突きつけられる。
「な……」
「ごめんね。そうは思うけど、止めてあげられないから。グデグデになって下さい」
「………の、」
 突きつけられるグラスから顔を逸らすと、野々垣さんは自分が煽り、直ぐにおれに口づけてくる。舌を痺れさせ、喉を焼く液体が送り込まれてくる。
「原田さんもグデグデだったしね」
「原田………」
 股間の手が外れる。ほっとするのもつかの間、ヒヤリとした感触で、また戻ってくる。
「あ……は……っ」
 アルコールを、擦り付けられた。気化するヒヤリとした感覚と、すぐにそこから燃えさかる肌。その熱く燃える肌を、擦り上げられ、摩擦をピリピリと強く感じる。
「あ……あ……」
 そこだけでなく、更に袋の方まで丹念に濡らされ、局部から腰を砕くような熱さがじんわりと広がっていく。
「いい匂い」
 おれの体液と混ざり、暖まったアルコールの匂いが、身体の中心から立ちのぼる。野々垣さんは麻酔をかけられたようなおれの身体から下着ごと下半身を脱がせてしまうと、さらに濡れた指で穴をなぞり、押し込むように何度も熱い液体を押し込んでくる。ヤワな粘膜からアルコールは吸収されているんだろう。身体の中心から、内部から酔っていく。それがはっきりと分かる。ふわりとした感覚と、いつにない温もり方。このまま入れられ、抱かれたらどうなってしまうんだろう。
「甘いいい匂いで、ほんのりと色づいて、顔はとろけて、……赤城さん、きれいですね」
 そう言って、野々垣さんはおれの胸元もはだけてしまった。身体の線を露わにすると、その線を確かめるように手でなぞりながら、
「身体のラインも、きれいやな……いかにも男がふるいつきそうな感じやな。特にこの、ウエストからへそ、腰のライン……」
 皮膚の薄い2つの尖りにもこねくりまわすようにひんやりする液体を擦り込んでくる。熱源が更に増え、自分の身体が上気していく。舐めて。宥めて欲しい。熱くするだけなんてやるせない。
「あ…ん」
 だけど、言えない。悶えるだけで精一杯だ。
「赤城さん……」
 野々垣さんの息も荒い。すべる指とアルコールに溶かされた身体に、野々垣さんは自分の股間をベルトをカチャカチャ鳴らしくつろげると、ゆっくりと押し入ってきた。
「あ……ああ!あつ……熱い、」
 おれの胸が跳ねる。熱い、熱い。燃えそうだ。
「すごっ……おれも熱っ……とろっとろ……」
 そのまま、彼は自分に没頭し、おれの身体を大きく割開き、激しく自分本位に動き出す。時々アルコールを手に足しながら、おれのも愛撫してくれながら。もう互いの繋がった部分はぐちゃぐちゃ、動くたびに濡れた音とともに甘い香りが立ちのぼる。むせ返る程の匂いと、灼け付くような熱さはいままで感じたもののないもので。
「あ……あああ、ああ……っ!」
 おれは激しく痙攣しながら、絶頂へと至った。

 荒く乱れた吐息は、まだまだこの狭く殺風景な事務所に微かに響いていた。
「……潮崎さんとも、こういうことしたんですか?」
「……違う」
「じゃ、違う体位で?……」
「なにも……してない……く……っ、ぐ……」
 おれは唇を噛みしめる。
 椅子に向かい合い、座位で繋がっていた野々垣さんの熱く硬い杭が、そう言った途端ぐっと強く打ち込まれたから。おれの身体がわななく。
 ……やった。潮崎さんと。こんなこと。
 長いこと記憶の隅に霞がかっていたものが、フラッシュバックする。
「潮崎さんはオッパイ好きだから、こっちの方がねちっこく責められたかな?」
 そう言って唇に含む。カリッと甘がみされて、
「ああっ……く、………」
 おれはまたみっともなく悶えてしまった。
「原田は……、」
「え?」
「君は原田に、こんなこと、したん……?したことを、する言うたよな……」
「………」
 野々垣さんは目を伏せ、口角を上げ、おれの腰を掴みゆるく動かしつづける。おれもその揺れに身体を支えるために、彼の肩に手をかける。
「何、したん……?」
「……知りたいですか?本気で?」
「………君が、おれと潮崎さんのことを知りたい程度には」
 でなきゃ、こんなこと……。焦点も怪しく、閉じようとする目をこらえ、野々垣さんの目を覗き込む。
 野々垣さんの顔も、ほんのり紅潮して、潤んでいる。凄い色っぽい顔してると思う。うっすらと開く唇も赤く色づいて目を引く。
 その唇を軽く舐め、艶やかに濡らすと、野々垣さんは目を伏せ言った。
「……じゃ、相当気になるって、ことですね」
「君は………」
 野々垣さんが目を上げる。その目をもう一度正面から捉え、
「……これは、嫌がらせ?復讐?」
「……何?」
「………おれが潮崎さんと、関係あると思ったから、おれの原田に手を出して……何の関係もない原田に手を出すなんて汚い……、……うっ、」
 その時、ぐりっと腰を回されると同時におれの先端に爪を立てられた。
「汚いとは失礼ですね。……おれをそんな男だと?」
「違うのか?全否定できるのか?」
 胸を喘がし、荒い息を堪えながら、絶対に目を逸らさない……そういう決意で、眩む焦点を叱咤し、喉から言葉を絞り出す。
 野々垣さんもまた、おれから目を外さない。身体を繋げたまま、じっと見つめ合う。
 緊張感が戻ってくる。だけど、腰から全身に溢れていく甘くうずうずとした痺れは身体を満たし続けて引くことはなかった。時折彼をヒクヒクと締めてしまうから、彼も萎えることもなく。
 不意に野々垣さんの手が、おれの胸に伸びた。最初のときのようにゆるくなぜ、きゅっとつままれる。
「………っ」
「感度いいですよねえ。マジで。しかも悶え方のきれいでかわいいこと……原田さんは、酔ってるからしゃーないのかも知れませんけど、無反応でしたよ」
 急に、冷水を浴びせられた感じがした。全身を包んでいただるく甘いものがざっと引く。予想していたとしても、実際に言葉となり、耳に入ってくると心が波立つ。
「離して……」
 彼の胸に両手をつっぱね、腰を上げようとすると、ウエストを掴み、ぐっと引かれる。そして耳元に口を寄せ、
「キスしました……もちろんベロチュー。ベッドでね。おれが被さってね。だって原田さんグデグデですから、まぁ殆ど寝てるような感じでしたけどね。…気持ちよかったですよ。ベッドで、原田さんを組み敷く、というシチュは……萌えまくりましたよ」

とりあえずここでアップします。進行少なくて申し訳ない。やーしかし、個人的に野々垣さんはやっぱ攻でイキイキだなぁ。リバ設定だけど(笑)

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