ブレイクスルー4 -37-

「……っ、ちょ、離して、」
 彼の腕の中でもがくと、意外や(?)あっさりと高階クンはおれを解放した。そしてニコニコしている。 ニヤニヤではない。
 悪魔でも不敵でもない高階クン。でもおれは、なんとなく思った。
 自分で言うのもなんだけど、手の中に落ちてきた獲物を、ゆったりと、ツメの先で遊んでる猫系の感じ…
 おれって高階クンに偏見でもあるのだろうか?いやおれの勘は、狂ってないと思う。
 ここは危険だ。
「ごめん。夜中に突然。おれやっぱかえ……」
 る。と続ける間もなく、凄い目で睨まれた。やっぱ大変なとこに来てしまった。危険だ。
「どこに?いいじゃないですか原田さん一晩くらいほったらかしても。何があったんか知らんけどさ。原田さんも強がりにしても平気そうにしとったし。このさい赤城さんといつでも居られる幸せを思い知ってもらわんと」
「………。他の友達んとこに、行くから」
「こんな時間に?ごっつい迷惑と思いますよ」
 正面切って見つめられ、きっぱりと言い切られる。そしておもむろに携帯を手に取り、
「出ていくて言うんなら、おれ原田さんに赤城さんがココにいるて電話かける」
「そ、それは……!」
 いやだ、さすがに困る、なんだか困ります!そんなこと知られたらさすがにおれ出社拒否してしまいそうだ……
「ね」
 黙ってしまったおれを見て、高階クンはまた新月みたいな目と口で笑いかけた。
「とにかくシャワー浴びて下さい。明日しょっばなから打ち合わせやねんから、そんなキタナイ風情で行かれへんでしょ」
「でも……」
 と渋りつつ、でも確かに、そうなんだよなぁ。うーんと目を閉じ、うなると、
「おれ、そこまでケダモノちゃいますよ」
と。ウソツケ、と言いたいが、そんなこと言うと開き直られては困る。そもそもそんなケダモノのところに転がり込んできたオレがアホ。
「じゃ……ちょっと……借りようかな……」
 渋々言うと、今度はやれやれと言ったようなオトナの笑みで、おれを風呂場へといざなうために立ち上がる。おれも立ち上がり、かけられたバスタオルを手に後に着いていく。
「どうぞ」
 脱衣場の前で言われる。おれは「……」と物言いたげな(多分)目で彼を見てしまう。
「何ですか?その顔」
「……入ってきたり、覗いたりせえへんよな……」
 すると吹き出し、しょうがないな、と言う顔で、
「信用してください、としか言われへんな…でもおれは、折角おれのとこに来てくれた赤城さんを大事にしたいんで、」
「ごめん……」
 俯き彼から目を離し、シャツのボタンに手をかけているとイキナリ背後からきつく抱きつかれ、頭を鷲掴みにされ、口付けられた。
「………!」
 うわぁ、と叫びたいのに声も吸い取られるような口付けでじたばた暴れる。驚きすぎて心臓が止まるかと思った。だから直ぐに息苦しくなり、ますます暴れるとふぃっと彼が口を離し、腕も緩める。
「……期待には応えたらんとね」
「誰もそんなん期待してないわ…!」
「ただ大事にするだけでも、いい人で終わってまうしね。こういうときこそちょっとはドギマギさせな。おれのこと頭離れへんようになるでしょ?」
「……かえ……!」
「ごめんごめん。もうへえせんって」
 そして笑いながら
「下着、あ、ちゃんと新品、用意してきますから安心して入って下さい」
「安心できるかっ、」
「もうほんとに覗いたりとか、絶対しませんから。ちゃんと綺麗にしてくださいよ?」
と高階クンはそこから立ち去っていく。
 どうにも背後が気になりつつ、彼のバスルームは鍵のかけられるものだったので鍵をかけてソワソワしながら手早く裸の身体を洗っていく。ここで裸になるなんて……とおれはドキドキしっぱなしだ。なんで、なんで男同士なのにおれはこうなってしまうのだ?
 でも一瞬彼の陰が曇りガラスのサッシの戸の向こうに見えた以外、彼はほんとに何もしはしなかった。
 ほっとしつつ、でもちょっと拍子抜けしつつ(いかんなあ)、鍵を開け脱衣場に出ると、物凄い勢いで身体を拭いて下着に手を伸ばす。確かに新品。ノリが効いてて。高階クンは相変わらずトランクス派なんだなとか思いつつ。おれの脱いだ下着は慌ただしいながらもシャワーで洗った。ここに放置なんて怖くてできなかった。
 下着の下には、洗濯したてのパジャマも置いてあった。緑のチェックの綿のパジャマ。有り難く好意を受けてそれを着ると、リビングへ頭を拭き拭き行った。彼はテレビ見ながらまだビールを飲んでいた。
「ごめん。ありがと……」
「ああ、」
 彼はおれを見、手に抱えている濡れたパンツに「干しますよ」と手を伸ばす。
「ううん。自分で干す。何処に干させて貰ったらええ?」
「んー…ベランダ、かな」
 そう言ってリビングのサッシを開くと、「どうぞ」と言われる。おれは自分で干す。明日の朝、忘れないように取り込まなくては。半乾きでも。おれって男のくせに警戒しすぎ?
「なんだかんだで遅なりましたんで、とっとと寝ましょうよ」
「……高階クンは?シャワーせえへんの?」
「おれ?おれはこれでももう浴びました」
「……あっそ、」
 さあさあ、と促され今度はベッドルームへ誘われる。またも心臓がバクバクだ。今度は、今度こそヤバイ……?
 ……それに、そのベッドって、さっきまであの子とエロエロしてた場所じゃん……!なんか凄いイヤ。
 高階クンがどうこうより、そんなナマナマしい現場で安眠できない。
「どうぞ」
 でもおれはそう言われて、ブラックライトの点る神秘的な青の世界のベッドに腰掛ける。高階クンの趣味、こんななのか。なんか微妙に意外だ。でも……
「毛布貸して。おれ、リビングでええよ」
「あきませんて。大事な赤城さんを。おれんちソファないですし。身体痛なりますよ」
「でも……ここでやっててんやろ?さっきまで」
 するとまた柔らかく笑い、
「それはリビングでやってましたから……まぁまぁそない気を病まんと。ね。もう何もしませんからぐっすり安眠して疲れを取って下さい。明日に差し支えますから。……」
「………」
 ううん。ここは信用してるって見せた方がこのまま紳士ヅラを貫いて安全な夜を過ごせそうな気がする。本能がそう教える。
「ん……じゃ、お言葉に甘えて……おやすみなさい」
 大人しく深い青に染まるベッドに深く潜り込む。すると彼もおれがシャワーを浴びていた間に着替えたらしい寝間着姿で、横に寝る。
「……ブラックライト、……」
「ああ。いいでしょ深海みたいで落ち着いて。気に入ってんです」
「……なんかラブホみたい……」
「なんやって?」
 そう言うとおれにがば、と覆い被さる。
「うわ、」
 ヤバイ、言っちゃった。でも何か感じていたのは、そうだラブホっぽいんだ!この雰囲気づくり。
「ごめん、ウソ、やめて離れて、」
「聞き捨てなりませんね人が好意で泊めたってるのに。そんなこと言うんやったらホンマラブホみたいに使いますよ?」
「やめて、ごめん。めっちゃ落ち着く、感じええ、センスええわ高階クン。だから安心して寝させて、」
 必至の体でそう言うと、ぷっと吹きだしまた横になる高階クン。おれはほ~っと長く息を吐く。そしてムリヤリリラックスを得ようと身体の力を抜く。とまた暖かく凄い圧力がおれを覆う。
「うわ!」
「やっぱあかん。ちょっとくらいは宿賃貰てもええやろし、」
 うわー起こしてしまった。彼の手がパジャマのシャツの裾から入り込み、乳首を摘まれる。ビリっと刺激が走り、身体が跳ねる。クネクネと弄られ、ウズウズとしたものが腰に、身体にわき始める。
「や……あかん、そんなんするんやったら、かえる……」
「おれが帰すと思てんの」
「やっ……」
 その間にボタンを外されていた胸元に、彼の顔が落ちる。温かい湿り気を感じてゾクッとする。べろりと、舌がもう一つの粒を嬲り始めた。

あらあらオホホ(笑ってごまかす)赤城君たらそんなこと言うからアレですよ。ってなもんですね。さあさあ二人の夜はまだまだ長い?原田好き(ファンとは面はゆくて書けない)のお方、暫く辛抱してくだせぇ…悪いようには、いたしませんので~~

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