ブレイクスルー4 -32-

 夜闇の静けさの中、ギシッとベッドが鳴る。原田が、おれを煽ろうと潤滑剤で滑る指を入れてきた。
「………」
 せわしなく擦り上げられ、摩擦熱を伴い、痺れが生まれ、じわりと拡散していく。
 しかし皮膚まで熱さが到達しない。何かいつもの全身を駆けめぐり、ふにゃふにゃにする快感とは違う、局所的な感覚で心や皮膚は熱くなれないちくはぐな感覚だった。心と体は別物、という感覚……気持ちはいい。息も上がってきている。でもそれは生理的なムリヤリな感覚で……
 気持ちいいけど、気持ちよくない。
 そんな今一つノリきれないおれを、熱くならないおれを原田も感じ、いらついてるのか、早急に擦り上げられる内壁が熱さを増す。
「ん……」
 吐く息に声が付いていく。
「なかなかしゃっきりせえへんな」
 そんな声が聞こえる。掴んで軽くさすっている、おれのアレのことだろう。刺激されている間は良いのだが、なんだかフニャで、確かに硬くなり切れない。ヌレ具合も悪い。でもそうはっきり言われてしまうと……
 原田は焦れたのか、それでも準備は良しと判断したか、大きく足を開かせ抱え上げると、入れてきた。
 ずる、っと押し上げる圧迫感。思わずひくつく。でもやはり、それも何か局地的、生理的。生々しい感覚はあるのだけど、妙に生々しいばかりで。
 多分原田は、焦れている。なので物凄く強くおれの内壁を抉り、あるところを徹底して擦り上げてきた。いやがおうにも強く甘い痺れが溢れだし、身体は堪えきれず、簡単に上り詰め、みっともないくらい悶え、原田を締め上げ受け止めた。
 上がる息。痺れの残る下半身。でも上の方は……皮膚は心は、追いついていかない。絶頂から簡単にクールダウンしていく。もういらない。疲れた。という気持ちが沸く。
「どう……?てなーんかお前、ボケッとしてんな……気持ち良くない?」
「……そんな……」
 原田はあっさり萎んだものをひっぱりながら、言う。入れっぱなしで。
「なーんかこないだからお前ヘンやよな」
 ついに言われた。
「こないだ……?」
 とぼけてみる。
「金曜の夜やんか。あの日からお前ノリ悪い。全然気持ち良さそうちゃうし。むりやり搾り取られてるみたいな」
「そ……そんなことないわ」
「そうかぁ?じゃこれ放すで……」
 そう言って、ひっぱって弄っていたものを放される。弄られてちょっとだけ反応してたものが、刺激を失いあっさりとくたっとなる。
「………」
 我ながらどうしようかと思ってしまう。でも、今は正直言ってこのまましなくてもいいと思ってしまう。
「あのHな赤城君が。……」
 それから溜息を盛大につかれる。
「あ。ちょっと疲れてるだけやわ。気にせんと好きなだけ、……」
「アホウ。おれ1人やる気満々やったとしてもな、お相手が、お前がそない冷めてるとこっちも冷めてくんねん。出来るかいや1人アホみたいに熱くなって、空しいわ」
「原田……」
 いやだ。なんだかセックスレス夫婦みたいな兆候じゃないのかこれ。この気まずさがどんどん脹らんで……悪循環。
 というより、おれ、……もしかして。
「不感症な赤城君なんて、赤城君ちゃう」
 がぁ~ん。まさに頭に鳴り響いた。おれ、不感症?いや確かに不感症っぽい兆候だよな。冷凍?冷凍マグロ?
 だっていくら他の部分、首筋とか乳首とか吸われまくっても、熱く抱き締められても甘い刺激は殆ど沸かなかった。何か皮膚の上に一枚挟んでいるような遠い感覚で……もしくはやっぱりムリヤリ叩き起こされるような快感で。過ぎていくとあっさり引いていく。
 最悪だ。高階クンと野々垣さんの不安が心を蝕んで、不感症になってしまった。
「もうおれとなんて、飽きた?」
 そう聞いてくる原田の声も冷えていて。
「なんでそんなこと言うん!飽きてなんかおらへんわ!」
「でもお前。身体はニブチンになってるやないか」
 暗闇を照らし、タバコを吸い始める原田。ふーっと深く吐く息が、煙のためとはいえ溜息に聞こえた。
 いやだ。好きなのに。
「原田、おれマジでお前のことしか見えてへんで。お前以外と、したくない」
 それはウソでないのだが、Hに身が入らないのも本当のこと。おれは横で腹這いになってタバコ吸ってる原田に抱きつく。
「でも身体は正直やしな……もうちょっと頑張ってみる?」
「………」
 思わず無言。やっぱりしたくない。原田を舐めて、または手でイかせてやるのすらなんだかしたくない。
 原田がまた溜息つく。気まずい。ひたすら気まずい。
 おれは、セックスそのものがキライになってしまったんだろうか。目の前が暗くなってきた。
 そんなおれの内面の闇に怯えている間に、原田はタバコを揉み消し、
「おやすみ」
と早口で言って背を向けて寝てしまった。
「あ、原田……」
 せめて野々垣さんのことでもぶちまければ少しは心の重石が減るだろうか。
 しかしどう聞いたものか、まだ纏まらなかった。

短くてゴメン!エヘ。不感症な赤城君も萌えですね(えっ私だけ?)

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