ブレイクスルー4 -2-

 今までなんとかHせずにここまでこれたものを、よりによって今日みたいな日にヤられるなんて…!
「ちょっと、頼むから抜いて……仕事する、もう絶対出来るから……」
「じゃ、早よせえ。さっきから言うてるやろ」
「こっちこそ、抜いて…て言うてるやん……」
「ムダ口叩かずにさっさとやりなさい」
 そう言って中を探る指がいいとこをかすめ奥へと動く。
 こんなことされながら、仕事なんて…なんかもうヘンタイっぽいもいいとこだ。月曜から仕事してるときに思い出したらどうする…。それがイヤだから、ここでのHは頑としてお断りしてきたのだ。
 でも、やらないと、…早めにやらないと、そのうちキーを叩くどころじゃなくなる。疼きに身を捩りながら、身体をいじる手に耐えつつ、さっきの続きをやる。指先がもう痺れてきてる。
 思わず目を伏せる。
「全然出来てへんやん。…また、飛ばした」
 あっ…と思う間もなく、彼は胸を弄んでいた左手を腰に回し、机につっぷさせ、ケツを上げさせられる。
 キーボードを避け、その横にある校正スペースに、紙類を押しやり、何枚かバサバサと床に落としながら上体を預ける。
「ん……」
 仕事はどうなった?仕事させるんじゃなかったのか?そんな思いがぐるぐると回る。でもそれは空回り。
 指が抜かれ、ジーンズの中を這いながら手が前に移動する。期待に溜息が漏れ、更に痛く、熱くなる。
「なんやこれ」
 前に手を回す拍子に、内からポケットに触れた彼はそう言う。ヤバイ、最大級にヤバイ…瞬時におれは血の気引き、ちょっと萎える。
 原田がポケットをもぞもぞと探り包みと箱を取り出す。その手にも布越しのもどかしさに足の付け根の敏感なとこが感じ、直ぐ盛り返してしまう。
「あっ、返して……!お前には、関係ない」
「関係ないて、これプレゼントやん。誰や。おれというものがありながら、……」
「プレゼントくらい……ええ…やろ……?」
「まあな。でもお前が隠しとったのが気にイラン」
「隠すなんて……!忘れてただけ、やん。返して。開けないで……」
 おれは彼の手首を掴む。彼は後ろからのしかかり、体重で押さえつけて、片手だけで箱を開く。おれは心臓が縮み上がる。ついでに、アレも。
 凝視してるのか、無言、動きも止まる。そして、
「誰にもろたん。言うてみい」
 低く言われる。…分かってるクセに。今日おれはどこにも打合せに出てない。ちょっと嫉妬入ってるのか、荒々しく乳首を強くひねられる。腰が引ける。でもそれは今の自分の状況では、自分から腰を付きだした動きになってしまった。
「…た、高階クン……」
「あいつ……」
 そしてマジで潰す気かと思うくらい胸の手に力籠もる。
「痛……彼とは、何にもないから……!」
「分かってるわ。……出来へんヤツは強いな。おれなんかお前にイヤがられて出来へんようになるのが怖くて渡されへんかったのに。……でも、ええわ。お前にいうより、これはおれへの最高のプレゼントやな」
 そして彼は覗き込むように顔を寄せニヤリと笑った。
 おれに指2本に通したリングを見せ、ファスナーを降ろし、片手で素早くタマを通 すと、殆ど親指だけで残りも押し込まれる。
「あっ、イヤ…!」
 はめられたってだけで意識が行く。意識すると、ぎゅっと感じる。
 彼の手が這い、根元にきっちり位置を直すと、また穴に指を入れ、感じるところを撫でられる。
「いや……」
 熱くなる。擦られてるとこから熱がじんわり広がる。熱と、血液と。
 もうかなり、はってきた。
「いや……!外して、外して…っ……」
 締める根元の圧迫感が、存在感がもの凄い。いつになくアレが、タマに至るまで敏感になっていて、空気の振動ですらぴりぴりと痛気持ちいい気がする。…そこへ触られたりしたら。
 外して、もっととろけるような気持ちよさをじんわりと感じたい。締めすぎたら、外れなかったらという不安もイヤがおうにもそこを意識さす。呼吸が苦しい。動悸も早い。とにかく苦しい。
「マジで硬度増すねんなー。反り具合もエエし、エラク感じてるやん、…どう?」
 そう耳元で囁き、触れるか触れない程の距離で手を撫で上げるように動かされる。それだけで、感じる。触れられそうだと思うだけで、身体が逃げる。堪えきれないほどに、感じる。
「は、外して……原田……」
「アホか。今外せるわけないやん。そんなことしたら潰れるやん。大事なモンが。我慢出来ひんのやったらそうやって遠慮なく乱れとけ」
「アッ、だって、…イけない……怖い、」
「いつかはイけるって」
 彼の指が先端に触れた。びくっと震える。零れる液を指になすりつけると、それでまた抜き差しを早め、身体を押しつけられる。
 そして、入ってくる。それがまた堪えきれない程の感覚を促し、おれは狂ったように髪を振り乱し、声を上げていた。彼も我慢できないのか、激しく突き、掻き回す。
 彼がおれのを掴む。そして擦り上げられ、敏感過ぎて痛い程感じてるのに、イきそうなのに、なかなかイけない。あれのせいだ。そして彼とあれに翻弄され、乱れまくる。
「スゴイな…赤」
 肌が粟立つ。震えが走る。
「ああー……っ……」
 イッた。確かに。でも戻りがゆるい。いつまでも吐き、余韻が残る。
「持続力はイマイチやな。乱れ方は凄かったけど」
 彼も吐き出した後、おれに身体を預け、背中で言う。じーんとした痺れはまだ続いていた。
「し、……仕事、」
「これで目も覚めたし、すっきりしたからサクサク進むよな」
 そう言いながら、首の付け根にキスされてまた感じてしまった。
 結局、仕事はそこで終わり…とてもじゃないけど、続きをする気分にはなれなかった。
 外して、おれはポケットに入れ、散らばった箱や包みは捨てた。床に散った紙をだるく拾い集めて…彼はその間、床に飛び散った液体をティッシュで拭う。

 月曜は、おれがスーツを着て行く日だった。
 朝、目覚めて、隣のヤツの寝顔…格別可愛くも幼くもなく、ただ単に気持ちよさそうな…を見、そっと起こさないようにベッドを抜け出す。いつもベッドの側に置いているパイル地のガウンを着て、夜色のベランダへのサッシのカーテンを開けると、眩しい位のいい天気。すっかり日差しが強くなったなあ…と目を細めつつ、手をかざす。
 それからシャワーを浴びるため、クロゼットからバスタオルと下着を出す。
 朝からシャワー……。あの文化のガス風呂のことを思えば、とてもゼイタクだ。蛇口をひねれば、直ぐに湯が出る。朝風呂のために、1時間弱早く起きて用意する必要はない。
 ほんとに、シャワーだけは、ここに越して良かった。
 シャワーを浴びながら歯を磨いていると、キイッとドアの音がする。振り向くと、素っ裸のヤツがこっちをぬぼーっと見ながらドアのとこにいる。今更……って感じだけど、妙に恥ずかしく、緊張してしまう。
 だって直ぐに、近寄り、抱きしめられてしまうから。
 風呂場の窓からは、爽やかな朝の光がさんさんと差し込んでいるのに。
 彼は笑い、くわえている歯ブラシを引っこ抜こうとする。
 キスする気だ。…自分は歯も磨いてないくせに。
「あかん。…歯、磨いて」
 あぶくだらけの口でもごもご言うと、彼は、
「じゃその歯ブラシ貸してや」
「自分の歯ブラシあるやろ。パンツと歯ブラシは…、」
「口の中も下半身も共有のくせに。歯ブラシくらい、……」
「虫歯菌が……!」
 まぁそれも今更、だ。
 おれも彼のスーツ姿が好きだが、彼もおれのスーツ姿が好きだ。特に着ていくプロセスが好きらしい。クロゼットの前で鏡を見ながら着ていると、自分はもうカジュアルスタイルに身を包み、ベッドに座って朝メシのパンを紙パックの牛乳で流し込みながら見てる。
 でも脱がすのがもっと好きらしい。今日はシャワーで時間を食ってしまったので余裕がないが、あると大変だ。壁に押しつけられ、キスしながら折角締めたネクタイをゆるめて、その辺にキスを一杯されたり、ワイシャツの上からなで回されたりする。
 おれが着終わると、原田は立ち上がり、ネクタイを引っ張り、軽くキスをした。
 一旦会社に出てから資料等を揃え打ち合わせに行く。車で行くほどの距離ではないし、自転車。
「おはようございます」
とクライアントのドアを開けば、奥から担当者の主任がにこにこして立ち、寄ってくる。
 この辺の人じゃない、こじゃれた感じの30代半ばの、特別かっこよくも、悪くもない人だが、別にドアの側の打ち合わせテーブルで充分なのに、ナゼか彼は
「じゃ、あちら行きましょうか」
と必ずパーテーションで区切ってある応接室らしい、に、いざなう。どうかすると腰を抱きながら…おれはいつも苦笑いだ。
 ドアを閉められ、ソファに促され座り、…前に座れよ、と思うのだが横に座られ、
「赤城君誕生日だったんだって?」
 イキナリそれか…
「ハァ…、」
「言ってくれたらよかったのに。プレゼント用意出来なくてガッカリだよ」
「イエイエ…仕事沢山頂ければ、それで充分ですから、もしくは単価上げて頂くか、」
 ニッコリ笑って言うと、彼も首を傾げ、笑う。
「それはぼくの一存では決められないから、ね」
 ここも代理店だ。だから上のクラ次第。うちは孫請け。
 そして原稿の上に置いていた手を両手で取られる。
 ああ早く帰りたい。でも仕事だから…そこまでひどいセクハラ受けたこともないし。バレンタインにチョコねだられるくらいだし。…今んとこ。
 そう思ってると女の子がお茶を持って入ってくる。彼もさすがに直ぐに手を離したが、一瞬遅かったと思う。充分見られたと思う。テーブルに置いてくすりと笑い、去っていく。
 ああイヤだ。今度から誰がなんと言っても、高階クンにタッチして貰おう。おれご指名でも。おれは作業者なんだ、余程の打ち合わせ以外、出てる場合じゃない。こうしてる間にもあの仕事の納期が……と別の仕事に意識が飛んでいく。
 早く帰らなきゃ、そう思うと私情を挟まず、超特急で説明、打ち合わせを済ませ、おれは帰った。
「お帰りなさい」
 事務所のドアを開けると、美奈ちゃんでない女性の、涼やかな声がする。
「あ、いらっしゃいませ、」
 打ち合わせテーブルに美しく足を組み座って、こちらに振り向きこれまた美しく微笑んでいる女性。
 細身のグレーのパンツスーツにヒール、髪は凝ったカットのサラサラセミロング、上品な程度に、茶髪。
「いつこっちに来られたんですか?」
「さっき」
「原田は?」
「行き違いみたい。だから美奈ちゃんにお話ししてもらって、待たせてもらってるの」
とニッコリ笑う。
「峰岸さん、そのマニキュア色きれいですねー」
 美奈ちゃんがコーヒーとお菓子を出しながら言う。峰岸さんは小首を傾げ、
「いいでしょー。こないだパリに部下連れて出張行ったから、ムリヤリ時間作って買ってきたの」
「日本には売ってない色ですか?」
「勿論!今度美奈ちゃんにも買ってきて上げるわね」
 部下連れてパリに出張……なんかスケール違う。こんな小さい、狭い事務所に激しい違和感だ。コンプレックス刺激され、余りいい気分ではないのだが、上着をロッカーに入れ、ネクタイを緩めながら自分のデスクに座っていると、…ちなみに勝手に外してしまうと、オレの場合原田にしつこく恨まれる。高階クンは平気そうで、おれを見てニヤリとする。高階クンは、今は営業一本ではない。デザインはしないがMACも扱うので訂正をしていた。
「香水もいい匂い…」
 美奈ちゃんが言う。すると峰岸さんは、
「ありがとうー。大好きな匂いなの。これは日本でも売ってるわよ。でもどこでもは売ってないの。大阪だったらここで買えるわよ」
と教え始める。確かに彼女の横をすり抜けたとき、きつくない程度に匂いが漂ってきた。甘い、瑞々しいフルーティな香りだった。正直言って彼女のイメージとアンバランスなので、より強く印象に残る。
「赤城さん、お疲れ」
 高階クンはそう言って椅子ごと寄ってくる。
「オレ原田さんに感謝されちゃいましたよ。どうでした?」
「どうもクソもあるか……!エライ目に遭ったよ、」
「いつになく悦んでた、って聞きましたけど?」
「あのな、……」
「おれも見たいわ、赤城さんの我を忘れて乱れる姿、」
「高階クン……、もう長いこと、そんなこと言わへんかったくせに、」
「誕生日が引き金っすかね」
「彼女は?あの、尚美ちゃんとか言う…」
「まぁそれはそれとして」
「……そんなヤツ、おれは絶対相手せえへんで」
 そうしゃべっていると、原田が戻ってくる。峰岸さんはひときわ高く「お帰りなさーい」と出迎える。
 本当に、原田のどこがあの峰岸さんに受けるのだろう……
「ねぇ原田君、今度の土曜は?」
 峰岸さんはいきなりそんなことを言い出す。
「さあー……。まだ仕事か休みかも分かりませんね。峰岸さんは?」
「こっちでゴルフなのよー接待ゴルフ。原田君もゴルフ好きでしょ?一緒に行かない?」
 ね、と首を傾げ、原田を見上げる峰岸さんは確信犯的だ。原田は笑い掛け、
「でもおれ関係ないですから、」
「だってつまんないんだもーんオヤジばっかでさ…行きたくなーい。…ねぇ、えりのお願い」
 峰岸さんのフルネームは峰岸えりさんだ。このトシで自分を下の名前で呼ぶとは…でもそれがカマトトでもイヤミでもなく聞けるとこが凄い。
「峰岸さんに言われるとつらいですね」
「仕事の心配してる?…そーね、影響するかも、」
 そしてフフ、と笑う。
「行けば……?峰岸さんには凄い世話になってるし、仕事があっても、なんとかなるよ」
 そうおれが言うと、
「赤城君もああ言ってるし、」
「うーん、でもおれ、コース出たことないですから…打ちっ放し専門で。コース逆回るかもしれませんよ?」
「うっそだぁー。…でも私付き合うから。バンカーに落としても、池ポチャでも……そういう人の方が、クライアントに受けるかも、受けるわよ、原田君!」
 峰岸さんは微笑んで原田の肩を叩く。
「んー…でもなぁ、」
「今日持ってきた仕事の話、ヨソに回そうかなー…」
 峰岸さんはそう言いながら、テーブルの上の封筒を叩く。
「峰岸さん、仕事の話しましょうよ」
「それより、約束。…そーだ、原田君サッカー好き?」
「まあ普通に。…何で?」
「今度のイベントうちで仕切るから。あたしも駆り出されてるの。あたしは全然興味ないんだけど…チケット貰ってるから行かない?ほら、なんてったっけ、あの子……」
「あの子?」
「サッカーで有名な子、…何だったっけ、ええと……」
 峰岸さんは額を押さえ、真剣に言う。
 原田が日本で一番有名な選手の名前を出すと…勿論本気じゃない、冗談のつもりな声だが、言うと、峰岸さんは顔を上げ、
「そうそう!その子……ねえ、その子ってそんなに有名?」
 峰岸さんは、素で言う。おれたちは、…おれですらどよめいたよ。興味ないって、凄い。
「あれ峰岸さんとこがやるんすか、会ったことあるんすか、」
 高階クンが身を乗り出し、言う。
「記者会見の前に会ったわよ」
「ど、どんな感じでした?」
「んー。別に普通の若いアンチャンだったわよ」
 あの選手を掴まえてアンチャン呼ばわり……ほんとに興味ないって凄いな。
「おれに下さいよ、峰岸さんおれと行きましょうよ、」
 高階クンは唇を突きだし峰岸さんと自分を交互に指し、言う。彼は結構好きなのだ。
「んー高階クンでもいいけどぉ…原田君、ゴルフどう?」
 話は振り出しに戻っていた。しかし、つくづく世界が違うな…なんでそんな会社の、こんな人がウチのクライアントなのだ…分からない。
 さすがに峰岸さんもいつまでもウチで遊んでいるワケにもいかないので、封筒から資料を出し、仕事の話を始める。某有名ホテルの秋のブライダルキャンペーンの企画の内容を考える話…ついでに、販促のPOPやなんかのラフ案提出。勿論ウチだけに持ってきた話じゃないはず。コンペにかかるはず。でも、なんか昔のこと考えると、今の仕事内容って凄い。
「今日は帰らないと(東京)いけないんだー。残念」
と、峰岸さんが帰っていくと、原田は溜息一つつき、美奈ちゃんにコーヒーを頼み、席に座る。
「峰岸さんお前のどこがええんやろな」
 そう横にいる彼に言うと、
「おれも、分からん」
「行ってくれば?…ゴルフ。コース出たことないなんてウソ付いて、」
「朝早く起きてそんな何の関係もないツマンナイゲームできひん。…お前も行くんなら考えてもええけど、」
「おれが付き添ってな行かれへんわけ?甘えたやなー」
「うん。おれ赤城君におんぶに抱っこだから、」
 ニヤニヤ笑う、彼。
「おれお前おんぶも抱っこもしたことないで」
「まぁ抱っこはおれしかしたことないな。でもおんぶはいつもしてくれるやん。金曜もここで……」
 熱くなる。またきゅっと締め上げられる感じがする。忘れていたのに。
「いくら小声でも、仕事中はそんな話やめえ」
 おれは彼の後頭部を思い切りグーで殴った。

書くのに時間かかりましたね……!それもこれもエロのせいです。エロは、やっぱむつかしいっす…やっぱヘタでごめん!で、ハメ方は合ってますけど、その後はあまりよく分かりませんでした…ま、ヤオイはファンタジーっつーことで(汗)。今回はなんの事件も盛り上がりもない(エロ以外)日常編でした。彼らの生活、お仕事拝見編。つまんなかったらごめんなさーい。
それにしても、書いてると「なんだ、まだまだラブラブじゃん…」な感じになってしまい…ま・ず・い

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