ブレイクスルー4 -13-

「よう帰ってきてくれたなぁ…ほんまに無事か?何もされてへんか?あ~心配やったわ、マジで、」
「あのなぁ、何を大げさな、……大丈夫やって、」
「お前の言うことは信用できひん。」
 おれはふてくされて頬を膨らます。
「……じゃ、気の済むまで調べたらええやろ?」
「うん。そうするわ」
 原田はそう言うと、キーを差し、エンジンをかけた。
「エンジンは大丈夫……」
「あのなぁ、ここまで乗って帰ってきてんで?大丈夫に決まってるやん、」
「おれのかわいいサーフ、心配で心配で気が気じゃなかったわ、」
「お前おれよりサーフが大事か、」
「帰ったら外装調べよな……ほんま大変やったな……」
 おれの言うことは耳に入ってないらしい。彼はハンドルを愛しげに撫でながら車に向かってぽつりと言った。
「おおー、ちゃんと動く、……」
 ゆっくりと駐車場から出しながら、彼が言う。おれはあきれてウィンドウに肘付き、外を見た。
「原田さんは、赤城さんは傷モンになってへんか気にならへんのですか?」
 後部席から、高階クンが余計なことを言う。高階クンは、車なので、送っていく。
「そんなもん、隅から隅まで、調べるにきまってるやん……」
「あのな、大丈夫……!」
「だから信用できひんの」
 おれはこんな話したくないのに。むかつく……
「高階クンは、どないやったん?」
「ああ。そりゃもういい席で……」
と延々試合の話が続く。いい頃合いに、
「で。峰岸さんとはどないやったん?」
と聞けば、
「普通に楽しくおしゃべりしましたけど?」
「試合が終わったあとは?どっか食事にでも行かへんかったん?」
 すると高階クンは、
「ああ、……」
と頭をかく。
「なんか終わり際にイベント会社と終了後の打ち合わせあるからって、席立ってっちゃいました」
「え?逃げられたん?君が?」
 すると何やら胸ポケットを探り、ニヤリとし、
「んなわけないでしょ。ぼくも手伝いますわーってムリヤリくっついてって打ち上げまで紛れ込んでイベント会社から業者から名刺交換してきましたとも」
と戦利品の名刺をトランプよろしくズラリと開く。
「さすが。というか恥ずかしいというか……いや、さすがやわ。そのしつこさ……」
「あっ、そんな言われるようなことなかったですよ。皆とめちゃ意気投合しましたから、」
「暴れてきたん?」
「なんか知らん間に峰岸さん帰ってた」
 すると原田も運転しながらぷっと吹き出す。
「他の人と盛り上がってるウチに帰っちゃった、と?」
「うん」

 3人でファミレスで食事して、送って行って、帰るとまずはお風呂。洗いがてらそりゃ熱心に外装を調べられてしまった。耳の裏、髪の生え際、脇の下、おしりの谷間、その辺もひっくり返し、めくり返して…ひっぱって、伸ばされて…揉まれて、舐められて。
「まあ外装はよし。中はどうかな……」
 そう言うと原田はタイルに四つん這いにさせ、後ろから左手の人差し指と親指で穴を広げる。奥が外気に触れ、感じてしまい収縮する。すると右手の人差し指が差し入れられる。広げて暫くしたあと、…きっとしげしげ見たに違いない、出し入れされ、シャワーを充てられ、洗われながらどんどん敏感になってゆく。
「あ……っ」
 ぬるり、と軟体動物みたいなものが侵入してきて、妖しく蠢き犯す。舌を、入れてきた。恥ずかしさで内股に力が入り、背がしなる。
「もうちょい力抜けや」
「ムリ……」
 俯き頭を振り、言う。その間も彼の舌は薄い粘膜を刺激し続ける。堪えきれずすぼまるそこをなだめ、逃すまいと奥を抉り、舐め上げほぐす。
「あ……あ…」
 わずかな声が風呂場に反響し、耳を犯す。ふと正気に返る一瞬。恥ずかしい。なんでおれは男にこんなマネされてしまっているんだろう……
 そして、こんなに感じてしまうのだろう。

「よしよし傷はついてへんみたいやな」
 風呂から上がり、ビール片手にベッドへ行き、ベッドヘッド側に膝を立てさせ座らせると、彼も向かいに座って言う。
「大丈夫やっておれも頑張ったから……」
 するとぴくりと表情を動かし、
「頑張った?」
「あ、だから露天の誘惑にも、酒の誘惑にも負けず、」
「ほんまか」
 不審げな目。おれは愛想笑いする。
「マジマジ、」
 ちょっと話題を変えてみよう。
「お前こそ昨夜電話するってメールしたくせ、……どうしたん」
「ああ。……あれから飲みいってん」
「野々垣さん?」
「うん。……ヒマやったら飲みいかへんか?てゆうたら是非、てゆうから、」
「それで忘れたん?」
「うん……そーかな。おれ、酔うたし、実はあんま覚えてへん」
「覚えてへんほど酔うたん?……ちゃんと帰れたん?」
 原田はもともと弱いくせにやたらと飲みたがる。なので記憶喪失も大して珍しいことではない。おれも何度迷惑かけられたことか…。
「うん。目が覚めたら朝やった、みたいな」
「ふ~ん」
 まぁ原田は人見知りしないので、ほとんど初対面の人ともかなり打ち解けるけど、2回目でそこまで打ち解けるとは。高階クンも原田も、それなりに楽しい夜、盛り上がった夜を過ごしたわけだ。
「まぁ良かったわ。原田に寂しい夜を送らせずに済んで」
「えらそうに言うな」
 とこづかれる。
 それから頬に手が触れ、顎を掴まれると、今までの軽口もどこへやら、互いに吸い付くように唇を重ねる。そして脇の下に腕を回され、抱き寄せられる。
 彼の唇が下りていく。舌が這い、乳首に辿り着くと、吸い、あま噛みされる。びりっ、と何かが走り、彼を強く抱き寄せる。
「………」
 その一瞬、俯いた一瞬に、視界に入る原田の頭や肩のラインが、土井さんとダブる。
 何かに堪えきれず、身体を揺らしそれを逃そうともがくと、
「一晩だけでそない飢える?」
と言われてしまった。

 木曜日、土井さんがCD-Rとポジフィルムを持ってきた。
「こないだはどうも、……」
と相対してテーブルに着くと、美奈ちゃんに出されたお茶を飲みながら土井さんはちらと目をおれに走らせ、
「いえいえ。こちらこそ……楽しかったです」
と微かに笑う。その表情は、あの夜見せただだっ子みたいなものではなく、それ以前からのクールな彼だった。そして脇に置いた封筒を引き寄せ、中を取り出す。
「CDと……念のためポジも持ってきました。あと、これプリントしたもの、」
とプリンタで出力した紙の束に触れる。
「それからこれ……」
 その下から、小さなビニールに入ったポジを差し出す。あの写真……?とどきりとして静かに手を伸ばし、取って日に透かすと、それはいつ撮ったのか、街角でスーツで立ってる全身の写真だった。
「これ……」
 そう言うと、土井さんはまた微かに笑い、
「いい出来でしょ。かっこいい、」
「ありがとうございます……」
「おれはもう焼いたのとデータで持ってるんで、どうぞ貰ってやって下さい」
 それから彼は、「また」と頭を下げ、出て行った。

 土曜、休みで一週間ぶりに掃除をする。原田はまたも車に向かい、
「おお~ほんまお疲れやったなあ…今、傷モンにされてへんか、よう見たるからな。風呂入ってリラックスしてや…」
と語りかけ、コイン洗車場に飛んでった。
 呆れて溜息付きながら、掃除機をかけていると、ベッドの下で何やらキラリとした。
 女モンのアクセサリーだったりして。なんか昼メロのドラマみたい…と思いつつしゃがんで拾い、真剣に唖然とする。
 それは、細いシルバーの鎖のピアスだったから。まさか、と思いつつも足下から這い上がる不快感は拭いようがなかった。

上げる程に短くなっていくのですが……(汗)や・ば・いっす。原田君1人の夜、をご希望された方、実は原田君は1人じゃなかったのです。でも、これだけ言っておくと、頭の中ではずっと心配してたということで…口にする話の3~5割は赤城君の話だったと言うことで…まぁその辺はおいおいストーリーをお待ち下さい。

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