ブレイクスルー4 -11-

 土井さんに笑いかけられ、俯くと、自分の着乱れた姿が目に映る。
 胸元は土井さんに探られ、くつろげて大きく開いており、裾も割れて内股が覗けている。見られたくない…と足を閉じ、さっと裾を直し、衿をひいていると、土井さんがまたおれの前に立つ。
「じゃ、モデルになって下さい……」
 珍客?の来訪に、驚いたのか土井さんの股間はちょっと落ち着いていた。声も表情も落ち着いていた。
 そしてまだテーブルに並べられているカメラのうち、一つを手に取ると、レンズを選んでマウントし、フィルムを入れて寄ってくる。
「明るくていいレンズですよ。ただでさえ夜間の暗い照明の下だから、少しでも明るく撮れるように、高速に…フィルムは粒子が粗すぎると折角の赤城さんのきれいな肌が表現できないから、おれは肌色重視でこいつを使います」
 そう言って彼は小さな空き箱をかざす。そういや、ポジ、…いや、リバーサルフィルムは、特性が色々あって、肌色がきれいに写るポートレート向きのやつとかもあるんだっけ。
「肌……て、おれは、……」
「脱がされると心配してるんですか?約束したでしょ…見えている部分、顔とかの映りですよ。……増感した方がいいかな?色々試しながら撮らせてもらいます。赤城さんを最高に魅力的な状態で残したいから、」
 彼は俯きストロボを取り付けながら言う。なんかその様子だけで、身体がヘンに疼いてくる。
 斉木さんたちと飲みに行けば良かったかな……そしたら取りあえずは、こんな緊張からは解放されたはず。土井さんも毒気を抜かれて、クールダウンしたかもしれないのに。でも、おれって飲むとヤバイ状態にはまるんだったっけ。やっぱ止めといて良かったか?……判断がつかない。
 相変わらず優柔不断なおれは、こういった緊張の場面になると、更に判断がつかなくなる。
 そして、言われるままに動いてしまう。
「赤城さん。こちらへ……」
 そう言うと土井さんは布団の上を示す。布団の上で……?と強ばる。ヌードはないにしても、多少はエロい写真を撮られるはずだ。それが布団の上だなんて、……
「そこは、……イヤです」
 おれは多分引きつれた表情で、彼を見上げ言った。彼は振り向き、
「……。じゃ、次の間で……狭いけど、雰囲気もいいし」
 布団の敷けている8畳から踏み込みとの間にある、襖に囲まれた5畳の空間を示す。
「なんかちょっと小腹が空いたな……赤城さんも、食べませんか?」
 そして土井さんは隅に寄せられた座卓の上にある、アルミホイルを開いた。仲居さんが握ってくれた、おにぎり。彼が一口で食べる。おれも白くツヤツヤした米粒を見たら、急に腹が空いた。
「……食べます」
 すると手渡してくれる。一口囓ると、なんか落ち着いた。
「じゃ、腹ごしらえも済んだところで、」
 促される。今更イヤとは言えない。言ったら、彼は飛びかかり犯しにかかるのだろうか。
「……奥さんは、どんな人?あの車は、奥さんの趣味ですか?」
 次の間に入り、四方の襖を全て閉めると、畳に膝を立てて座らされた。そして呟くようにそう言う。
「……バウンスとディフューザ、どっちがいいかな……」
 しかし答えを待たず、彼は悩み始める。
「なんで……?」
「いや、なんか赤城さんが自分で選んだ風じゃなかったから」
「……そう感じました?」
「うん」
「おれが選んだんですけど?」
「ウソだ」
 口元を歪め、断定される。
「……土井さんは、何に乗ってるんですか?」
 答えに窮してそう言うと、
「緑のレンジローバー」
と彼は答える。おれは俯き気味の顔を上げる。
「レンジローバー?…おれのより、いい車じゃないすか、」
 何で言ってくれないのだ。そしたら土井さんの車を出してもらうのに。
「値段はね……」
 そして彼はバウンスで撮ることに決めたらしく、ストロボを上に向け撮り始めた。
「でも信頼性はトヨタの方がいいでしょ。それにおれヒネクレモンだから、左ハンドルなんですよ」
 シャッターを押しながら、土井さんは言う。確かレンジローバーはイギリス車だから、右ハンドルが普通じゃなかったか?それは確かにヒネクレ者…、
「だから赤城さんに運転できるかなぁ~って心配で、」
 悪かったな。どうせおれは、基本は運動キライの音痴です。ちょっとふてくされると、その表情が気に入ったのかバシバシ撮られた。
「なんでいちびって左ハンドルなん?」
 思わずそう言うと、彼は「は?」と聞き返す。言葉使いで分かると思うが、土井さんは土地の人ではない。東京方面の人だ。たまたまこっちの大手クライアントが出来て、そのまま2、3年こっちに居着いている人だ。だから、仕事の量は大阪、東京半々くらいらしい。
 だから「いちびって」が分からなかったらしい。しかしどう訳したものか。
「えーと、……かっこつけてとか、イキがって、とかいう意味かな?」
「かっこつけてとは言ってくれますね。外国でも戸惑いなくさっと車に乗れるようにですよ」
「……なるほど」
 仕事で乗ることもあるだろう。なんか、やたらにかっこいいんですけど。土井さん。……でも、メロメロ、っつーのとは違うから!この感想は!
 むしろ、男として悔しい、という嫉妬の方向で。
「それに、赤城さんの運転する赤いサーフ、見るの好きなんですよ。とてもかわいくて、」
「何が……!あのな、30過ぎて、しかも年下にかわいいなんて言われて、嬉しくないって、しかも土井さんみたいなカッコイイ男に言われちゃコンプレックスが、」
 すると土井さんはカメラから目を離し、少し熱っぽく潤んだ目を向けた。その目を見て、ぞく……、とした。
「赤城さん。かわいいものはかわいいんだから仕方ないんです。それにそんなこと言わないで下さい。……更にかわいすぎて、おれ、あなたにそれをどうしても教えたくなってしまうんですよ。今も血が逆流しましたよ」
 身体に教えたくなるってことか?煽ってるってことか?おれは口を固くつぐんだ。
「手を後ろ手について……足を少し開いてください」
「……浴衣の裾の中が、見える、……」
「大丈夫です照明の関係で見えませんから」
 まぁその位は折り込み済み。おれは言われるまま足を開いた。
 そのまま何枚か撮ったあと、
「どうも緊張感が足りない、ぴりっとしてないんだよなあ……赤城さん、パンツ脱いでください」
と言われた。おれは反射的に膝を閉じた。
「な……、」
「ヌードじゃありません。パンツの中味は、撮りません。緊張感が欲しいんです」
「何もパンツ脱がなくたって、……」
「緊張感出せますか?艶と……ムリでしょプロじゃないから。だから、」

取りあえずここまで!今日の夜には思うところまで上げたいと思います!(03.08.04)
上げました!続きはNEXTにしました。

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