ブレイクスルー4 -1-

 おれの名前は赤城耕作。味気ない灰色の日々が、ある時突然めくるめく数奇な運命(?)に変わり果てた、幸せなんだか不幸なんだかよく分からない人間だ。
 でも、好きな人といつも一緒にいられるってのは贅沢なことかも知れない。その贅沢さに慣れきって、今じゃ有り難みも何も感じないおれたちだ。原田に言わせると、おれはここ数年、
「かかあ天下、ケツのでかいおかんそのもの」
な有様らしい。つまり、あんまりやつの言うことに動揺しなくなった、どっしりと落ち着きすぎた、かわいげがなくなった、てなもんらしい。だってしようがないだろう。もう何年一緒に居ると思ってるんだ…いつまでも大助・花子やペーパー子じゃあるまいし、アホみたいにアツアツでいられるか。やつの性格もいやって程飲み込んだし。それは向こうもだろうけど。
 でも、おれはこのまったりとした関係が居心地いいと思っているのだけど。一時はおれの人生どうなるのだ…と恐怖を感じるほど色んなことが次から次へと押し寄せてきたが、その波もだんだん落ち着き、今じゃさざ波程度の日々だ。おれは元々日々是れ平穏、無事が好きなのだ。でもヤツにとっては、そんな日々が味気なく、倦怠期に思えるのか、最近じゃ、ちょっと前にも書いたが、アノ手この手で刺激を求め、最近はそっちで恐怖を感じるほどだ。
 おれは、普通のHで充分なのだ!それはそれなりに新しい刺激が強い快感になることもあるけど、だんだんムチャをさせられた後空しくなることが増えてきた。ヤツにとっては、おれはもう普通のHじゃ燃え立たない相手なのかな……?と。
 もっと怖いのは、だんだんと強い刺激に慣れてしまって、同等かそれ以上でないと満足できなくなることだ。ヘンタイさんに足を突っ込むことだ。ヤツはその辺分かっているのかいないのか、おれがイヤがると異様に燃え、興奮する。そしておれは空しくなる…と悪循環だ。
 ……なんか書いてるウチに今が全然平穏の日々じゃない気がしてきた。おれたちって実は冷めてる?心通じ合ってない?少なくとも身体の関係は、危機?
 こういうときに、魔がさして浮気でもしたら…おれはしないぜ…!いや、おれからは…!そうじゃなく、ヤツだ、ヤツが浮気でもしたら…そっちが若くてピチピチしてて具合が良かったら、新鮮さにのめってしまうのじゃなかろうか。なんかマジで心配になってきた。

 まあ、そんな取り越し苦労な話はもういい。取りあえず今のおれたちの状況を簡単に書いておく。
 知ってる人もいると思うけど、原田とはつきあい始めて10年近く経った。その間独立を果たし、小さなデザイン事務所、形態は有限会社を構え、今は版下だけでなく、企画、デザイン、あとWEB制作も手がけている。どれも昔に比べれば単価が驚くほど安くなったけどね…それもこれもパソコンの普及によるところが大きい。昔は設備投資に莫大な金がかかったため、その分も単価はずっと高かった。今の主流はMACだが、今の一番高い機種でさえ、昔の何百万もする手動写植機や何千万もした出力機のことを思えば…、でもそれが、両刃の剣。
 まあ、そんな業界の憂鬱もどうでもいい。あと、住処。
 凄く気に入りだった文化住宅は、震災と共に崩れ去り、おれは鉄筋コンクリマンションが嫌いだと豪語していたのだが、結局反動でより新しく、より頑丈そうな鉄筋コンクリマンションに引っ越した。
 2LDK、風呂シャワー付き、玄関を入ったら短い廊下があって、ガラスの填った白塗りのドアを開けると、フローリングの10畳のLDK、右手に4.5畳の物置(になっちゃった部屋)と6畳の寝室、寝室にはセミダブルのベッド。LDKと寝室からは、ベランダに出られる。イッチョマエに4人掛けの白木のダイニングセットにクリーム色の本皮のソファまである。
 あのボロ文化とは随分雰囲気違うだろ。もしかして面食らっちゃうだろ。でも住んでるのはおれらだから。
 あとはおいおい書くとして、いい加減話を進めよう。こういう文は、とっつきにくいはずだから。
 独立の頃の話が読みたい?まあそれもおいおいと、…ね。
 そういや、もうおれもいい年だし、年相応に落ち着いたちゃんとした文を書こうと心に決めていたのだが、…前回分(パート1~3)までは昔書いたものだから恥ずかしいような死語も時代だからとそのまま出して本当に身を焼くような恥ずかしさだった。だからもうそういう恥ずかしさは覚えたくないので落ち着いた文を心がけようと思ったのだが、もう既にムリかもしれない。
と、とにかく……、

 おれの今年の誕生日があんなことになってしまい、溜息の連続な日々なのだが、次の日の朝、出社すると一番に来ていた高階クンがニッコリ笑って「ハイ」と包みをくれた。
 昨日はこれを渡すつもりだったのか……悪いことしたな、と思い、
「ありがとう……。昨日は見送れずにごめんな」
と言ったら、軽く首を振り、
「いえいえ。こっちが悪かったんですから」
とそれはそれは優しく笑いかける。
「開けていい?」
「どうぞ」
 小さな包み。原田がくれた指輪のケースを思い出す大きさと形。アクセサリーかな。おれは付けないと知ってるはずだけど。実はちょっと金属アレルギーだ。指輪と腕時計以外は、直ぐ赤く、かゆくなる。そんなことを思いながら、でもなんとなくゆるむ口元できれいな包みを破り、箱を開けた。
「何これ?」
 一番にそんな言葉が出てしまう。高階クンは、相変わらず笑みを浮かべてる。
 銀色の、リング。指輪にしては大きすぎるし、ブレスにもならないし、イヤリングやピアスにしても中途半端な大きさだ。……と思ってはっとする。これは……
「高階クン……、」
 思わず箱を机に置く。そして彼を見る。
「こっ、これ……!」
「いいでしょ。赤城さんにピッタリの、半透明なゴムの赤いのもかわいいなあ~と思てんけど、やっぱ光りモンの方が高級っぽいからさ……」
「だれもそんなこと訊いてない、こっここ、これって……」
 おれはグッズ関係には興味ないから何処で売ってるとか知らなかったけど、原田のネットオークションで見たことある。リングはリングでも……これは……、
「ゼヒ付けて下さいね。きっと似合うし、ぐっと気持ち良くなれますよ。コックリング。サイズ合いますよね?」
「ギャー!」
 おれは顔から火が出そうになりながら、朝っぱらからとんでもない叫び声を上げてしまっていた。
 これは絶対原田には隠しておこう。
「朝っぱらから元気ですねー。おはようございます」
 ドアの方から声がする。バイトの事務の女の子、美奈、小寺美奈ちゃん。美奈ちゃんは上着を脱ぐと、ロッカーへカバンとともに仕舞い、ついでに箒とちりとりを出す。
「あ、おはよう…」
 そう言いながらおれは彼女に見られないうちにさっと箱と包みをポケットにしまい込んだ。
「今日は赤城さんも高階さんも早いんですねー…私が遅かったのかな?」
「イヤイヤ。おれが早く来てん。早く赤城さんに会いたかったから」
 高階クンがニコニコご機嫌で美奈ちゃんに言う。美奈ちゃんは下向いて掃除に余念のない中、
「高階さんもほんと好きなんですねー。もうお腹一杯です私。ご馳走さま」
と何気なく言う。
「美奈ちゃん、」
 おれが咎めるように言うと、
「ここの職場の華て、あたしじゃなくて赤城さんですもんね」
と目を上げ意地悪く、というか楽しそうな底意地の悪さで笑いかける。
 なんか目眩がする……一応経営者、取締役のこのオレが、なんで一介の社員やバイトにここまで玩ばれなければならないのだ……
 実際頭を抱え自分のデスクにふらふら座ると、もう仕事を始めることにした。ここんとこずっとやってるパンフ、今日の午後初校出すから。
 美奈ちゃんが掃除を終え、いい匂いをさせてコーヒーを淹れてくれる頃、高階クンも自分のデスクでノートパソコンを開き会計と伝票整理、スケジュール確認等をまじめにこなしていた。それにしても、あの場に原田がいなくて本当に良かった……!
 共同経営者とはいえ、実際はヤツが代表で大事な打ち合わせ類は殆ど彼が行く。今朝も、直行でスーツ姿で出かけて行った。彼のスーツ姿は前からいけてたが、30越えたら渋みも出てきた。あんなおちゃらけ、ヘンタイっぷりを微塵も感じさせないほど、だ。でも間違ってもオッサン臭くはない。
 そしてスーツで抱きしめられるのが、好きだ。あの硬い張りのある生地の肌触り、そういう時は必ず着ける微かに香るウルトラマリンのコロンとタバコの匂い、そういうものにくるまれて、なんだかぼうっとする瞬間……
 ……なぜそういう話になってしまうのだ……
 とにかく、ヤツは昼前には帰りがけにビジネス街の街角に現れる弁当屋の、評判の良いとこのを4人前買って帰ってきた。彼が帰ってきて一番にすることは、ネクタイを外し、ジャケットを脱ぐこと。あ~あ勿体ない…とたまに思い、つい盗み見してしまうのはナイショだ。
 美奈ちゃんは直ぐに立ってコーヒーを淹れる…彼女は9―5時、ほぼ残業なしのバイトだ。主な仕事は、電話取り、雑用。最近は経理っぽいこともしてもらう。でもホントは、居なくても高階クンで充分まかなえるほどの仕事だ。彼女を入れたのは、おれと高階クンを今朝みたいなときに2人っきりにしないため……とおれは踏んでいる…
 原田は、高階クンがおれを好きだった、いや今も好きらしいということは知っている。知ってるけど、表立って本気で妬く素振りは見せない。また、おれも言わないし、高階クンも言わないはずだから、おれたちが身体の関係まであるということは、多分知らないはずだ…そのうちうっかりバレてしまうのではと思っていたが、おれにとっての最終ラインだったのか、未だに言わずに済んでいる。このまま墓場まで持っていきたい。
 しかし、そのことが無性に苦しくなることがある。変な夢にうなされることも…そして高階クンも結局は原田のことが好きで、これまた表立ってそんな素振りは見せないが尊敬してるみたいなので、言う気はないらしい。でもおれと関係を持った事に対しての罪悪感は、おれより相当に少なそうだ。まぁ元々が100人切りの男だからな。そのうちの気に入った1人や2人では…てとこなんだろう。
 原田は自分のデスクに座ると、まずタバコを点ける。そしていいタイミングで美奈ちゃんがコーヒーを出す。事務所は、狭い。8~10坪くらいかな。でも広い窓があって開放感があるので、そんなに狭苦しい感じはしない。入って直ぐに来客用を兼ねた打ち合わせテーブルがあり、真ん中に美奈ちゃんと高階クンのデスクがあり、壁際に並んでおれと原田の作業用デスクがある。…まあ適当に想像して下さい。
 美奈ちゃんがコーヒーを机に置くと、おれの横で原田は、
「そのスカートかわいいね。新しく買った?」
とニコニコして言う。美奈ちゃんはお盆を口元にかざし、
「あっ、分かりました?スゴイ気に入ってんです~~」
と嬉しそう。まめな男だ。そして美奈ちゃんのスカート自慢をニコニコして聞き続ける…おれは全く気付かなかった…まあそれどころじゃなかった、てのもあるけどさ。
 そしてはっと気付く…ポケットに入れっぱなしだ。どこかでスキを見てカバンに入れるなり、ロッカーに放り込むなりしないとヤバイ。なんでヤバイかって?そりゃ決まってる…

 高階クンはおれのレーザープリンタからの出力を校正し、それをまたおれが直し、原稿と出力を揃えて時間ぎりぎりに納品に行く。彼が帰るのを待たずに、定時になった美奈ちゃんは「お先に失礼しまーす」と帰って行く。
 横に並んでもくもくと仕事をしていると…週末は忙しくなりがちだ、本来の定時も過ぎ、原田は高階クンに電話する。仕事の進行状況などを訊き、戻ってこなくてもよい、と判断すると、
「ご苦労サン。もうそんまま帰ってええよ」
と言う。
 おれは今日間に合わせるためにかなりハイペースで仕事をしたので、なんかもう頭はかなりストライキを起こしていた。ここまでやって明日は休み…と決めているところがあるのだが、なかなか手が進まない。原田は自分の今日のノルマを終えると、おれの出す出力を校正してくれる。
「おい、何度訂正書き込んだら直んねん。またここ間違ってんぞ」
 原田が校正を済ませ、椅子ごと寄って来、後ろから校正紙を差し出す。
「えっ……」
 おれは抑揚のない声で、緩慢に振り向く。
「お前ボーッとしてんなー。もしかして、固まってんちゃん?」
「んー……」
 条件反射的に校正紙を受け取り眺めていると、突然後ろから脇の下に腕を入れられ、服の上から乳首を摘まれた。ビックリして一気に目が覚める。
「なっ、何……!」
 後ろを振り向き、言うと、原田はニヤッとし、
「決まったあるやん。再起動。ポチッと」
「いっ、いらん……!」
「目ェ覚めたみたいやん。ホラ、訂正して。早よ帰んで」
と顔を寄せモニタを覗き込みながら指は離さずぐりぐり摘まむ。
「あっ、…そんなされたら、出来へんて……」
「手ぇ離したらまたお前ボケッとするやろ。カラー出力一枚いくらと思てんねん」
 交互に摘み引っ張りながら彼が言う。股間に直結するじゃないか…それはそれで手がもたついて出来そうもない。
「はっ、離して…」
「あかん」
 断固として言う。これは絶対離しそうにない…あきらめておれは疼きに堪えながら校正紙を見、キーを叩き、マウスをおぼつかない手つきで動かす。
「ホラ。また見落とした」
 そう言って原田はより強い刺激を送ってくる。ぴりっときた。その電流は、雷みたいに真っ直ぐ下腹を直撃した。ジーンズの中で、少し張る。脈を打ち始める。
「ん……」
 身体が甘く疼いて、ふにゃっと力が抜けた。腰を突き出すように浅く腰掛け、頭をのけぞらせ、後ろの原田に預ける。
「また固まったん?ボタンで効けへんときは……」
 笑みを含み言うと、原田は右手を胸から離し、ウエスト辺りから背骨に沿って指を滑らし、ジーンズの中に潜り込ませた。
「ひっ、」
 ダイレクトに指を曲げ、突っ込まれる。
「ピンで押さなあかんよな」
「あっ、違う、…離してくれたら、仕事出来るから、……」
 言う拍子に、抜き差しして内壁をすられる。ただでさえ張ってきてるのに、原田の手が入り込んでいるので後ろに引っ張られて、ジーンズが、特にファスナーがちょっと痛い。彼の動きにつれて擦られて、ますます感じてしまう。
「や………」
「信用出来ひん。早よ仕事せえ。これでも効けへんのか?」
 わざとそう言うと、今度は指を円を描くように回す。体内をシェイクされるような感じで、何かがそこからとぐろを巻き、体内を這い回る。
「これでもあかん?するともう、一つしか方法は残ってへんなー」
「いや……!こんなとこで……」
 ここに事務所を構えて3年。キスくらいはしたことあった。でもHはしたことなかった。おれがイヤがるから。
「じゃ、早よ仕事せえ」

ハイ、いよいよ始まりました…!ホントはこの「再起動エロ」終いまで書いてアップだー!と思ってたんですけど、結構長くなったんで。それにエロは書くのに時間がかかる…今までと違い、新たに書いていくんで、ペースは読めない気がします…が、それも今心配しててもしようがないこと。パート3後半も意外やハイペースで書いてますしね。ノレば…あとは自分なりにレベルが落ちないように…それは自分では量りようもないことなので、アレですけど。ところで読んで下さってる方、時間軸把握出来ますか

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