ブレイクスルー 3 -12-

 彼が振り向き様、おれはもの凄い勢いで平手ではなく、拳骨で左の頬を殴られた。思わずよろけた。
 少し、口の中が切れた。血の味がする。彼に手を上げられるのは、初めてだ。彼は一息吐くと、肩から力を抜いた。
「それで、終わり?もっと、…もっと殴れよ」
「さっきのは自分でも止められへんかったからな。おれがお前の顔を殴るのは、さっきのが最初で最後やで」
「……!それって…!、…おれは構わない、殴れ、」
「なんや。お前はマゾか。そこまで殴って欲しいんなら、殴ったるわ」
 彼はそう言い、今度は平手で反対側、右の頬を軽くひっぱたいた。
「原田、……」
 おれが睨み上げると、彼は凄惨に笑い、
「…今、おれがお前の、顔や身体が好きなだけなんやと思てるやろ。でもあいにく、そうやないんでな…」
 そう言うと、食らいつくようにキスをしてくる。出来た傷口に舌を這わせ、血を舐め取られる。
 口を離すと、彼は6畳間の押入から非常用のロープを出してきた。
「お前みたいなやつは、フラフラしやんように、しっかり縛り付けとかなあかんよな…」
 そしておれにニヤリと笑いかけ、柱に腕を回され、立ったまま縛られる。こんなときというのに、身体が、あそこが熱くなる。
「は、…」
「お前もおれが言うたこと、知ってるやろ?おれは他のやつに心が移りかけたら、おれがどれだけ愛してるか、思い知らせてやる、って」
 冷たい薄笑いを浮かべ、しかし目だけは熱く鋭く光らせた彼の顔を見ながら、やっぱりこいつから離れられない。離れたくない。と思った。こんなおれを受け止められ、またおれに与えてくれるものも彼しかいない。
「思い知らせてよ……!加減なんか、しなくていいから、」
「お前いつアイツに抱かれてきた」
「……今日」
「その口で、そう言うか。……お前は、おれの予想を超えて、怖いヤツになったな」
 彼はおれの髪を掴み、上向かせた。
「一応聞くけどな、お前そいつとおれと、どっちを取る?」
「……お前」
「義理立てなんか、この際考えずに言ってみろ」
「義理立てだなんて…!ウソじゃない、本気で言うてる、」
「じゃあ、なんでさすねん?お前はほんまに、怖いな」
 彼はいつも、それを怖れていたのは、充分分かっていた。それは、おれたちの始まりからしても、仕方のないことだった。寝取った、という記憶が、彼の中から多分一生離れることはないのだと。
「おれはいつも、おとといも言うたよな。他のヤツの前で、喘ぐなと……」
「……ゴメン。でも、どうしても、一回だけ…」
「お前もしたかったんか。…もう、何言うても、おれは聞かへんで。お前、会社辞めろ」
「……」
 それは、イヤだ。と直ぐ様言いたくても言えない。でも、それはイヤだ。
 割と適当に選んで入った会社だけど、いい雰囲気の会社で、折角馴染んできたとこなのに。曽根さんや、唯野さんや、…皆と。潮崎さんとも、上手くやれそうな気配が確かにあったのに。しかも何の理由で、こんなに短期間で辞めますって言える?
 彼がシャツのボタンを外し、ぎりぎりまではだけさせる。ジーンズのボタンも、ファスナーも下げられた。
「アイツに何されたか、言うてみろ」
「………」
「これを、ヤツはどうした?」
 そう言って、ぎゅっと握りしめられる。高階クンのときもだったけど、あんなに出してきたというのに、また直ぐに感じるおれは、本当に化け物なのかも知れない。
 その身体の変化に、彼はまた笑い、
「お前はホンマに、どうしようもなくエロいみたいやな」
 おれは少しぼーっとした頭で、虚ろな目を彼に向けた。彼がおれを吸い付けられたように見つめる。おれは、誘うような顔をしている、身体からはこらえきれない淫らな色気が、発散されているのを自分でも感じた。
 今こそ、おれは自分の中の魔性が、開いていくのをはっきりと感じた。多分、おれがその気になって、欲しくなった相手は、おれから逃れられない。おれを拒むことは出来ないだろうということを。ヘタすると、気に入った相手をこのままどんどん喰っていくことを。
 知りたくなかった。おれは普通のヤツなのに。普通でいたかったのに。あれほど普通を切望していたのに。
 普通のおれが、魔性に食い荒らされて、ただの化け物にだけはなりたくない。
「……もっと、」
「何?もっと激しくして欲しいんか?」
「違う、もっと、縛れ、強く。おれが、これ以上怖い化け物にならないために、おれを繋ぎ止めておくために、」
「赤……」
 彼はそれから、唇を塞ぎ、ゆったりと舌を絡めると、
「じゃ、今から、仕置きな」
「原田、……」
 彼はしゃがむと、くわえ、執拗に刺激を与えてくる。目眩がしそうだ。足元がおぼつかなくなり、ガクガクと腰が揺れる。
 容赦ない責めに、大きく声が漏れそうになる。これ以上、恥ずかしい声を気にしたくない。
「はらだ…、声、出る…何か、口にも、噛ませて…、」
「ダメ。堪え性のないお前に、我慢、てゆうものを、教え込ませるのが目的だから、自分で耐えろ。恥ずかしい思いしたくないんなら。あと、暴れなや。この柱、太くないから揺らすと、下の人地震と間違えはるで」
 そんな……。おれは出来る限り大きく息を吐き、声を、動きを耐えた。
 彼はもうすぐ、というところで口を離し、立ち上がり、指ですっかり立って硬くなってる乳首をつまみながら、
「イきたい?」
 おれは俯き、返事をせずにおいた。更に指先で弄ばれ、快感に自然と身体をくねらせた。
「何か挿れたくなってきたけど、挿れたらお前は直ぐイきそうやしな」
「いいよ……、我慢、させるんだろ?このまま、ほっておけばいいやん、」
「そんなのおもろない」
 寸前まで昂められたものは、暫しの解放に少しだけ落ち着いていた。
「イきたい?」
 感じやすいおれの身体を、刺激しすぎない程度になで回し、煽りながら、彼が再度訊く。おれが首を振ると、
「ダメ。イきなさい。そうしやんと、ずっとこのまま、トイレにも行かさへんで」
「……、どうやって、」
 すると彼は魂胆ありげな顔でニヤリと笑い、
「お前の浅ましい姿を、見せろ」
 カッとなり、顔が火照る。何となく分かった。何をさせたいのか。
「そんな姿、おれ以外にはさすがに見せてへんやろ……おれだけに、見せなさい。見せていいのは、おれにだけ」
「………ヘンタイ、」
「このくらいで、お前と釣り合うくらいやで。いや、ヘタするとお前はもっと怖くなる……」
「おれはそんなヤツには、なりたくない。させないでくれ、」
「そうやなあ…。遊びも過ぎると、ヤバくなる。……」
「…抱いて。挿れて。それだけで、いいやん、……」
 俯きそう言うと、彼はおれの名を呼び、抱き締めた。
 そしてなんの準備も無く、突き上げられる。最初こそつらかったものの、簡単に感じ、声を漏らす。おれの身体って、相当なところまで馴らされてきたようだ。
「お前が動け」
 彼が耳元でささやく。身体が一層熱を帯びる。
 言われるまま、彼をもっと感じとるために、腰をうねらす。顔を歪め、息を吐くおれに、
「お前がそうしていいのは、おれにだけ……」
 呪文のように、彼はささやいた。

 縄が解かれたとき、腕は痺れ、痕が赤く付いていた。そのままそこにしゃがみ込むと、彼が抱き寄せ押し倒す。
 涙が出た。解放されたからではなかった。さっきの予感、自分が原田をも凌駕するスケベな化け物になって、彼を喰い散らし、獲物を求めて徘徊するようになったら、…と思うと、悲しくて、恐ろしくて涙が出た。
 おれは、原田よりスケベになんか、なりたくないのだ。
 彼はでも誤解したのか、涙を舌ですくい取り、
「痛かった…?」
と訊ねる。
「いつかの夕陽、覚えてる……?」
 そうおれが問うと、
「忘れるわけないやん。ある意味、記念日やからな」
「あのときおれが言ったでしょ。お前がおれに、飲み込まれる、て」
「ああ、言ったな」
「どう?おれはそれがあの時から怖かってんけど、…今日、それを肌でまざまざと感じてんけど、お前はおれが、怖くなってんやな?おれのこと、イヤになった?呆れるよな…」
「自惚れも大概にしとけ。なんでおれが、お前に飲み込まれなあかんのや。浮気は許さへん。けど、おれはお前如きに、飲まれ振り回されるようなヤツではないわ」
「そう?良かった……」
 おれは抱きついた。
「良かった…」
 もう一度呟くと、肩に腕を回し抱き寄せられた。
 そのまま、長いこと抱き合うでもなく、口も利かず、ただ黙って寄り添っていた。
「……仕事、な」
 彼がその沈黙を破った。おれはすかさず、
「辞めたくない」
「何?」
 彼が険しい声を出す。
「気に入ってるから、辞めたくない」
「絶対あかん。こんなことがあって、おれが行かせると思うか?お前がおれの立場やったら、どう思う?」
「……それは、ヤだけど、…お願い。もう少しだけ続けさせてよ。彼とは、絶対に二度とないから、……」
「お前はこれっきりと思てても、向こうは我慢出来ひんかも知れへんやろ、」
「大丈夫……。彼は、お前みたいにモラルのない男ちゃうもん、」
「そんなん信用できるか。内縁の妻有り、って知っとってヤッてんやろ?まさかお前が100%誘ったとか言わへんよな。男は、衝動的な物なんやで」
「おれもその衝動的な男、という生き物なんやけど、……」
「とにかくダメ。おれの知らんとこで、おれの知らない、お前を知ってるヤツと二人にさすのは、絶対イヤ」
「原田は、そうやっておれを短期間で転職を繰り返すダメ男にしたいわけ?」
「だから、おれの会社に入れて、前の時からずっと言うてるやん、」
「高階クンみたいなヤリ手もいるお前の会社に?」
「……あいつ、どうなんや、マジなとこ」
「……さあー。本人にでも、訊いてみたら?おれは良く分からん。ウヌボレかも、知れへんし、……」
 そこでまた会話が途切れる。
「たまの機会やし、もっとえげつないことしたかったのに、ちょっと残念……お前の色気に、負けてしまった」
「お前……お前が、マジでおれにヘンなこと教え込み過ぎやで。あんなにおぼこかったのに、」
「ウソつけ。簡単に応えてきたくせに。……今度バイブ買っても、いい?」
「……!いらん、おれは、」
 顔を熱くしながらそう言い、やつの顔を叩くと、彼は覆い被さり、
「おれの方が、エエ……?」
と笑って訊く。
「言いたくないけど、言わなお前は満足してくれへんよな」
「何て?」
「お前が、エエ…」
 こないだと違って、今こそ心から言える。
 おれも、お前でないと、満足できない、と。
 まあ、結局はやっぱり好き者同士、ってことなのかな……。
「お仕置きやったらさ、…我慢さすのが目的やったら、おれに手を出さんとか、……つらいけど、またお前が家に帰る、っていうのもあったんちゃう?」
「そんなのおれがつらいやん。そこまでしたくないわ。そこまでするときは、…よっぽどのときか…今回も大概やけど、…あとは、……」
「ゴメン。その先は聞きたくないわ……」
 おれは彼の口を塞いだ。例え話でも、別れの話は聞きたくない。
 次の日はいい天気で、本当は海へ行こうと言っていたのだけど、ちょっと奮発してベイサイドのホテルに行った。
 ラブホじゃなくて、ちゃんとしたいいホテル。高級ホテル。普段の貧しい生活とはうって変わった、非日常の空間だった。まあ、原田が金曜の夜に会った友達にタダ券貰ってきたからだけどね。でもメシは自腹だから。
 こういうホテルは、原田の誕生日以来だ。先週の、おれの誕生日に来たかった。まあ旅館で浴衣、ってのも風情ではあるけどね。
 何がスゴイって、風呂場。いや、バスルーム。広くて、床から浴槽から大理石様で、トイレとガラス扉で仕切られてて、デッカイ鏡が填ってて、ヤッてくださいといわんばかりで、随分長い時間そこで過ごした。
 そしてまだ陽も高いうちから、ベッドでじゃれあう。最近気になる声も気にしなくていいし。
 原田もこういう雰囲気に違和感なく普段の小市民っぷりを微塵も感じさせないけど、おれはベッド映えするらしく(あとガウン映え)、彼は嬉しそうに笑い、おれを撫で回し、抱き締める。
「ほんとに、嬉しそうだな……」
 不思議そうな声でおれが言うと、
「ウレシイよ…」
と低く答える。
「おれは嬉しいけど、あんまり嬉しくない」
 おれがそう言うと、少しムッとし、
「何で、」
「お前がそんなに、おれにメロメロになってる姿、みっともない姿、見たくない」
「チェッ、わがままなやつやな。お前の都合なんか、知るか。いっつもそうやって、おれをお前のイメージの型にはめようとしやがって。まさかそんなんで浮気したとか、言わへんよな」
「最初の頃のお前、カッコ良かったなー。…あのくらい突き放した感じが、惚れるかも」
「はっきり言うたるわ。お前には、マゾの気がある」
 そう言って、ニヤリと笑い、
「そんなお前のために、おれも、浮気の一つもしてみようかな……」
 おれは胸が締め付けられ、息苦しくなったけど、
「おれから離れられるんなら、やれば……?」
と強気に出てみた。
「ちっ、カワイないなー。ちょっと前のお前なら、『イヤ…、やめて…!』て首にかじりついてきたのに、妙な自信付けやがって、」
「自信なんて…。おれみたいなヤツに、メロメロになる程度の男なんて、て思ってしまうから、……」
 おれがマジな声を出すと、
「まだそんなこと、言うてんのか。相変わらずなヤツやなあ。昨日はおれを飲むとか言うてたくせに。お前を独り占めできることのウレシサは、まあお前には分からへんよな。あ、でもそこまで育て上げたのは、おれやから」
「『痴人の愛』ですか…」
「何ソレ。『プリティ・ウーマン』なら知ってるけど」
 おれを独り占めできることのウレシサ……とろけそうな言葉だけど、ホントにおれ自身にはどこか遠いところの話のようで、余りにも現実感に乏しい。
 夕方、隣接する商業施設の、椰子の木なんかも生えているキレイに整備された海岸まで行った。暮れていく空と海を見ながら、潮風に吹かれていると、またあの夕陽を思い出した。
 彼がライターの音を立ててタバコに火を点ける。その音に反射的に振り向くと、おれを見てまた嬉しそうに微かに笑った。それを見て、ドキドキしてしまった。どうしても触れたくなって、くっつき、彼の手を掴んだ。

「よ、お前らちゃんと仲良く待ってた?」
と月曜、上がった写植を持っていくと、唯野さんが言った。
 おれは彼の向かいに座っている潮崎さんとさっと目を見交わすと、すぐ伏せ、笑い、
「ええ…、おれたち、仲良し、ですから…、ね、潮崎さん」
と言えば、
「お前らちょっと仲悪そうにしてたやん。二人置いてくのは、ちょっと心配やってんけど、」
「えっ?そうですか?」
 何にも言わないから何も感じてないのかと思っていたら、…びっくりした。
「心配いらんわ。おれらハンパじゃなく仲エーから」
 潮崎さんが、版下から目を上げず投げるような調子で言った。
 あの時間がウソのような騒々しさと活気。ふと振り返れば、あの白いテーブルで、頭をかきかき曽根さんが原稿と出力した校正紙を広げてイヤそうに文字校している。
 ――意外と平気なものだな…
とおれはその時思っていた。
 でも、社長室はちょっと、……ドアを見るだけで、気恥ずかしい。
 そのあとに潮崎さんを見れば、更にどうにかなりそうだけど。
 トイレで一人、済ませ、手を洗っていると、潮崎さんが入ってきた。おれがはにかんで少し笑ったあと、顔を伏せると、
「赤城君、なんか、今日は色っぽすぎるわ…せっかく、諦めようと思てんのに、そんなに色気あると、ちょっと…匂い立つ、てのは今の君みたいなんを、言うんやなー」
と彼の口から出るとは思えない単語が飛び出してくる。
 それはちょっと、自覚してるので、朝からヤバイなあと思ってた。彼を見ると、彼のことを考えると、社長室を見ると、はにかみと共に毛穴からジワ~と何かが出ていくのは、自分でも感じる。
 魔性のメカニズムは、土曜の夜に自覚したとき、大体分かったから、これから先、自分なりにある程度セーブ出来るんではないかという自信はある。けど、今潮崎さん相手に立ち上り、発散しているこれは、少なくとも今日はセーブ出来そうもない。
「ここはトイレですからね、色々匂うもんもあるでしょ」
 オレがそう言うと、彼は軽く笑い、それから俯き、
「……早く、出てってくんないかな?恥ずかしいし」
「男同士やないですか。何恥ずかしがってんです?」
「赤城君にはおれの大事なとこ見られたくないから。恥ずかしいから。それに今から個室にこもらな済まへんようになったから。それとも連れ込んでもいい?」
 彼が口の端を上げながら言う。でも原田や高階クンのニヤリとは違うんだよなあ。それにしても、潮崎さんがこんなこと言うなんて。おれは多分赤くなった。
「ダメに決まってるでしょ、」
「じゃ、はよ出てってや」

 仕事の合間に曽根さんに土曜のことを訊いていると、やたらに田辺さん、田辺さんと田辺さんの話に流れていく。ほんとに好きなんだなあと思うと同時に、それなりに進展あったかと思い、小声で、
「潮崎さんもいなかったことだし、何かいいことありました?」
と訊けば、何やら困惑した表情を作り、田辺さんは、ボーリングの後行った居酒屋で、潮崎さんの話をしていると、
「赤城さんて、カッコイイっていうより、綺麗ですよね」
と言っていた。と曽根さんが言う。
 出がけの田辺さんの表情を思い出し、どきりとする。しかし、
「田辺さんと話せたんですか。良かったですね」
「うん。席が隣り同士になったから」
「潮崎さんに、その後のこと聞きました?」
「イヤ、聞く理由もないし」
「訊けばいいのに。潮崎さんまだ本格的に付き合ってるワケじゃないらしいですよ。どうしようか悩んでるらしいし」
「エ、そうなん?……」
「もしかしたら田辺さん、フラれるかも知れませんから、チャンスですよ」
「マジかいや……うわ、どーしょうー、赤城君、」
「どーしようて言われても…、そこから先は、おれ関知しません…」
 そこから先は、おれの預かり知らない、三人の問題だから。
「でも、君に言うて良かったわ…ありがとな、赤城君」
と、嬉しそうに頭を下げてくれる曽根さん。その経緯はどうあれ、人に感謝されるのは悪い気はしないものだ。
 問題は、田辺さんのおれへの反応か……。
 お昼、待ち合わせ場所に行くと、最近には珍しく原田一人が待っていた。
「高階クンは?」
と訊くと、
「ずっと出てる」
 そこに立って何を食べに行くか相談していると、今まで出会わなかった方が不思議ではあるけど、潮崎さん達が前を通り過ぎた。潮崎さんは気付いたらしく、ちらりとこちらを見、口元だけに複雑な笑みを浮かべる。原田は、上目に口をへの字にして彼を見た。そして目を伏せ、
「赤。アイツと話す場を設けろ」
と言う。
「話す場?ケンカするんちゃうやろな…」
「あほう。いい大人がむやみにそんなことするか」
「したくせに……」
「お前会社残りたいんちゃうかったんか。取りあえず辞めます言うて明日さっと辞めれるもんちゃうからな」
「分かったよ…。じゃ飲みにでも誘うわ」
 そしてその日の午後、潮崎さんを誘うと、彼は二つ返事でOKした。今日イキナリというワケにもいかないので、一応明日、ということになった。

オイ、あんなことしておいてそんなんでえーんかよ?と皆様お思いのことでしょう…ええアタクシも、こんなもので納得していただくのはムツカシイと思っております。しかし、しかしですね、……赤城君と原田君との付き合いが長すぎ、なんか私にも制御出来ない部分や、私自身が原田君へのモノスゴイ罪悪感に責めさいなまれたりなんかしちゃったりするものですからね、赤城君もスゴーイ罪悪感があったんですね…だから前回分で、詫びるシーンで、名前が出せないくらいだったんですね…だから、これ以上原田君に不幸を押しつけられないヨーとワタクシ折れてしまいました。キャラの勝手さはそれだけに留まりません。もっとえげつないことしたかったのに…というセリフも、私の感想そのまま。赤城君が、私の中で抵抗するんですよー。オレはそんなことしたくないわーって。私って多重人格者?
さて柱ですけどねー、私の元居たとこのよりは太いと思って下さい。あんな細すぎる柱だと、ヤッてるうちに折れます、多分。
そして次回は最終回です、多分。ほんとは今回分で最後まで行きたかったんですけどね、なんででしょうね…縁起悪くも13回で終了予定ですわ。まあ予定は未定ですけどね。それに私、仏教徒だし。
しかし都合ン年もほっといたこの話が無事最終回を迎えられるとは、感慨深いですわ。しかも予想外にスラスラと。まあ納得していただけるかどうかは別としてですね。このパートはあともう少しですけど、お付き合い頂いた皆様、ありがとうございます、そしてもうちょっとお付き合い下さいね。

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