ブレイクスルー2 *エピローグ*

 年末は慌ただしく過ぎていく。よく考えたら、おれたちは年賀状の一枚も書いてはいなかった。
 おれ如きは、あんだけ休みがあったのに……と思わんでもないが、根が無精の上に、原田なんかとは違って、アートを愛する心があるので、下らない賀状は出したくない。それで、考えあぐねているうちに、年末……もういいや、来た人にだけ出せば……というパターンにはまってしまうヤツなのだ。
 ここだけの話、おれは原田から年賀状を貰ったことが一度しかない。3年ごしの付き合いなのに……。どんだけおれたちが冷めていた、というか距離があったか分かろうというものだ。その、一枚っきりの年賀状は、
「忘年会で大暴れしてゴメンネ」
というシロモノだった。
 勿論その忘年会というのは、例の、仲良し五人組の内輪のもの。
 原田は、
「今年の忘年会は、どこでしよう」
とおれに訊く。おれは、
「吉田に訊いた方がええんちゃうの」
と、夕食後の茶を注ぎ、言う。
「あ……。忘れきっとった。吉田も電話してけーへんし、……。空中庭園の、下?」
「電話してけえへん言うことは、誰かともう行ったってことちゃん?」
「じゃ、家呼んで、安上がりにいこか、」
「その方がバラし易いしな」
と、口元に笑みを浮かべ言うと、彼はびっくりし、
「もう、嫌がらへんの?」
「あんだけのこと乗り越えてきてんから、もう怖ないよ。分かって貰うことの良さも、知ったし……。おれがおれで、……いや、おれたちがおれたちであるためにも、……それに、証拠品があるし、」

 12月29日、うちに皆呼んで忘年会をやった。
「ほんまに2人で住んでんねんなー」
と吉田が家を見回し、目を丸くし、言う。
 達っちゃんは、もう硬くない。気軽く、とまではいかないかも知れないが、構えずしゃべってくれる。
 台所で氷を出していると、達っちゃんが来、
「手伝ったろか?」
と言ってくれた。
「ありがと。……元気にしてた?」
「おかげさまで……。相変わらず、夜のオカズは、お前やけどな」
「エ……!それと、元気の、何の関係があるん、」
 達っちゃんにしては珍しいあけすけな話に、ドッキリしながら答える。
「さあ、ね……。お前ら上手いこといってんの……?あそこ、辞めてんてな」
「うん。さすがにおられへんかったわ。おれはまだ、辞めたなかったのに、原田の、……いや、達っちゃん、あんたかな?おれ一生恨むで」
と、少し睨むと、彼は笑う。
「でも、結果的には良かったわ。全てが……ムダにならへんかった。おれと原田にとっても、もの凄くええことやったわ。……あの後、うじうじ悩んどったことも全部きれいさっぱり消えてなくなって……」
「おれに抱かれたことも、ええことやったやろ」
「達っちゃんも言うようになったなあ」
と呆れて言えば、
「お前かってやん。……おれたち、やっぱ気を遣い過ぎとったとこ、あったよな……」
「特に、おれはな……」
「そしておれは、それに気付けへんかった……」
 言葉もなく、沈黙していると、気になるのか原田がやってくる。
「赤。遅いで。早よ、ちょーだい」
と左手を出す。
「お前はほんま、堪え性ないよな」
とおれが言えば、
「それがおれの、いいとこ」
とヌケヌケと答える。
「でもお前ら、上手いこといってんの?」
 水割りを舐めながら、まだ信じられないと言うように、吉田が言う。
「そらもう。蜜のように甘く……」
 目を閉じ原田が言う。
「いややなァ原田。そういう気色い冗談、言いなや」
と眉間に皺を寄せ、吉田は言う。ほんとにバラして大丈夫かな……。
「いや冗談でなく。……なっ、赤」
 おれに目を走らせる。おれも横でうんうんと頷き、
「そう。おれたち、アツアツ」
と、ついニヤついて言ってしまう。
「赤まで……!いややなあ、あんたら、」
「冗談じゃないて、何度言わすねん。……皆さん、ちゃんと聞いてくださいよ。ぼくたち、結婚もしましたから、」
 吉田はげらげら笑い、
「も、えーって、」
と手を振る。おれは頬杖つき、横の原田の方を向く。
「も、えーやん。信じひん人は、信じひん人で。ほっとったら」
「そんな訳にいくか……!富田、あんたは、信じる?」
「信じるも、信じひんも、……お前らが仲良うなったんは、分かるよ」
「富田、おれ、まだ妖しげ?」
といたずらっぽい目を向ければ、
「妖しげ、……では、なくなったかな。あれはやっぱ、お前が冷めてて、痩せてて、薄暗かったからやな」
「薄暗い……失礼しちゃう」
 原田は口元を歪め、
「でも、その薄暗いとこが、達っちゃんには受けとってんやもんな。世の中分からんもんやで」
「じゃ、お前は何で、おれに惚れてん、あの頃おれは、薄暗かってんやろ?」
「おれは知っとったもの。お前がほんとは、アホやということ」
 思う存分ニヤつき、原田は言う。
「自分のことはタナに上げて、よう言うな」
「そのアホがばれへんように、クールな振りして、薄暗さにはまってたヤツ、それが、お前」
と人差し指をおれに振る。
「………。おれたち、ちゃんと理解しあってる?」
「図星やろ。引きつっとるで」
「明日、出てってよ原田君。君のアホと、ずうずうしさがうつるから」
「こいつ。おれは、この上ないお利口さんやで。お前も知っとってやろ」
「Hのな」
と言ってると、富田が、達っちゃんに、
「仲えーなー。……こいつら」
と言えば、
「いちゃいちゃして、気持ち悪い」
と笑って達っちゃんが言う。笑いすぎて寝てた吉田が、
「もーよそうや、そのテの会話……」
「どうしても信じひんつもりやな……!ええわ、」
と原田がおれを抱き寄せる。おれは焦り、
「原田……!もう、ええやん、」
「いや、やると決めたら、」
「やだ……!」
 彼はおれの顎を掴み、腰に手を回し口づけた。恥ずかしさで、身体が痺れる。顎の手が降りていき、…それは左手なのだけど、腰を引き寄せる。その手に、おれも左手を這わせ、重ねる。指輪が、コツ、と当たる。
 程々でやめればいいのに、結構きついキスをする。こんな場なのに、感じてしまいそう。そのまま、ゆっくりと押し倒され、首筋まで、……息が荒くなりそう。
 皆、しんとしてる。唖然としてるんだろうな。おれは目をつむってるから分からんけど。
「原田、もうやめて……、充分、過ぎるわ……」
「今日のおまえは、可愛げがなかったけど、いざ始めると、やっぱお前は化けるよな」
「恥知らず……!」
 その時、ヒエーッと壊れた笛みたいな悲鳴を上げたヤツがいた。他でもない、吉田である。
「原田、赤、……お前ら、マジ?」
「このユビワが、目に入らん?」
「ヒエ~~~」
「ぼくは赤城君がいたら幸せ、……赤城君は、ぼくがいたら幸せ……ね?」
「おれはそうでもないけどね」
 彼が身を離し、やっと解放され、身を起こす。
「お前、最近カワイなくなってきたで。ちょっと前までは、あんなに可愛かったのに……、」
「おれも大人になったから。大人の男に」
 そして原田と目が合う。思わず反らす。
「ま、取りあえず、おめでとう、ということで、いいのか、な……」
 途切れ途切れに富田が言う。
「めでたいんか、これ、」
 吉田が壁にへばりつき、言う。
「でも、赤ちゃんは、妖しくはなくなったけど、きれいさは増してんちゃん。ちょっとオレ、ドキッとしたわ…」
「富田まで……!男やで、赤は、」
「赤は身体も、きれいよ」
と達っちゃんまで言い出す。おれはさすがに堪えられなくなり、顔が熱くなってきたので、両手で頬を押さえる。
「もういいよ、」
 おれが言う。
「今思たけど……赤ちゃんて、シャロン・ストーンに似てる……」
 富田が言う。また……。
「マジ?」
「富田、褒めてもええけど、手は出しなや」
「挑発したのは、原田やけどな」
「なんで、皆、そんな平気なん?男と、男やで、」
と言う吉田に、
「でも、原田と赤やで」
 達っちゃんが言う。
「第一おれは、赤に惚れとったし……」
「じょーだん……!達っちゃんが?そんな、ウソと言うてよ、」
「吉田。もうお前は帰れ。うるさいわ。さいなら」
 原田は目を丸くして手を振る。

 皆が帰った後、かたしていると、そっと後ろから原田が抱きつく。
 見ると、微かに笑みを浮かべてる。照れる。
「でもお前は、何かほんま大人になったよな」
「全部、お前のおかげ……。可愛げなくなったら、ごめんな」
「うん、許さへん」
「……。でも、原田もなんか、落ち着いたよな」
「おれは変わらへんで。元々オトナやもん。安心しただけ、やわ」
「………」
 原田だけは、確かに変わってないな、と思う。
 これで取りあえずは、おれの書きたいことは全て終わりました。
 この、安息の日々が、いつまで続くのか、おれには分かりませんが、皆さんには悪いけど、おれだけは、いつまでも幸せでいたいと思っています。それでは皆さん、さようなら。おわり。

ふう……。今んとこ、全て終わりました……!読んでくださった方も、お疲れさま!
この後がまたステージアップしてとんでも展開になるんですけど。
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