トラブル・フィッシュ

 コポポ……。
 静かな室内の中、小さな水音が響く。蛍光灯が照らす水槽の前に、微かに首を傾げ、慈しむように中を見ながらエサ箱を持つ人が立っている。
 白い肌、柔らかそうな茶色い長目の癖毛。その隙間から覗く、伏せられた長い睫。きれいな鼻筋、吐息をつくように開く桜色の唇、繊細なラインを描く頬から顎の線…首筋はのびやかに、しなやかな身体と繋いでいる。
 その視線の先の水槽には、金魚が3匹。2匹は大きな水槽に、もう一匹の少し小柄な金魚は小さな水槽に。
「よしよし」
 その人は水槽の中の金魚に声をかけると、エサをねだるように水面にパクパク口を開いてる金魚の上にフレークのエサをすんなりした指で摘み、パラパラ落とす。金魚は水面を打ち、争うようにエサを食べる。
 彼はその様子を眺め、くすくすと笑う。そしておれの方に向いた。
「さてと、おれらも何か食うか。何食べたい?」
 この人はおれの従兄弟。といっても随分、10以上も年が離れている。おれはまだ高校生だが、この人は既に社会人。毎日おれより遅く出かけ、とても遅く帰ってくる。今日は土曜で、早い時間に帰ってきてた。
 毎日と言っても、ずっと一緒の訳ではない。従兄弟とはいえ、生まれた時からこっちに住んでるおれは、この人に会った記憶が殆どない。そんな彼が、こっちで世話になったというウチのオヤジのたっての頼みで、夫婦で旅行に行ってる間おれの面倒&金魚の面倒を見に来るようになったのが昨日から。オカンの当てた懸賞の1組2名様、総勢7組ご招待9泊10日のヨーロッパツアーはまだまだ続く。
 親はおれの世話はともかく、金魚の世話をして欲しくて頼んだらしい。何故ならおれがバイトバイトで全く家に寄りつかないヤツだったからだ。家に居ても自分の部屋に閉じこもってばかり。それで心配になったらしい。
 だからといって、この人の部屋に持ち込むには、金魚の水槽は大がかりで、大きすぎる。
「赤さんは?」
 そう言って座ってるソファから見上げると、彼は照れて笑う。
「おれ?なんでもいい……君が食べたいもんに合わせるわ。まだ育ち盛り、食べたい盛りやろ?」
 そしておれの向かいに彼は座った。
「なんか食べに行く?」
 そう言ってズボンのケツのポケットからサイフを出し、中を確認する彼。
「あ、赤さんは出さなくてええよ。親から生活費預かってるし、」
「そうは言うても。……ううん、その金で食べにいくか」
 赤さんは現金だ。そういうところが、顔に似合わず妙にカワイイ。「じゃ」と立ち上がり、連れだって近くのラーメン屋、結構評判の店、へ行った。脂っこいカウンターに2人並んでズルズルすする。
「仁史君は、今日はバイトは良かったの?」
「うん」
「明日は?」
「親がいてへんからって、休み貰った」
「ちゃっかりしてんなー…どっか友達とでも遊びに行く気やろ」
 そう言って赤さんはレンゲでスープを啜る。もっとこじゃれた店に行きたかったな。そう彼の横顔を見ながら思う。正面から彼の顔を見ながら、落ち着いた店で、美味しい物を…なんでだろ。
「別に。ゴロゴロ。…赤さんは?」
「おれ?…んー…おれも別に予定ない」
「赤さんは彼女おれへんの?」
「………。おれの付き合ってるヤツは、今出張中」
 そしてハーと溜息をついた。
「すっげぇね。バリバリキャリアウーマン?赤さんの方が養われてたりして」
 するとおれをキッと睨み、
「扶養家族のくせに、生言うな」
と言われた。

 それからブラブラと商店街を見て回り、ゲーセンに寄って、家に帰る…帰り着くと赤さんは金魚たちに「ただいま」とか言ってる。この金魚共が、ひどく気に入ってるみたいなのだ。いや、特に中の一匹を……
「赤さんは、赤さんがほんまに好きやねぇ」
 その様子を見てると、ついくすりと笑ってしまう。彼がバツが悪そうにおれを見る。その顔が金魚に負けずほんのり赤い。
 彼をおれが赤さんと呼ぶのはそのせいだ。今更だけど、おれの名前は土師川(はじかわ)仁史。一番お気楽な高校2年だ。行ってる学校も普通の公立で、毎日バイトと連れと遊ぶのに忙しいお年頃だ。決まった彼女はいない。まぁごくごく普通の庶民の子供だ。この家も、建て売りのそんな大した家でもない。目の前の赤い人は、赤城耕作さん。年の離れたおれの父方、彼の母方の従兄弟。長い間会ったこともなかったから、今回初めて会ったとき、最初はちゃんと『赤城さん』と呼んでいた。それが『赤さん』に変わったのは、世話の方法をレクチャーがてら、彼に金魚の話をしてから。
 うちの金魚共は、それぞれ種類が違う。2匹の水槽の一匹は動きもすっとろいのが愛嬌の黒い出目金。重たそうな膨れた身体を、ヨタヨタユラユラ揺らしながら愛嬌たっぷりに尾鰭を揺らして泳いでる。そしてもう一匹はアメリカで開発されたというコメットという種類。白と赤のきれいなコントラストの斑で、ひれは全て白く透明で美しい。特に名前の由来にもなったらしいスイスイと優雅に泳ぐ姿に大きく長い尾鰭が後を引くように揺れる様は美しい。観賞用の金魚たちだ。金魚は突然変異を伸ばして改良から7代続けば新種として認められるという。この美しいけどフナ型のコメットも全く別の種類みたいなランチュウ系の出目金も元は同じというのだから不思議だ。
 そして、もう一匹。
 別水槽の赤さん…。彼(かどうかは分からないが)は上の2匹とは全く違う、フナ型の赤い和金だ。金魚としては大きく育ったが、他の2匹に比べれば小さい体。ひれも小さく、最近では名前の由来だった身体の赤さも抜けてコーラルな感じになってきて、鑑賞の価値も低いと金魚通のオヤジの知人にも言われた金魚だ。
 泳ぐ姿も他の2匹より貧弱な尾鰭をピラピラ、せわしなく揺すって優雅とはほど遠い。尾鰭のせいか、赤さんの身体付きは他のと違って筋肉の隆起が見られ、野性的な感じで優雅ではない。そしてほんとにせわしなく、運動量が半端でない。
 でも赤さんは、そんな赤さんが愛しくてタマラナイらしく、ヒマさえあれば赤さんをニッコリして見てる。いや、照れ性で意地っ張りな面もある赤さんはそんな自分を覚られるのが嫌らしく、一応おれの目のあるとこでは全部にまんべんなく平等に視線を愛を振りまいてるつもりらしいが、どうしても赤さんに引き寄せられるらしく、ふと気付けば赤さんを眺めてる。そんな自分に我に返り、赤さんみたいなコーラルに頬染めて、また平等を気取るのが人間の赤さんだ。
 それには名前のシンパシー以外にも訳があるらしい。
 いやま、それが一番らしいけど。
 その見栄えよろしく、赤さん(金魚)の出自はあんまりだ。彼(かどうかは分からないが)はそもそも生き餌用の和金だった。だから栄養状態もあんまりよくなく、直ぐに病気にかかり、しかし先祖の血の強い強靱さでどうにかその病気を克服したなかなかの根性の金魚だ。しかしその根性は他の面でも発揮され、なかなかに困った金魚に成長した。
 赤さんだって最初っから侘びしく1人住まいだった訳じゃない。他の金魚と一緒に入れていた。しかし、先祖の血の強い野性味溢れる赤さんは、テリトリ意識が残っていて、他の金魚をテリトリから追い出そうと追い回す。スイスイ泳げるコメットさんはまだしもだが、とろい出目金はつつかれてノイローゼに陥った。なんとも他の金魚に馴染めない困ったいじめっ子金魚だったのだ。なまじ 運動量があるだけに、始末が悪かった。なのでオヤジは赤さんに手を焼き、近くの川に放流しようと言ったほどだ。でもオカンがそれじゃ可哀想、放流なんかしたら直ぐに他の魚に食べられてしまう、と反対して今に至る。
 2つの水槽に分けられて、他の2匹は穏やかな性格で上手くやってる。外れモンの一匹狼(?)赤さん。
「イヤ別に、そんなこと、……」
 意地っ張り赤さんは、また否定の言葉を上らせる。
「隠さんでもええよ。素直になりや。見てたら分かるわ。……同情?」
 その赤さん(金魚)の話を聞いたときの赤さん(人間)の反応。急に熱っぽく、切ないものに変わったのだ。本人は隠そうとしてるつもりらしいけど。
 そう言うとまた、赤さんの顔がほんのりと染まる。
「……イヤ。同情つーか、赤さんておれに似てるなぁと思て。つい頑張れよって気になって……」
「似てる?」
 おれはきょとんとしてしまう。男の、しかも30も超えた人に言うのもなんだけど、赤さんはきれいだ。絶対に。白い滑らかな肌、長い睫、印象的な涼しげな目…そして桜色のふっくらとした唇。どこが?見飽きない。観賞用に堪える。体つきもすんなりとしなやかで、むしろコメットさんの方だと思う。悪いけどみそっかすな感じの赤さんじゃない。
「おれは全然そう思わへんけど?むしろコメットさんみたいに、……」
 きれい、というのは控えとこう。怒りそうだ。意外と怒りっぽいとこがある。でもその怒り方も、怖くない。なんか小動物が威嚇するみたいで、カワイイんだけど…そういやそういうとこは赤さん(金魚)ぽいかな?
 そう思ってると彼は目を伏せ、睫の影を頬に落とし、水槽の上に載せてあるガラスの天板に手をかけ、
「今はどうか知らんけど、おれも昔は回りに噛みついて威嚇してばっかのみそっかすで、放流つーかクビにもなったヤツだからさ、」
「えっ、」
「だから肩入れしてしまう…放流されへんように、クビにならへんように頑張れ、て」
 後半はおれに横顔を見せ、赤さんを見ながら言う。
 初耳だ。イヤ多分言いたくなかっただろうなあ。ガキんちょにクビになったことがあるなんて…まだ首まで、ほんのり赤い。
「仁史君。早よ風呂入って寝ぇや。ガキはおねむの時間」
「あほかこんな早ように寝られへんわ。……一緒にHビデオでも見いひん?それかゲーム、」
「ガキは大人しく宿題しとれ」
 その時バイブにしてる携帯が着信したらしく、ポケットから出し、モニタを確認してから赤さんは出る。
「……ハイ……ん、大丈夫。全然平気。心配いらんて。……アホか。おれかて……ん。また……」
 そしてハアッと息付き、片手で閉じると、また仕舞う。
「彼女?」
 一瞬彼はなんとも不思議な間を作り、「うん」と頷いた。
 そしてピラピラ、ピチピチと泳ぐ赤さんの水槽の水面に人差し指を漬ける。暫くそうして指を上げると、
「まだか」
と言う。
「何?」
「いや。指吸い……」
「指吸い?」
 余り家にいず、金魚の世話もしない、関心もなかったおれには初耳の単語だった。
「昨日オバサンから電話かかってきたやん?そんとき言うてはってん。金魚は見るだけで犬猫みたいに触れあいがないですねーて言うたら、金魚ともスキンシップ取れんねんでーて。こうやって指を出すと、慣れてくると吸うてくれるって…ちょっと手乗り感覚でカワイイやん?」
 そう言って笑う。
「で、ゴハンの前でないとしてくれへんらしいねんけどな…これもなつこいこっちの2匹はパクパク吸いまくってくれんねんけど、警戒心の強い赤さんは、してくれへん」
「ふ~ん」
 おれは余り関心のなさそうなフリをしたけど、実はどきんとし、妙に身体が沸き立つのを感じてた。『指吸い』…その単語の響きが、カワイイよりエロチックに響いたからだ。ヤリたい盛りのガキですから。でもなんだか赤さんの顔が見ていられなく、もうビデオもゲームもしたくなくなった。風呂入って、ヌイて、寝てしまおう。
 風呂の中で、赤さんの白くすんなりとした指に吸い付く金魚を思って、何故か2発も出してしまった。
 金魚でヌクなんて…人間以外のものをオカズにするなんて、なんか悲しくなった。

 結局日曜は、洗濯をしてから女友達を1人呼びだし遊びに行った。なんか家にはソワソワして居られなかった。…友達だけど、Hもする。真っ昼間っから彼女を誘ってラブホにしけこみ、さんざんHして、カラオケして、持ち込んだソフトでゲームして遊んで物凄く疲れて帰った。
 帰ったのはまだ九時くらいだったけど、疲れてたからもう寝る、と直ぐに自分の部屋へ行った。赤さんはそんなおれを心配げに見てた。
 それが脳裏に焼き付いて、目が冴え眠れそうになかったので、隠し持ってるオヤジの白岳(焼酎)飲んで、それでも足りなく、部屋に鍵かけて、ベッドの下から気に入りのエロ本出して、しごいて…おれ今日何発出してんねん?さすがに出涸らしだし、いてぇよ…と思いつつ、やっと薄いの出して、疲れて今度こそ寝た。

 おれが学校に行くとき、赤さんはまだ寝てる。始まりの遅い会社らしい。いや、あれで一応赤さんは経営者らしい。2人でやってる、って言うから
「じゃ、相方の方が出来るマンなんやねえ~」
と言ったら、ちょっと唇をへの字にし、突き出し、睨まれた。その顔見て、噴き出して、
「カワイ~…」
と言ったら、
「ガキのくせに、うるさいわ!」
と睨まれたので、その後カワイイと思うことがあっても、言わないことにしてる…一応さ、大人の、人生の先輩としての自尊心てもんがあるやん?尊重してあげな、な。
 何故か今日も、ていうか実は親が旅行の間のバイトを全て休みにしてしまったおれは、…まぁ毎日行ってるワケちゃうねんけどな。放課後連れに遊びに誘われてんけどなんとなく何にも興味が持てそうになく、1人になりたくて早々に家に帰った。
 コポポ……。
 薄暗くなるまで電気もテレビも付けないでいたリビングで、水槽用蛍光灯に照らされ浮き上がるみたいな水槽。金魚たちは黄緑できれいな水草の間を泳いでる。2匹はゆったりと。赤さんはピチピチ、小刻みに身を揺らしてせわしなく。
「お前なぁ、なんか貧乏性やなあ……赤さんもそうっぽいけどな」
 なんか1人でにやけてしまい、指を水面に漬けてみた。赤さんは全くの無視で、中程の深さのとこをユラユラ、身を揺すって泳いでる。諦めてもう一個の水槽に漬けてみる。コメットさんが凄い勢いで水面に口を開け、吸い付いてくる。結構デカイ口で、ちょっと怖かった。
 赤さんは、ほんま警戒心が強いねんなー…でもそういうとこが、萌えや。絶対吸わしたる。
 なんか変な攻略心が沸いてしまい、ピラピラ、貧乏揺すりみたいに泳ぐ赤さんを見た。気付くと、赤さん(人間)じゃないけど、おれも赤さんばっか見てた。なんか見飽きなかった。その身体は取り立てたとこもなく、優雅さにはほど遠い。でもその筋肉の隆起が拝める身体は弾力と野生の魅力に溢れてて、女性的なコメットさんや出目とは違う美しさ、肉感的なエロチックさがある、と思ってしまう。そしてそんなこと思っちゃってる自分に、赤面だ。また金魚に欲情してしまった…でもこの、水槽から逃がしてくれと言ってるかのような、イヤイヤのような身の揺すり方が、また可愛く、イケナイエロ心をくすぐる……
 あかん。おれ、おかしなった。
 赤さんが帰って来る前に、シャワー浴びて寝てしまおう。そしてまたおれは、金魚をオカズに2発もヌイてしまった。
 シャワーから上がると、赤さんが帰ってきてた。今日はスーツだったんだ。黙って立ってると、なかなかカッコイイ。けど、やっぱカワイイ。
「帰っとったん…?もうシャワー浴びたん」
「うん……もう部屋行って、寝る」
「メシは?」
「レトルトのカレー食った」
「そんなん…?もっとちゃんとしたん、食べぇや。…ピザでも、取ろか?」
 おれは髪を拭きながら、笑う。
「そっちの方が、油こくってちゃんとしてへん気がするけどな」
「そうかなぁ。……」
 そして赤さんはそのカッコのまま、水槽の前に立ち、「ただいま」と言う。そして側に置いてあるエサ箱を取る。水面に指を漬けて、指吸いスキンシップをしてから…赤さんはやっぱりしてくれてなかった。
「赤さんはやっぱしてくれへんな。おれもさっきしてくれへんかった」
「え?したん?じゃもうエサやってくれた?」
「いいや」
「ケチ。おれは疲れて帰ってきてんのに……」
「エサ係は赤さんの仕事やからおれが取ったらあかんでしょ」
 だって、エサ係の仕事が無くなってもーたら、ここに来る理由がないでしょ?
 おれは彼の横に立ち、一緒に金魚を見た。サラ…と音がした気がして、横目に見ればこっちに頭を揺らし、しなやかな動きでエサをやる。なんか体温が感じられそうな気がして、身体、つーかアソコがまた熱くなってくる。またか、おれは溜息出る。
「じゃ、おやすみ」
「ああ、……ちゃんと宿題して寝ろや」
 その間、20分位。これだけの為に赤さんに来て貰うのも悪い気がするけど、おれがエサやって、会えなくなる、顔を見れなくなると思うとなんかつらかった。
 で、またもエロ本なしでヌイて寝た。金魚がオカズってどうなのよ。

 次の日は、出かけに赤さんの顔を見ていくことにした。折角来て貰ってるのに、なんだか会ってる時間が少ない。申し訳ない気がして。いや、なんかちゃうな。勿体ない気がして。うん、これ。
 赤さんに提供されてる部屋はお客さん用の部屋で布団だ。スースーと規則正しい寝息を立てて、無防備に寝てる。
 おれはしゃがみこみ、息が感じられるほど間近で眺める。やっぱ観賞用や。
 かわい。
 またそう思ってしまう。ちょっとそんな自分と赤さんに苦笑してしまった。
 コポポ…。
 それから幾日か。そんな日々の繰り返しの中、その日も早く帰って随分長いこと金魚とにらめっこして過ごした。金魚がウチに来て一年。こんなに金魚に惹かれ、眺めることなんてなかった。でも見飽きない。
 そして吸え、吸えと念を送りながら、指がつりそうになりながら赤さんの水槽に指を漬け続けた。たまには揺らし、ここだよと存在を誇示しながら。
「あっ、」
 するとほんのコンマ数秒、一回だけあの警戒心の強い赤さんが吸ってくれた。感触も分からなかったくらい。だけどおれはビビッと電流が走ったみたいに痺れた。
 吸ってくれた。そのことに喜びとともにまた下半身が元気になってきた。指先をくすぐるようなついばむ動きが、何でかやっぱりエロかった。
 かゆいような疼くような快感に、おれはまた金魚でヌイてしまった。いつまでこんな日が続くんだろう。
「今日、赤さん吸ってくれたで」
 勝ち誇ったように帰ってきた赤さんに言うと、彼は目を丸くし、
「へー」
といってまたエサをやりに行く。
「おれにも来い……オラオラ、」
 そう言ってパシャパシャ軽く赤さんの白い人差し指が水を弾く。そのときは何故か金魚よりその指にばかり目がいっていた。
「あっ、」
 びっくりしたような、でもか細く甘い感じの声を出し、赤さんが指を引く。
 猜疑心の強い赤さん(金魚)が、赤さん(人間)の指をついばむように一瞬吸った。

 その途端、今までになく強くおれは感じてしまった。おれも吸いたい。吸われたい。アソコも。
 一気にそこまで頭が回転してしまった。赤面。
 おれは、吸いたかったのか、赤さんの指先を。吸ってほしかったのか。赤さんに顔赤らめて、口を開いて。そして…なぜか脳裏に浮かぶ赤さんは真っ黒な背景の中、白い身体をほんのり上気させ、裸で四つん這いで。
 そしてそのきれいな唇だけを微かに開き、おれの指を、アソコを…吸ってくれる。金魚の赤さんみたいに、ついばむように。
 カーッとなり、
「おやすみ」
「へ?」
 ワケが分からないという風な赤さんを置いて、自分の部屋に直行した。鍵かけて、すぐにオ○ーニした。脳裏から消えてくれない赤さんの姿をオカズに…もう金魚なんてどうでも良かった。赤さんの裸しか浮かんでこなかった。女なんか、元より全く浮かばなかった。
 だからおれは、赤さん(金魚)に惹かれたのか。赤さん(金魚)に赤さん(人間)を重ねていたんだ。懐いてくれない筋肉質の、男っぽい、でも魚なのでしなやかなので、少年ぽい?金魚。抱き締めたら赤さん(金魚)みたいに怯えて、逃がしてとピチピチ強く跳ねるんだろう赤さん(人間)。
 目を閉じ、軽くついばみ指を吸ってくれる赤さん(人間)。そのとき舌先が指の先を掠め、撫でて…その刺激、想像しただけでイキそう。
 そして、四つん這いでおれのいきり立ったモノをついばむ赤さん。頬を染めて、身体も染めて、コーラルピンクな赤さんに、指みたいに吸ってもらう。先っぽだけついばむように、吸いながら舌先で鈴口をつついて、押して貰ったらあっという間にイキそう、てか想像してたら実際あっという間に出してしまった。次は頭を前後に揺らし、先っぽ全部銜えて、引きながらまた舌で下の方を撫で上げ、先っぽを押し開くように押すの繰り返し。ヌメヌメ、弾力ある舌の腹で嬲られて、それを想像しながら、擬似プレイ。
「う、」
 今度はさっきよりは少しは持ったけど、やっぱり早かった。その調子で、5回もヌイてしまった。疲れた。

「もう明日かぁ…早かった、てか殆ど触れあいなかったな。仁史君」
 最後の夜に、またも金魚にエサやりながら言う赤さん。
「触れあい?」
「うん」
 おれは座ってたソファから立ち上がり、赤さんの手を取ると、正面から彼の顔を見据えながらその人差し指をパクンと銜えた。
「な、何?」
 またポーッと赤くなり、戸惑う赤さん。かわい。
「指吸い」
 そしてそのまま、指の腹を、舌先でこすり、吸い上げながら舐め上げた。すると赤さんが俯き、眉間に皺寄せる。
 感じた?感じてくれた?指にも緊張が走ってる。その様が、超絶的に色っぽい。
 もっと、感じさせたい。感じてる顔が見たい。
 キスしたい。指じゃなく、口を吸いたい。アレも吸いたい。
 あれから毎晩、あの赤さんをオカズにし続けた。多分きっと当分頭を離れないと思う。どうしてくれんだ、いたいけな高校生を。
 掴んだ手を指先だけでなく、丹念に特に指の間を舐め上げる。ここは感じやすいところ。チラと見れば赤さんは俯いて微かにふるふると震えてる気がした。
 今だ。背に腕を回し、抱き寄せて、口付けようとしたら首をすくめて顔を逸らして、そんな様がやっぱり赤さん(金魚)らしい。でもますますそそる。強く抱き締めようとしたとき、携帯が鳴ったらしい。彼はさっと取り出し、俯いて出る。
「あ……うん。マジ?良かった…!うん、今から行くから、」
 そう言うとおれをどんと押し、
「ごめん!仁史君…もう一晩だけやから、大丈夫やろ?…叔父さん達によろしく!」
とおれの手をすり抜け、出て行ってしまった。おれはボーゼンと見送るだけ…。
 疲れた。大きく溜息吐いて、緊張逃がして…おれも緊張しててんな。ドサッとソファに座った。
 もう一押しやったのに。なんで逃がしてしもてんやろ。…いや、おれはまだ怖かった。後戻りできない世界に行くのが。だから赤さんがおれを押したとき、なすがままだった。
 ああ、放流してもた。……
 バクゼンとそう思た。放流したら、他の魚にすぐ食われる…美味しそうな赤さんは、食われちゃう。
 でも、おれがどうにかまだ後戻りできるレベルで助かった。あと何日かあったら、こんな戸惑いも赤さんに冒されていた気がする。

 あれから。
「どないしてん。仁史あんた金魚好きになったん?」
とオカンに言われるほどポケーと赤さんを見てる時間が多くなった。赤さん(金魚)を見ながら赤さん(人間)を思う。
 夜のオカズは、なかなか新ネタにありつけない。いや、赤さんがおれを鷲掴みにして離してくれない。
「まぁな。……困った」
「困った魚やねんけど、そこがカワイイやろ?赤さん」
「……ウン」
 おれは頷くしかなかった。

なんか散漫ですなぁ…もちっと書き込むべき話ですよな。でもなかなか難しい…トップにも書いたけど、この話は別キャラだったらこんなもどかしい展開にせずエロに持ち込めたのになぁと思いつつ、赤さんに触発されて出来た話だから、これでいいのだ~(やっぱりバカボン)あと、身近に高校生が居ないので、高校生の生態や風俗が分かりません…(汗)なのでますます散漫に、とりとめなく…いいネタなのに、勿体ないですね…(汗)
BGMは、勿論(?)米米の「EBIS」収録「トラブル・フィッシュ」……♪網にかかったね~思った通りさ~…と切々とお魚チャンへの賛辞と愛が綴られております(笑)

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