おれはそれを見た途端、ひやっとして固まってしまった。更新はいつも日付の変わる頃に行われる、何が飛び出すかハラハラさせてチェックせずにはおれない高階クンの(正確には元は会社の)ブログ()。
 彼の性格ぐらい、重々承知している。だからこそ、おれをなんてゆうか…ある意味悶えさせる為に、怯えさせる為にエスカレートし過ぎていつとんでもないことをポロリと書くのではないかとハラハラする心臓に悪い日々を送っていた。
 でもそれを言えば余計に心の奥に留めて、いつか隠し球になってしまう、薮をつついて蛇を出してしまう危険性がある人物だから、おれは冷や冷やしながら傍観しているしかなかった。
 そして今日の更新分を見て、物凄くおれはショックを受けてしまった。
 止められなかった、という思いと、判っててやってる高階クンの心の底がおれを凍えさせた。

「何?」
 ショックで呆然としていると、後ろから声がする。風呂から上がってきた原田だ。はっとしおれは慌てて開いていたブラウザのページを移動しようとした。しかし動転して焦る程にはきびきびと動いてくれない手が、容易く後ろから原田の強い手に掴まれ、あっさりと見てほしくないものを表示させる。
「………」
 無言。無言で原田はリビングのラグの上にあぐらをかいているおれの背中にぺたっとひっつくようにして、おれの肩からモニタを覗きこんでいる。
 おれはいたたまれなくて、意味もないけど顔を逸らす。
「………ふーん」
 原田の声は、極めて息の抜けたような、軽い適当なものだった。「だから何?」と続きそうな。しかしそれきり、彼は言葉を紡がなかった。
 こういう「ふーん」は良く聞いた。記憶に残る殆どは、おれはが疑心暗鬼に陥るようなシロモノ。
 この、なんとも言えない間がタマラナイのだ。
「申し訳ございませんでした!」
と思わず自らカミングアウトしたくなるような。もちろん、今回も。心がざわざわせずにはいられない。
「あのっ、これは、その、……」
 喉に何かひっかかるものを感じながら、やや素っ頓狂気味に声を上げると、原田はおれと対照的に落ち着いた声で、
「何?」
と問う。なんかやな感じ。高階クンのせいだ、バカ……尻がもぞもぞ、居心地悪くなってくる。
「これは、高階クンの、も……」
「だから?」
「もうそうでっっ……こんなこと、げんじつには……」
 しどろもどろ。我ながら不審な気がする。しかし原田は薄く目を閉じ「バーカ。アホウ」と言う。
「へ?」
 急に拍子が抜け、ヘンな声を出し、上目に見ると、原田はアホか、といわんばかりの顔で、
「オマエ、何うろたえてんねん…今日何の日や?」
 そう言われてカレンダーを頭で描く。あ、4月1日……
「エイプリル・フール?」
「やろ?」
「は……」
 驚いた。マジで。力抜けきってしまった。
「高階クンめ……」
 思わずうなだれると、その頭を抱き寄せられる。骨っぽい大きな手が、ぐりぐりと頭を撫で回す。
「それとも何?冗談やなくて、マジやった?」
「じょーだん……!冗談に決まってるやん、」
「まぁそうムキにならんと、」
 原田はくすりと笑い、「じゃ、寝よか」とおれを促し立たせる。おれを立たせて、自分がしゃがみ、パソコンの電源を落とし、テレビを消し、リモコンで最後にリビングの灯りを落とすと、絡み合うように隣の寝室へ行った。

「あ………」
 いつもと変わらない原田の熱い手。おれを狂わす手。それが彼に向け無防備に大きく開かれた身体の中心にある。おれの欲望を育てながら、見られている。その恥ずかしい事実に、今でも羞恥でおかしくなりそうになる。
 不意に、その途中で身体をひっくり返される。
「?」
 彼の目の前に晒されるのは、丸い双丘なわけで。
「あり地獄、ね……」
 そう声がしたとおもったら、湿った息を感じ、そこがひくついた。
「あっ……あっ…」
 急に舌を割り込まれ、声が押し出される。微妙な舌の動きに、絶えきれず足がもぞもぞとずりずりと動く。
 腰は、振ろうにもがっしり固定されてる。
「ヤ……原田……」
「ウソつけ。めっちゃ気持ちよがってるくせに」
「あん……」
 ヒクヒク、と収縮した。
「ほんま食われそう。食いちぎられそうやな」
「ヤッ……」
「ヤ、やあれへんやろ?イイんちゃうんか」
「あ……っ」
 なんか見事にアダっぽく甘い声しか出ない。そういう点、ほんとにイヤなのに。
 前の先端もむずむずしてきた。シーツの擦れさえ過敏に感じ、キモチいい。我慢できない。濡れてると思うけど、スリスリスリスリ、シーツに擦り付けた。もどかしさがタマラナイ。
 声を微かに漏らしながら夢中で擦り付けていると、腰を掴む手が前に伸び、先端をぐりぐりとされる。刺激強すぎ。思わず腰を引く。でもその動きは、原田の顔に尻を押しつける行為でしかなかった。
「ああ…ああっ……」
 進退窮まってどうにかなりそうだけど、キモチいい。肌が身体が、ざわざわしてる。早く上り詰めたい。彼の強弱を付けて握り込む手に腰の動きは止められなかった。
 もう少し。目を瞑った先で小さな光が、トンネルの出口みたいなのが見えた気がした。唇の端に濡れた感触。分泌された唾液がだらしなく零れそうになっていた。あわてて啜る。でも啜る力が足りず、返って垂らしてしまった。
「赤……」
「あ……」
 原田が荒い息を吹きかけながら、背中を抱いてくる。前は強く根元を握ったまま、のし掛かり、綻んだ穴に侵入してくるもの。
「………」
 小刻みに身体が震えた。突き上げる快感。でも解放できない。そのままぐちゃぐちゃに突かれながら、
「おれのモン……」
と呟く声が聞こえた。
「あっ、」
 胸を摘まれる。ジンとした痺れが走る。
「桜色……ね」
「原田……」
 そのまま、何度も強く突き上げられた。

「高階クン、君な……!」
 次の日、というかその日、出社一番高階クンの顔を見ると「おはよう」より先にそう声が出ていた。しかし高階クンはいつものにへらっとした笑顔で、「おはようございます」と同時に言っていた。
「あのなぁ、何のつもりやねん、アレ!」
「ああ。ドキドキしたでしょ?原田さん震え上がってくれてました?」
「原田じゃなくて、おれが……!」
 そう詰め寄ると、彼はヒヤリとした笑顔で、
「ふ~ん。赤城さんが?なんで?……なんで震え上がりますのん?現実やあれへんでしょ?…それとも、あれのせいで、ひどく責められたとか?」
「………」
「高階君、おはよう。ええ朝やな」
 原田がそのとき寄ってくる。2人はなんともいえないニヤ~とした笑みで向かい合う。
「まったく最高の妄想ネタやったで」
「いい刺激になりました?」
「ああ。ごちそーさん。赤なんかおかしいくらいビビリまくっとったけどな」
「原田さんも震え上がってくれました?」
「縮み上がりはせえへんかったけどな」
「ちぇ。あれで『オマエみたいなふしだらなヤツとは別れる!』ってのも期待しとってんけどな」
「判りやすすぎるわ。ウソて」
 高階クンはへへっと笑い、
「そーすか。じゃもっと頑張ります」
「頼むで萌えネタ」
 そのとき美奈ちゃんが「おはようございまーす」とやってくる。
 原田は仕事に、自分の席へと踵を返す。
「原田さん……」
「ん?」
 高階クンが俯いて呼び止める。原田が振り向く。
「全く考えもせえへんのですか…?あれはウソやない、ホンマやて」
「……ウソやろ?」
「ホンマですよ…」
「高階クン……!」
 絶えきれず名前を呼ぶと、おれを見上げ、
「ハイハイ、ウソですよ」
「……それで、ええねんで」
 原田が、ニヤリとして言う。そのまま、また自分の席に着いて何事もなく仕事を始める。
 相変わらず、その辺読めない原田。だけど、……


 嘘として最もパンチ力のある真実を平然と話す高階クン。
 ウソともいえず本当ともいえず、アイマイにごまかしつづけ、結局ウソをつき続けるおれ。
 知ってるのか知らないのか、騙されて高階クンの言うことを鵜呑みにして…それはもしかしかしたら高階クンと同じように都合のよい解釈をおれや周りに押しつけて意のままに動かしていく作戦なのかもしれない、原田。

 一番の嘘つきは、一体誰なのだろう。



END

初めてのエイプリル・フールネタ…。頑張ったよ、お母さん!(いや見ていらんので…)フールといいながらちょっとミステリに、やってみたつもりです。なんかちょっといつもと違う?雰囲気のような…へへへ(笑ってごまかす)では!

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