エンドレスサマービーチ・プール

◆今回分の挿し絵はコチラ◆

 原田勇二は非情な男だった。
 夏の終わりに来た、大きな造波プールと長い流れるプールが売りの大型レジャープール。
 インドアだけど、さんさんと降り注ぐ太陽の光を程良く明るく取り入れて、ビーチの演出、高い椰子、プールサイドの白い椅子。トロピカルムード満点。カップルも雰囲気に酔う。
 せっかくそんな華やかなところに来ているのに。
「じや、おれザクザク泳いでくるから」
とその男は椰子もない、華やかなビキニの女の子もいない奥の味気ない25mプールへ行ってしまったのだった。
 元々そういうところのある男だった。
 冬にスキーに行けば勝手に上級者コース、おいてきぼり。夏に海に行けばあの島まで泳いでくるとか言いだし遠泳を始める。
 スポーツ好きなのは分かる。折角来たのに身体がうずうずして限界まで動かさないと気が済まないのは分かる。
 だけどさ……
 と自分は泳ぎたくない男、赤城耕作は1人ビーチ気分の造波プールの波打ち際で椰子の木を見上げながら寝っ転がってふてくされていた。
 残暑がきついから家に居たくない、プールに行きたいと言ったのは自分だった。だから文句は言えないが、それでもこういう時いつも思う。
 なんで恋人同士で来てるのに、ほったらかしなんだよ殆どいつも…
 付き合い初めのときはベタベタしてきてうっとおしいと思っていたけど、あの調子でプールなんかに来た日にはなにをやらかすか心配という名の期待もしていたワケだけど、そんなの哀しい杞憂にしか過ぎなかった。とスキーに行ったとき、気付きはじめ、最初の夏の海とプールで確信に変わった赤だった。
 なんで、1人でアスリートする?可愛い恋人が、冬はともかく夏なんかヤバイ半裸で側にいるのに?
 今更見回さなくても、回りはカップルだらけ、どいつもこいつも男はデレデレと彼女の水着姿に鼻の下伸ばしてベッタリ、のんびり、水に浸かってるだけだ。なのに原田……
 オレの水着姿、そんなにイケてない?元々なまっちろくて自信はないけど、一応女だったらトップレスだぜ。そんな過激な(はずの)オレの姿をさも興味なさそうにほっておくとはどういうことなのよ。そりゃ男だし、ほっといたところでナンパされる心配はないだろうけど。
 見たくもなくてもついつい目が行ってしまっている赤は、幸せそうな、他の何者も見えていない完結された世界の人々を横目に、どうしても思いが巡っていくのだった……
 あいつ、彼女ずっといたくせに、プールはどうしてたんだ?まさかこんなほったらかしじゃないよな?女に優しいあいつのことだもん。朱美さんは確かスキーは上手かったはずだからそれはそれとしても……
 やっぱり、おれが男だからか。所詮男の水着姿なんて興味ないものなのか。女じゃないから優しくしてくれないのか。
 そうなのか。やっぱりそうなのか。


 赤城耕作は優柔不断な男だった。
 その上ニブイ。というか分かってないというか。
 そんな姿を堂々と見せられて、平気でいれるわけがないじゃないか。
 散らさないと!この悶々と沸き上がるものを散らさないと!
 原田勇二はそれを振り切るために、程良く疲れを得るために、何度ターンしたことか、ほんとにざぶざぶ泳いでいた。
「えっなんで?」
 と言った感じの自分を見送るきょとんとした顔が思い浮かぶ。椰子の木、鮮やかな水色のプールをバックに、なんてかっこうなんだか両手を浜もどきの床について、小首を傾げて諸肌出して、その両腕の間からチラチラとピンクの淡く色づいたものが……犯罪だ。
 我慢できるわけねーだろおぅぅ。しかも回りはイチャイチャカップルばかりだ。
 おれだってついいちゃいちゃしたいんだよ。回りのヤツに負けてられるかーって。流れるプールで仰向けに二人重なって流れてみたり、お前を浮き輪に乗せてベッタリしながら押してみたり、浮き輪のお前を前から後ろから押すフリしてベッタリ腰を抱いたり、してーだろ。そしてプールの壁にボンボンと跳ねさせてその反動でギューと密着したりとか…その辺のニヤケカップルがやってること全部。
 でも女より始末が悪いのは、すぐそこに可愛いビーチクが…我慢出来ずに触ったらお前はきっと「あんっ」と微かに鳴くんだろ。あああ……すぐに勃っちまう。
 もっと…もっと散らさないと。疲れないと。
 原田は物凄い勢いで泳いでいた。
 疲れたら少しは気も散って、下半身も大人しくなることだろう。アブラが抜けたようになって、穏やかに程々に赤と楽しく遊べるだろう。
 だけどそれにはまだまだまだ。可哀想だが1人で我慢しててくれ。おれも我慢してるから。
 そう念じながら泳ぎ続ける原田はやっぱりマニュアル男、ベタベタ大好き男だったのだ。今まで付き合った女の子とは、前述のことをやりまくった。だけど、誰より愛しい赤相手には、やはり男同士というのが、回りの奇異な目がさすがに気になる。
 ――まだ海の方がずっと良かったな……。
 欲求不満に任せて泳ぐ原田はいつにも増してストイックでかっこよく、その場の女子の目を集めていたことを本人は知る由もない。


 篠原敬太はついてない男だった。
 初めて今付き合ってる彼女と来たプール。だったのだが彼女は「お腹痛くなっちゃった」とじゃあ一緒にジャグジーで暖まろうか?という篠原を振りきり、併設の温泉へ行ってしまったのだった。
「先に帰るね」と言われるのも時間の問題だろう…
 なんだか、ついてない……
 モテないワケじゃないのにな。結構カッコイイって言われるのに。そう1人で流れるプールの隅で壁に凭れ黄昏ていると、
「あっ、す、すみません、」
 イモ洗いの渋滞の中、不意に肩の辺りに人がぶつかる感触がした。
 水の中、濡れてつるつるとした弾力、素肌の感触。ほんのり暖かい。でも残念、その声は明らかに男のものだった。
 そちらに緩慢に顔を巡らすと、フワフワとした茶色の頭のてっぺんのつむじが見えた。「うわ、」そしてその瞬間またその頭から声がもれる。
 むにゅ。更に後ろから押されて、その男はますます自分の肩に密着した。ぽちっ、とした感触が二の腕に当たってどきっとする。押されたせいで、そのぽちの感触は擦り付けるように微かに上下する。不覚にも篠原はドキドキし、股間にギューと感じるものがあった。
 ったくなんで男のチクビで感じなきゃならねーんだよ…条件反射、哀しい。
 と溜息付きそうになるとき、その茶色頭の男が顔を上げた。なんとも言えない子犬のような潤んだ瞳、綻ぶ唇。男だけど、けっこう綺麗…かわいい。イケル。特にほっぺたから顎のラインが好みだ。肌も綺麗。鼻も綺麗な形。
「あ、あっ、……、」
「おっと、」
 そのまま、肩触れあったままだった二人だったが、更に後ろから玉突き衝突みたいな状態に押されてくる。顎を上げ自分と後ろに押し潰されそうになる綺麗な人を、反射的に篠原は引き寄せかばった。
 自分が凭れていた壁に取り込み、自分の身体を玉突きの盾にする。抱き込むような形になり、更に身体の密着度が増す。というより、殆ど覆い被さっているような状態だ。顔が直ぐそばにあって、照れたのか頬をうっすらと染めて軽く口を引き結び、目線を下げる。その時落ちた睫の陰が長い。
 ぎゅっ。強く背中を抱き寄せれば、のけぞるようにしなやかな身体。また、腕に触れるピンと尖った乳首に、今度はわざと腕を擦り付けてみる。俯いてる頬が更に紅く染まる。更に勢いで篠原は片足を赤の膝に割入れた。太股に触れるモノの感触。つい、膝を上げそれを押し上げてしまう。すると更にきゅ…と唇を噛みしめている。
 ……男も、悪くないかもな……
 急に篠原はそんなことを思い始めた。いやむしろイイ。この無防備さ、殆ど裸、こんなに密着してもやらしいとは思われない(だろう)し、好みのタイプがいたら女より男の方が楽しい、それがプールかもしれない。
 そして目の前にいる男は、綺麗で体つきも華奢すぎず、ごつすぎず、程良い肉付きとしなやかさ、それを引き立てるミルクみたいな肌の持ち主。そんな半裸の男を堂々と抱き締められるなんて、プールは悪くない。女に逃げられたのも悪くない。
 むしろ、おれってついてるかも?
 なんだか楽しくなってきてしまった篠原は、逃げた(?)女に感謝しつつ、居住まいを直すフリして背中に回していた腕を外し、引きながら軽く指先でツンと上向きな小さな粒に触れる。何度かの刺激でそれはすっかりこりっと固くなっていた。そして腕の中の人は、びくんっと反応を返す。
 うーんたまらない……
 もっと悪さをしかけたい。そんな欲を覚えさせるかわいさと反応だよこの人。
「あっ、あの、すいません……もう大丈夫なんで…その……」
 腕の中で身じろぎしながらその人が言う。篠原ははっと我に返り、困惑気味のその人を名残惜しく離した。
「いやいやこちらこそ…ちょっと力入れすぎたかな?どこか痛くありません?」
「いえ全く…ぶつかって、そしてかばってもらってすいません…」
 うーん。ほんとにステキな人だなぁ。篠原はそう思うと、なんだか益々離れがたくなってきた。
「1人ですか…?のワケないですよね…こんなとこ…っておれは1人になっちゃったんすけど……」
 バカなこと言ってる。ツレが現れないからって、1人なのは自分くらいのものだ。こんなとこ1人で来るところではない。1人で行くプールなら、もっと殺風景なとこ。
 きっとこの人も、こんな人だけど、彼女と一緒に来てるんだろう。やっぱおれってムチャクチャついてはいないよな。
 そう思ったとき。
「ああツレは…今ちょっと…今はちょっと1人かも」
 赤は自分を置いてきぼりな原田にちょっとヘソ曲げて、そう言ってしまったのだった。


「え、まじっすか?……ああ、喉乾いたなー。ちょっと、お茶しませんか?」
 篠原は内心なぜかガッツポーズ。
 赤は微笑む。その顔を間近で見て、篠原はポーッと顔が熱くなる。
 ――なんだろな…全然女っぽいワケちゃうのに、この華は。
 と改めてチラチラ見直し、綻ぶ唇に目が吸い寄せられる。何もしてない彼の唇はサクランボみたいに綺麗な色で、ふっくらとしている。そして肌のきれいさ…それが相まって、フワッとした男離れした雰囲気を纏っている。もう一度その肌に触りたいな……こけろこけろ、と思っていると、「おっと、」とラッキーにも赤が床に滑る。「大丈夫ですか?」と後ろから両手で抱き留めた篠原は、ここぞとばかり自分に引き寄せ、その肌を堪能し、どさくさに紛れて指先でまた乳首に触れた。するとびくんと緊張の走る背中。
 赤は『1人かも』と言った途端とてつもなく晴れやかに笑った篠原を見て、不意に後悔に襲われた。
 もしかして、ホモ?ホモのナンパにひっかかったのかも?なんかどさくさに紛れてさんざん乳首触られた気がするし、他にも……そう思うと急に不安が増してくる。そうだ、こんなとこ原田に見られたらどうしよう。……でもちらりと見上げた篠原の様子が余りにも嬉しそうで、お茶くらいは…と不安に揉まれながら、絶対こけないように、と思っていたら却って思いっきり滑ってしまった赤だった。後ろからぐっと抱き留められ、また手のひらが微かに不埒な動きを見せ、赤の焦燥はピークに達する。声が出そうになったが、それだけはかろうじて抑えた。
 ――どうしよう……
 ドキドキドキドキ。鳴る心臓。やっぱりここでお断りを……と思っていると、
「名前、なんて言うんですか?」
と篠原が聞いてきた。
「あっ、…赤城…です」
 律儀に答えてしまう赤。
「あなたは…?1人になっちゃった、って言ったけどお連れさんは?」
 ほんとは1人で男のハダカ見に来たんじゃ…とまで疑ってる赤は、そんな質問をした。
「あー。彼女と来てんけど、なんかフラれたみたいで…お腹痛くなった、言うて。あ、おれ、篠原」
「えー…それは心配ですね。で、彼女は今どこに?」
 その答えを聞いて赤はほっとする。彼女と来ているんなら普通の人だ。ホモナンパじゃない。大丈夫……
 そう言っていると、プールサイドの売店に着いた。カウンターに立ちながら、
「何にします?赤城さん」
と首からぶら下げた防水のサイフらしきもんを開けながら篠原が言う。
「えーと……」
とカウンターの向こうに張り出されているメニューに見入る赤の睫は、パタパタと上下する。そんな赤を見ながら、ソフトクリームなんてどうかなぁ。いやフランクフルト……とそれらを食べる赤を想像した篠原は、唇にまた視線が吸い寄せられてしまい、どうしてもそのふっくらとした唇を味見したくなった。お茶よりも、甘いジュースよりも。何よりも。フルーティで美味しそうだ。
「……にしますね。篠原さん」
「えっ、ああ、」
 急に話しかけられて、我に返った篠原。そんな篠原を見てまたも疑惑を深める赤だった。

 結局、赤はオレンジジュース、篠原はコーラを頼んだ。お金は貸し借りなしのワリカン。
 テーブルに座って向かい合わせに飲んでいると、またも篠原は血脇肉踊るのを止められない。
 ――うーん絶景だ
 目の前の「赤城さん」はテーブルの上、上半身だけでまるで全裸のような眺めでドキッとする。いやこれはハダカ、裸なのだ…… 篠原は妄想力をフルに使い、回りの雑なものを排除することに専念した。そして到達した心地は。
 おれと二人っきりで裸でジュース…うんまるでHの後のようだ……

 ザバリ。
 さて水音を景気良く響かせ、水しぶきを上げながら一方の原田はプールから上がった。
 もういい加減いいだろう…と思う原田の身体は、すっかり泳ぎ疲れ、水になれて水から上がるとずっしり重い。そんな身体を引きずりながら集中力の切れたようなフワフワした感覚で赤を置いてきた辺りへ行くと見渡してもいない。
 焦って流れるプール、スライダーを待つ列、お子さまプールなど館内中を探してやっと、原田は隅の売店で赤らしき人物の背中を見つけた。思わず目をこする。その人影は1人じゃない。テーブルで誰かと向かいあって座ってる?じーと見ると、なんだか相手の男はなかなかの大柄で男前(自分よりは劣る)みたいだし。しかも鼻の下が伸びきって、ニヤニヤ赤を見つめてる。その視線が隠すことなく晒された赤の身体の全てを舐め回すようだ。
 間違いない。赤は、……。原田は、だるさもどこへやら物凄い勢いでずんずん寄って行った。
 ――ちょっとおれが置いてったら、もう男にナンパされとおる。ホンマ油断も隙もない…!赤もなんや、昔のブアイソウ、警戒心の強さはどこへ置いて来てん、アホー!
 と理不尽に怒る原田は、自分がそれらを駆逐したことを自覚していない。
「おい。赤」
 不意に後ろから声をかけられ、肩を掴まれて赤は「ひゃっ」と声を上げ、肩をすくめた。
 その声が低く怒りを含んでいる。
「あ、原田、おかえり…もういいの?」
 その赤の一言に原田は益々むっとする。『もう』てなんやねん、もう、て。まだ来んでエエちゅうことか、ああ?
「ああ。いつまでもオマエ1人放っておくんもアレやからな…こちらさまは?」
 原田は目は睨み付けたまま軽く会釈して、空いていた赤の横の椅子に座り、ガガーっと赤に寄せた。
「あ、篠原さん…流れるプールで玉突きみたいになってぶつかった後助けてくれた人」
「玉突き…?助けてくれたて、どんな?」
 原田の眉間に険がが浮かんでいる。やばいな…と思いつつ、赤は、
「あ…えーとプールの壁に取り込んでかばってくれて…」
「何?フーン…どうも、赤が、お世話になりまして、」
 愛想良く赤の隣にベッタリ座り、笑う男前に篠原は引きつりつつも笑い返す。
 なんなんだ。この二人。笑ってるけどこの男、迫力ある好戦的な目……
 やっぱり…なのかな?
 と思っていると、原田は赤の腰の一番細い所に腕を回し、きゅっと引き寄せる。
「あっ……」
 すぐに紅くなって俯く赤は、殺人的な色気だった。
「ちょ…ウソだろ、こんなとこで、」
「そんなんどうでもエエわ。アッサリとナンパされやがって、ホンマ油断ならんわ。ナンパさせるくらいやったらな、おれがオマエとベタついたるわ」
「いやだ恥ずかしい……!」
「恥ずかしことなんかないわ。我慢したおれがアホやった。危なくて二度と離れられへんわ」
 篠原の目の前では男同士がベタいている。なんだか篠原は居場所がなくなり、
「あ、おれもう帰りますわ…」
と席を立って愛想笑いをすると、そそくさと逃げて行った。
 ――やっぱり、あれだけカワイければ、男が寄って来るのも当然なんだな…全く違和感なくお似合いだった……ってオレはまた1人になっちゃったな。やっぱりオレって、ついてない……もう帰ろっと。
 ハーと溜息つき篠原はプールの出口に向かって歩いていた。するとその出口の所に彼女が服を着込んで姿を現した。
「あっ」
 彼女が声を上げる。
「帰るん?」
 抑揚のない声で篠原が言う。彼女はコクリと頷き、
「1人にしてごめん。篠原くんは?……まだ?」
「いや、もう上がろうと思てるけど?」
 篠原は出口のシャワーを浴びて彼女の近くに寄る。小さな頭、細い首、華奢な肩。赤がいくら綺麗でかわいいとはいっても、やはり身体の作りに全然差がある。でも、肌の綺麗さ、表情の可愛さはタメな気がした。
 実はまだ新入社員の篠原、初めての会社の夏休みから付き合ってほんの少ししか経ってない。なのに彼女に放置されたからとはいえ、他の人間、しかも男に心奪われ今もこうして二人を引き比べているなんて。
「じゃあ街に出てご飯食べよ……急にごめんね」
 そこで彼女は真っ赤になって後ろを向いてしまった。
「私メッチャ楽しみにしてて、緊張してて…アレ、急にきちゃったみたいで」
 消え入りそうなその声に、篠原もポーッと暑くなる。
「そうやったんや……おれこそゴメン。じゃ、どこいこ?」
 そう言って篠原は可愛さが募り、肩を抱いた。
 ちなみに不自然なゴメンだが、何がゴメンなのか。彼女は追求しなかった。

さて、一方の不穏なカップル、赤と原田。篠原が去っても原田は人目を気にせず赤の腰を抱いたままだった。
「ちょ……、いい加減放せって、」
 赤がぺちんとからみつく腕を叩く。
「あかん。放せへん。放したらまたどいつかに食いつかれる」
「……、そんなことあるわけないやろ、いい年こいた男相手に。オマエおかしいわ」
「何がおかしいねん。おれはおかしくなんかない。そやったらおれやあの男がおかしいんか?実際ちょっと目を離したら……オマエもオマエじゃ。簡単にホイホイ付いていくな」
「……そやかて、1人で退屈やってんもん……元はといえば、オマエが悪い」
「また責任転嫁か。オマエというヤツは……」
「責任転嫁とはオマエのことちゃん。オマエがワガママなんは、もう諦めてるけどな」
「おれはオマエがナンパにのったことを争点にしてるんであって、おれのワガママは今横へ置いておけ」
「……でも、助けてくれた人に誘われたらお礼も兼ねて……」
「その助けられた、てどんな助けられ方やねん」
 赤の頬が一層染まる。それを見てむかついた原田はおもむろに剥き出しの小さな突起をつまむ。
「ひゃっ、」
「この身体、触らせた?」
「あっ、あのな……」
 売店のテーブルでも隅っこなので、角度的にもそんなに人目につく場所ではない。とはいえ赤は過敏に感じ、下半身が熱くなる。
「もう帰るで」
 そう言って腕を引っ張りプールを出ていく原田。引かれていく赤は今度こそ通る道すがらの人の奇異な目がいたたまれなかった。
 広めのシャワールーム、二人で一つに放り込まれると、原田が後ろから抱き締める。
 篠原が食べたかったフルーティな唇をそっと奪う。
「おれがあいつの手垢もキレーに洗たるから、オマエはずっとプッシュしてお湯出しとけや」
 そのシャワーは一回押すと暫くして湯の停まる、面倒なタイプだった。
「あっ……」
「こんなとこで声出すな」
 そう後ろからささやく原田の手は、体中を不穏に這い回り……海パンに忍び込む。
 人の気配が他のブースでする。それが赤の感度を高める。
 こちらの気配を覚られないために、言われるまま湯をプッシュして出し続けなければならない。その不自由な体を、原田が自由にしていく。

 さて、それから次のシーズン。
 海へ行こう、ということで原田に連れ出された水着売場で、試着するようにと赤が渡された水着は半袖、首までぴっちり、太股の半分までぴっちりのスーツ式だった。
「えーいやや。暑そう、変な日焼けしそう、なんかインストラクターみたいで目立ちそうで恥ずかしい~~」
「うるさい、そやったら今年は泳ぎに連れて行かへんぞ」
と凄まれ渋々購入、海で着用していた赤だったが、一緒に行った高階に
「赤城さん、凄い体の線バッチリですね。そそられますよ」
とニヤついて言われ、またも原田のヤキモチを呼んだのだった。



END

今回の登場人物は3人。そしてそれぞれの心情を描きたいので、このシリーズで初めて三人称を採用することにしました。でも赤城君がね。どう書いたものかと。赤城、つーとなんだか遠い(私との距離感)し、かといって赤城君、て君づけもどうかなので「赤」でいってみることにした…「馴染めない」という方いらっしゃいましたらご連絡を(笑)
足かけ何週間?やっとこ終わりました…ぜぇぜぇ楽しんでいただけましたでしょうか?もしそうならウレシイです。ではでは

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