こうそくドライブ

 朝まだ浅きこの時間帯。空もようよう白み始めた頃だと言うのに、目覚めサワヤカそうな原田はあくびをかみ殺すおれに向かって言った。
「赤。判ってるよな。居眠り禁止。人が運転してる横で、キモチ良さそうに寝やがったら…」
「えー……そんな残酷な。運転してなかったら、どうしたって眠くなるやん。しかもこんな時間に……」
「あかん!つられておれも眠くなったり、羨ましくてイライラしてくんねん。そしたら安全運転にも差し支えるから、お前はこの重大なナビ席で、おれをきちんと見てることを要求する」
 そ、そんな……眠さでだるく、血圧も体温も上がらないような身体がますます寒気を感じた気がした。
「む……ムチャいうな!おれ何時まで仕事しとったと思てん、」
「知らんがな。仕事やもん」
 そういう原田は今日は運転係だからと早々に寝ていた…その隣の部屋で、お持ち帰りの休み明け午前中納品の仕事をおれは明け方の3時までかかって仕上げていたと言うのにだ!めちゃムカツク!
「お前は昨夜おれが仕事してる横でのうのうと寝てたくせに……!」
「だから今日はおれがずっと運転するて言うてるやんか」
「おれ、朝まで起きてた……!」
「お前の自業自得やん。まさかあっちの案が通るとは思わへんかった…てのは明らかに言い訳。画像の元データ飛ばしたお前が悪い。その再現に何時間かかろうが、おれの知ったこっちゃないし、隣で起きてても何にも手伝うことあらへんもの、おれ」
 ぐう…と喉の奥で鳴る気がした。ぐうの音も出ない、ってほんとにあるんだな。何を暢気なこと考えてるんだろうおれ……
「ああ…寝たら……分かってるよな?」
 車に乗り込み、シートベルトをはめながら原田がおれを見てニヤリと言った。
 急に思い出した。原田のヤツが、自慢げに高階クンのブログに書いたこと…あのときのこと!
 新幹線も死ぬほど、そりゃもう卒倒するほど、いっそ気絶したかったほど恥ずかしかったけど(残念ながらおれは失神するということがまずない)あれもつらかったこと……!
 あんな目には遭いたくない。おれはブルブルと頭を振った。
「んじや、発車オーライ~」
 暢気に言うと、原田はギヤを入れ、車を一階の駐車場から出した。
 朝の爽やかな、淡い空色。雲も少ないいい天気。まさにドライブ日和。窓から目に入る新緑は目に鮮やかだし、流れる風景を見ているのは好きだ。だから心配した割には、なかなか眠くなりそうになかった。
 旅の楽しみの半分は、移動にあると思ってるから…旅ったって、安上がりに帰省なんだけど……こんなに何度も原田連れてって、いい加減「イイトシこいて仲良すぎな友達」と怪しまれているかも知れない。
 カーナビは流れるように▲が動いていき、快適なドライブを示している。ステレオからは買ったばかりのCD。走り出して1時間を過ぎ、目覚めた日差しも徐々に強くなってくる。
 すると、相対的に、眩しさに睡眠不足の目が静かに悲鳴を上げる。
 眠たい……。
 すうっと吸い付けられるように瞼がくっつくと、慌てて目をぱっちり見開く。ヤバい…
「なんか、話すことない?面白い話してよ」
 眠さに打ち勝つため、原田と話そうと勤めたが、回らない頭ではそれすらきつい。返事するのもつらかった。
 ………。

 そしておれは。
 はっとして目が覚めた。
 目が覚めたってことは、寝ていたってことだ。や、ヤバイ……おれは違和感を感じつつ、やっぱりイマイチ目覚めてない頭と身体で、原田の方を向く。前を見て運転してる原田だが、前方を見たまま口の端がにやりとするのが見えた。
 なんか、腰に、身体の中に違和感があるんですけど……振動が響いてますます……腕も…あれ?
「原田!」
「あれほど寝たらあかんて言うたのに」
「な……何した、あっ……」
 腕を振ろうとして出来なかった。手は、後ろ手にシートを抱えた状態で拘束されていた!そしてこの違和感…
 異物感。まさか、……
「寝たら知らんと、言うたのになぁ~~。…なぁ赤城君」
「原田、お前、何してん、これは何やねん、」
 微かな路面の凹凸を拾って響く振動が、リアルに体内から響く。感じるじゃないか…感じたら、前も張ってきた。あっでも、それもなんかきつい…締め付けられる、異物感。身体の中には、反対に押し開こうとする硬質な異物感。まさかこれは……
「原田、ねぇ何したん?おれの中に……」
「ああ、誕生日も近いやろ。プレゼントねじこんどいたから」
「~~~!」
 身体が、カッと熱くなる。いつの間に……どこで?どこかのサービスエリアでか!?
 恥ずかしすぎる……いやそんなことより。
「プレゼント?そんなんほしないわ、おれ絶対道具はいややと、言うてたよな、しかも高階クンのプレゼント、噛ませてない?」
「よぉ判るな。見えてないのに。あ、色はクリアのスケルトンにしといたから…お前の中が、見えそでええやろ?」
「良くないわ、全然良くない!」
「えー…そんなにヨクないの?やっぱ入れてるだけじゃあかんか」

拘束ネタ…もとい高速ネタ、スタートっす。まぁ次回で終わるかと…皆さんの期待というか、想像してたのと違うかな~?こんなんですが~~

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