Excellent・DARKSIDE

 バン、とドアの閉まる音がし、空気が激しく揺れた。
 それでおれはビクッとし、自分がソファでうたた寝をしていたことに気がついた。
 自分の足下の先にあるリビングの高く広いサッシ窓から外を伺うと、もう、薄墨を越えて夜闇が辺りを覆っている。
 硝子の填った、廊下とリビングを繋ぐドアの方に目をやると、ラフに白いシャツにジーンズ、手には大きなスーパーの買い物袋をぶら下げた高階クンが居るのが見えた。
「………」
 なんとなくはっきりしない頭で、なぜここに彼がいるのかとか何のギモンも湧かず彼をぼーっと見ていると、彼はそんなおれの視線に気付き、くすりと笑うと、ダイニングの白木のテーブルに袋を置いて寄ってくる。
 そして上からまじまじと遠慮なく見下ろす。口元に、笑みが浮かんでいる。右手を、顎にかざす。
「赤城さん、寝ちゃってたんですか?」
「………」
 相変わらず、言葉もなく彼を見ていると、顎にかざされている右手が、ふいっと伸びた。
「あ……っ」
 思わず、力無い声が漏れる。彼の手が、おれの股間に触れた。
「たっちゃってますよ」
 そして形を探るように撫でられる。
 身体はまだ寝起きのだるさに支配されているから、抵抗する間もなく、更に違う種類のだるさが、ジクジクとした感覚が身体を覆い尽くす。おれは目を伏せた。
「やめて……、」
 ゆるゆると手を伸ばし、彼の手首を掴む。
「しかも寝起きってエラク色っぽいですね」
 しかし力の入らない手は何の抑止力にもならず、彼は動きをやめない。またふいっと空気が動き、彼がしゃがみ、おれの顔をのぞき込んでいるのが分かった。
「原田さんは、毎日こんなの拝んでるんやよなぁ…憎らしい。ま、他にももっと、イイ顔拝んではるんやろうけど、」
「ちょ……、高階クン、マジでやめてや…、ん、」
 覆い被さるように顔を寄せ、唇を塞がれた。
 塞がれた唇から、舌が忍び入り、探られ、舌を吸い上げられる。
 彼の右手は、完全に熱く、固くなったものを、部屋着の薄手のデニムのイージーパンツ越しに上下にさすり上げる。
 摩擦が更に熱を、シビレを呼び、覚醒しきらないままに、身をよじらす。
「あ……ん…」
「赤城さん…あんたやっぱりええなあ…こんな姿見せられたら、おれ我慢出来ひんわ…」
 肩に顔を埋め、熱い息とともに彼が言う。おれは彼の肩を掴み、
「ダメ……」
「手触りもエエ…上等。やっぱ……欲しいわ。あんた」
「高階クン…やめて、」
 彼はまた唇を塞ぎ、軽く舌を絡めたあと、離し、
「あんたに触れられるの、何年ぶりやろ…夢にまで見た、唇と、…コイツと、」
 そして布越しにぎゅっと、強く握りしめられた。
「あん、」
「その声…とろけそう。…我慢出来ひん…我慢出来ひんわ、」
「じゃ、我慢せんとしてみれば?」
 ドアの方から、低く、静かな声がした。弾かれたように、おれと高階クンはそっちを向く。
 ドア横のクロス張りの壁に凭れ、原田が腕を組みこちらを見ていた。顔には、皮肉っぽい、ニヒルっぽい笑み。
 冷水を浴びせられたように一気に熱が引く。おれは手をかけていた高階クンの肩を強く押した。
「原田……、」
「今更、そない嫌がることもないんちゃう?お前ら、ほんまはヤッとってんやろ」
 おれはびくり、とする。指先が冷たく痺れる。
「…おれが気ィついてへんとでも、マジで思とったんか。…赤」
「あっ……原田、違う、」
「ムリですって赤城さん。もうこれ以上は」
 高階クンはあやすようにおれの髪を撫でる。そして最後に残る一房に唇を寄せる。
 それから彼は改めて原田に顔を向けた。
「ええんですか……?原田さん。おれにそんなこと言うて。おれ、そんな言うたらマジでやりますよ。こんなチャンス、逃せへん、思いっきりやったりますよ。あんたがそこにおってもね」
「そんなん分かっとる。お前の性格くらい、よー分かって言うとる」
「原田、やめさせて、」
「おれはここで見といたるわ。……お前らがやっとったこと、隠さず全部おれに見せてみろ。…ヤられてるお前見んのも、悪ないしな…。自分じゃ、見られへんからな」
「いや……いや!」
「赤城さん、」
 反射的に身を起こしたおれの背後から、高階クンが腕を回しシャツのボタンに手をかける。首筋に、彼の息がかかる。
「いや…、おれは、いやだ、」
 もがき、きつく抱く高階クンの腕を外そうしたが、彼は離さない。が、抑えるだけで一杯一杯のようだった。うなじに口づけられ力が抜けかけたけど、おれはもがき続けた。と原田が壁から背を離し真っ直ぐ寄ってくる。
 良かった……正気に戻ってくれたんだ。そう思って笑いかけた時だった。
 原田がおれの正面にしゃがみ、事務的な動きでボタンを上から外していく。
「は…、原田、」
 強ばった声を向けると、彼はおれに目を上げ、
「ええねんで。おれに遠慮せえへんかっても。今更恥ずかしがることないやろ、」
 高階クンの右手が、イージーパンツの中に滑り込む。
「いや…いやって、言うてるのに!原田、助けてよ、高階クンも、もう友達と思わへんで、」
「いいですよ」
 高階クンは耳元で、
「こんな思い抱えて一生側におるより、最後に思いっきり抱いて、あんたから離れた方が、おれにとってはええことかも知れへん。…あんたの呪縛から、それでやっと逃れられるか知れへん」
「そんな……ああっ…」
 高階クンが、腕を動かす。熱が、そこから広がっていく。
「いや……いや……」
 うわごとのように繰り返す唇を、正面から原田が塞いだ。高階クンは、絞り上げるようにさすり、左手が前に回り、乳首に触れる。うなじに、肩口に、熱い唇が這う。
「……、」
 いや、と叫んでしまいたかった。でもその声は、原田の舌の上に飲み込まれていった。
 こんなのいや……。自分が2人の、ただの慰み物に、意志のない物になった気がして、哀しくて視界がぼやける。目を伏せたら、目尻から涙が零れた。
「お前に2人で隅々まで尽くしたるから。今までにない天国味あわしたるよ。…最高のプレゼントだろ」

* * * * *

「いや…、いやーっ、」
 自分でも驚く位の大声で叫ぶと、おれは目を覚ました。
 体中が変な倦怠感に覆われており、疲れを感じる。額を探ると、じっとりと汗をかいていた。反射的に胸元を探り、乾いたシャツの手触りにほっとする。
 ――気持ち悪い……。嫌な夢見た…。
 夢の中の2人を思いだし、冷えかけた汗を拭いながら、悪寒が走りゾッと身体を震わす。
 窓の外を伺うと、やっぱり夕暮れ。ほーっと溜息をつき、ソファに身体を預けていると、ドアの開く音がした。反射的にそちらを向く。
 高階クンが、ドアのところに立っていてこっちを見てにこりと笑う。
 手には、スーパーの袋が。ギモンもない。今日はこれから、ここで3人でご飯を食べるから。原田は、別の店に酒を買いに行ってる。
 彼は夢の中のように、袋をテーブルに置き寄ってくると、
「赤城さん、…寝ちゃってたんですか?」
と同じことを言う。
 おれは自分で、股間に手を伸ばす。レム睡眠で、あんな夢を見たから…
 やっぱりの反応に、カッと身体が火照る。彼はくすりと笑った。
「たっちゃってますよ」
 そして腕が伸びてくる。
 おれは呪縛をかけられたように、強ばる身体で彼を見上げる。これは、夢の続きなんだろうか……
 また、夢を見ているんだろうか。悪い夢を。

 夢なら、早く覚めて欲しい。




END

ご・め・ん・ね こんなの書いちゃって……そんなのいやーと思う人、少なからずいらっしゃるかも知れませんね…でも、書きたくなっちゃったんだよぉぉぉー。寸止めだから、許してちょ!(このレベル寸止めって言ってもいいレベル…?)
タイトルとネタが同時に浮かぶという素晴らしさ。そして実はアッパーサイドより先に浮かび、書き始めていたというスバラシサ。
そして書いてみて、夢オチというだけでなく非常にベタでありがちなネタ、展開になってることに愕然のスバラシサ。

3Pは魅力的だったけど、どう考えても素面、素の原田がそんなの許すわけない、と夢オチネタを思いついた私ですが、考えてから1ヶ月(笑)経って、原田は酒に弱い…そして高階はザル…赤城君も弱くはない…そうだ、酒が入れば、本来の(?)きゃつらの3P書けるかも……と思ったワタシはクサレです。勿論原田君には、きれいさっぱりその時のことは忘れて貰います。一番よく覚えていていい思いするのは、やっぱり高階…またニヤリとするんでしょうなあ(笑)
……と思ってたら、この話の大事な部分、ちょっとハード3P書こうと思って、なかなか「原田はいくら夢でもこういうこと言わない、やんないな~」と話が広がらず止まってたのが、むくむく話が広がりました……!(2003.05.19)
3Pヤッてます編は、アッパーサイドのパラレル?サイドです。
しかし私も、好きね…3Pのことばっかり考えて、都合3本ですか……!3Pだけに、3本か?あきれないでね、多分二度と書かないから~~(汗)てゆうか読むのは4P、5Pどんとこい、だけど書くのは初めてですよ!いつもの上行くヘボさでも許してちょ!

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