アニバーサリー・ディ -4-

 ちょっとばかり、お兄さんやご両親、バレないかとヒヤヒヤしつつもおしゃべりしつつ、長い食事を終えると、台のあるとこまで行ってペアを組んで卓球したり、またおばさんたちの部屋に戻ってカードゲームに興じたり…あっという間に夜は更けて、ヤッサンは眠い目をこする。
「眠い?」
 大貧民でペアを組んでた隣にいたおれが声をかけると、「ううん」と歯をくいしばって言うけど、絶対眠い。目は開いてない。
「もう寝るか」
 和生さんがカードを纏めようとすると、
「待ってくれ、この勝負終わってから、」
と道隆クンが食い下がる。
「終わり、終わり。さあ~寝た寝た」
 原田がそう言って場のカードをぐちゃぐちゃにし、皆のカードをあるいはかき寄せ、あるいはもぎとる。
「靖生。お前赤城君が好きか」
 集められたカードを纏めながら、和生さんが言う。はい?
「えっ、うん」
「道隆と勇二と一緒に寝たいか?」
「えーお父さん、それっておれ邪魔」
「ちょっと待てや兄貴、」
 原田が言うと、和生さんはクールに見つめ、
「靖生もこう言うてるし。お前らの仲間に入れてやってくれ」
「あほかおれは託児所ちゃうわ。道隆にヤッサンに、」
「あ、兄貴、そう言う言い方は傷付くわぁ~もう子供ちゃうもんな、なぁヤッサン、」
「もう彼女もいたりして、」
 つい、そう口を出してしまうと、ヤッサンはおれをちらと見、頬を染め、
「そっ…そんなん、おらへんわ。おる子もいてるけど、」
「でもその顔は好きな子いてる顔やな~なぁヤッサン」
 道隆クンが口元歪め、目を細めて言う。
「そんな話、親の前でしたないわ、」
「お、イッチョ前、」
「というわけで、勇二よろしく」
 和生さんは頭を軽く下げる。
「なんでじゃ!……汚い、絶対汚いわ、兄貴、」
 原田でも、苦手な相手、いてんねんな。というのが今回の印象か……
 そして今。皆解散して、おれたちの部屋には、おれと原田と、道隆クンと寝ちゃってるヤッサン。
 原田は、不満げだ。自販機で買ってきたビールをちびちび飲んでいる。
「もうええやろ…?ヤッサンも寝たし、早う兄貴んとこか親んとこ行けや」
「どっちもヤッてる途中やったらどないすん。おれたちを路頭に迷わす気なん?もう寒い時期やのに。実の兄弟の仕打ちとは思われへん」
「安心せえ。兄貴共はヤッとっても、親はないわ。久しぶりにお前と、更にヤッサンと同じ部屋に寝られて喜ぶって。第一、おれらも始めるから、」
「えー。露出狂やなあ相変わらず、…」
「何と言われても、ヤルで。大体おれは露出狂ちゃうし、お前が覗きするからやろ」
 ちらーり、冷たい流し目をくれる原田。しかし道隆クンは、全くびびる風がない。膝にヤッサンの頭を乗せて、のんびり茶を飲んでいる。
 困ったな。正直そう思った。おれだって、甘いひとときは欲しい。おめでとうって気持ちを表したい。いつも注いでもらってる分を少しでも返したい。あの液じゃない。愛ですよ。
「道隆クン……」
 控えめに呼んでみた。彼は振り向く。自分でも、今思い詰め気味に見つめてるなぁと思う。
「ごめん…」
 その先は言いよどむ。だってやっぱり言いにくい。「出てって」なんて。でも道隆クンは目を伏せ、フッと笑い、
「赤城さんがそう望むんやったら、おられへんわー」
 ヤッサンの頭を軽く撫でると、抱え上げ、立ち上がる。
「なんやお前、赤の言うことやったらエライ素直やな、」
「ごめん。ちょっとでいいから……」
「朝まで帰ってくんな」
「原田……!それはちょっと、」
 バレるんちゃう?そう思った。
「はいはい。あー独りモンは弱い立場やなぁ…兄貴、おめでとう。おれから兄貴と、赤城さんへ」
 そして静かに、ドアを閉め出ていった。
「何がプレゼントじゃ恩着せがましい、」
「でも……ほんと彼らにしてみればつらい立場やと思うけど?それに、バレそうな……」
「ああ…バレるんやったらバレてもええと思て連れてきたから。それもええんちゃう?いい加減怪しんでるとは思うけどな」
「原田……」
 2人になったら、急に静かに濃密に、夜も深まった気がした。まずは彼の頭に手を伸ばし、輪郭を手で辿りながら、改めてまじまじ見つめ…唇を重ねた。抱き寄せられて、あっという間に神経がたかぶって息が乱れていく。
「おめでとう…」
 ゆっくりと離し、そう言うと、
「ありがとう」
と耳に吹き込まれた。そのまま、広い部屋に3人分敷けている布団の上に転がる。広いのが嬉しくて、抱き合って、ゴロゴロゴロゴロ、ふかふかの布団の上を端から端まで子供みたいに転がった。
 中央で、おれが上になって止まる。見つめ合う。彼の身体を跨ぐおれの浴衣の裾を、太股に手を這わせながら彼は押し上げる。おれの足は付け根まで露わになり、その辺りをゆるゆると撫で回される。撫でられながら、また、頭を抱えておれはキスをした。
「おばさん、幸せそうやったね…」
「ああ」
「家族っていいな…素敵な子供と、孫と…凄くあったかい、」
「お前かって、ちゃんと両親揃ってるやん。まるで孤児みたいなこと言いなや」
「まあ…そうだな」
 孤児ではない。でも長いこと独りで生きていたような気がする。家族揃って楽しくイベントを過ごした思い出は、ない。だから…「仲良い家族」というものをどこかで渇望していたのだろう。
 渇望していたものを、マッチ売りの少女のように暖かい陽炎の中に見せてもらった気がする。でもそれは陽炎だから、手に触れることはない。手応えはない。
 あくまでおれは眺めるだけの存在だ。結局は中に入ることはできない、一員になることはできないだろう。
 女だったらよかったのに…と思ったことはないが、今ちょっとそう思ってるかも知れない。だって、そうだったら…
「何考えてる?」
 腰を抱き寄せながら彼が言う。
「ん…おばさんたち、いつまでも末永く仲良くいてほしいなぁ…と。あと、……おれたちはいつまで一緒にいられるだろう、て思ってしまって。お前はあんな素敵な家族の一員やのに、おれは、お前に暖かい家族を提供できへん、幾ら一緒にいても、子供も、孫も出来ひんからと思ってしまって…」
 すると、ぎゅっと抱き締められた。
「今更何言うとん。それはお互い様やんか。おれかってお前にスマンと思ってるで」
「原田…おれはええねん。ムリやと思うからさ。おれん家はこんな仲良くない、そんなもんと思てるし、独りでも、多分我慢できる…でもお前にはそういうのはやっぱ似合わへん気がして、」
「じゃ、いつまでも一緒にいてくれ。おれより先に死んだらあかん…約束してな。今年のプレゼントとして」
「原田……それは難しいわ。難しいけど…善処する」
 胸に抱かれ、優しく髪をすかれながら、おれは彼の浴衣の胸の合わせ目を指でいじる。
「おおきに」
 そして顎を取られ、口づけられた。
「それに来る前にも言うたけど。他人じゃないから。おれはそう思てるから。お前も家の一員やと、だから連れてきてんで。まぁ自分から言うことはさすがに出来ひんけど、ばれてもいいと思って、それにばれてると思うし、」
 おれも一員なのかな。陽炎でなく、触れて、手応えを得ることが出来るのかな。彼の胸に顔を埋め、浴衣をぎゅっと掴んだ。
 彼の誕生日なのに、素晴らしい物を貰ったのはおれ。そういう気がした。
「今日は広さ気にせず出来るな。もうなんぼでも暴れて乱れて、どんな体位でも平気やで、」
「あのな……、」
「でもなんか今日は、静かにしっとりと、お前を確かめながら味わいたい」
 そう言う彼の手が、胸元の合わせ目から侵入してくる。
「あ……」
 静かに脱がせられ、丹念に全身に施される愛撫に、じんわりとした心地よさが広がっていき、とろけるような至福の中、彼に抱かれた。
 彼もいつになく静かで、神聖な物を扱うように、おれに触れてくれた。やがてゆっくりと入ってき、確かめるように中を蠢く。
 始まりの年がそうだったからだろうか。いつもこの日は初心に返る気がする。2人で居られることの幸福に感謝する。

 次の日、出かける前になぜか玄関でおばさんと2人になる時間が出来た。緊張する。
「ほんま、長いことお邪魔さまやねえ」
「いえあの全然、こちらこそこうやって旅行にまで、」
「赤城君なら全然かまへんで。私も息子が増えたと思てるくらいやし、大人に言うたらあかんかも知れへんけど、赤城君ほんまかわいい子やし…赤城君もこっちでの親と思ってな」
「おばさん……ありがとうございます」
 おれは小さく頭を下げた。
「ええねんで。嬉しいねんで。……勇二のこと、これからもよろしくお願いします」
 今度は、おばさんが頭を下げる。
「あの……、」
 それって、どういう意味だろう。やっぱり原田の言うように?
「赤城君には迷惑かもしれへんけど…あの子はほんまに赤城君のこと、好きみたいやから、……」
 そう言うおばさんが、ハンカチを出し鼻と口を押さえる。少し、目が潤んでるようだった。
 ごめんなさい。おばさん。やっぱり、つらいですよね。でもそう言ってくれたことに感謝します。
「すみません……でもおれも、……」
「赤、」
 車を回してきた原田に呼ばれて、話が途切れる。
「今度は道隆乗せへんから。ゆっくりしよな」
「あのな……、」
 にこにこ言う彼に、呆れる。横を見れば、おばさんはもうハンカチをカバンに直し、顔も元のよう、何事もなかったかのようにニッコリする。
 今日も、素敵な行楽日和だ。


END

ウワーこんだけ引っ張って結局エロなしだよん…(汗)まぁエロは本編でも楽しみにしていただき…赤城君のときヤリ過ぎたし…しかしありえねぇ。こんなの。きっと読んで下さる方もそう思ってる筈…うわぁぁ。更に臭いし説得力なさすぎではないですか?ダメですか?大丈夫ですか?やっぱ私に感動系、ほっこりいい話なんてムリなんだよぉ~そんな感性鈍いしさ!も…もうこんなチャレンジはやめとこう…考えても考えても自信なさすぎて筆は進まないしー上げるのもなんだかな~だし~でもこういう話で考えたから、ここまで書いちゃってるから上げるのですが~…あの、幻滅して見捨てないで…(泣)

Copyright 2005 Lovehappy All Rights Reserved.