エロ本。

「反町、ちょっとつきあえ」
 おれはそういうと顎をしゃくって玄関の前でぱったり出会った反町を呼んだ。
「何。ドコ行くの、」
「コンビニ」
 宿舎の玄関のガラス戸を開けながら答える。
 そう、ここは毎度お馴染み?の選抜チームの合宿所だ。時間はそろそろ門限、消灯の9時前。
 常に合理的でものに動じずマイペース、そして完璧なコンディション維持を心がけているおれらしくないその言葉に、やつは「珍し~~」と漏らし、
「何買うの、」
 と訊いてくる。
「エロ本」
 さらっと出てきたその答えに、びっくりして反町はおれを見上げる。
「エロ本~~??お前が~~?」
 むすっとした顔で、素っ頓狂な声を上げた反町を睨む。
「一体どうして…ってあいつのせいでストレスたまりすぎ?」
「お前詳しいだろ?いいの見繕ってくれ」
 あいつ、とは今まで回りも避けていたのか絶対同室になることのなかった、アイツ、アイツだ。そう、世間的にはおれのライバルとか言われている、アイツ。
 おれはともかくアイツがおれを本気でライバル視してるのかどうかアヤシイものだが(実はかなりその辺もムカついてる)、オレは目の前の壁だと思ってる。いや、身体が壁って言うわけじゃ…否定するのもムカつくな。あいつは壁。塗り壁。それで決まり。
 はっきり言って、おれは今回かなり調子を狂わしている。原因は考えるまでもない、アイツなのだ。アイツ、おれを蹴落とすために、ワザとやってんのか?と疑いたくなるが、ヤツはそんなことしなくても易々とポジションを得るに決まってる。…ムカつくけど、どうしても心の底ではそう思ってる。
 うっかり前回、久々に会ったやつと思わぬ和気藹々になったのが、今回の災いの元なんだな…と哀しくなる。だってアイツ、妙におれを気にかけてくれてさ、凄い好意的に…、認めてくれてるって感じて、嬉しかったんだよ、おれは!それって自分でもヤツの方が上、って認めてるみたいで不愉快だけど、でも結局はそうなんだ。
 で、何で調子狂ってるかというと、ヤツが妙に、パワーアップして馴れ馴れしい、というか、ヘンなんだよな。たかだか食堂での食事に行くのも一緒に行きたがるとか(そして当然のように隣に座り、お茶を入れてくれる…おれは日向さんが不機嫌になるので、日向さんにお茶を入れてやる)、風呂に一緒に行きたがるとか、…大体の連中はまるで臭いものにフタするように、そんなおれたちを気に留めない。三杉や岬に言わせれば、
「君たちが仲良しだと分かると皆も緊張がほぐれていい雰囲気作りが出来て助かる」
 とか抜かす。
 おれの調子は、置いてきぼりか。
 また、そのせいで日向さんもスゲーイラついてっし、正直言ってこっちは自分のことだけでも手一杯なのに、やってらんねぇ~って心境だ。
 昨日は夜、自室のベッドに寝転がって雑誌を見ていたら、後ろから覆い被さり、肩から顔を出し、
「何見てんだ?」
 って言ってきた。こいつはおれがそういうのダメなの知ってるくせに、気持ち悪がるの分かってるくせに、やる。やっぱり嫌がらせだな。
「オマエの旦那、いらついてんなー」
 とかもニヤ付いて言われるし、おれをそういう男だと思ってからかってるのか?それも全てこの髪が悪いのか?
 ストレスももちろん、ここらでガツンとおれは女の方が好きなのだというのを目の前につきつけた方がいい。
 なぜかおれはそう思っていた。
 コンビニに着くと、雑誌のコーナーに二人並んで物色する。反町は慣れたもので周囲も気にせず真剣に雑誌をめくっているが、こんなことしたこともないおれはなんだか周囲が気になって落ち着かない。見ないワケじゃないが、寮や部室で余所から回ってくるやつで事足りる。
「なんかいいのあったか?」
 この子よくない?と反町が茶髪で軽そうな女を指さす。おれは目の前に広げられるグラビアに目を落とし、
「アタマの弱そうな女だな。好みじゃない」
「そんないい女がこんな本で脱ぐわけないだろ?」
 反町はあきれたように言う。
 それでも適当に反町をレジへ行かせ(自分では恥ずかしいから買わない)、部屋へ戻ってベッドに腹這いになって見ていると、それなりにもやもやとした気分になってくる。
 そろそろトイレにでも行くか、とベッドから立ち上がると、ドアが開いて若林が入ってくる。
 おれはその横を無表情にすり抜けざま、
「やるよ」
 と若林に本を手渡す。若林は本を見、
「なにこれ」
「エロ本」
 びっくりしてやがる。おれだってエロ本くらい見るんだよ。バーカ。
「ドコ行く?」
「トイレ」
 その途端がしっと首に腕をかけられ、そのままおれは自分のベッドに仰向けに倒された。あっと思う間もなく上から若林がのしかかる。
「な…!!」
 でかい、重いヤツの身体で両手、両足ともがっちり押さえられ、とても反撃のすきは無かった。
 な、なんでこうなるんだー!!?
 焦って目を見開き、見上げると上から降り注ぐ若林の視線とぶつかる。
「おい、」
「どうせ抜くんだろ?おれが、やってやろうか?おれはエロ本なんかよりお前がいいし」
「ふ、ふざけたこというな!」
「お前の方が、こんなアタマわるそーな安そーなネーチャンより、遙かに上等っぽくて、色っぽいぞ」
 やつはにやにやと笑って言う。
 これじゃ逆効果じゃないかっ
 首筋に息を吹きかけられる。ぞくっ、とする。顔をしかめ、首をすくめる。
「たまらないな…ほんと感じやすいよな、お前」
 そんなささやくようにエロくさいことを言うなぁぁぁ!
 誰か助けてくれ!反町、日向さーん!
「まずいな…半分冗談のつもりだったのに、…マジになってきた…」
 怖いこと言うな!おれは背筋がぞっとする。
 それにその「半分」冗談ってのは何だ???
 ヤツの手が布越しにおれのをなでる。なんだかアツク、過敏になっている。さっきから少し充血してたしな。ヤバすぎる。おれが自由になった手で拳を握ると、ヤツはおれの弱い左側の首筋に顔を埋める。背筋がぞくぞくする。力が思うように入らない。
 はぁ…っと息が漏れる。もうイヤだ…
「おい…いい加減やめておけ…」
 どうにか声を押し殺し言う。ヤツが少し身じろぎ、おれの右大腿にナンか硬いモンが当たる。
 もう泣きそう。
「…な、頼む。おれが悪かったよ(何が悪かったのかわからんが取りあえず謝っとけ)、…」
 ヤツも引っ込みがつかなくなったのか、進退窮まったか、暫く無言だ。じっとしてる。
 やがてヤツの口から溜息が漏れ、
「好きだ…」
 と呟く。なんとも言えない気分でおれの表情は多分泣き笑いだ。
 もうどうしていいかワカンナイ。
「今なら冗談で済ましてやるからよ、どけ、な?」
 こんな無茶苦茶で不気味な告白をうけつつも、なんだかこいつが哀れで軽蔑なんて気持ちは湧かない。こういう人の気持ちを思いやれる優しいところがおれのいいところだよな。(少しは告られて気分がいいのか?いやそんなことは断じてないっ)
「あの、さ…気持ちはとっても有り難いんだけど…、」
 全然有り難くなかったが、そういうと、くすりと笑って、おれを放して立ち上がるヤツ。
「冗談に決まってんだろ、バーカ。なにマジになってんだ、オマエ。…オマエ、面白すぎ」
 そう薄笑いを浮かべて言うヤツを見上げながら、顔が熱くなる。
「相変わらず、可愛いな」
 アソコ脹らませたくせに何言ってんだよコイツ!でもそのことには触れたくない。
 ついに我慢できずおれはまた素人相手に殴り倒していた。
 一応コイツの体調気遣って我慢してたんだけどな…明日から調子悪くなるのはコイツに決まりだ。


END

 色気もクソもないですなー。いや別にヤッちゃっても良かったんだけどね。しかもキャラが壊れてる、というかこれって健ちゃんじゃない人になってますね。砕けすぎて、オリジナルの子とかなり混ざってるような…あーんごめんなさい!
 健ちゃんらしい健ちゃんってあたし書けないわぁ~。源さんも…日向さんは多少アホでコワレでも私は気にしませんが(オイ)
 全くノーマルな男子としての健ちゃんの反応を、追究してみました。出来ているかは、別の問題ですね。
 しかもこれがお誕生日記念アップ品なんだから笑わせるぜ…一応これも「理由」シリーズの続きなんですけどね…

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